第18回朝食会「仙台市の新型インフルエンザの取り組み」
日付:2008年9月4日
日本医療政策機構は、2008年9月4日、第18回定例朝食会を開催致しました。
今回は仙台市副市長で医師の岩崎恵美子先生に「仙台市 の新型インフルエンザへの取り組み」というテーマでご講演頂きました。早朝から多数の皆様にご参加頂きました。誠にありがとうございました。
(当機構事務局長補佐 小野崎挨拶)
新型インフルエンザは政府・与党主導で昨年から急速に対策が進み、 今回の概算要求でも大幅に予算が増額されている。パンデミックが 起こると医療だけではなく、学校の閉鎖や食糧確保、流通、治安、 交通などの分野で様々な問題が生じるが、それを解決する鍵を握っ ているのは県や市などの地方自治体だ。政府がいくら対策を練っても、自治体が動かなければ何も起きない、これが対策の大きな課題だろう。そのような中、率先して取り組みを進めている仙台市の事例を勉強したい。本日は医師の経験、アフリカにおけるエボラ出血熱に対する医療活動の経験、検疫所での経験、SARS対応の日本代表の経験など、幅広い経験を積み現在仙台市の副市長を務めていらっしゃる岩崎先生に、仙台市の取り組みを紹介して頂きたい。
(岩崎先生講演要旨)
「仙台市の新型インフルエンザへの取り組み」
まだ理解が浅い日本
耳鼻科医としての10数年、途上国での5年、検疫所での10年という、私の経験をもとに、感染症にはどのような対策が必要かについて話をまとめたい。まず、日本が抱える問題として、感染症に対する正しい理解に基づく系統的な対策がとられていないことが挙げられる。何かが流行すると大騒ぎして、一つずつマニュアルを作っている、これが現状なのだ。感染症ならSARS、エボラ、インフルエンザでも原則は同じ。ウイルスがどこに出てくるかをよく理解し、それに触れない・取り込まない方法を実践するのが第一である。日本では、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの区別すらついておらず、混同されている。両者は明確に異なる。このようにまだまだ理解は進んでいない。
生活習慣と関わる感染拡大
ウイルスは空気中を舞ってくることは殆どなく、唾液などの分泌物を介して伝わる。こういったものと接する「生活習慣」が大きく関与しているのだ。例えばSARSの拡大では、中国人の生活習慣が拡大に関係あった。先進国では広まらなかったが、これは感染者との接触が先進国ではなかったことが理由と考えられている。感染症ではこのような判断を冷静に行うことが大事である。インドネシアなどの途上国において鳥インフルエンザが人間に感染した例が報告されているが、先進国では人に感染したという記録はない。それは途上国の生活習慣・衛生環境に依るものだ。ウイルスは鳥の糞中に大量に含まれ、それを吸ったり手で触ったりすることで感染するのだが、途上国では鳥は生活に密着しており直接触れる機会も多い。香港でH5N1が流行したとき疑いのある鳥は全部処分され、これによって一つのアウトブレークが封じ込められた。
新型インフルエンザがどれ程の被害を引き起こすかという詳細かつ正確なデータはないので、過去のアウトブレーク、例えばスペイン風邪などから推測するしかない。ただし、時代の背景が全く異なることに留意しなければならない。主に栄養の足りない兵士の間で流行したスペイン風邪の事例を現代にそのまま当てはめるのは早計である。また、スペイン風邪で亡くなった方の殆どが混合感染によるものだろうという話もある。こういったことも踏まえて新型インフルエンザに対応していかなければならない。
まずは医師の取り組みが必要
