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【お知らせ】「現在と将来の世代の生命を守るため、医療専門家たちが化石燃料不拡散条約を求める」書簡に日本医療政策機構プラネタリーヘルス政策チームも署名(2022年10月18日)

【お知らせ】「現在と将来の世代の生命を守るため、医療専門家たちが化石燃料不拡散条約を求める」書簡に日本医療政策機構プラネタリーヘルス政策チームも署名(2022年10月18日)

日本医療政策機構プラネタリーヘルス政策チームは、2022年10月18日「現在と将来の世代の生命を守るため、医療専門家たちが化石燃料不拡散条約を求める」書簡に署名いたしました。

2022年11月6日~11月18日にエジプトで開催される、気候変動対策を協議する第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)に先立ち、化石燃料の段階的廃止と公正な移行を求めています。保健医療分野を超えた化石燃料からのさまざまな悪影響を認識しつつ、医療政策に携わる団体として、将来の世代だけでなく今の世代にも化石燃焼による健康への被害を防ぐための取り組みが求められます。

この書簡は世界保健機関(WHO: World Health Organization)やグローバル・クライメイト・ヘルス・アライアンス(GCHA: Global Climate and Health Alliance)など約200の保健医療団体が賛同しており、世界各国政府に化石燃料を段階的に廃止する法的拘束力のある計画を立てるよう訴えています。

書簡の日本語訳は日本医療政策機構で作成されたものです。

 


 

現在と将来の世代の生命を守るため、医療専門家たちが化石燃料不拡散条約を求める

 

国際的な科学的コンセンサスは明らかである。現在および将来の世代の健康と生命を守るためには、化石燃料を世界的に迅速かつ公平に段階的に削減し、温暖化が1.5℃を超えないようにすることが必要である。私たち、以下に署名した保健医療専門家および団体は、世界各国政府に対し、化石燃料不拡散条約を策定・実施し、以下のような法的拘束力のある世界計画を打ち立てるよう要請する。

  1. 利用可能な最善の科学に基づき、新規または拡張されたすべての化石燃料の探査、採掘、およびインフラ構築の活動および投資を直ちに停止することにより、あらゆる新規化石燃料インフラおよび生産の拡張を中止する
  2. 地球温暖化防止目標である1.5℃に沿って、既存の化石燃料の生産と使用を公平かつ衡平に段階的に削減する。既存の不公平に対処するため、我々は高所得国に対し、低・中所得国が化石燃料から脱却する際に、資金、技術、その他の支援を提供し、移行が貧困を悪化させるのではなく、貧困を削減することを確保するよう要請する
  3. 真の解決策を迅速に実施し、すべての労働者、コミュニティ、国にとって健全で持続可能な未来を創造するための公正な移行を確保すること。 公正な移行は、先住民族の権利と地域社会の権利を尊重しなければならない


化石燃料不拡散条約(Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty)は、たばこ規制枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control)と同様に、人間の健康に有害であることがよく知られている物質群を規制するための、エビデンスに基づく国際協定となることが期待される。なぜならば、化石燃料に関連する健康リスクが数多く存在しているためである。

化石燃料の燃焼は、人類と地球の健康に深刻な脅威をもたらす。

  • 大気汚染は、化石燃料の燃焼によるものが最も多く、毎年700万人以上の早死を招いている。また、大気汚染は、心血管疾患、呼吸器疾患、癌の原因となっている。気候変動によって激化し、頻発するようになった山火事も、この負担に拍車をかけている。
  • 気候危機は、主に化石燃料の燃焼によって引き起こされ、他の健康上の課題を悪化させ、医療システムを脅かす、重大な健康上の脅威となっている。
  • 温暖化した気候は、食物や水を媒介とする病気の感染や、媒介する病気の蔓延に理想的な条件を生み出し、世界の公衆衛生における数十年の進歩を損なっている。
  • 気候変動は、特に幼い子ども、屋外労働者、運動選手、高齢者において、熱に関連した病気や死亡のリスクを増大させる。
  • 気候変動による干ばつ、洪水、異常気象、海面上昇は、生活を破壊し、水を汚染し、食料安全保障を脅かし、インフラに損害を与え、特に小島や沿岸地域、低地に住む人々は移住を余儀なくされる。
  • 異常気象は世界の医療供給網を混乱させ、医療施設に破滅的な打撃を与え、医療従事者の医療提供能力に深刻な影響を与える。
  • 気候変動は心の健康(メンタルヘルス)に深刻な打撃を与え、特に若者の不安やうつ病を悪化させる。


