【開催報告】創立20周年記念「医療政策サミット2025」(2025年2月1日)
※開催報告書を公開しました。(2025年11月11日)
日本医療政策機構は、2025年2月1日に創立20周年記念「医療政策サミット2025」を開催しました。
日本医療政策機構は、多くのご支援とご賛同に支えられ、2024年度に創立20周年を迎えました。これを記念し、新たに「黒川清賞」を創設し、アジア太平洋地域における保健医療政策分野の革新を促進することを目的に、既存の枠組みにとらわれない顕著な貢献をした若手研究者や実務者および団体を顕彰しました。
また、これまでの医療政策サミットと同様に、日本の医療の根幹にかかわる喫緊の医療政策課題をテーマとしたパネルディスカッションを設け、国内外の第一線で活躍する有識者とともに議論を深めました。
パネルディスカッション1では、「人口動態の変化に伴う未来の急性期医療提供体制の在り方」をテーマに議論を深めました。
高齢者人口、特に後期高齢者は2025年に向けて急増し、その後増加ペースが徐々に緩やかになります。2025年から2040年にかけては、65歳以上人口が都市部を中心とした132の二次医療圏で増加する一方、197の二次医療圏では減少すると予想されています。同時に、生産年齢人口は2025年以降さらに減少し、局面は「高齢者の急増」から「現役世代の急減」へと移行します。これにより、医療需給の不均衡がより一層深刻化し、地域間格差が拡大することが懸念されます。
現在、国の「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」等において、医師の地域・診療科偏在是正が議論されていますが、地方を中心とした医療者の少数区においては、とりわけ急性期医療の維持が困難となり、一部の医療者への過重な負荷が現実となっています。これまでは医療者の使命感や自律性に頼り、機能してきた部分もありましたが、都市部での好待遇や労働環境、訓練機会を求める動きが医師を集め、さらに外科・救急、産婦人科といった診療科から人材が離れる「二重の偏在」が生まれています。加えて、高齢化に伴う救急搬送の増加や、外来・在宅医療・介護需要増の拡大への対処も急務です。
2024年12月に厚生労働省が公表した「新たな地域医療構想等に関する検討会」のとりまとめでは、地域の医療需要や医療資源等を踏まえた、急性期医療機関の連携・再編・集約が提起され、病床機能においては回復期機能に加え、高齢者等への急性期医療を担う「包括期機能」が新設されました。今後、医療機関は自らの機能を報告することが求められます。
これらを踏まえ、国民の納得し理解できる医療提供体制のあり方については丁寧かつ慎重な議論が必要であり、財源確保をめぐる社会保障費の給付と負担の議論も避けては通れません。このような人口動態の変化が顕在化する10年、15年先の未来を見据えて、適切な医療人材の配置を含めた急性期医療の在り方や制度設計を中心に、有識者と議論を深めました。
パネルディスカッション2では、「政策形成の来し方行く末~「エビデンスに基づく市民主体の医療政策」は実現可能なのか~」をテーマに、これからの政策形成過程のあり方について議論を深めました。
日本医療政策機構は事務局方針として、「エビデンスに基づく市民主体の医療政策の実現」を掲げています。20周年を機に、改めて政策形成過程における課題と展望を議論しました。近年の政策形成過程においては、「証拠に基づく政策形成(EBPM: Evidence Based Policy Making)」への関心が高まっています。情報技術(ICT: Information and Communication Technology)や人工知能(AI:Artificial Intelligence)の進化とともに、実社会をベースとした多様なデータを収集することが可能となり、従来の研究データに加えて、こうしたリアルワールドデータも含めて政策形成に活かされることが期待されています。
一方で、当機構がこの20年間大切にしてきた「患者・当事者の声」は、医療政策を考える上で不可欠です。両者は政策の価値を高める可能性を秘めつつ、時に対立を生み出すこともあります。政策を理解する枠組みをしては、「内容的な正しさ(Rightness)」と「手続き的な正しさ(Legitimacy)」があると言われます。その両者を同時に担保する政策形成過程をいかに実現するか、そしてそこに日本医療政策機構としてどのような貢献が可能なのか。本ディスカッションでは、政策形成の理論的視点、政治哲学、人類学、そして現実の政治の視点を交えながら、多角的に議論を深めました。
【開催概要】
- 日時:2025年2月1日(土)11:00-16:00
- 会場:如水会館(東京都千代田区一ッ橋2-1-1)
- 言語:日本語および英語(同時通訳あり)
【プログラム】(敬称略・順不同)
| 11:00-12:10 | ランチレセプション | |||||||
| 12:15-12:25 | 開会の辞 | |||||||
| 福岡 資麿(厚生労働大臣) | ![]() |
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| 12:25-12:35 | 趣旨説明 | |||||||
| 乗竹 亮治(日本医療政策機構 代表理事・事務局長) | ![]() |
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| 12:35-12:55 | 第1回「黒川 清賞」授賞式 | |||||||
| 受賞者: レンゾ・ギント(シンガポール国立大学 デューク-NUS医科大学 シンヘルス・デューク-NUSグローバルヘルス研究所(SDGHI) 准教授) 詳細はこちら |
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| 13:00-14:20 | パネルディスカッション1「人口動態の変化に伴う未来の急性期医療提供体制の在り方」 | |||||||
| パネリスト: 相澤 孝夫(一般社団法人 日本病院会 会長) 国光 あやの(衆議院議員) 武冨 紹信(一般社団法人 日本外科学会 理事長) 吉川 久美子(公益社団法人 日本看護協会 常任理事) 渡辺 毅(一般社団法人 日本専門医機構 理事長) モデレーター: 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー) |
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| 14:35-15:55 | パネルディスカッション2「政策形成の来し方行く末~『エビデンスに基づく市民主体の医療政策』は実現可能か~」 | |||||||
| パネリスト: 北中 淳子(慶應義塾大学 文学部 人間科学科専攻/大学院 社会科学研究科 教授) 杉谷 和哉(岩手県立大学 総合政策学部 講師) 藤井 達夫(東京科学大学リベラルアーツ研究教育院 教授) 山田 美樹(前衆議院議員/元環境副大臣) モデレーター: 栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアマネージャー) |
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| 15:55-16:00 | 閉会の辞 | |||||||
| 黒川 清(日本医療政策機構 終身名誉チェアマン) | ![]() |
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主催:特定非営利活動法人 日本医療政策機構
(写真:井澤 一憲)
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