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第2回朝食討論会 「民主党の新たな医療政策」

第2回朝食討論会 「民主党の新たな医療政策」
2008年7月2日、日本医療政策機構は、都内ホテルにおいて第2回朝食討論会「民主党の新たな医療政策」を開催した。この朝食討論会は医療政策決定に携わる与野党のリーダーの方に、医療政策の重要課題についてお話し頂きディスカッションを行うもので、第2回目となる今回は、民主党政調副会長、医療事故調査チーム事務局長の足立信也参議院議員を講師にお招きして開催、当機構の法人会員、理事、相談役などの参加のもと、活発な議論が展開された。

■緊急討論「医療政策の緊急課題」
・日時:2008年7月2日(月) 午前8時-9時
・スピーカー:足立 信也 氏 参議院議員
医師・医学博士 民主党政策調査会副会長 医療事故調査チーム事務局長
・ファシリテーター:小野崎 耕平 (日本医療政策機構)

■概要
●小野崎 (日本医療政策機構)
今回は民主党の足立信也先生をお招きし、民主党が考える新たな医療政策についてお話をお伺いしたい。まず、今後の政治日程を振り返っておきたい。7月の洞爺湖サミット後に内閣改造が行なわれる可能性が取りざたされている。そして9月には民主党の代表選が、そして次はいよいよ解散総選挙を待つことになる。与党が政権を維持するかもしれないし、民主党がいよいよ政権をとるかもしれない。では、もし仮に民主党が本当に政権をとったら、医療政策は一体どう変わるのか。今日はそんなお話を伺いたい。 足立先生は、筑波大学を卒業後、外科医として臨床に20年以上携わってきた。国会議員としてよりも、筑波大外科助教授として、あるいは筑波メディカルセンターの診療部長としての足立先生をご存じの方もいらっしゃると思う。足立氏は2004年に参議院議員に転じ、現在は民主党の医療政策立案の中心メンバーとして活躍されている。現在の日本の医療政策の現状認識、そして今後の民主党の医療政策について、まずはお話をお聞かせ願いたい。

●足立氏
世界の医療の中の日本の医療
・日本の医学の水準
日本の医療はドイツ医学を模範に学んできたため、基礎研究が主流となっている。具体的なデータを18年版の科学技術白書よりいくつか紹介すると、まず、日本の科学研究費は約15.6兆円で世界第2位である。しかし、ここ数年間の伸びは中国・韓国で著しく、日本はあまり伸びていない。また、対GDP比で見ると3.14%で世界のトップであるが、その内訳は民間の資金が8割を占める一方で、政府からの支出は2割と世界最下位となっている。つまり、日本においては民主導で科学研究が行われていることが分かる。 その科学研究の中で、医薬品工業が占める割合は8.7%であり、この値はフランス・アメリカ・イギリス・ドイツの中で、最低である。つまり、医薬品工業分野の科学技術に占める割合が主要国中一番低いのが現状なのだ。 主要な科学論文誌に掲載された医学論分数はアメリカが断然トップだが、日本はそれでも第2位である。しかし、論文数は多いが、引用されるケースが少ない。また、科学論文中の医学論文の割合は27.5%しかなく、主要国中最も低い。日本の科学論文の中では材料・物理に関するものが多く、薬学は3位になっているが、臨床医学に関するものは少ない。基礎と臨床の乖離が見られる。

・「ドラッグ・ラグ」と「デバイス・ラグ」
どの産業で日本を立国させるのかという確固たる拠り所がなければならない。そのような状況の中、日本の成長産業は自動車、IT、医療、環境の4分野になると私は考えている。その中で今日は医療の話に限定してお話しさせて頂きたい。 2005年、アメリカは新規医薬品発売まで約5ヶ月、新規数は73品目。それに対し日本は24ヶ月で13品目となっている。つまり、新規医薬品の数とドラッグ・ラグは反比例の関係にある。デバイス・ラグも問題だ。日本製の医療機器の世界におけるシェアは2000年の15%から2003年には11%まで下がっている。つまり、医薬品も医療機器も世界におけるシェアは下がり、新規数も減っている。それに伴い、日本の医療機器の輸入と輸出の差は、輸入が約8500億円、輸出が約3900億円で、輸入超過額は4633億円にもなっている。 医療分野を日本の成長産業にするためには、医療機器や医薬品の臨床応用研究をさらに進めなければならない。立法府の立場で言えば、治験には法律があるが、臨床応用研究には法律がない。臨床応用研究に必要なのは、規制ではなく促進していくための法律だ。日本の行政が取り組んでいるのは規制だけであり、産業界と協同して進めていこうという発想がない。政府としてはどうしても官主導の動きを進めがちになっている。第三者のチェックを加えながら民主導で進めていくべき、つまり、医薬品医療機器総合機構を拡大していく方向が望ましいと考えている。

