【開催報告】第84回日本公衆衛生学会総会 自由集会「地域における健康危機管理としてのAMR対策-公衆衛生専門職の役割と多分野連携」(2025年10月30日)
日付:2025年12月10日
タグ: AMR
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)およびAMRアライアンス・ジャパンは、2025年10月30日(木)の第84回日本公衆衛生学会総会において自由集会「地域における健康危機管理としてのAMR対策-公衆衛生専門職の役割と多分野連携」を開催いたしました。
薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)は、世界保健機関(WHO: World Health Organization)が策定した「AMRグローバルアクションプラン」や、日本政府の「AMR対策アクションプラン2023-2027」に位置づけられているように、国際的そして国内的な喫緊の公衆衛生上の課題です。AMRは医療機関での感染症診療を困難にするのみならず、地域住民の健康管理や将来の医療提供体制にも影響しうる健康危機管理上のリスクでもあります。また、抗菌薬の不適切使用は外科手術やがん治療など専門医療の安全性にも直結する問題です。
本自由集会は、学会全体テーマ「フェーズフリーの地域づくりと健康危機管理」とも呼応しながら、日常の公衆衛生活動や住民への学修支援・普及啓発の中にAMR対策を組み込み、平時からの健康危機管理としてAMR対策を根付かせることを目的として企画されました。
開催地の静岡県では、静岡薬剤耐性菌制御チーム(AAS: Antibiotic Awareness, Shizuoka)や県AMR部会を中心に、行政(県・保健所)・臨床(医療機関)・薬剤(病院薬剤部/薬剤師会)・医師会・検査(臨床検査部/衛生検査所)・獣医師会が連携した多層的なAMR対策が進められており、臨床支援、住民への啓発・学修支援、人材育成といったボトムアップの取り組みが展開されています。本自由集会では、こうした地域に根ざした実践を背景に、自治体におけるAMR対策を、フェーズフリーな健康危機管理の視点から捉え直す機会としました。
また、当機構およびAMRアライアンス・ジャパンは、2025年7月に地方自治体の公衆衛生専門職等を対象としたパブリックヘルス・セミナー「地域の健康を守るためのAMR対策 ―公衆衛生の視点から」を開催し、既存の母子保健、食品衛生、結核対策などにAMR対策を組み込む実践や、多分野連携の重要性が共有されました。今回の自由集会は、このセミナーの議論をさらに発展させ、公衆衛生学会という場で自治体のAMR対策を俯瞰的かつ実務的に議論しました。
当日はまず、長嶺路子氏(東京都板橋区保健所 所長)より、AMR対策を推進するうえで自治体職員に期待される役割について講演が行われました。続いて、当機構より、全国の地方自治体におけるAMR対策の現状と課題に関する調査報告があり、多角的な論点が整理されました。
後半のディスカッションでは、多様なバックグラウンドを持つ計4名のパネリストが登壇し、ヒト・動物・環境の健康を統合的に捉える「ワンヘルス・アプローチ」を鍵に、地域や業務の特性に応じたフェーズフリーなAMR対策の在り方について意見交換が行われました。さらに、具体的な事業計画やアクションプランと絡めながら、日々の健康相談や健診、予防接種、衛生管理、食品検査などの対人・対物業務に対して、どのようにAMR対策の要素を組み込むかについて具体的なアイデアが出されました。
本自由集会を通じて、公衆衛生専門職が地域横断的なネットワークのハブとして、行政、臨床、薬剤、獣医療など多分野をつなぎながら、平時、有事を問わず地域の健康危機管理能力を高めていくことの重要性が改めて共有されました。今後も当機構およびAMRアライアンス・ジャパンは、自治体や関係団体と連携しながら、地域に根ざした実践的なAMR対策の推進に取り組んでまいります。
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【開催概要】
