【開催報告】慢性疾患対策推進プロジェクト「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けて」アドバイザリーボード会合(2022年9月22日)
※アドバイザリーボード会合の論点整理を公開しました。(2022年12月26日)
日本医療政策機構 慢性疾患対策推進プロジェクトでは、2022年9月22日にアドバイザリーボード会合「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けて」をオンライン形式にて開催いたしました。
当機構慢性疾患対策推進プロジェクトでは、2022年度の活動の一つとして、「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けて」を実施しています。
生活習慣の変化や都市化などの複合的要素を背景とし、サイレントパンデミックとも称されて久しい肥満症をはじめとした慢性疾患、非感染性疾患(NCDs)が増加しています。このような時代的要請を受けて、我が国においても、糖尿病、脳卒中や循環器病対策といった疾患ごとの対策が進められてきました。多くの慢性疾患の要因となりえる肥満症についても、2008年から各医療保険者に「特定健康診査」及び「特定保健指導」の実施が義務付けられ、慢性疾患の重症化を予防する施策が進展してきました。いわゆる「メタボ健診」であり、メタボリックシンドロームという専門用語がひろく一般社会に浸透しました。肥満のもたらす健康被害について、市民の健康意識の改善が図られた点においても、シンボリックな政策的パラダイムシフトだったと言えます。
肥満症に関する研究も進展しており、世界で4億4400万人、日本でも200万人から300万人程度の患者数がいるとされる、慢性進行性肝疾患のひとつである非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と肥満症の関係も明らかになっています。これらの肥満症を遠因とする各種疾患は、患者・当事者の生活の質(QOL)を長期にわたり阻害するものも多く、早期発見や早期治療が重要となります。
肥満症対策においては、食生活や運動など生活習慣の改善が重要であり、生活者ひとりひとりのセルフマネジメントが求められます。また、「健康の社会的要因(SDH: Social Determinants of Health)」と呼ばれる、所得や生活環境と健康の相関関係も明らかになっており、所得格差や教育格差が健康格差につながらないよう、社会全体としての健康増進の取り組みも求められています。
一方で、肥満症は遺伝的要素があり、まったく同じ食生活や生活環境であっても、肥満症を発生する可能性は個人によって異なる可能性があります。すなわち肥満症は、生活習慣や生活環境のみに起因するわけではないため、「肥満は個人や地域の責任」とするような自己責任論のみでは、個人の健康や尊厳が保護されない危険があります。先進諸国においても、行き過ぎた自己責任論を回避する意味でも、「生活習慣病(Lifestyle Disease)」という名称を取りやめる状況も出始めています。非薬物的介入を基礎としつつも、必要な当事者には必要な医療的介入や薬物的介入を適切に提供していく体制が求められています。
そこで本プロジェクトでは、個別化する医療提供ニーズ、健康の社会的要因、慢性疾患のセルフマネジメントといった、現代の医療政策上の多くの重要課題を内包する肥満症を取り上げ、今後必要となる施策について、提言活動を行います。慢性疾患という現代的課題の過度な「医療化」を避けつつも、適切な医療や治療が必要な当事者に届く社会を目指していきます。
今回のアドバイザリーボード会合では、肥満症施策の推進に当たっての課題の整理や想定される打ち手について、医療介入ニーズの整理、社会的支援の整備、個人のライフスタイルの改善、研究の促進といった論点について産官学民のマルチステークホルダーを交えて議論を行いました。
■アドバイザリーボード・メンバー(敬称略・五十音順)
- 阿真 京子(子どもと医療プロジェクト 代表)
- 小熊 祐子(慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 准教授)
- 黒瀨 巌(日本医師会 常任理事)
- 近藤 尚己(京都大学大学院 医学研究科 教授)
- 龍野 一郎(日本肥満症治療学会 理事長/千葉県立保健医療大学 学長)
- 津金 昌一郎(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所/所長)
- 横手 幸太郎(日本肥満学会 理事長/千葉大学医学部附属病院長)
■オブザーバー
厚生労働省 健康局 健康課
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