活動報告 調査・提言

【調査報告】ワクチン忌避に関する文化人類学的調査(2022年5月7日)

日本医療政策機構は、「ワクチン忌避に関する文化人類学的調査の結果」を公表しました。当機構では、日本国内におけるワクチン忌避の実態について実施した人類学的調査に基づき、論点を抽出し、政策提言に向けた視座を取りまとめました。今後の予防接種・ワクチン政策において、本提言が活かされ、真にエビデンスに基づく政策が進展することを期待しています。

■エグゼクティブサマリー

現代日本では、ワクチンの安全性に関する信頼度が世界でも最低水準(30〜39%)に留まっており、ワクチンで予防可能な疾患(VPD)に対するワクチン接種の抵抗感が課題になっている。そこで本調査では、ワクチン接種への抵抗感の根本的な理由を理解することを目的として、専門家ヒアリング、MROC、イン・デプス・インタビューを実施した。その結果、日本独特のワクチン忌避の文化や高齢者による独特のワクチン忌避といった一般的に流説されている仮説は、実態と大きく異なることが明らかになった。調査結果より導き出された5つの論点と、政策実装に向けた4つの視座を以下に提示する。


■論点

論点1:ワクチン忌避に関する思い込みを排した、エビデンスに基づく施策の推進
地方における会場へのアクセス不便性や、高齢者のワクチン忌避傾向、あるいは日本独自のメディア環境やリテラシーの低さが主な阻害要因とされることもあるが、実情は異なっている。

論点2:高齢者にとって、接種できるワクチンの存在が知られていないことが課題
高齢者のワクチン忌避感は他世代に比べてむしろ低く、真の課題は「接種可能なワクチンの存在そのものが知られていない」点にある。日本では予防接種が長らく小児向けの健康施策として認識されてきた歴史があり、健康長寿を支える手段として高齢者が利用できる多様なワクチンがあるという認識が不足している。今後はワクチンの有効性を発信し、高齢者の健康増進における新たな常識として啓発していく必要がある。

論点3:ワクチン接種による副反応の確率の低さが、情報として発信されていても、リスクを恐れる心境の払拭には結びついていない
ワクチン接種による副反応の確率の低さについて、数値としては情報が発信されているものの、実感として国民に広まっていない可能性がある。交通事故やその他の確率論の類似を用いるなど、確率の低さに着目し強調することで、効果的に発信していく施策が期待される。

論点4:ワクチン接種により予防できる疾患について、情報として存在していても、ワクチン接種という行動変容につながっていない
ワクチン接種によって予防できる疾患に関する情報は、一定程度広まっているものの、その疾患を予防し回避したいと思うことにつながっておらず、その結果、ワクチン接種という行動につながっていない可能性がある。ワクチン接種で予防できる疾患について、その恐ろしさや生命へのリスクについて、公衆衛生的な視点のみならず、個々人の健康において重大なリスクを伴う可能性があることを、明示的に発信していく必要がある。

論点5:かかりつけ医など、身近で普段から付き合いのある医療提供者からの正しいワクチン接種に関する情報提供が必要
メディアによる一般的な情報よりも、身近で信頼できるネットワークからの情報を信頼する傾向が見られている。日本の保健医療システムにおいては、かかりつけ医機能が充分に発揮されていない現状にあるため、信頼でき身近に感じられるかかりつけ医や家庭医を持っているかは、個々人によって差がある。かかりつけ医機能の拡充や、かかりつけ医の専門性の深化を図り、正しい情報提供を含めた、かかりつけ医によるワクチン接種提供体制の構築が期待される。

以上の論点をもとに、具体的な政策実装の可能性を図るべく、東京に隣接する都道府県のひとつである神奈川県の医療政策担当者とラウンドテーブルを開催し、本研究結果および抽出された論点に関して意見を交換した。 そこから得られた知見をもとに、4つの政策実装に向けた視座を提示する。

■政策実装に向けた視座

  1. 政策実装に向けた視座1(論点2について):高齢者向けのわかりやすい情報発信の必要性
    高齢者が接種できるワクチンの存在が知られていないことが課題であることは、行政側の課題認識と一致している。しかしながら、高齢者向けのワクチンに関する情報の発信は、わかりやすさが求められる一方で、行政側からは、わかりやすさを追求した情報発信は実施しづらい。行政側からの発信は、副反応情報をはじめ正確性や科学的正しさが求められるため、結果的に煩雑な資料にならざるを得ない。民間企業、学会、業界団体などによるわかりやすさを重視した、ワクチン種別ごとのパンフレットなどの資料があると使いやすい。それぞれの会社が作成した資料は行政窓口などでの配布が困難であるため、できれば関連する企業が協働し、かつ学会などの協力を得たうえで、わかりやすい資料作成があると活用しやすい。高齢者向けには、紙による配布も効果的である。

  2. 政策実装に向けた視座2(論点3について):副反応情報に関する発信方法の改善の必要性
    ワクチン接種による副反応の確率の低さについて、数値としては情報が発信されているものの、実感として国民に広まっていない点は、行政側の課題認識と一致している。一方で、交通事故やその他の確率論の類似を用いるなど、確率の低さのみに着目して、行政側が発信することは困難であり、視座1と同様に、民間や学会によるイニシアティブが期待される。一方で行政側が発信する情報として、万が一に副反応が起こった際の対処法について明示的に記載することは有用であり可能である。民間や学会によるイニシアティブであっても、対処法が併記された情報発信が望ましい。また、そうした対処法について、行政から積極的にSNSを活用して発信することも期待される。

  3. 政策実装に向けた視座3(論点4について):無関心層へのアプローチの必要性
    高齢者向けのワクチン接種は任意接種が多く、また健康である人を対象としている。そのため、多くの場合、市民の行動は受動的であったり、無関心であることが課題であると、行政側は認識している。特に、ワクチン接種情報を含め、健康について無関心の方へのアプローチが課題だと認識している。健康リテラシーや情報リテラシーがそこまで高くない層に向けて、非常に簡素かつわかりやすい情報発信も必要である。視座1と同様に、民間や学会とともに行政側が協力し、情報発信を進めていくことが期待される。

  4. 政策実装に向けた視座4(論点5について):かかりつけ医との連携の必要性
    かかりつけ医と行政の連携や、かかりつけ医からのワクチン接種についての情報提供が効果的であることは、行政側の課題認識と一致している。現在、日本ではかかりつけ医機能の拡充について政策が進展しており、国や都道府県におけるかかりつけ医機能の拡充に関する施策の検討場面において、高齢者向けワクチン接種について、適切な情報提供が図られるよう訴求していくことが期待される。一方で、行政側では、かかりつけ医機能の拡充について検討する部局と、ワクチン接種を扱う部局は異なる。また、ワクチン接種を所掌している行政機構が、都道府県ではなく市町村であるなど、階層がずれている現状がある。そのため、高齢者ワクチン接種に関する施策が、かかりつけ医機能の拡充に関する施策に反映されづらい構図がある。民間企業や学会、シンクタンクなどを通じて、行政機構が横断的に取り組む必要性を継続的に訴求していくことが期待される。

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