【開催報告】超党派国会議員向け勉強会「薬剤耐性問題の喫緊課題~サイレント・パンデミックの脅威~」(2022年11月18日)
日本医療政策機構は、世界保健機関(WHO: World Health Organization)などにより設立されたAMRグローバル・リーダーズ・グループと共催し、超党派国会議員向け勉強会「薬剤耐性問題の喫緊課題~サイレント・パンデミックの脅威~」を開催いたしました。
今回は、国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター長の大曲貴夫氏と、ボストン大学教授/CARB-Xエグゼクティブディレクターのケビン・アウターソン氏が講演を行い、薬剤耐性の喫緊の課題と国内外の最新動向をご説明いただきました。講演後にはご参加いただいた国会議員の方々より多くのご質問をいただき、活発な意見交換の場となりました。
■趣旨
微生物に対して抗菌薬が効かなくなる、薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)は世界で猛威を振るっており、AMRが直接起因する世界の年間死亡者数は、2022年の時点で127万人と英医学紙上にて報告されました。近年では、AMRの拡大を「サイレント・パンデミック」や「コロナ禍の次に来る脅威」とも呼ばれています。一方、抗菌薬の新規開発は1980年代以降、世界的に停滞しており対策が急務です。
今回の勉強会では、感染症対策の専門家である大曲氏から、事例を踏まえた日本国内におけるAMRの現状と課題についてお話いただきました。また、感染症の革新的な予防・診断・治療の研究開発促進のための世界最大規模の官民パートナーシップであるCARB-Xのエグゼクティブディレクターであるアウターソン氏からは、国際的な最新動向とプル型インセンティブの重要性についてお話をいただきました。
■ポイント
- 2022年11月18日(金)~11月24日(木)の1週間はWHOが定める世界抗菌薬啓発週間(WAAW: World Antimicrobial Awareness Week)であり、AMRグローバル・リーダーズ・グループでもAMRの様々な問題を世界に向けて重点的に発信している。
- AMR対策ではいかに有効な抗菌薬を生み出し、適正に使用していくかが重要である。この目標を達成するためには、経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太方針2022)でも言及されているインセンティブ政策の実現や日本の薬剤耐性対策アクションプランの更新にも注力すべきである。
- 現在、AMRによる世界的な死亡者数はHIV/AIDs(Human Immunodeficiency Virus / Acquired Immuno Deficiency Syndrome)やマラリアの死亡者数より多く、AMR関連死亡者数を含めると年間で約495万人にものぼる。国内でも薬剤耐性菌は広がりを見せており、AMRによる国内の死亡者数は右肩上がりである。また、薬剤耐性菌は海外から輸入される場合もある。
- 抗菌薬は様々な治療に使用されており、現代医療に抗菌薬は必要不可欠であるが、1990年以降、抗菌薬の新規開発が滞っている。同時に、適正使用の観点から抗菌薬の使用を制限する必要があるため、抗菌薬市場の構造的な課題に阻まれ、抗菌薬が新たに上市されないという問題がある。
- 抗菌薬が現代医療に必要不可欠であるという視点からAMRとユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)は関連しているといえる。この関連性を強調しながら、AMR対策を健康危機対策の必須要素としてUHC推進と共に進めていくべきである。
- 抗菌薬が長期的に持続可能な環境で使用されつづけるために、研究開発を支援するプッシュ型インセンティブのさらなる強化が必要である。日本は特に前臨床段階のパイプラインに対する投資を増強する必要があるが、これはCARB-Xとの協力で実現可能である。
- 並行して、承認取得後に使用量(販売量)と売上げ(収益)を切り離すことで、抗菌薬の上市を支援するプル型インセンティブの創設を進めることが重要である。プル型インセンティブの創設によって、プッシュ型インセンティブや創薬エコシステムが補完され、抗菌薬市場の構造的な課題を克服することができる。
【プログラム】(敬称略)
開会挨拶
塩崎 恭久(AMR グローバル・リーダーズ・グループ メンバー/元厚生労働大臣)
ご挨拶
本田 顕子(参議院議員)
薬剤耐性問題の喫緊課題:
講演1「日本における現状と課題」
大曲 貴夫(国立国際医療研究センター AMR臨床リファレンスセンター長)
講演2「薬剤耐性(AMR)対策に求められるプッシュ型・プル型インセンティブ政策とは」
ケビン・アウターソン(ボストン大学 教授/CARB-Xエグゼクティブディレクター)
質疑応答
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