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【開催報告】第68回定例朝食会「保険者機能の強化について~健康保険組合の視点から~」(2018年2月6日)

【開催報告】第68回定例朝食会「保険者機能の強化について~健康保険組合の視点から~」(2018年2月6日)

今回の朝食会では、全国に約1,400ある健康保険組合(以下、健保組合)の連合組織として、保険者機能の充実・強化に向けた活動を支援している、健康保険組合連合会から楠田晋也氏を迎え、健保組合の実態や具体的な取り組みについてご講演いただきました。

 

 

 

 

■我が国の医療保険制度と「健康保険組合」の仕組み
医療保険制度の体系と健康保険組合の役割を説明する。現在、我が国の公的医療保険は高齢者医療、市町村主体の地域保険、企業に設置されている職域保険の3つの柱で構成されている。現在は、市町村国保の加入者は減少、被用者保険は若干増加傾向にあり、後期高齢者医療制度の加入者が増え続けている。

■公的医療保険制度100年史
今後の公的医療保険制度を考えるために医療保険の100年史を振り返る。我が国の保険制度は、ドイツ疾病保険制度をモデルに20世紀初頭に成立した。1905年に初の民間共済組合が設立。1922年には健康保険法が制定され、第二次世界大戦を経て、1961年に国民皆保険の達成をみた。その後、高度経済成長を背景に老人医療費が無料化し、1982年の老人保健法の制定、2002年には各制度の給付水準が統一された。2006年の高齢者医療制度の創設を経て、直近では、国保の都道府県化等を柱とする法改正が2015年に行われた。皆保険達成までに半世紀、その後は、制度間で異なる給付水準を揃えながら、高齢者対策に注力した歴史となる。

■医療保険者の制度間格差と是正策
健保組合・協会けんぽは自主財源に対して約50~60%を自前の給付に充て、残りの半分弱を他の制度に移転している。これに対して、国保の自主財源は20%程度であり、残りは公費や他制度からの移転で運営している。さらに、後期高齢者医療制度の自主財源は8%弱であり、ほとんどは公費と他制度の被保険者が保険料から拠出する後期高齢者支援金よって支えられている。国は、このような制度間の格差や国保、後期高齢者の財政難を公費(税金)の投入ではなく保険料の移転で解決しようとしている。政府の赤字補てんのために安易に保険料を流用せず、国の責任の明確化と現役世代の負担軽減を考えていかなければいけない。国保、後期高齢者の応分の負担、「税と保険料」の役割分担の明確化、消費税を中心とする応分の税収の確保が急務である。

■「保険者機能」とは何か
1990年代の後半からアメリカのマネジド・ケアを想定して議論が活発化した。具体的には、保険者の管理運営能力の機能強化、医療提供主体に対する機能強化、加入者に対する機能強化―3つを柱としている。昨年健保連が行った国民意識調査では、保険者に対する満足度は国保が一番低い。国民は、保険者にがん検診、人間ドックなどの検診費用の補助や医療費の自己負担への補助などのサービスを期待しているが、一方で、特に意識をしていない無関心層も多かった。国保以外のほとんどの制度では、給与からの天引きにより保険料が自動的に徴収されていることに加え、給付は一律であり、制度間の差が見えにくいことも無関心層が多い原因と考えられる。高齢化等により増え続ける医療費を賄う保険者の財政が逼迫しているなか、保険料の拠出や納税によって皆保険が維持されていることを国民が意識することが重要である。こうした状況を踏まえ、まずは保険者が個々の加入者の行動変容を促し、主体的に活動していくことが期待されている。

■「保険者機能」の強化
3つの保険者機能についてそれぞれ強化すべきことをあげる。第一に、専門的情報機関として情報収集・蓄積・分析し、管理運営能力の機能を強化する。現在は、データヘルス計画のなかで、特定健診やレセプトデータ等の健康・医療情報の活用をはかっている。次に、医療提供主体に対する機能強化については、保険者が保険診療における契約当事者であることを意識し、診療報酬支弁者としての機能を充実させるべきである。具体的には、中医協や地方社会保険医療協議会(地医協)、都道府県医療審議会等での保険者代表の役割強化があげられる。「かかりつけ医」等を普及するとともに、将来的には「疾病管理プログラム」を通じた医療提供体制と保険者との協働が重要と考えている。疾病管理プログラムの構築に当たっては、診療報酬も含めた体系の整備が必要である。最後に、加入者に対する機能強化だが、具体的には、健康保持・増進機能、予防医療の実践、患者主権の確立支援(患者教育・情報開示)等を推進していく必要がある。

日本の公的医療保険制度は、元もとは自生的秩序を基盤に成立した多元的なシステムと、政治的操作による一元的なシステムが百年間かけて生成した複合体である。高齢化と人口減少を反映し、次の半世紀でどう変容するか注目していただきたい。そのためには、保険者がデータ分析を駆使し、医療提供体制との協働の道を探り、高齢化への有効な対応策を講じていきたい。

講演終了後は質疑応答が活発になされました。


■楠田 晋也 氏

2002年九州大学経済学部経営学科卒業。2004年九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻修士課程修了。同年、健康保険組合連合会入職。医療部、組合支援事業部、広報部を経て、現在、企画部社会保障研究グループ・チーフ。近年は「医療・医療保険制度に関する国民意識調査」、「政策立案に資するレセプト分析に関する調査研究III」(ともに2017年度)など、調査研究事業の企画・立案を担当している。

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