新型インフルエンザが怖いのは医師も一緒である。しかし、誰かがやらないと患者を救うことはできない。私はタミフルの用意を確保するという条件で、仙台市医師会を説得し、インフルエンザ対策に取り組んでもらうことを約束して頂いた。新型といえども感染したら患者はまずは近所のお医者さんに行く。そこで混合感染の有無などをチェックし、必要に応じて大学に送るなどの処置をとり、そして最終的に自宅へ帰す。また、市は医師を支援するためにコールセンターを設けて、患者が家に帰った後の相談の窓口とする。往診の医師のグループも作る。このような体制で医師会と協力して対策を進めていく。医師が感染を防ぐには、しっかり手を洗う、白衣は診察室で脱ぐ、診察室のものを持って出ないなど、基本的なことを徹底して守ることが重要だ。怖がらずに誰かが対応しなければならない。対策にやる気のある医師が仙台市にいることはとても幸いなことだと思っている。
インフルエンザは小学生から広がる
私は仙台検疫所の経験で、インフルエンザはまず小学生の間で広がっていくことを感覚的に知っていた。4年前に、インフルエンザが石巻市で大流行した時、小学校の欠席がまず急激に増えた。その経験から、インフルエンザの広がりを捉えるために小学校の欠席率を調べるのはどうかと考え、その調査を仙台市の教育委員会に提案した。週に二回、欠席者数・欠席率をクラスごとに提出してもらい、地図にプロットした。それで流行拡大の程度が把握でき、更に学校を休校にした途端に流行が止まった。こういったこともインフルエンザ対策の流行を知る上で必要な知識である。
ワクチンの料金の何%かを自治体が補助したり、ワクチンを必ず受けるような指導を徹底したりといった取り組みも今後一層進めるつもりである。新型インフルエンザの拡大を防ぐためにワクチンは重要である。インフルエンザにかかった時に新型か旧型かの判断を下すことも容易になるのだ。自治体が考えるべきことは感染が拡大しないようにするための策であり、時には強引に小学校を休校にするといった強制的な措置を取る必要もあるだろう。ライフラインに関連する企業の人たちに感染が及ばないようにするためにも、まずは小学校で止めなければならない。小学生は体力がないし清潔不潔の概念もない。 今秋から小学生への手洗いの指導を徹底していくし、養護の先生への指導も進める。しつこく繰り返してやっていくことが大事である。大事なのは感染のメカニズムを知ることであり、どこにウイルスが出てくるかをしっかり把握して正しい対策をとれば必ず感染は防げる。感染拡大防止に重点をおき、医師会とも協力して進めていくつもりである。
基本は手洗い
英国の有名な医学雑誌であるLancetに掲載された論文において、手洗いしない群、普通の石鹸で手洗いする群、薬用石鹸で手洗いする群の3つに対して感染の冬場の上気道感染の数を調べたら、手洗いしない群においてのみどんどん感染が増加し、普通石鹸でも薬用石鹸でも手洗いしている群の感染は低く抑えられていた。このようなデータからも手洗いの重要性がわかる。当たり前だが大切な基本的なことが大切だ。
(質疑応答)
Q:パンデミックになると国と地方自治体の連携が重要となるだろうが、どういう連携が必要で、その中での地方自治体の役割は何か。
A:パンデミックになる前の、患者が限局している時期は国の対策の重要性はとても大きい。感染の疑いがある人の入国を封じ込めたり、検疫所でスクリーニングして調べて早めに隔離したりといった対策は重要である。しかし、SARSやエボラと違ってインフルエンザは感染力が強く潜伏期も短い。仙台市では「発生したとわかった時点では既に広がっている」と判断して、対策を始める体制にある。自治体は自治体で淡々と感染拡大防止の体制を整え、それを寄せ集めていくことが日本全体の体制となる。自治体と国の間でやっていることに食い違いが生じないように気をつけ、国は皆が冷静になるような指導をやっていき、感染症に対する正し知識を伝えることなどに注力すべき。自治体はそれぞれが自分たちに最も適した独自の方法で対策体制を立てれば良いだろう。
Q:噂はどんどん広がるので、それに対してどういう対策をとるのかを考える必要がある。行政は情報提供する時に確かな情報かを入念に確認してから発信するが、それでは遅いことがしばしばである。情報が遅れると噂だけが広がる。正確さを求めつつも、こまめに早い情報提供をお願いしたい。
