【HGPI政策コラム】(No.33)-NCDs(がん個別化医療)チームより-「がん個別化医療」とは
「がん個別化医療」とはどのような医療のことを指すのでしょうか?
1.がんの治療法としては、(1)手術(腫瘍やがんになった臓器を切り取る)、(2)放射線療法(がんに放射線を当てる)、(3)薬物療法(抗がん剤などの薬を使う)という「三大療法」のほか、最近では(4)がん免疫療法(免疫の力を活用する)など、治療の選択肢も増えてきています(下表)。
「がん個別化医療」は、この中でも特に「(3)薬物療法」に関連するものですが、治療対象となっている患者個人のがん細胞を調べた上で、「遺伝子が変異している部分」を予め特定し、その変異した遺伝子や分子に対して特によく働く薬(分子標的薬)を選んで投与していく、というものです。
従来の抗がん剤治療では、多くの場合、臓器別(あるいはがん種別)に、効くことが期待される薬剤を投与しています。これに対し近年注目を集めている「がん個別化医療」は、遺伝子変異部分等に着目して、ターゲットを一段と絞ったかたちで治療を行うことから、がん「個別化」医療と呼ばれています。
2.「がん個別化医療」では、遺伝子変異等の検査が必須となります。
このため、遺伝子検査部分を含めて「がん個別化医療」と呼ぶことが多いです。遺伝子変異等を検査する代表的な方法としては、(1)「がん遺伝子検査(コンパニオン診断)」(ある特定の治療薬が、当該患者のがんに効果があるかどうかを事前に調べるために、一回の検査で、一種ないし数種の遺伝子の変異の有無を調べるもの)と、(2)「がん遺伝子パネル検査(がんゲノム・プロファイリング検査)」(一回の検査で、多数(通常は百種以上)の遺伝子の変異の有無等を調べるもの)とがあります。
3.「がん個別化医療」では、ターゲットを絞って薬剤を投与することから、患者への負担を少なくしつつ、治療成績・奏効率を一段と上げることが出来ており、今後の期待も大きいです。
一方、課題も沢山あります。例えば、(1)検査費・治療費については、かなり高額となりがちです。また、(2)遺伝子検査を実施したからといって、がん個別化医療の対象となるような遺伝子変異等がみつかるとは限りません(その場合には、通常の抗がん剤治療等が選択肢となります)。そして、(3) 全国的にみると、遺伝子検査や治療を行うための専門施設や人材等は必ずしも潤沢ではありません。このほか、(4)遺伝子情報を厳格に管理したり、社会における遺伝子差別等を防止したりするための法令も十分整備されていない状況にあります。
今後、がん個別化医療を一層発展させていくためには、こうした様々な課題を早期に解決していくことが必要です。
【執筆者のご紹介】
- 本多 さやか(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
- 竹本 治(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
- 坂元 晴香(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
調査・提言ランキング
- 【調査報告】メンタルヘルスに関する世論調査(2022年8月12日)
- 【政策提言】腎疾患対策推進プロジェクト2024「労働世代における慢性腎臓病(CKD)対策の強化にむけて」~健診スクリーニング、医療機関受診による早期発見、早期介入の重要性~(2024年10月28日)
- 【調査報告】日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査(最終報告)(2024年11月14日)
- 【政策提言】保健医療分野における気候変動国家戦略(2024年6月26日)
- 【政策提言】肥満症対策推進プロジェクト2023「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策の実装を目指して」(2024年4月8日)
- 【調査報告】「働く女性の健康増進に関する調査2018(最終報告)」
- 【調査報告】「2023年 日本の医療の満足度、および生成AIの医療応用に関する世論調査」(2024年1月11日)
- 【調査報告】「子どもを対象としたメンタルヘルス教育プログラムの構築と効果検証」報告書(2022年6月16日)
- 【調査報告】日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査(速報版)(2024年9月11日)
- 【調査報告】 日本の医師を対象とした気候変動と健康に関する調査(2023年12月3日)
注目の投稿
-
2024-10-28
【申込受付中】(ハイブリッド開催)公開シンポジウム「患者・当事者ニーズに基づく循環器病対策の推進に向けて~第2期循環器病対策推進計画をより実行性のあるものにしていくために~」(2024年11月22日)
-
2024-11-01
【申込受付中】認知症未来共創ハブ 報告会2024 〜活動の軌跡と未来を描く対話〜(2024年12月3日)
-
2024-11-08
【申込受付中】(ハイブリッド開催)肥満症対策推進プロジェクト 公開シンポジウム「社会課題として考える肥満症対策~市民主体の政策実現に向けて~」(2024年12月4日)
-
2024-11-11
【論点整理】専門家会合「少子化時代における持続可能な周産期医療提供体制の確立に向けて」(2024年11月11日)
-
2024-11-14
【調査報告】日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査(最終報告)(2024年11月14日)