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【開催報告】第7回超党派国会議員向け医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線:日本における予防接種・ワクチン政策の課題とコロナ禍」(2021年6月8日)

【開催報告】第7回超党派国会議員向け医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線:日本における予防接種・ワクチン政策の課題とコロナ禍」(2021年6月8日)

日本医療政策機構は、参議院議員会館にて第7回医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線」「日本における予防接種・ワクチン政策の課題とコロナ禍」を開催いたしました。

本勉強会では、氏家無限氏(国立国際医療研究センター予防接種支援センター長)が講演を行い、社会におけるワクチンの特性やワクチンの活用に必要なことについてお話いただきました。講演後にはご参加いただいた国会議員の方々より多くのご質問をいただき、活発な意見交換の場となりました。

今回の「30分で伝える医療政策最前線」では、これまでの予防接種・ワクチンの特性、日本における政策の変遷や課題ついてより多くの国会議員に知っていただくことを目的として開催いたしました。


講演のポイント

  • ワクチンは最も費用対効果の高いツールである
  • ワクチンのベネフィットとリスクは知識で理解する必要がある
  • ワクチンの活用から実際の活用に至るまで長期的視点で科学的知見に基づき、政治的優先事項を明確にした平常時からの支援が必要

 

【プログラム】

趣旨説明:
菅原 丈二(日本医療政策機構 マネージャー)

開会の辞:
古屋 範子(衆議院議員)

講演「日本における予防接種・ワクチン政策の課題とコロナ禍」
氏家 無限
(国立国際医療研究センター 予防接種支援センター長)

閉会の辞:
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)

質疑応答

 

講演概要

ワクチンの特性

20世紀においてワクチンは医学・公衆衛生において最も偉大な発明であると言われている。感染症が問題になっていた20世紀当初、ワクチンが開発されることによって感染症罹患数が大幅に減少した。また、ワクチンを打った人が病気にかからないだけでなく、子どもが学校を休まないため、学習効果が向上し、家族の負担軽減、医療費の節約から社会的な生産性が向上するため、費用対効果の高い政策である。公共インフラ、学校教育、地域医療従事者への投資と比べても予防接種は最も高い費用対効果がある(40兆円の節約。一人600万円の投資になる)。

ワクチンの特徴として、ワクチンで予防できた疾患は自覚できないため、予防接種による効果は科学的に評価して、知識として理解する必要がある。一方で、ワクチンは健康な人に介入を行うため、接種後に生じた健康被害について、それが実際ワクチンと関連がないものでも、ワクチンによるものと疑われるケースが多い。そのため、ワクチンの介入によって起きた問題は表出されやすい傾向にある。

現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に多くの人が罹患し、亡くなっている状況で、ワクチンに対して高い関心が集まっている。このようなことは過去の政策からも、同様のことが言える。予防接種法が1948年に制定され、当時は多くの感染症が蔓延している中で、公衆衛生対策として罰則付きの義務接種という形で12の疾患を規定した。しかし、ワクチンによる感染症が減ると、ワクチンに対する効果が見えづらく、有害事象への批判が大きくなった。そのため、段々と罰則がなくなり、努力義務となり、保障を手厚くする等にシフトチェンジしていくような流れになった。このように、ワクチン政策が進めば進むほど、ワクチンのメリットが享受しづらくなくなる、というワクチンの特徴がある。


ワクチンの活用に必要なこと

ワクチンは開発、製造、体制整備、接種、記録・評価のサイクルで運用している。ここで問題なのが、ワクチンに対する社会の需要度になる。もともと日本はワクチンに対する信頼度が低いということが何年も前から指摘されている。現在、COVID-19が流行している中でも、家族や友人にワクチンを打って欲しいと回答する人が15カ国中最下位であった(47%程度)。このような結果は、ワクチン政策に大きな影響を与えていると考えられる。