A:特に感染症において情報提供の迅速さは大事である。それと同時に、情報を出す時は必ず対応策を付けて出すように私はいつも指導している。手を洗う、人ごみに行かないようにするなど、どういう対応が必要かを付けた上で、状況を説明することが不可欠だと思う。メディアとの協力も進めているが、しつこく対策を載せてほしいということをお願いしている。情報提供と対策を必ずセットにすることを徹底したい。
Q:予防という観点からは、パンフレットなどのツールを用いて多くの方々に情報を知ってもらうことが必要だ。全くこういった情報を知らない人も市内にはいっぱいいるはずであり、そういった層にどうやって情報を提供していくか。
A:情報提供は一朝一夕にできるものではないことを強く認識している。一人ひとりが特に心がけてほしいのは、予防には生活習慣を身につけることが大事だということだ。それをやるには繰り返しが不可欠である。小学校での講演、町内会での話など、何かの機会があるにつけて我々はしつこく情報を提供している。ただ、何も起こっていない時に“もし”起こったらという話をしてもなかなかピンとこないのも事実である。そのため、発生したらメディアを100%使って、対応予防策の話を細かく伝えていくことを意識している。恐怖心をあおるのではなく、きっちりと丁寧に情報を提供したい。
Q:新型インフルエンザの対策の基本は毎年のインフルエンザ対策と同じ。特に冬はしっかりしなければならない。まずは教育委員会を利用していくことも有効である。先生が一人でやるのも限界なので、小中学校でカリキュラムを作って指導していくような取り組みも有用だと思う。
A:小学校の養護教員には今日のような話をよくしているが、そこからみんなに話が広がっているかは不明である。だから、養護教員の人たちがみんなに教えやすいようなテキストなどを作ることも考えたいと思う。
Q:日本の医療はフリーアクセスなので誰でも診療所に行けばいいと思っている。発熱外来など作ってもそれに沿って国民が行動しない可能性が大きい。それをどうしたらいいか。
A:発熱外来に行く人は恐怖心を持っている人だけで、普通の人は普通の開業医のところに行ってしまう。だから、開業医と連携することが必要となる。そのために、医師会に対してバックアップ体制をとることをしっかり保証し、タミフルの準備、後方の支援病院の確保なども我々が確実に行い、医者を支える心づもりでいる。
(当機構代表理事 黒川挨拶)
岩崎先生は日本の医療現場だけではなく、アフリカなど世界各国で活躍、そして仙台市副市長に就任するというとても個性的なキャリアを歩んでいる。仙台市長の梅原さんは自分が市長になった時に、経験豊富な女性である岩崎さんを副市長に選び仙台市の医療に関する問題を任せた。これこそリーダーの見識を示す良い例である。組織でも大学でも、できない理由を言うのではなく、どうやったらやれるかを考え、実行に移さなければならない。そのために、社会やポストで何が必要か、自分は社会に対して何をしなければならないかを考えるべきだ。日本は縦社会で、年功序列のためガチガチな体制のままだ。女性の社会進出も先進国中一番遅れており、岩崎さんのようなキャリアを積まれている女性は非常に少ない。「Independent」な女性である岩崎さんの素晴らしさは言うまでもないし、それを選んだ梅原さんも素晴らしい。くり返しになるが、これこそリーダーの見識だ。インフルエンザが脅威であるのは間違いない。しかし、普段から手を洗う、家に帰ってきたらうがいして手を洗うといった基本的なことを広めることが第一歩なのだ。このような取り組みを岩崎さんのような百戦錬磨の方が進めていくことは大きな意味がある。
■講師プロフィール
岩崎 恵美子 氏
1968年新潟大卒。1978年新潟臨港総合病院耳鼻咽喉科医長、1996年タイ国MAHIDOL大学医学部熱帯医学衛生学ディプロマ取得。インド、タイ、パラグアイで医療活動を行なう。1998年11月より厚生省仙台検疫所長に就任し、2000年にはWHOの派遣要請によりウガンダ現地におけるエボラ出血熱の診療・診断・調査活動に従事。2003年5月SARS対応協議ASEAN+3カ国空港当局者会議、同年6月WHO主催SARS対策専門家世界会議にそれぞれ日本代表として出席。平成19年(2007年)4月仙台市副市長に就任、現在に至る。
