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【開催報告】第91回HGPIセミナー「女性活躍推進の基盤となる健康政策~女性や若者が直面している困難の解消を目指して~」(2020年12月17日)

【開催報告】第91回HGPIセミナー「女性活躍推進の基盤となる健康政策~女性や若者が直面している困難の解消を目指して~」(2020年12月17日)

今回のHGPIセミナーでは、女性クリニックWe! TOYAMA代表・産婦人科医、富山県議会議員を務める種部恭子氏をお迎えし、女性活躍を推し進めていくための健康政策という観点から、女性の身体について知っておくべき知識や女性の健康と女性を取り巻く社会環境の関係性についてお話しいただきました。

<講演のポイント>

  • 女性活躍の推進と女性の健康支援はパッケージで進めていくべきである
  • 女性がライフステージによって抱える様々な健康課題に対して、幼少期や思春期から正しい情報を学び、成熟期、老年期までつなげて考え、行動することのできるライフコースアプローチ[1]が重要である
  • 現在の日本の性教育では、女性が充実したライフプランを立てるために必要な妊孕性や個人の尊厳に関わるドメスティック・バイオレンス(DV: Domestic Violence)の回避に関する内容が不足しているため、性教育の在り方や教育内容の見直しが求められる

■日本女性を取り巻く社会の現状
日本では、今後加速していく人口減少を見据え、国全体の労働力の量的確保を図るという目的のもと、潜在していた女性労働力の積極的な活用が進められている。これまで日本女性の労働力率は、妊娠、出産、子育ての時期に低下するM字カーブが象徴的であった。一方、スウェーデンといった北欧諸国では女性の労働力率が非常に高く、妊娠、出産、子育ての時期にも下がらず高く維持されている。これらの先進事例をもとに、日本においても女性の労働力率の向上を目指し、男女共同参画に関する政策が進められている。また労働力の量的確保に併せて、国全体の生産性を高めるために労働力の質の向上も必要である。女性の活躍推進によって、これまで男性中心に作られてきた社会の中で見出されてこなかった新しい分野に女性が着目し、女性の視点で様々なイノベーションを起こすことができる。そのためには多くの女性が意思決定の場に参加することが労働力の質の向上、さらには日本の将来の切り札となるだろう。

既に福井県や富山県といったいくつかの県では、女性の労働力率のM字カーブが解消され、北欧諸国と同等の高い労働力率を示す。しかしながら、このような女性の労働力率の高い地域において女性活躍が進んでいるかというと、管理職などの意思決定が下される場に女性が十分に参加しているとは言えないのが現状である。例えば、北陸地方における企業の管理職の女性比率や県議会議員の女性比率、さらには自治会長の女性比率は非常に低い。女性の就業率は高いが、固定的性別役割分担意識[2]が非常に強いため、女性たちは仕事も家庭のことも地域のことも全て行い、全ての役割を担いながらも、意思決定の場には参加できていない。また、日本女性の睡眠時間はOECD加盟国の中で最も短いことが示されている[3]。女性に多くの役割が集中していることにより、女性たちが自分自身の健康を犠牲にしながら生活しているということが示唆される。女性たちが何かを犠牲にしたり、何かを諦めたりすることなく活躍できる社会でなければ本当の意味での女性の活躍推進とは言えない。

さらに、これから社会で活躍していく女性新入社員の昇進意欲について、2011年頃までは増加傾向にあったが、近年は低下し、その一方で管理職につきたくないという人は増加している。その理由の1つとして、女性はキャリア形成の時期と妊孕性[4]が高い時期が重なるため、キャリアアップか子どもを持つことでのトレードオフを迫られてしまうということが挙げられる。加えて、結婚してから子どもを産むという概念が定着している日本では、結婚したら子どもを持つべきという世間の圧力から逃れるためにそもそも結婚をしない、または先送りにする女性も増えてきており、未婚率の上昇につながっている。このような状況を改善するために、女性たちが自分のライフプランを自分で選ぶことができるように、女性の健康に関する知識を知る機会を提供することも女性活躍の推進には必要であり、女性活躍の推進と女性の健康支援はパッケージで行う必要がある。

■女性の健康課題に対するライフコースアプローチの重要性
下記に示す通り、女性は、①女性に特徴的な健康課題②社会的決定要因に起因する健康課題③リプロダクティブヘルス[5]に関する健康課題といった様々な要因による健康課題を抱えるリスクを持っており、さらにライフステージによっても抱える健康課題は大きく異なる。そのため、女性が様々な病気やリスクを幼少期や思春期から成熟期、老年期まで一連の流れで考え、予防行動につなげることができるように包括的にサポートするライフコースアプローチが重要である。

①女性に特徴的な健康課題
女性にとって、毎月の月経周期に伴う女性ホルモンの変動は心身の状態に大きな影響を及ぼす。さらに、女性ホルモンが原因となって起こる月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫といった疾病にかかるリスクもある。このように女性ホルモンは思春期から性成熟期の女性の心身に様々な影響を及ぼすが、女性ホルモンが急激に低下する更年期、さらに閉経後によって女性ホルモンがなくなる老年期には、更年期障害や骨粗鬆症や認知症・フレイル[6]といった新たな健康課題も出てくる。

②社会的決定要因に起因する健康課題
過度なダイエットによって、栄養状態が非常に悪く、痩せの若い女性が多いことが指摘されている。この年代で低栄養の状態になると、将来、年をとってから健康状態を損ねる。特にロコモティブシンドローム(ロコモ)[7]やフレイルという状態になってしまう。また、男性と比べ女性のほうがうつや依存症の発症リスクが高いといったデータもある。特に、月経前、産後、更年期といった身体的・精神的にも弱っている「弱り目」の状態のときに、DVやハラスメント、虐待、貧困、孤立など負荷の大きなストレスがかかってくると、月経前気分障害、更年期障害、マタニティ・ブルーズといった症状が出てくる。この段階で医療にかかることができると症状を抑えられる可能性が高まるが、この時期に適切な支援を受けることができないと抑うつ状態、産後うつといった重症化してしまうケースもある。