1989年にMMR(麻疹、風疹、ムンプスの3種混合ワクチン)を1歳になった際に接種するという政策を始めたが、ムンプスによる無菌性髄膜炎が想定以上に発症し、ワクチンに対する批判が非常に高まった。また、同時に製作していた製薬会社の薬事法違反等もあり、このワクチンの使用は実質的に停止した。37カ国の経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)中、予防接種にMMRを使用していないという国は日本のみである。現在、ムンプスは世界的に非常に稀な感染症となっているが、日本では毎年のように推計数十万人の患者が出て、数百人のムンプス性の難聴のような合併症も生じている。こういった現状が放置されている状況でも、やらなかった予防接種で防げる健康問題は認知されにくい。したがって、やっていなかったことに対し責任を取るということを、社会全体で合意を取らないと予防接種の政策が進まないという問題がある。

ワクチン開発の投資に関しては、今回、日本は大きな開発投資金額を出している。しかしながら、投資してからすぐにワクチンが開発できるわけではない。海外と比較しても、日頃からワクチンに対する社会的なアプローチに差があり、このことが開発の遅れの一因と考えられる。また、一部の国と比べて、実際にワクチンを使用するまでに時間がかかったのは、日本においては緊急事態であっても安全性をより重視し、国内での治験を終了するまで薬事承認をしない方針が影響している。こういった緊急時の規制のあり方も、国をあげて必要時には企業と連携し、どう必要な医薬品の開発に携わっていくのか、今後議論されていく必要がある。

先日閣議決定で、ワクチン開発、生産体制に関する強化提言が行われたが、これまでの提言を含め、ワクチンを有効活用するための仕組みがどうして社会でうまく回らないのか、長期的な展望と社会的な忍容性といった部分も含めて、広くワクチンの発展にアプローチしていくことが必要ではないかと考えている。

 


国会議員との質疑応答

Q1

発表の最後で社会における(薬剤の忍容性(認容性))も高めていかなければならないとのことだったが、これは政治にも一定の責任を果たす必要があると思う。追加接種は科学的に必要と見込まれるが、そうなっていくためにも、現在ワクチンを接種している方について、接種したら終わりという状況で何とか接種をこなそうとしているのが現状だと思う。一方で接種した方の情報を管理する仕組みができていないが、その後追い(トレース)の必要性についてはどう考えていけば良いか。既往歴も含めて接種後どのように過ごされているかということを管理していかなければいけないと思うが、国の体制は全く整っていない。こちらについて、医学的見地からどう評価するかを教えていただきたい。

A1

ご指摘のように、新型コロナウイルスのワクチンはまだ広く使用され始めてから半年程度のため、ワクチンの長期的な安全性及び有効性についてはデータがまだないのが実際である。現在の評価では、ワクチンによる抗体という免疫は、半年くらいまでは問題ないが、漸減しており、恐らく数年のうちに低下するだろうという予測されている。これは他の疾患でも同様の傾向を示す。記憶免疫や細胞性免疫の効果で重症化の予防は恐らくより長く続くので、抗体が下がったから必ずしも皆が感染するようになるわけではないが、現在のインフルエンザワクチンのように、ワクチンを打った人は重症化しにくくなるが、発症する人は一定程度出てくるということが想定される。現在ファイザーとモデルナが昨年12月に接種したワクチンを今年の9月に追加接種できるような追加接種の臨床治験を実施しているところであるが、安全性と有効性の医学的見地からの追加接種の必要性については、まだ結論が出ていない。そのため、1年経過した際に、打ったほうが良いのか、2年後、3年後で良いのかはこれから技術的・科学的に議論が進んでいくと考えられる。

ご指摘いただいた日本における接種者と疾患の感染者などをフォローする情報システムについては内閣官房IT総合戦略室が中心に立ち上げた接種記録システム(VRS: Vaccination Record System)というものがあり、接種を受けた人は必ず予防接種法の臨時接種の枠に基づいて市区町村で管理できる体制になっている。市区町村の予防接種台帳の代わりにVRSというシステムで管理することになっており、一応、各市区町村は誰がいつどのワクチンを打ったのかは管理できている。ただ一方で、誰がいつ疾患に罹患したのかの情報までは連結されていないので、このような情報が一律でわかれば、ワクチンや疾患の評価がしやすいということは以前から指摘されていることである。しかし、個人情報保護や市区町村を超えての情報共有の仕方などの観点から、慎重に議論が進められており、活用までにいたっていない。ワクチンを接種したかしていないのかといった情報については、公表することによって不利益を被るものではないと考えられるため、広く活用されることによって得られる生産性も大きいと考えられる。ワクチンの是認と同時に、科学技術やシステムの活用というところは日本政府への信頼や科学的な考え方の態度の構築が、間接的にかかわっている部分でもあると考えられる。このような社会情勢は一朝一夕には進みにくく、科学的な見地からの失敗や問題点等についても情報発信を行い、時間をかけて広く議論しながら、徐々に社会全体の理解度を高めていくアプローチが必要なのではないかと考えている。