・日本の医療の水準
次に、日本の医療の水準を考える。WHOの2000年の評価では、日本は健康レベルの達成度と総合順位で1位であった。しかし、これを維持できる可能性は低い。OECD諸国の中で人口対医師数が27位、医療費が22位という状況だ。そんな中1998年に決まった医師数削減の閣議決定が、この度ようやく見直しになることなった。これは、150名からなる「医療現場の危機打開と再建をめざす国会議員連盟」の後押し、そして大臣の強い意向もあっただろう。

・医師不足問題
-医師10万人増員計画 現在、人口10万人当たりの医師数はOECD平均で310人に対し、日本は206人で、人口に換算すると13万人足りない。これまで政府は、医籍に登録されている医師数をもって計算しており、これによると、2025年に医師数は32万6千人となり、人口10万人当たり250人、医師数の不足は解消され、その先は逆に超過になると考えられていた。しかし、OECD諸国と同じように実働医師数で計算すると、この前提は崩れる。たとえば、病院では70歳前に定年を迎えるとすると、2025年の時点で4万人の不足が生じる。日本における週当たりの労働時間は勤務医で70時間、開業医で55時間であるが、これをイギリス・ドイツ・フランス並みの50時間程度で設定すると、6万人足りなくなる。更に、医師の16%を占める女性医師の実働労働量を0.81倍と見なすと、さらに1万人分足りなくなる。以上4万、6万、1万を足すと、2年前の32万6千人という政府試算と比べて11万人の不足が見込まれる。前出のOECD諸国並みに換算するとすでに13万人足りないという事実と併せると2025年までに少なくとも10万人の不足を解消しなければならない。 このような事態を踏まえ、我々は今後20年間で「実働の医師数を」10万人増やすというプランニングを行っている。

日本の医療崩壊の危機と民主党の新たな医療政策
・日本の医療崩壊の要因
日本の医療崩壊については大きく二つの問題がある。一つは先ほど申し上げたような労働力不足と過剰な労働時間だ。もう一つは、医療関係者と国民の意識のズレだ。日本の医療関係者の「自分たちは世界一の医療水準を保っている」という自負に対して、国民は日本の医療に対して大きな不満を持っている。これらが、日本の医療を崩壊に導いている大きな原因になっている。 日本医療政策機構の2007年の調査によれば、医療に対する満足度は、70歳以上では不満が少なく、低所得・低資産層で不満が高い。また、不満の多い項目は、「制度決定への市民参加の度合い」「医療費の水準」である。特に低所得者の間で医療費に不満がある。我々がこのような問題にどのように取り組んできたかお話したい。 ・患者支援法 まず、2002年に「患者の権利法」を作成、患者の知る権利・納得する権利・自己決定する権利などを定めた。次に2年前にはこれを「医療の安心・納得・安全法案」とし、医師の説明義務・医療機関の実績の評価などを定めた。そして、今年に入って「患者支援法」と更にバージョンアップし、医療事故の究明制度などを含める内容とした。

・日本人の市民意識と国会議員の役割
これらのベースになっている考えは、医療はそもそも医療者側と患者側の協働作業であり、話し合いの中で治療方針などを決めてくべきであるというものである。日本人は「制度というのはお上から与えられるもので、状況が悪いのは為政者のせいだ」と考える傾向にある。自分たちで制度を作り上げていくという、市民としての意識が足りないのだ。衆議院はもちろん民意の代表であるが、国会議員の役割には「国民への啓蒙・教育」もあり、これこそが参議院の役割だと思う。国会議員が先頭に立って日本の中長期的な計画を作ることが必要であり、そういう意味でも我々は医療政策をじっくりと練り上げて、そして国民に伝えていきたい。