③リプロダクティブヘルスに関する健康課題
性感染症は女性のほうが一般に重症化しやすく、不妊の原因となったり、出産時のリスクにつながったりとリプロダクティブヘルスに大きく影響する。さらに、ヒトパピローマウイルス(HPV: Human Papilloma Virus)が原因である子宮頸がんについては、安全、安心な妊娠、出産、育児に大きく関わる。HPV感染が原因で、結果的に妊娠、出産を断念する女性や、出産、育児に大きな不安を抱える夫婦が少なくない。ちょうどこの妊孕性の高い時期にかかりやすい疾患についての予防政策は重要である。

 

■現代女性のライフスタイルの変化に伴う健康課題
女性の生き方はこの30年で大きく変化している。30年前頃の女性に比べ、現代の女性は初経の時期が早く、初産の時期は遅い、さらに生涯における出産回数が減少したため、結果として生涯の月経回数が格段に増加した。これによって子宮内膜症といった婦人科系の疾患が現代の女性の間で増加している。子宮内膜症は月経痛や性交痛を引き起こすだけでなく、不妊やがん化のリスクにもつながる。さらに、子宮内膜症は妊孕性が下がる時期も早めるため、子どもを産む場合はライフプランを前倒しで考えなくてはいけない。

現代の女性の月経回数の増加は、職場でのパフォーマンスにも影響を与えることも少なくないが、低用量ピルをうまく活用することでパフォーマンスの低下を防ぐこともできる。ピルを内服することによって月経痛の原因となる子宮内膜が薄くなり、月経痛の軽減や経血量の減少といったメリットもあり、結果的に生活の質の向上につながるなどとても利益の多いものである。しかし、世界の国々と比べるとまだ日本ではピルの普及率は低く、情報が行き届いていないことも事実である。このような知識は中学や高等学校の授業で学んだとしても実感が湧かず覚えている人も少ないため、これから仕事を始めキャリアを積んでいこうと考えている人々に対しても教育の機会を提供していくべきである。

 

■日本の性教育で欠如している内容
日本の性教育では、主に避妊や予期せぬ妊娠、性感染症について取り上げており、ライフプランを立てるにあたって特に必要となる①妊孕性②DVの回避に関する情報提供がほとんどなされていない。

①妊孕性について
加齢によって妊孕性は大きく変化する。排卵があり、通常通り月経があっても37歳を過ぎると急激に卵子の数と質が低下し、妊娠しにくくなる。現代では不妊治療をするカップルが増えているが、不妊治療は通院回数が多く、働きながらの通院時間の確保や日程調整は難しく、精神的な面からも仕事との両立には困難が伴う。ライフプランを現実的に考えるためにはキャリアプランと合わせて妊孕性についての知識も不可欠である。

②DVの回避について
DVは配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあったものからの暴力のことを指し、身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的暴力も含む。特に、精神的暴力や性的暴力は目に見えづらく、加害者も被害者も何が暴力に該当するのか定義を知らないことも多い。例えば、避妊に協力しないといったことは性的暴力に入り、無視する、大声で怒鳴る、メールなどをチェックするといったことは精神的暴力に入る。一度、カップルや夫婦間で支配構造ができてしまうとそれらの暴力から逃げることは困難となる。そのため、交際中のカップル間に起こるDV(デートDV)の段階でDVを回避し、暴力から抜け出せない状況を防ぐことが重要である。

 

これら妊孕性やDVに関する知識は、異性との交際を経験し、結婚や出産、さらにはキャリアとの両立といったライフプランを立てていく上でとても重要かつ必要不可欠である。今後は「性から目を背ける」、「性を禁止項目にする」といった日本の性教育の在り方や教育内容を見直し、女性が充実したライフプランを立てる上で必要な知識を学ぶことのできる教育が求められている。

 

[1] 病気やリスクの予防を胎児期・幼少期から成熟期、老年期までつなげて考えアプローチしていくというもの
[2] 男性、女性という性別を理由として役割を固定的に分けること。例えば、「男は仕事・女は家庭」、「男は主要な業務・女は補助的業務」など固定的な考え方により、男性、女性の役割を決めていること。
[3] 出典:OECD Gender Data Portal: https://www.oecd.org/gender/data/OECD_1564_TUSupdatePortal.xlsx(アクセス日時:2021年1月21日)
[4] 妊娠しやすさ
[5] 性と生殖に関する健康
[6] 筋肉や関節の弱化
[7] 運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態のこと

 


プロフィール

種部 恭子 氏(女性クリニックWe! TOYAMA代表/富山県議会議員)
1990年富山医科薬科大学医学部卒、1998年富山医科薬科大学大学院医学研究科修了。富山医科薬科大学医学部附属病院、愛育病院産婦人科などを経て、2006年より女性クリニックWe富山院長、2019年から同クリニック代表を務める。医療だけでは解決できなかった社会問題に向き合うため2019年4月統一地方選挙に出馬し、富山県議会議員となる。主な役職は次の通り。内閣府男女共同参画会議重点方針専門調査会委員等、公益社団法人富山県医師会常任理事、公益社団法人日本産婦人科医会常務理事、公益社団法人日本産科婦人科学公益事業推進委員会副委員長、公益社団法人日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会委員、富山県産婦人科医会理事など。


【開催報告】第90回HGPIセミナー「日本における予防接種の在り方と予防接種推進専門協議会の取り組みについて」(2020年11月20日)>

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