- 日時:2025年10月30日(木)18:00-20:00
- 形式:対面
- 会場:静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」
大ホール2階控室2・3(第84回日本公衆衛生学会総会 第15会場) - 言語:日本語
- 参加費:無料
- 定員:50名
- 主催:日本医療政策機構、AMRアライアンス・ジャパン
【プログラム】(敬称略・五十音順)
18:00-18:10 開会挨拶・趣旨説明
河野 結(日本医療政策機構 マネージャー/AMRアライアンス・ジャパン)
18:10-18:40 講演「健康危機管理としてのAMR対策:自治体職員に期待される役割」
長嶺 路子(東京都板橋区保健所 所長)
18:40-18:55 調査報告「地方自治体におけるAMR対策の現状と課題」
渡部 大地(日本医療政策機構 シニアアソシエイト/AMRアライアンス・ジャパン)
19:00-19:55 ディスカッション「私の地域・業務におけるフェーズフリーなAMR対策を考える」
パネリスト:
杉山 和寿(静岡県獣医師会 会長理事)*
田中 敏博(静岡厚生病院 小児科 診療部長)*
長嶺 路子(東京都板橋区保健所 所長)
望月 敬浩(静岡県立静岡がんセンター 薬剤部)*
*冒頭でショートプレゼンテーション実施
モデレーター:
河野 結(日本医療政策機構 マネージャー/AMRアライアンス・ジャパン)
19:55-20:00 総括・閉会挨拶
【登壇者プロフィール】
長嶺 路子(東京都板橋区保健所 所長)
東海大学医学部卒業。医学部在学中より国際保健や熱帯医学に強い関心を持ち、ロンドン大学・ナイロビ大学に留学し、単位交換で約9か月間の臨床実習を行う。卒後、川崎市立川崎病院での初期研修・総合診療科勤務を経て、マヒドン大学(タイ)で熱帯医学のディプロマ(DTMH)を取得した後、ケニア医学研究所にて研究員。2003年より東京都公衆衛生医師として、新宿区、東京都、世田谷区、港区など複数の自治体において感染症対策や健康推進等の業務に従事。2025年より現職。日本結核病学会指導医、社会医学系指導医、日本公衆衛生学会認定専門家、日本内科学会認定内科医、博士(医学)。
杉山 和寿(公益社団法人静岡県獣医師会 会長理事)
麻布大学獣医学部卒。麻布大学大学院博士課程修了、博士(獣医学)、静岡県養鶏試験場、静岡県中小家畜試験場(1984年~1991年)、静岡大学農学部(1987年~1988年)、一般社団法人静岡市夜間救急動物病院代表理事(2015年~2020年)。現在、株式会社杉山獣医科院長、公益社団法人日本獣医師会小動物臨床委員及び危機管理室感染症委員、一般社団法人静岡県動物保護協会副会長理事、動物臨床医学会評議員及び感染症委員、狂犬病臨床研究会副会長理事、麻布大学共同研究員。
田中 敏博(静岡厚生病院 小児科 診療部長)
静岡市葵区出身。1992年3月、筑波大学医学専門学群 卒業。静岡県内外の病院での研修・診療と、カナダ・トロント小児病院臨床薬理学部門への留学を経て、2010年4月より静岡厚生病院 小児科 診療部長、現在に至る。興味のある分野は、予防接種、小児期の感染症、臨床薬理学、腸内細菌、母乳哺育、等。所属学会は、日本小児科学会、日本小児感染症学会(理事、薬事委員長)、日本感染症学会、日本ワクチン学会(理事)、日本臨床ウイルス学会(幹事)、日本小児臨床薬理学会(運営委員)、日本渡航医学会(評議員)、日本臨床スポーツ医学会(代議員)、日本産業衛生学会等。
望月 敬浩(静岡県立静岡がんセンター 薬剤部)
2004年に北海道大学大学院薬学研究科修士課程を修了後、同年より静岡県立静岡がんセンター薬剤部に勤務。専門薬剤師として、がん治療における薬物療法の質の向上と安全性確保に貢献している。日本化学療法学会、日本環境感染学会、医療安全心理・行動学会では評議員を務める。感染制御専門薬剤師および抗菌化学療法認定薬剤師の資格を有し、がん患者の感染対策と適正な薬物治療の推進に尽力している。
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