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第16回朝食会「グローバル・ヘルスにおける日本の貢献」

第16回朝食会「グローバル・ヘルスにおける日本の貢献」
去る2008年5月22日、第16回朝食会を開催いたしました。今回はNHK解説委員の道傳愛子先生に「グローバル・ヘルスにおける日本の貢献」というテーマでご講演頂きました。多数の皆様にご参加頂きまして、誠にありがとうございました。


(当機構代表理事 黒川挨拶)
TICAD IV(第4回アフリカ開発会議)を今月末に控え(註:2008年5月28日~30日まで横浜で開催)、更に7月にはG8サミットを主催することになる日本にとって、今年は非常に特別な年となっています。このような特別な機会を控えて、日本から国際保健にどのような貢献ができるかを考えることは重要であり、我々はNPOとして、国際保健において日本が発揮すべきイニシアチブについて考察・提言を続けてきました。今年の2月には世界銀行と共催でグローバル・ヘルス・サミットを開催し、小泉純一郎元総理大臣を初めとする、数多くの国内外のリーダーをお招きし、グローバル・ヘルスにおける日本の貢献について議論する場を設けました。

日本医療政策機構のホームページや私のブログにはこれらのシンポジウムや私の講演録などが掲載されていますので、是非見て頂きたいと思います。国内の政治問題を超えて、世界中で今何が起きているかということを知ることは非常に重要性です。インターネットなどで世界のあらゆるところが繋がるようになり、従来のトップダウンのアプローチではなく、シビル・ソサエティー・ムーブメントとも言える、何らかの問題意識を持っている現場の市民が自分たちの本当にやりたいことを自発的に実行する、ボトムアップのアプローチが勢いを増してきています。それに加えて、ゲイツ財団のような、フィランソロピーphilanthropyや住友化学のようなプライベート・セクターが、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方をつなぐ役割を果たし、全体が円滑に回るようにサポートしています。住友化学のアフリカへの蚊帳の提供の話は国際的にも非常に有名です。これらの多くのグローバル・プレイヤーglobal playerの役割は今後更に重要となるでしょう。

こういった数多くのセクターの協働に加えてもう一つ大事なのは、将来を担う若い学生に国際保健分野に早くから興味を持ってもらうことです。アメリカには、若いうちに海外の現場を経験させるプログラムが充実している大学が少なくありません。それに比べて、日本はどこか閉鎖的なところがあり、もっと視野を広げる必要があると思います。世界で2番目のGDPを誇る日本のODAは減り続け、国際的な影響力を弱まる一方です。そのような中で、小泉元総理大臣の発案で設立された「野口英世アフリカ賞」は貴重な動きといえます。これは、医学研究部門と医療活動分門において、アフリカの保健に貢献した人に対して賞を与えることで、アフリカの保健問題に広く関心を向けてもらうことを目的としています。このような動きが今後ますます加速し、内向的な日本の方々がもっと世界のことに興味を持ち、G8サミットで日本がイニシアチブを発揮できるようになることを期待しています。

(当機構事務局長補佐 小野崎挨拶)
第16回朝食会より、担当を務めさせて頂く小野崎です。今回からは、これまでの2倍の収容人数のある新たな会場において開催することとなりより多くの皆様に朝食会に参加して頂けることとなりました。本日のスピーカーはNHK解説委員の道傳愛子様です。道傳様はアフリカ開発・途上国支援・国際関係などのエキスパートです。最近もアフリカに出張されるなど、現地の状況に非常に精通されています。今回はそのお話も含めて、グローバル・ヘルスの最前線の話をお聞かせ頂けると思います。

(道傳氏様講演要旨)
「グローバル・ヘルスにおける日本の貢献」

TICADは「元気あるアフリカを目指して」ということをテーマとしており、経済成長を加速させるとともに教育や保健など「人間の安全保障」といわれる分野を確保していくことを目指しています。では元気あるアフリカとはどのようなものなのか―「アフリカ」という言葉で一括りにして固定的なイメージを持つのではなく、その本当の実態を踏まえて考えてみたいと思います。私は先月ルワンダとタンザニアに取材に行って参りました。ルワンダでは14年前の虐殺の影響がまだ色強く、5.8%の経済成長率という数字だけからは測れない、根深い問題が残っています。タンザニアにおいても、6.8%という高い経済成長の裏側で、医療システムの不整備により、10万人が毎年マラリアで命を落としています。急速な都市化の半面で、水道施設の整備が追いつかず、汚染された水はマラリアの温床となっています。排水溝が一週間詰まると、マラリアを媒介する蚊が大量に発生するもとになるのです。住民にも正しい知識が普及しておらず、「正しい対策をとればマラリア感染は防げる」ということが知られていません。

