【活動報告】日本災害看護学会 第25回年次大会 ワークショップⅠ「災害と薬剤耐性(AMR)を考える」(2023年9月3日)
日付:2023年12月6日
タグ: AMR
2023年9月3日(日)に兵庫県姫路市で開催された、日本災害看護学会 第25回年次大会にて、ワークショップⅠ「災害と薬剤耐性(AMR)を考える」を実施いたしました。
災害時の医療は、医療を必要とする人々(需要)と医療を提供する人々や必要となる物品(供給)のバランスが崩れた状態といわれています。AMRの分野では、抗菌薬の供給不足や新規抗菌薬の研究開発の遅れが平時から発生しており、常に供給側が不安定な傾向です。この状況下で、地震や台風等によって引き起こされる大災害が同時期あるいは同時多発的に発生した場合、AMRあるいは抗菌薬の供給不足はさらに深刻になり、需要と供給のバランスが大幅に崩れることで、AMRそのものが災害になる恐れもあります。
さらに、COVID-19によるパンデミックでは、感染症対策に危機管理の発想が必要不可欠であることが明らかになりました。AMRによる感染の拡大は、その実態を捉えることが困難であることから、サイレントパンデミックとも言われています。
この課題認識のもと、今回のワークショップではAMR対策を災害対策、危機管理の視点から検討することを目指しました。私たちが知らない間に感染拡大が起こっているAMRについて、COVID-19への危機対応、そして大災害への対応経験を多くもつ災害看護の分野の皆様とともに、現状の課題整理や今後の対策について、議論を行いました。
また、本学会の開催地である姫路市は2021年にAMRアライアンス・ジャパン(事務局:HGPI)にも行政区としてはじめて参画し、2022年には「AMR対策推進のまち宣言」を公表する等、AMR対策にご尽力されています。
【主なポイント】
- 災害領域の考え方である「自助・共助・公助」の観点からAMR対策を捉えなおすことができる。
- AMR対策における自助には、抗菌薬に関する正しい知識の習得、必要な時に必要な抗菌薬を使用するための研修・訓練への参加等がある。
- AMR対策における共助には、地域の医療機関同士でのネットワークの構築、医療機関間で標準化された持続可能なAMR対策の実施等がある。
- AMR対策における公助には、国の対策指針に沿った取り組みの強化、学修支援・啓発活動を通じた薬剤耐性の基礎的な情報(例:かぜと抗菌薬の関係)の共有、有時を意識した平時からの情報共有・訓練の実施等がある。
- 看護師は多様な場面でAMR対策に関与できる。AMR対策の基本として、標準予防策を中心とした感染対策の推進も重要である。
- 看護師は、抗菌薬適正使用支援チーム(AST: Antimicrobial Stewardship Team)の一員である。ASTの一員である看護師は、いつ、どのように、何の感染症に対して、なぜ抗菌薬が必要か、医師の指示の背景を平時から意識的に考えることが重要である。2023年4月に新しく公表された「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」でも看護師による適正使用推進を推奨している。
- ASTの活動や適正使用の推進、抗菌薬の投与以外の場面でも、看護師はAMR対策に多面的な貢献ができる。例えば、検体の採取、患者状態の観察・記録を実践することで、有事を見越した感染症対策に繋げることができる。
- AMR対策や耐性菌に特化した活動だけではなく、標準的な感染対策も重要である。特に院内感染対策は一般的な感染対策のみならず、AMR対策の基本でもある。標準予防策を中心とした感染対策を平時から実施することで、災害等の有事でも効果的な感染対策が実践できる。
【開催概要】
- 日時:2023年9月3日(日)11:00-12:00
- 場所:アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)
- 形式:会場参加型ラウンドテーブルディスカッション(対面のみ)
- 言語:日本語
【プログラム】(敬称略)
11:00-11:05 | 趣旨説明 1「イントロダクション」 |
河野 結(日本医療政策機構 マネージャー) | |
11:05-11:10 | 趣旨説明 2「災害と薬剤耐性(AMR)」 |
滋野 界(日本医療政策機構 シニアアソシエイト) | |
11:10-11:25 | ゲストトーク 1「救急医療現場が抱える AMR の課題」 |
笠井 正志(兵庫県立こども病院 感染症内科 部長) | |
11:25-11:40 | ゲストトーク 2「AMR 対策における看護師の役割」 |
鍋谷 佳子(大阪大学医学部付属病院 看護部 副看護部長/感染管理認定看護師) | |
11:40-12:00 | ディスカッション「災害と薬剤耐性(AMR)を考える」 |
登壇者4名+会場参加者 |
■登壇者プロフィール
笠井 正志(兵庫県立こども病院 感染症内科 部長)
1998年富山医科薬科大学卒業。市中病院小児科で研修し、小児専門病院で集中治療や総合診療と感染症診療を実践して行く中で、未来の子ども達ために抗菌薬を残す重要性を認識した。2016年1月に現職である兵庫県立こども病院感染症内科で勤務開始以降、全国の小児感染症医仲間とともに、地域小児医療現場での「泥臭い」AMR対策に注力している。
鍋谷 佳子(大阪大学医学部附属病院 看護部 副看護部長/感染管理認定看護師)
大阪大学医学部附属病院に入職後、消化器外科病棟、血液腫瘍内科病棟の勤務を経て、2003年4月感染制御部に異動、2004年感染管理認定看護師の資格を取得後2007年4月より感染制御部副部長として勤務。2012年3月国際医療福祉大学大学院 修士課程 看護学分野 感染管理・感染看護学領域 修了。2017年4月より看護部 副看護部長として勤務。日本環境感染学会(理事)、日本感染管理ネットワーク、日本感染症学会、日本看護科学学会、日本看護管理学会の学会へ所属する。
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