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【開催報告】第52回特別朝食会「米中競争とヘルスケア産業:経済安全保障の新たなフロンティア」(2023年10月23日)

【開催報告】第52回特別朝食会「米中競争とヘルスケア産業:経済安全保障の新たなフロンティア」(2023年10月23日)

この度、Kurt Tong氏(アジア・グループ マネージング・パートナー)をお招きし、第52回特別朝食会を開催いたしました。

30年にわたる米国国務省での外務官僚及び上級外交官としてのご経験の後現在はアジア・グループでマネージング・パートナーとしての役割を担われているTong氏に、地域安全保障、ヘルスケア及び経済が交錯する日米中間の複雑な地政学的観点からご講演いただきました。

<講演のポイント>

  • 米中両国は、経済的相互依存と軍事的警戒の「疑似冷戦状態」にあり、協力関係が停滞しているが表立った紛争は望んでいない。しかし、気球撃墜事件、米下院議長の台湾訪問や貿易制限により、2023年以降の関係は悪化傾向にあり、来るべき米中首脳会談では台湾問題等踏み込んだ話題が扱われるであろう。
  • 中国への経済的依存度が高い日本は、関税や台湾問題の回避など、米国に比べて慎重に対応している。
  • 密接な対話や経済摩擦の極小化は強固な日米関係の特徴であり、さまざまな課題において協力関係を築いている。
  • 日本の制度では、イノベーションや新規参入を阻害する要因であり、製薬産業の再活性化にむけた改革が必要である。
  • 複雑な地政学的情勢から、米国政府による日本の製薬業界への介入は限定的である。また中国の製薬業界では、貿易制限、不公正競争、データの流れなどが課題である。


「悪くも安定した」米中関係

米中間には、経済的な相互依存がありながらも軍事的に警戒しあう、「疑似冷戦」の状況にある。両国とも表立った紛争は望まないものの、協力関係は停滞している。米国の戦略は中国の孤立化による成長の抑制を期待する一方で、中国は米国の政党の内紛などの影響が米国の衰退につながると予測している。日本の外交方針である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP: Free and Open Indo-Pacific)」は、ルールに基づいた国際秩序を確立し、中国に同意させるねらいがある。このようなアプローチはアップルやテスラが中国の製造業に依存している緊密な貿易関係、南シナ海における米中の軍事演習、米国の関税や技術輸出規制とそれに対抗する中国の報復関税や反米プロパガンダなどにも見て取れる。

 

米中関係改善の機会

2023年前半は、気球撃墜事件やNancy Pelosi米下院議長の台湾訪問により、米中関係が悪化した。この関係修復には2023年11月に予定されている米中首脳会談の場が期待されている。米国における気球撃墜事件は、中国が米国の防衛関係企業に対して制裁を科したことでさらに関係は悪化した。アジア太平洋経済協力(APEC: Asia Pacific Economic Cooperation)首脳会談では、経済問題、気候変動、台湾問題が焦点となるが、特に中国に領有権を主張されながらも自治権を持つ台湾が、潜在的に軍事統一の脅威に直面している問題に重点を置くと考える。

 

米日関係における対中姿勢の乖離

米国に比べ、日本は中国への経済依存度が高いため、より慎重な姿勢を崩さない。これは、貿易の20%を中国に依存し、米国の対中関税賦課に同調しない姿勢からも明確である。日本の対中国政策の一貫性は、米国の政権交代に伴う政策転換と対照的であり、また、日本と中国は台湾と地理的に近接していることから、台湾問題から派生する対立には特段配慮をしている。このほか、米国が台湾付近に空母を派遣したものの、日本は静観している点も、対照的といえる。

 

外圧の中での米日関係の強化

卓越したコミュニケーションと最小限の経済摩擦が、日米関係の特徴である。定期的な首脳会談や閣僚級会談は、コミュニケーションをより強固なものとし、二国間の貿易協定は多品目における関税を引き下げ、経済摩擦を最小限にとどめている。こうした強力な関係は、中国、ロシア、中東を含む様々な課題解決に協力し合い、また中国のインド太平洋地域における影響力にも共同して対処することを例証している。

 

 

アジア・グループ(TAG: The Asia Group)の日本の製薬政策に関する白書

アジア・グループの日本の製薬政策に関する白書は、重要課題を挙げつつ、製薬産業の再活性化のための方策を提言している。また、日本の医療提供側の医療効率化および個人の予防に対するインセンティブが小さいと言われる出来高払い(Fee for Service)の支払い方式や社会保障制度は、薬価の抑制に重点を置く一方で、イノベーションや投資の抑制につながっている。これは「加算係数ゼロ」ルール及び新薬創出加算も然り、新規参入や外資の進出にとっても一層障壁となり、新薬へのアクセスに支障をきたしている。本白書は、日本政府に対し、イノベーションや新規参入を促進し患者の利益に寄与するよう、「直ぐに実を結ぶ取り組み(Low-Hanging Fruit)」として政策の撤廃を求めている。

日中両国間の地政学的情勢は複雑であり、米国政府の介入余地は限られるものの、本白書では米国の製薬業界ないしアカデミアによる支援も提言している。しかし、貿易制限、不公正な競争、データの流れといった問題により、中国の製薬業界においても困難が増すと考えられる。いずれにせよ、本白書は、より広範な地政学的状況と製薬産業への影響を鑑み、日本の製薬業界をより活力ある革新的なものとするため、焦点を絞った政策改革を求めるものである。

(写真:井澤 一憲)


■プロフィール

Kurt Tong(アジア・グループ マネージング・パートナー)
Kurt Tong氏は、アジア・グループのマネージング・パートナー兼エグゼクティブ・コミッティのメンバーであり、日本、中国、香港、東アジア地域の政策に焦点を当てたコンサルティング・チームを率いている。また、同社の革新的なソート・リーダーシップ・プログラムも主導している。東アジアにおける外交・経済問題の第一人者である Tong氏は、外務官僚及び上級外交官として国務省で 30 年の経験を積んでいる。

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