今回は仙台市副市長で医師の岩崎恵美子先生に「仙台市 の新型インフルエンザへの取り組み」というテーマでご講演頂きました。早朝から多数の皆様にご参加頂きました。誠にありがとうございました。
(当機構事務局長補佐 小野崎挨拶)
新型インフルエンザは政府・与党主導で昨年から急速に対策が進み、 今回の概算要求でも大幅に予算が増額されている。パンデミックが 起こると医療だけではなく、学校の閉鎖や食糧確保、流通、治安、 交通などの分野で様々な問題が生じるが、それを解決する鍵を握っ ているのは県や市などの地方自治体だ。政府がいくら対策を練っても、自治体が動かなければ何も起きない、これが対策の大きな課題だろう。そのような中、率先して取り組みを進めている仙台市の事例を勉強したい。本日は医師の経験、アフリカにおけるエボラ出血熱に対する医療活動の経験、検疫所での経験、SARS対応の日本代表の経験など、幅広い経験を積み現在仙台市の副市長を務めていらっしゃる岩崎先生に、仙台市の取り組みを紹介して頂きたい。
(岩崎先生講演要旨)
「仙台市の新型インフルエンザへの取り組み」
まだ理解が浅い日本
耳鼻科医としての10数年、途上国での5年、検疫所での10年という、私の経験をもとに、感染症にはどのような対策が必要かについて話をまとめたい。まず、日本が抱える問題として、感染症に対する正しい理解に基づく系統的な対策がとられていないことが挙げられる。何かが流行すると大騒ぎして、一つずつマニュアルを作っている、これが現状なのだ。感染症ならSARS、エボラ、インフルエンザでも原則は同じ。ウイルスがどこに出てくるかをよく理解し、それに触れない・取り込まない方法を実践するのが第一である。日本では、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの区別すらついておらず、混同されている。両者は明確に異なる。このようにまだまだ理解は進んでいない。
生活習慣と関わる感染拡大
ウイルスは空気中を舞ってくることは殆どなく、唾液などの分泌物を介して伝わる。こういったものと接する「生活習慣」が大きく関与しているのだ。例えばSARSの拡大では、中国人の生活習慣が拡大に関係あった。先進国では広まらなかったが、これは感染者との接触が先進国ではなかったことが理由と考えられている。感染症ではこのような判断を冷静に行うことが大事である。インドネシアなどの途上国において鳥インフルエンザが人間に感染した例が報告されているが、先進国では人に感染したという記録はない。それは途上国の生活習慣・衛生環境に依るものだ。ウイルスは鳥の糞中に大量に含まれ、それを吸ったり手で触ったりすることで感染するのだが、途上国では鳥は生活に密着しており直接触れる機会も多い。香港でH5N1が流行したとき疑いのある鳥は全部処分され、これによって一つのアウトブレークが封じ込められた。
新型インフルエンザがどれ程の被害を引き起こすかという詳細かつ正確なデータはないので、過去のアウトブレーク、例えばスペイン風邪などから推測するしかない。ただし、時代の背景が全く異なることに留意しなければならない。主に栄養の足りない兵士の間で流行したスペイン風邪の事例を現代にそのまま当てはめるのは早計である。また、スペイン風邪で亡くなった方の殆どが混合感染によるものだろうという話もある。こういったことも踏まえて新型インフルエンザに対応していかなければならない。
まずは医師の取り組みが必要
新型インフルエンザが怖いのは医師も一緒である。しかし、誰かがやらないと患者を救うことはできない。私はタミフルの用意を確保するという条件で、仙台市医師会を説得し、インフルエンザ対策に取り組んでもらうことを約束して頂いた。新型といえども感染したら患者はまずは近所のお医者さんに行く。そこで混合感染の有無などをチェックし、必要に応じて大学に送るなどの処置をとり、そして最終的に自宅へ帰す。また、市は医師を支援するためにコールセンターを設けて、患者が家に帰った後の相談の窓口とする。往診の医師のグループも作る。このような体制で医師会と協力して対策を進めていく。医師が感染を防ぐには、しっかり手を洗う、白衣は診察室で脱ぐ、診察室のものを持って出ないなど、基本的なことを徹底して守ることが重要だ。怖がらずに誰かが対応しなければならない。対策にやる気のある医師が仙台市にいることはとても幸いなことだと思っている。