有効なマラリア対策として、蚊帳の使用が挙げられます。5年間の防虫効果がある殺虫剤処理を施された蚊帳の繊維に蚊が触れると、殺虫効果が発揮されて蚊が死ぬ仕組みになっています。この蚊帳は目が4ミリと粗いことも特徴です。暑い地域が多いので、通気性をよくするために、蚊が入って来られないギリギリのサイズまで目を粗くしているのです。そして、これら蚊帳の生産において、たとえば住友化学のような日本企業の技術が役立っています。現地に工場を作り、現地の人々を雇い、蚊帳を生産することで、蚊帳によるマラリア対策の効果と共に、この工場で新たな雇用が創出され、結果として現地の人々の貧困対策にもつながるのです。これは慈善事業ではありません。持続的なビジネスとして採算をきちんと考えなければなりません。そして、ビジネスとして続かない限りいつかは蚊帳の生産を止めなければならなくなる、すなわち、マラリア対策が中断することを意味します。「アフリカの問題を」「アフリカで」「アフリカの人々によって」解決することを手助けすることが真の援助の姿であり、いま必要な取組なのだということを感じました。

一見すると魔法の杖のように解決をもたらしてくれそうな蚊帳ですが、課題もあります。まずはその費用です。政府が配布している割引券を使っても一番安くて250円かかります。この250円の蚊帳でさえ貧困のために買えない家庭が多くあります。タンザニアの全世帯の45%が蚊帳を手にしており、そのうちの23%が殺虫効果のある蚊帳です。つまり、マラリア対策を徹底するにはまだ蚊帳の普及が不十分なのです。無料配布するというアイデアも具体的に検討されています。しかし、無料であげてしまうと結局は蚊帳も大事にされず、また意識改革を促すこともできないとの指摘も多くあります。一方で、啓発活動といった難しい活動を行っているうちに時間がたち、その間に人々は命を落としていきます。時間の猶予は許されません。まずはとにかく蚊帳を普及させ、そして、マラリアによる死亡を食い止めることが必要という見方が多勢を占めるほどマラリア問題は深刻です。ところで、2月にブッシュ大統領がタンザニアを訪問し、タンザニアの住友化学の蚊帳工場や、病院、スラムを訪ね何万という単位の蚊帳を無料配布することを決めました。PMI(President Malaria Initiative)の一環です。皮肉なことにこれによって、タンザニアにおける「蚊帳」のイメージはアメリカと強く結びつくようになってしまいました。本来は日本の企業である住友化学の貢献であったものが、日本のPRアメリカの貢献というイメージにすり替わってしまった印象でした。もちろん、いちいち日本の貢献であることをこれ見よがしに宣伝する必要はないかもしれませんが残念に思いました。日本の人たちもアフリカ、マラリアのことを真剣に考えていることがもっと蚊帳を通じて伝わっていけばと思います。
マラリア対策において魔法の杖はありません。蚊帳も必要だし、JICAが行っているような地道なドブさらいも必要です。マラリア対策のための知識も不可欠です。ODA、企業の取り組み、国連、NGOの取り組みも大事です。真の解決は、全てのプレイヤーが協力して初めて達成されることだと思います。国際協力はある特定のプレイヤーの専売特許ではなく、意識を変えることによって、誰もが貢献することができる問題です。来週のTICADは国が主催する会議ではありますが、私たち一人一人も自分たちの問題として、日本が、自分たちが何をできるか考えて頂きたいです。

本日はありがとうございました。番組でも様々な形でアフリカ対策の現状について取り上げていきたいと思っていますので、これからも宜しくお願いします。

申込締切日:2008-05-21

開催日:2008-05-22


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