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【開催報告】第83回定例朝食会「2020年の新たなビジョン」(2020年1月17日)

【開催報告】第83回定例朝食会「2020年の新たなビジョン」(2020年1月17日)

今回の定例朝食会は、毎年恒例となっている日本医療政策機構代表理事 黒川清による「2020年の新たなビジョン」として以下をテーマに、様々なトピックについて会場の皆様と議論しました。

 

■日本の組織を停滞化させているガバナンス問題
近年ではあらゆるセクターにおいて、「組織のガバナンス」がメインテーマだ。特に「組織のパフォーマンスが悪い時に、どうトップを辞めさせるか」は重要な問題である。日本では、株価や収益などの財務指標で企業を客観的に評価することができるが、その結果によってトップを変えることは容易ではない。
要因の一つは、組織外の視点の不足にある。日本にはアメリカでいうBoardの機能を持った組織が不足しているように感じる。BoardやSearch Committeeを設置して、組織のトップに対するガバナンスを担保することが重要ではないか。Boardがトップをチェックし、必要があれば解任する、一方でトップもBoardを辞めさせることができる、相互に良い緊張関係を持った構造が求められている。
また多様なバックグラウンドを持つ人材が不足していることも要因だろう。日本は人材の流動性が低く、同一組織内でキャリアを積むことを主として考える。例えば、銀行員であれば、同業内で必要とされる一定のスキルがあれば、他行に移ることができるはずだが、日本では実際にそのようなケースはほとんどないのではないか。
同一企業・同一組織で完結するキャリアモデルは、戦後、製造業を中心に経済成長を続けていた時代では一定程度効果的であったと言えよう。しかし、高度情報通信社会となり技術変革が進む現代では、組織内のタテのつながりよりも、むしろヨコのつながりが重要であり、組織のガバナンスという点からも、多様な視点を持つ人材が在籍する重要性は大きい。

■「なぜ」と問える若い世代を育て、社会の変革を
上述のキャリアモデルには、「失敗を恐れる文化」「偏差値偏重教育」が大きく関係している。その点では、現在の日本社会が抱える問題は、教育に起因するところが大きい。これからの日本を考えると、教育の変革が非常に重要だと考えている。
これまでの教育は、知識を蓄えることに価値を置いてきた。しかし現代はインターネットで何でも調べることができ、「何でも知っていること」のみに価値はないのではないか。今後必要なことは、あらゆる事象や問題に対する「なぜ」と問い続ける感覚で、どのようにして解決するかを我が事として考える思考であり、さらには実際に行動し、体験・経験を積むことである。
こうした観点から、若い人には、ぜひ外の世界に飛び出してみてほしい。世界に出て初めて、日本の良い側面、悪い側面を相対的に感じ取り、発見できる。私がアメリカにいた時、ベトナム戦争の終わりに多くの難民が出たが、日本政府が難民の受け入れを拒否するという出来事があった。その時、改めて日本の弱さを痛感した。国際的な視点に立ち、日本の常識に疑問を持ち、自分に何ができるかに思いをはせることで、はじめて健全な愛国心が育まれるのではないか。
私自身、若い人たちが外の世界を経験する機会や環境を与えたいと考えている。それぞれの立場で若い世代の挑戦の機会を支援することが必要だ。例えば、大学であれば、学生が休学して海外に行くことによる経済的負担を軽減する授業料体系を整えるなどである。
今、社会変革が必要と言われているが、変革には5-10年の時間がかかる。常に「なぜ」と問い続ける姿勢を持つ若い人が増えれば、変革のスピードは早くなる。日本の諸問題を解決するには、日本の教育を変革していく必要もある。

■HGPIは16年目に

2004年に設立したHGPIも今年で16年目を迎える。
2017年以降、皆様のご支援を賜り、世界のシンクタンクランキングにおいて、Global、Domesticともにトップ5位以内にランクインしている。我々は非営利・独立・グローバルを指針とする民間の非営利シンクタンクであり、「非営利」という点に関しては、皆様からの寄付に支えられて運営をしている。
「独立」という点については、政府に対しても中立的に政策提言をできる姿勢を貫いており、また「グローバル」という点では近年の医療政策課題は、グローバルな視点で議論しなくては解決できないことが多い。
これまでも様々なテーマについて、政策提言を行ってきたが、特に近年力を入れている認知症に関するプロジェクトでは、政府に対する政策提言が実際に採用されている。ある単語がGoogleでどれだけ検索されているかをグラフで視覚的に表すことができる「Google Trend」(図1)で、「認知症」というワードを検索すると、日本では2014年に大きく上にシフトして伸びていることが分かる。これはもちろん日本政府が認知症施策に力を入れ、認知症関係の発信が盛んになったこともあるが、こうした流れにHGPIも少しは寄与できているのではないかと思う。

(図1)

「市民主体の医療政策の実現」をミッションとするHGPIは、皆様一人一人に支えて頂き、ご指導いただいている。引き続き、こうした政策コミュニティに参画いただき、若いスタッフも数多く在籍するHGPIを温かく見守り、時には叱咤激励していただき、共に育てていただければと思う。


(写真:高橋 清)


■プロフィール
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)
東京大学医学部卒。1969年渡米、1979年UCLA内科教授。1983年帰国後、東京大学内科教授、東海大学医学部長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術会議議員(2003-2007年)、内閣特別顧問(2006-2008年)、世界保健機関(WHO: World Health Organization)コミッショナー(2005-2009年)などを歴任。国会による福島原発事故調査委員会委員長(2011年12月-2012年7月)、 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金のChair and Representative Director(2013年1月‐2018年6月)、内閣官房健康・医療戦略室健康・医療戦略参与(2013年10月‐2019年3月)。
現在、マサチューセッツ工科大学客員研究員、世界認知症協議会(WDC: World Dementia Council)メンバー、ハーバード公衆衛生大学院 John B. Little(JBL)Center for Radiation Sciences 国際アドバイザリーボードメンバー、政策研究大学院大学・東京大学名誉教授。東海大学特別栄誉教授 <http://www.kiyoshikurokawa.com>


【開催報告】第82回定例朝食会「医療への市民参画の時代 求められる患者の意識改革」(2019年12月6日)>

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