インフルエンザは小学生から広がる
私は仙台検疫所の経験で、インフルエンザはまず小学生の間で広がっていくことを感覚的に知っていた。4年前に、インフルエンザが石巻市で大流行した時、小学校の欠席がまず急激に増えた。その経験から、インフルエンザの広がりを捉えるために小学校の欠席率を調べるのはどうかと考え、その調査を仙台市の教育委員会に提案した。週に二回、欠席者数・欠席率をクラスごとに提出してもらい、地図にプロットした。それで流行拡大の程度が把握でき、更に学校を休校にした途端に流行が止まった。こういったこともインフルエンザ対策の流行を知る上で必要な知識である。
ワクチンの料金の何%かを自治体が補助したり、ワクチンを必ず受けるような指導を徹底したりといった取り組みも今後一層進めるつもりである。新型インフルエンザの拡大を防ぐためにワクチンは重要である。インフルエンザにかかった時に新型か旧型かの判断を下すことも容易になるのだ。自治体が考えるべきことは感染が拡大しないようにするための策であり、時には強引に小学校を休校にするといった強制的な措置を取る必要もあるだろう。ライフラインに関連する企業の人たちに感染が及ばないようにするためにも、まずは小学校で止めなければならない。小学生は体力がないし清潔不潔の概念もない。 今秋から小学生への手洗いの指導を徹底していくし、養護の先生への指導も進める。しつこく繰り返してやっていくことが大事である。大事なのは感染のメカニズムを知ることであり、どこにウイルスが出てくるかをしっかり把握して正しい対策をとれば必ず感染は防げる。感染拡大防止に重点をおき、医師会とも協力して進めていくつもりである。
基本は手洗い
英国の有名な医学雑誌であるLancetに掲載された論文において、手洗いしない群、普通の石鹸で手洗いする群、薬用石鹸で手洗いする群の3つに対して感染の冬場の上気道感染の数を調べたら、手洗いしない群においてのみどんどん感染が増加し、普通石鹸でも薬用石鹸でも手洗いしている群の感染は低く抑えられていた。このようなデータからも手洗いの重要性がわかる。当たり前だが大切な基本的なことが大切だ。
(質疑応答)
Q:パンデミックになると国と地方自治体の連携が重要となるだろうが、どういう連携が必要で、その中での地方自治体の役割は何か。
A:パンデミックになる前の、患者が限局している時期は国の対策の重要性はとても大きい。感染の疑いがある人の入国を封じ込めたり、検疫所でスクリーニングして調べて早めに隔離したりといった対策は重要である。しかし、SARSやエボラと違ってインフルエンザは感染力が強く潜伏期も短い。仙台市では「発生したとわかった時点では既に広がっている」と判断して、対策を始める体制にある。自治体は自治体で淡々と感染拡大防止の体制を整え、それを寄せ集めていくことが日本全体の体制となる。自治体と国の間でやっていることに食い違いが生じないように気をつけ、国は皆が冷静になるような指導をやっていき、感染症に対する正し知識を伝えることなどに注力すべき。自治体はそれぞれが自分たちに最も適した独自の方法で対策体制を立てれば良いだろう。
Q:噂はどんどん広がるので、それに対してどういう対策をとるのかを考える必要がある。行政は情報提供する時に確かな情報かを入念に確認してから発信するが、それでは遅いことがしばしばである。情報が遅れると噂だけが広がる。正確さを求めつつも、こまめに早い情報提供をお願いしたい。
A:特に感染症において情報提供の迅速さは大事である。それと同時に、情報を出す時は必ず対応策を付けて出すように私はいつも指導している。手を洗う、人ごみに行かないようにするなど、どういう対応が必要かを付けた上で、状況を説明することが不可欠だと思う。メディアとの協力も進めているが、しつこく対策を載せてほしいということをお願いしている。情報提供と対策を必ずセットにすることを徹底したい。
