【開催報告】メディアブリーフィング:「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査(速報版)」(2021年12月20日)
日本医療政策機構 女性の健康プロジェクトは、「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査(速報版)~妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現を目指して~」の公表に併せ、参議院議員会館にてメディアブリーフィングを開催いたしました。
日本政府は希望出生率1.8の実現に向け、「児童手当の見直しや待機児童の解消」、「若者の雇用環境の改善」、「男性の育児休暇の取得」等、少子化対策として様々な法整備や施策を実施してきましたが、2021年6月に発表された2020年の合計特殊出生率は、1.34と5年連続で低下しています。そこで新たな少子化対策として、不妊治療の助成拡大が実施され、保険適用の対象拡大に向けた議論が進められています。しかしその一方で、これら支援策に対して、妊娠を希望する世代の実態やニーズに合っていないのではないかといった声も少なくありません。本調査では、妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現に向けて、全国の25歳~49歳までの男女10,000名を対象にインターネットでアンケート調査を行い、本メディアブリーフィングにおいて、調査結果をご報告いたしました。
なお、本メディアブリーフィングでは、大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室教授/日本産科婦人科学会理事長 木村正氏より本分野を取り巻く臨床現場における課題や重要な婦人科知識についてご講演いただきました。また、閉会の辞では参議院議員 三原じゅん子氏より、今回の調査で明らかになった社会全体の現状や課題、今後の取り組みへの期待についてご発言いただきました。
引き続き、女性の健康プロジェクトでは、妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現に向けて、社会に必要な政策の選択肢を提示すべく、活動してまいります。
レクチャーでは、以下の項目についてご講演いただきました。
■木村 正氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室教授/日本産科婦人科学会理事長)
月経を取り巻く問題
月経に関して、多くの女性たちにとって月経時の痛みと月経時の量・持続期間の2点が問題となっている。この2つの問題は将来の妊孕性(妊娠する能力)を下げる疾患が背景に存在する可能性がある。
月経痛は、子宮内膜症が背景にあることも多く、治療によりその進行の抑制が期待される。思春期女性の6割~9割が月経痛を自覚している一方で、実際に婦人科を受診する女性はその内15%程度しかいないのが現状である。婦人科未受診の大きな要因が、婦人科受診をした際にその背景にある疾患を診断するために必要な「内診」であるならば、治療的診断を先行させる、保険点数上、画像診断を使いやすくする等の策を講じることも必要である。早期受診が推奨される月経困難症の思春期女性にどのように婦人科的プライマリケアを提供するか、医療体制の在り方を今後検討していく必要がある。
また、月経の量や持続期間について、自身の経血量を測定したり他人と比べたりすることはほとんどない。具体的でイメージのつきやすい米国の問診リスト等を参考にし、当てはまる場合には過多月経の原因となっている子宮筋腫等の器質的疾患の有無を考慮すべきである。そして、器質的疾患がなくとも月経量を減らす方法もあるため、学校教育や企業研修、医療機関、メディア等による適切な情報提供も必要である。
妊娠をめぐる問題
一世代前の「子どもは自然に授かるもの」という考え方から、近年は「子どもは意識してつくるもの」という考え方に変化してきている。それ故に現代日本では子どもをもつことが先送りになっているのが現状である。社会の変化とともに、妊娠に関する知識、特に加齢とともに子どもをもつことが難しくなることを社会全体の共通認識にすることが重要である。
メディアによる情報発信に関する問題
不妊症と診断される確率について、35歳を過ぎると約3割、40歳を過ぎると約7割といったように加齢に伴い妊娠率は低下し、流産率は増加することが統計学上、証明されている。その一方で、メディアがインフルエンサーとなり得る芸能人の高齢妊娠、高齢出産といった珍しい情報を取り上げるケースが少なくないのが現状である。多くの市民・当事者のために、メディアから発信する情報については十分検討した上で正しい情報を発信していくことを期待している。
閉会の辞では、以下項目についてご発言いただきました。
■三原 じゅん子氏(参議院議員)
調査結果から明らかになった社会全体の現状と課題
女性の健康やリプロダクティブヘルス/ライツに関して約7割が、知識がないと回答しており、女性特有の身体の問題に関して女性のみならず社会全体として知識不足であることは喫緊の課題である。また、子どもがいる群と第一子妊活中の群では子宮内膜症の診断や初めての婦人科受診の年齢に差があったことは注目すべき結果である。婦人科受診が病気の早期発見や妊娠に繋がっていると思う。
今後の取り組みへの期待
2021年の7月に私の提案により取り纏められた不妊予防支援パッケージにも含まれている婦人科疾患に関する知識や月経の異常症状や月経前症候群(PMS: Premenstrual Syndrome)に対する対処行動、婦人科受診の目安等の性教育の強化、養護教諭への研修や医療機関との連携体制の構築を推進することが重要である。さらに、初経後に婦人科を受診しやすくする体制整備に向けて、学校機関との連携や日本医療政策機構(HGPI)が主導で運営している助産師へ気軽に相談できるユースカフェ等を通じて医学的な教育、啓発活動を推進していただきたい。
そして、子どもを望む方が、生物学的に加齢とともに妊孕性が低下していくといった正しい情報発信を学校教育のみならず、メディア、企業研修等でも取り組んでいただきたい。エビデンスを積み重ねて説明し続ければ、ご理解していただけるようになる。その結果、子どもをもちたいと思う方たちが子どもをもてる社会になり、自ら望んだライフプランを実現できる、そのような未来が実現することを切に願っている。
【開催概要】
■日時:2021年12月20日(月)13:00-14:30
■場所:参議院議員会館地下1階B107(所在地:東京都千代田区永田町2-1-1)
■主催:特定非営利活動法人 日本医療政策機構(HGPI)
■プログラム(敬称略)
13:00-13:05 冒頭説明
矢野 隆志(日本医療政策機構 アソシエイト)
13:05-13:20 レクチャー
木村 正(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室教授/日本産科婦人科学会理事長)
13:20-13:45 調査結果
今村 優子(日本医療政策機構 マネージャー)
13:45-14:00 質疑応答
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