 

Q2

ファイザーのワクチンは16歳以上から12歳以上になったこと、そして温度管理も緩和されたことにより個別接種が進むということで、現場での受け止めは医療従事者の先生方からある一方で、子宮頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(HPV: Human papillomavirus)に対するHPVワクチンでもそうであるが、ご両親の理解が進まない場合、どのように広めていけばよいのか見解を教えていただきたい。

A2

高齢者と比べて、若年者は重症化のリスクが低いことが、なかなか接種が進まない要因の一つである。アメリカでは、新型コロナウイルス感染症で若年者が入院することは稀であるが、入院した人のうち約1/3は集中治療室(ICU: Intensive Care Unit)に行き[1]、中には亡くなる方もいる。また、新型コロナウイルス感染症で入院するリスクは、インフルエンザの2〜3倍も高く[2]、社会全体で予防措置をとることによる公衆衛生的有益性が大きいことを科学的に示し、アナウンスしている。こういったアプローチも日本で参考にできるのではないか。

アメリカを皮切りに12歳に接種対象下限を下げた接種が始まっている。これまで安全性を確実に評価するために、新型コロナワクチン接種の前後で他のワクチンとの接種間隔を2週間以上開けていたが、米国では定期接種の妨げとならないように他のワクチンとの接種間隔との規定はなくなっている。新型コロナワクチンと他のワクチンの接種間隔が近いことで安全性や有効性の観点で干渉するという知見はないので、予防接種をより推進するためには、日本でもワクチンの間隔をなくすことは議論できるのではないか、ということが挙げられる。

 

Q3

子どもたちについて、秋から冬にかけて呼吸器感染症が増える傾向にあり、インフルエンザとのワクチンとの同時接種が可能なのか否かについて小児科の打ち手側は非常に重視している。一人に対して一回の来院で2種同時接種というのは、技術的にどうなのか。

また、人種差に関して、ファイザーとモデルナにおいて小児の心筋症の発症の報告があるが、一方欧米では小児が感染した場合川崎病様の症状があるということでワクチン接種を呼びかけている。日本の小児が接種する際に、欧米のエビデンスをそのまま適用するのか否か。学校での集団接種をする、しないという話もあるが、この辺りの事をまず医学界は整理する必要があるのではないか、その上で保護者が安心できるメッセージの発信の仕方があるのではないか。

A3

昨シーズンは社会全体が感染症対策にあたったことで、インフルエンザの流行もほとんどない、と言っても過言ではないような状態ではあった。一方で、感染症が流行らず、免疫が上がる機会を失った事で、今のような対策をやめた後に、その影響が出てくるのではないかという事を危惧している専門家もいる。そのため、コロナが落ち着いた後も手洗いや咳エチケット等の基本的な感染症対策は今後も継続的に行う必要があると考えている。同時接種についても非常に重要な問題である。ワクチンのために何度も病院に行くのは手間であり、時間や費用の観点からも社会的損失の蓄積は大きい。同時接種に関しては、一部の他の弱毒生ワクチンの例では、同時接種する事で有効性が低下することが示唆される知見もあるが、新型コロナワクチンに関しては理論上、同時接種による問題はないと考えられる。しかし、データが無い中では、本当に大丈夫か確認ができないので、今の時点では避けている状態。今後、同時接種の評価結果も報告され、メリットとデメリットのバランスを考えて進めていく事になる。また、インフルエンザ等の普段から接種を行っているワクチンとの同時接種が可能となれば、お互いの接種率を高めることもできるので、非常に重要な観点となる。