Q:予防という観点からは、パンフレットなどのツールを用いて多くの方々に情報を知ってもらうことが必要だ。全くこういった情報を知らない人も市内にはいっぱいいるはずであり、そういった層にどうやって情報を提供していくか。
A:情報提供は一朝一夕にできるものではないことを強く認識している。一人ひとりが特に心がけてほしいのは、予防には生活習慣を身につけることが大事だということだ。それをやるには繰り返しが不可欠である。小学校での講演、町内会での話など、何かの機会があるにつけて我々はしつこく情報を提供している。ただ、何も起こっていない時に“もし”起こったらという話をしてもなかなかピンとこないのも事実である。そのため、発生したらメディアを100%使って、対応予防策の話を細かく伝えていくことを意識している。恐怖心をあおるのではなく、きっちりと丁寧に情報を提供したい。
Q:新型インフルエンザの対策の基本は毎年のインフルエンザ対策と同じ。特に冬はしっかりしなければならない。まずは教育委員会を利用していくことも有効である。先生が一人でやるのも限界なので、小中学校でカリキュラムを作って指導していくような取り組みも有用だと思う。
A:小学校の養護教員には今日のような話をよくしているが、そこからみんなに話が広がっているかは不明である。だから、養護教員の人たちがみんなに教えやすいようなテキストなどを作ることも考えたいと思う。
Q:日本の医療はフリーアクセスなので誰でも診療所に行けばいいと思っている。発熱外来など作ってもそれに沿って国民が行動しない可能性が大きい。それをどうしたらいいか。
A:発熱外来に行く人は恐怖心を持っている人だけで、普通の人は普通の開業医のところに行ってしまう。だから、開業医と連携することが必要となる。そのために、医師会に対してバックアップ体制をとることをしっかり保証し、タミフルの準備、後方の支援病院の確保なども我々が確実に行い、医者を支える心づもりでいる。
(当機構代表理事 黒川挨拶)
岩崎先生は日本の医療現場だけではなく、アフリカなど世界各国で活躍、そして仙台市副市長に就任するというとても個性的なキャリアを歩んでいる。仙台市長の梅原さんは自分が市長になった時に、経験豊富な女性である岩崎さんを副市長に選び仙台市の医療に関する問題を任せた。これこそリーダーの見識を示す良い例である。組織でも大学でも、できない理由を言うのではなく、どうやったらやれるかを考え、実行に移さなければならない。そのために、社会やポストで何が必要か、自分は社会に対して何をしなければならないかを考えるべきだ。日本は縦社会で、年功序列のためガチガチな体制のままだ。女性の社会進出も先進国中一番遅れており、岩崎さんのようなキャリアを積まれている女性は非常に少ない。「Independent」な女性である岩崎さんの素晴らしさは言うまでもないし、それを選んだ梅原さんも素晴らしい。くり返しになるが、これこそリーダーの見識だ。インフルエンザが脅威であるのは間違いない。しかし、普段から手を洗う、家に帰ってきたらうがいして手を洗うといった基本的なことを広めることが第一歩なのだ。このような取り組みを岩崎さんのような百戦錬磨の方が進めていくことは大きな意味がある。
■講師プロフィール
岩崎 恵美子 氏
1968年新潟大卒。1978年新潟臨港総合病院耳鼻咽喉科医長、1996年タイ国MAHIDOL大学医学部熱帯医学衛生学ディプロマ取得。インド、タイ、パラグアイで医療活動を行なう。1998年11月より厚生省仙台検疫所長に就任し、2000年にはWHOの派遣要請によりウガンダ現地におけるエボラ出血熱の診療・診断・調査活動に従事。2003年5月SARS対応協議ASEAN+3カ国空港当局者会議、同年6月WHO主催SARS対策専門家世界会議にそれぞれ日本代表として出席。平成19年(2007年)4月仙台市副市長に就任、現在に至る。
申込締切日:2008-09-03
開催日:2008-09-04
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