また、化石燃料の採掘、精製、副産物の製造、輸送、流通、廃棄物処理など、化石燃料事業の各段階に特有の人的・労働的健康リスクが存在する。

  • 石油やガスの採掘が住居に近いと、呼吸器疾患の発生率や出産結果が悪化することが分かっており、他の健康被害とも関連する可能性がある。炭鉱の近くに住むことは、肺疾患や癌のリスクの増加、学校や仕事での数週間の欠席や欠勤と関連している。採掘に関連した光と騒音の汚染、水の使用と汚染、生態系の劣化、生息地、生活、コミュニティの崩壊も健康に悪影響を及ぼす。
  • 石油化学製油所への近さ、および他の化石燃料由来の製品を製造する施設への暴露は、小児喘息や血液学的悪性腫瘍を含む病気のリスク上昇と関連している。
  • 化石燃料の輸送は、流出や爆発の歴史があり、近隣の地域社会や清掃作業員に急性および慢性の健康影響を及ぼしている。
  • 化石燃料の廃棄物には、重金属や有毒化学物質など、健康に影響を与えることが知られている物質が含まれているため、安全な廃棄が課題となっている。
  • 採掘場と製油所で働く労働者は、火災や爆発による負傷だけではなく、重度の呼吸器疾患や悪性度の高い癌など、独自の健康リスクにさらされている。
  • 化石燃料活動の近くにいるコミュニティは、自分たちの土地、生活、健康を守ろうとするときをはじめとして、脅迫や暴力にさらされている。これらの被害の深刻さと規模は、彼らが住む地域との独特なつながりのために、先住民族のコミュニティーの中で増幅されている。


気候変動、大気汚染、採掘・加工現場への近接がもたらす健康リスクと影響は、均等に割り振られているわけではない。それらは、化石燃料の排出に歴史的に最も責任がなく、救済に必要な資源や権限に対するアクセスが最も制限されているコミュニティに最も重くのしかかる。これには、南半球の人々、先住民族、人種やその他の差別を受けている人々、貧困状態にある人々、慢性的な病状を抱えている人々、そして若者たちが含まれる。

化石燃料の使用と採掘を段階的に廃止することは、健康を改善し、健康格差に対処するための機会を提供する。分散型で弾力性があり、安価なカーボンフリーの再生可能エネルギーシステムを通じてエネルギーへのアクセスを拡大することは、健康に恩恵をもたらすとともに、エネルギーの節約と効率を最大化することになる。化石燃料を段階的に廃止すれば、世界中で年間360万人の環境大気汚染による死亡を防ぐことができる。しかし、炭素の回収と貯留のような、健康をほとんど守らず、新たなリスクをもたらす誤った解決策については、同じようなことはあてはまらない。健康を守るためには、再生可能エネルギープロジェクトが新たな健康リスクを生み出さないように配慮しつつ、化石燃料を完全に廃止する必要がある。

保健医療従事者は、命を救うために懸命に働いている。 患者の安全、尊厳、快適さを優先するのは私たちの義務であり、化石燃料の採掘と使用を続けることによってもたらされる深刻な世界的健康リスクについて発言する義務がある。低炭素で持続可能な医療システムを構築するための努力は、国や組織のレベルで進められているが、現在と将来の世代の健康と命を守るために、私たちは集団で排出量を迅速に削減するために多くのことをする必要がある。

世界中の保健医療従事者は、化石燃料のライフサイクルのすべての段階が、人間の健康に対して重大かつ深刻な脅威を与えていることを認識している。私たちは、診療所や病院で、気候変動、化石燃料生産、大気汚染が健康に及ぼす影響に悩む患者や地域社会のために働いており、このことを実感している。現在そして未来の患者やコミュニティの健康を守るために、私たち、保健医療従事者は化石燃料不拡散条約(Fossil Fuel Non-Proliferation Treaty)の制定を求める声に応えなければならないと考えている。

 

本書簡は、保健医療界を代表し、世界保健機関(WHO)、グローバル・クライメイト・ヘルス・アライアンス(GCHA: Global Climate and Health Alliance)、社会的責任医師団(Physicians for Social Responsibility)、ヘルスケア・ウィザウト・ハーム(Healthcare Without Harm)が、WHOの気候健康市民社会ワーキンググループのメンバーからの情報をもとに取りまとめたものである。特定非営利活動法人日本医療政策機構は日本語版のみに責任を負う。

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