民主党の新たな医療政策
最後に、民主党が準備している医療政策の抜本改革の話をまとめたい。

・医療人材の確保
まずは、先程も申し上げた医療人材の養成確保法案である。これは、スキルミックスも含めて、看護師・薬剤師の役割を大きくして、医師の負担を減らし、実働の医師数を増やすものである。20年間で10万人の医師を増加するために、5万人の養成による純増と、5万人相当の人材活用という2方向で進め、これにより医師数は2,3割増加する見込みである。ただ、医師の養成5万人といっても最低7,8年はかかるので、私は歯科医師からの編入を組み入れていくことでより効果的に進めるべきと考えている。また、活用方法については、たとえば国公立病院に勤めている医師が兼業禁止のために内緒でアルバイトをやっているような現状を打開し、週何回かは他の病院に手伝いに行けるように正規の仕組みを作ることが必要である。現在74%の外科医が当直明けに手術をしており、40%がアルバイトをしている。こういう形をなくして、医療従事者の人材養成・活用・確保を効果的に進めていきたい。

・患者支援法
2番目は患者の支援法である。医療事故においては、情報の共有をベースとし、事故が起きた場合は院内での話し合いを促進する方向だ。そのために「医療メディエーター」のような話し合いを促す人を活用したり、納得のいかなかった場合は病院外の第三者による調査委員会に届出するという制度を進める。また、医師法21条を削除し、代わりに、死亡診断書・死体検案書を書く場合、死亡に至った経緯を十分に調べて患者や遺族に説明をすることを義務付け、どうしても死亡診断書・検案書を書けなかった場合は死因の究明のために警察の捜査を入れるような仕組みを考えている。 ・医薬品・医療機器の研究開発 3番目は研究開発と臨床応用の段階の差をなくすことだ。研究開発の段階から、将来実用化するための行政側からの支援が必要であり、そのために、厚生労働省の医薬食品局と、医薬品医療機器総合機構を合体させたような新しい組織を作るための法案を考えている。

・無過失補償制度
4番目は、無過失補償制度について。来年から通常分娩の際に生じた脳性麻痺に対してのみ無過失補償制度がスタートする。しかし、これは民間保険になっており、結果として保険料が相当上がるはずだ。分娩費も上がるし、医療機関の保険料も上がるだろう。保障金が裁判の原資になる可能性もある。つまり、商品として成り立つのかどうか大いに疑問である。日本を除いて現在4カ国程が無過失補償制度を実施しているが、そのいずれも公的保険で賄われている。医療費の1%でも振り分けることで、無過失補償制度を脳性麻痺以外にも広めていけるようにしたい。

・医療財源
最後は財源の問題だ。国民健康保険が破綻しているのは周知の通りであり、全ての保険者が赤字に転落するなか、税の負担だけを減らした結果である。結局は収入や年齢に応じて政管健保・組合健保が健康保険を助ける形で援助しているのだから、私は究極的には医療保険の一元化しか解決策はないだろうと思っている。それも「地域医療保険」という形で、保健から医療、介護まで広く扱う保健医療事業体を作りたい。 日本の医療費の内訳は、患者自己負担45%、国・都道府県の税による負担が35%、企業負担20%だ。このうち、企業負担が減っているが、これは非正規雇用が増えているのが主な原因だ。今後、1700万人の非正規雇用者を正規雇用化することでこれが改善するだろう。また、収入に応じた保険料を払う仕組みにするなどして、患者の自己負担割合は2,3割を上限としていきたい。

・タバコ税
喫煙率を半減させるためにタバコの値段を倍にしたとしても、税収も期待できる上、タバコによる経済損失の7兆円を削減できることを考えるとメリットがある。消費税を一律に上げることは現状では難しいので、まず取り組むのはタバコの問題だろう。その後アルコールなどの嗜好品・富裕税なども視野に入れて税収増を考えたい。

医師偏在よりも若者偏在
医師の偏在が問題となっているが、日本では若者全体が偏在している現状があると思う。 定年を迎えた団塊の世代の中で第一次産業、特に農業に対する関心が高まっている。そのような団塊の世代が地方に帰ってくれば、その子供たちの関心も地方に向くのではないか。都会への一極集中から、地方に分散していく時代に入っていくと思う。 また、病院の集約化も必要だが、救急医療に耐えうる、一時間以内に通いうる病院の存続という形をベースに考えていく必要があるだろう。

民主党の医療政策 -その理念
最後に、民主党は医療政策において何を一番大切にするのか、その理念について述べたい。実際に医療崩壊を迎えたイギリスのブレア首相が出した大きなメッセージは、彼が最初にプランを発表したときの「他の改革がうまくいかなくても、医療と教育の改革だけは成功させる」という強いメッセージだった。これは日本にも共通するメッセージであり、民主党も同じ思いを強く抱いている。