また、若年者における心筋炎の発症について、非常に稀ではあるが、イスラエルではmRNAワクチンとの関連性を保健省が発表しており、それを欧米も評価している。現時点の結論としては、心筋症の発症は非常に稀であり、自然感染した場合もご指摘のような多系統炎症性症候群や心筋炎等の炎症性の合併症が生じることが知られており、理論上接種しなかったことのリスクの方が大きいと考えている。こうした発症率には地域差もあるかと思うが、サーベイランスに基づく定量的な評価によって、接種の適応に関する社会的なコンセンサスをとって対策を進めていく必要がある。

 

Q4

すでにワクチンは開発されているが、日本製のワクチンが待たれていると思う。国産ワクチンの開発に際して、現在既に海外産ワクチンがある中で、ワクチンのプラセボについて調べるためにランダム化比較試験等を行うにあたり、中々協力が得られずやりづらさが出てくるのではないか。また、母親というものは赤ん坊に対し何もしたく無いという心理が働き、ワクチンのみならず、薬に対しても抵抗がある。そして、マスコミの影響力も多大なものがあり、政治がその必要性をいくら訴えたところで、マスコミの報道のあり方ひとつで推進が難しくなる。つまり、日本では欧米とは違い政治がリーダーシップを発揮しづらい現状にある。このような問題に、どのような手を持って対向していくべきか。

A4

ご指摘の通り、ワクチンが普及してきたことで、検査や治療法などについてその妥当性を評価するための科学的な根拠(エビデンス)が最も高いと考えられているランダム化比較試験が難しい状況となりつつある。既に欧米での実施が困難であるため、グローバル大手の製薬企業は、現在も接種率が高くない南米や南アジアでの大規模な臨床研究を実施している例もある。純粋な形での大規模なランダム化比較試験というのはもう時期的には最後の段階というところまできているだろうと思う。そのため、現時点で大規模なランダム化比較試験実施できていない日本の製薬企業は将来的にかなり不利な状況になることは危惧される。また、免疫原性の評価では、非常に成績の良いファイザー等のメッセンジャーRNAワクチンに対し、非劣勢を示すのは難しいかもしれない。イギリスでは、少人数でも効率よく医薬品を評価するために、チャレンジ試験として感染試験を行った事例も出てきている。倫理的な面での議論必要だが、代替となる評価方法の検討を進めていく必要がある。

また、自分には許容できても、母親は子どもに対して等、副反応等の影響の生じうる薬やワクチンをできるだけ投与したくないと考える傾向はあるだろうと思う。HPVワクチンでは、高学歴な女性がワクチンに対する抵抗を示す傾向が示されている。この点について、ワクチンが自然なものではないという感情が関与しているとも考えられているが、あくまでワクチン自体は余分なものではなく体の仕組みを使って免疫を誘導し、病気から身を守るための贈り物であるとの発想の転換を広く広めていくことが対処のひとつとなる。

マスコミ、医療従事者、政治家は非常に大事なステークホルダーである。マスコミの中には、科学的な事実や社会的な利益を優先するのではなく、関心を集めるということが主目的になっている場合もあるように思う。過去にアメリカのディズニーランドで麻疹が流行った時に、ワクチンの有効性を疑問視する医師の意見に、マスコミが乗っかるのではなく、その医師を批判するという対応をとった。そして実際にカリフォルニアの医師会が裁判にてその医者の医師免許を停止する動きに繋がった、という事例もある。日本でも、社会全体でのリテラシー、倫理観を見直し、正しい情報を社会に広めるという目的の下で進めていく必要があり、そうした対応に近道はないと考える。健康問題に関わる政治家や医療従事者等によるコミュニケーション等、それぞれのステークホルダーができることから行い地道に活動していく必要があると考える。

 

[1] https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6932e3.htm
[2] https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7023e1.htm?s_cid=mm7023e1_w


ワクチンプロジェクトの概要

日本医療政策機構では2020年度より予防接種・ワクチン政策推進プロジェクトを開始しました。初年度は国内における予防接種・ワクチン政策の現状や問題点を洗い出すことを目的として、アドバイザリーボードを立ち上げ、国内の産官学民の有識者と共に議論を重ねてまいりました。また、2020年12月にはグローバル専門家会合を開催し、アドバイザリーボードメンバーだけでなく海外の有識者を交えて議論を行いました。これらの議論において提示された論点を抽出し、政策提言「ライフコースアプローチに基づいた予防接種・ワクチン政策」5つの視点と具体策を公表しました。

 


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