■ディスカッション
●小野崎 民主党の医療政策は現在まさに検討のプロセスにある。これまでの話を聞いた上で、質問はもちろんのこと、政策に対する提言なども含めて、ぜひこの機会にご発言頂きたい。

●会場から 新しい法律を作ることも大切だが、何より既存の古い法律を変える必要があるのではないか。制定されてから既に長い時間が経過している医療法・医師法・薬事法・健康保険法などの改革の議論はどうなっているのか。

●足立氏 その通りだと思う。全ての法律が古いのは事実だ。本日、民主党で考えている5つくらいの法律の話をさせて頂いたが、その一つ一つはまったくの新法ではなく、現存の法改正をベースとしている。一方、個別の法律の小さな改正ポイントを示すだけでは世論に理解されにくいので、今後進んでいく大きな方向性を分かりやすく見せなければならない。まずはマニフェストで政策や法制度の大きな方向を示し、その後に法改正の詳細を示していこうと考えている。

●会場から 医師の数を増やすという議論があったが、単に人数を増やすだけではなく、同時に給与などの待遇改善も行う必要があるのではないか。

●足立氏 外科医である私は自分の経験に照らしても大いに問題だと思っている。職種別の一時間あたりの単価の比較をすると、研修医1760円、医学部教授1690円、若手医師1449円、普通の大学教授4566円、高校教員2780円、記者2349円となっており、医師の労働時間とその対価に大きな乖離がある事を示している。また、開業医と勤務医の収入を、購買力平価のドル換算で比較すると、日本は勤務医10万ドル、開業医24万ドルで、2倍以上の開きがある。しかし、他の国は勤務医のほうが開業医より高く、アメリカは勤務医17万ドル、開業医15万ドル、イギリスは勤務医15万ドルと開業医12万ドルとなっている。このような日本の医師の給与体系は変えていく必要があるだろう。

●会場から 医療費をはじめ、国民の健康にかかるコストを健全な状態に保つ方策をどうしたらよいか?お考えをお聞かせ頂きたい。

●足立氏 たとえば医薬品・医療機器を例に挙げると、ラグの問題もさることながら、中間マージンの高さが大きな問題となっている。多くの仲介人が入ってしまうことでコストがかさんでいる現状がある。また、アメリカから輸入している医療機器において、韓国は日本の半分のコストですんでいるという状況も問題視されている。価格設定を輸出国側に握られている現状を打開しなければならない。

●会場から 医療政策の決定プロセスにおける市民の参画は極めて重要だと思う。いかに市民の参加度合いを担保していくかという視点で考えをお聞かせ願いたい。

●足立氏 その通りだと思う。まず、与党が出す議員立法においては「法律を成立させること」が目的化していることが大きな問題だ。また、法律が成立した直後から、与党議員が「こんな法律だったとは思わなかった」と言い始めたケースもある。つまり、彼らは自分たちの出す法案と現実の間にある「隙間」を理解していないのだ。その隙間を埋めるためにも、国会に提出する前段階で現場の当事者の話を聞くプロセスが不可欠だ。法案を机上の空論にしないために、立案段階で現場の意見を取り入れ、何度も現場のチェックを入れていく姿勢が大事になるだろう。そのような形で我々民主党も提言・提案をまとめていきたいと思う。

●黒川 清 (日本医療政策機構代表理事) 挨拶
今日の話を聞いて、政策の中身はもちろんのこと、政策立案のプロセスの重要性をみんなが感じたことだろう。こういう場で議論することが何より大切だ。先日John. F. Kennedyのスピーチライターを務めていた人と話をする機会があり、その時に政治のリーダーシップとは何かを考えた。民主主義のプロセスにおいて、どういう責任をもって、言葉を発しているのかが重要なのである。勿論現場を知っていることも大事だ。日本の国民の多くは、プロセスを頭の中に全く入れておらず、戦後の日本では制度は民主主義だったが、頭の中は民主主義になってなかったのだ。瑣末な意見に集中するのではなく、大きなビジョンに向かって動いてみて、修正も加えながら、みんなで力を合わせていくプロセスを浸透させなければならない。そのために、現在役所だけが持っている一次データを国民に公開し、オープンな場で政策を議論し、そして多様な選択肢を与えることが必要とされるだろう。日本医療政策機構の使命はそこにある。

申込締切日:2008-07-01

開催日:2008-07-02


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