【お知らせ】国連創設80周年に向けた公開書簡「国連創設80年:すべての人に、より長く健やかな未来を」への賛同(2025年9月30日)
日本医療政策機構 代表理事・事務局長の乗竹亮治は、非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases)への世界的な対応を呼びかける公開書簡「国連創設80年:すべての人に、より長く健やかな未来を(The UN at 80: Every Human Deserves a Longer, Healthier Future)」に賛同いたしました。
本書簡は、国連創設80周年の節目にあたり、各国の保健・政策分野のリーダーや専門家らが連名で署名したもので、世界的に拡大するNCDs(心疾患、呼吸器疾患、がん、糖尿病、慢性腎疾患など)の深刻な影響に対し、以下3つの優先行動を国際社会に訴える内容です。
- 健康を「コスト」ではなく「投資」として捉えること
健康への戦略的投資は、経済成長と社会的安定に寄与します。慢性疾患の予防・早期診断・早期治療により、単なる「病気のケア」から真なる「ヘルスケア」システムへと転換することが可能です。
- 持続可能で強靱な保健医療システムの構築
COVID-19パンデミックの経験を踏まえ、初期医療へのアクセス、人材確保、データ基盤の整備といった分野への投資の必要性を強調しています。
- イノベーションの促進と公平なアクセスの確保
科学技術の進展、とりわけAIの活用が疾病負担の軽減に貢献する一方で、その恩恵をすべての人が享受できるよう、政策的な後押しが求められています。
NCDsは2050年までに世界の年間死亡者数の86%を占めることが予測されており、その影響は特に低・中所得国に集中します。高齢化、気候変動、都市化、生活習慣、医療アクセスの不均衡など複合的な要因により、NCDsを含む慢性疾患による危機は世界規模で深刻化していきます。
このような状況のもと、本書簡は、健康寿命の延伸と持続可能な社会の実現に向け、グローバルな協働と行動を強く促すものです。
書簡の原文(英語)はこちらをご覧ください。
以下、日本医療政策機構による仮訳になります。
国連80年:すべての人により長く、より健やかな未来を
非感染性疾患への即時行動を訴える公開書簡
医師と患者の対話の下に
より健やかな未来を望むすべての方へ80年にわたり、国連は寿命の延伸を目指して世界の保健政策を導いてきました。しかしここ最近、課題の重心は変化してきてます。出生時寿命の世界平均は73年ですが、健康寿命はわずか63年にとどまります。この10年のギャップは、患者の生活を蝕む慢性疾患が主な原因となっており、過重化した医療体制には経済的・制度的な負荷をもたらしています。
高齢化社会による財政負担に対応するため、定年延長を図る国がある一方で、就業年齢層における疾病・障害の増加も顕著です。健康な生活が維持できなくなることで、生産性と経済の回復力が脅かされます。私たちは、寿命(Lifespan)に偏重する議論から転換し、健康寿命(Healthspan)を優先する視点に立ち、高リスク層への支援と持続可能な医療体制の構築を急がねばなりません。そうしなければ、社会は取り返しのつかない負荷と制度的混乱に直面します。
心疾患、呼吸器疾患、がん、糖尿病、慢性腎臓病などを含む非感染性疾患(NCDs: Non-Communicable Diseases)は、2050年には全死因の86%を占める見込みで、2019年比で約90%もの増加を意味します。低・中所得国において、現時点で死因の80%がNCDsによるものであり、影響はすでに深刻です。高齢化、気候変動、都市化、生活習慣、医療アクセスの不均等は、いずれもこのNCDsを含む慢性疾患による危機を加速させています。その人命コストは計り知れないものであると同時に、崩壊の瀬戸際にある医療体制や経済にも甚大な負荷を与えており、2010年から2030年にかけて世界経済に与えるNCDsのコストは47兆ドルを超えると予測されています。国連総会のためニューヨークに集う世界の指導者に向け、われわれは今こそNCDs対策に本気で取り組むべきと訴えます。焦点とすべき3つの優先課題を以下に示します。
- 健康を「切り詰めるコスト」ではなく「投資」と捉える
戦略的な保健投資は、経済的・社会的リターンをもたらします。政府と保健システムは長期的視点で医療に資金を投入し、慢性疾患を予防・早期診断・早期治療できる体制を構築すべきです。これにより、「病気を治す」システムから、「人々の健康を守る」システムへの転換が可能となります。利益は明白です:先進国では過去1世紀の経済成長の3分の1は健康改善に起因すると言われています。また開発途上国では、1ドルを健康に投じると、2~4ドルの経済的リターンが得られる可能性があります。こうしたエビデンスを予算配分に反映させねばなりません。
- 医療体制を強化する
強靱な医療体制は一夜にして築かれるものではありませんが、崩壊は一瞬で起こり得ます。COVID 19パンデミックがその脆弱性を露呈しました。保健への公共支出の低迷、医療人材の不足、拡大する保健格差は、体制にさらなる負荷をかけています。経済協力開発機構(OECD)は、パンデミック前水準と比較して国内総生産(GDP)の1.4%を上乗せする投資が、将来のショックに備えるために必要だと示唆しています。
30か国を対象とする保健医療システムの持続可能性と強靭性を向上するためのパートナーシップ(PHSSR: Partnership for Health System Sustainability and Resilience)のデータにもとづく提言は、堅牢な医療体制の構築には、プライマリ・ケアのアクセス性、医療人材能力、データ基盤の整備が不可欠であり、これらは現在国際的に脆弱な領域であると指摘しています。
- イノベーションを優先する
科学と技術革新は、増大する疾病負荷を凌駕する上で不可欠です。AIはその進展を加速します。しかし現在、適時診断やエビデンスに基づく治療へのアクセスは不足しており、米国およびカナダでは一般的な心不全患者の10%未満しかガイドラインに沿った治療を受けていないとの報告もあります。効果的治療の普及を促進し、公平なアクセスを支える政策を策定すべきです。
イノベーションには適切なインセンティブが必要です。予防、診断、治療領域の革新は、世界の健康改善に大きく寄与してきましたが、これまでその投資の多くは米国主導でした。他国からの公平な出資が不可欠です。そうしてこそ、医療の飛躍的なブレークスルーが実現し、慢性疾患という社会の重荷に挑むことができるのです。
慢性疾患による危機に対して行動を起こすべき時は、今です。国境を越えた協調と健康優先の視点により、数百万の命を改善し、地域社会と労働力を強化し、持続可能な経済成長に貢献する力が私たちにはあります。
署名者一覧:
1. Alfonso Alonso(元スペイン保健相)
2. Saleh Mahdi Alhasnawi(イラク保健相)
3. José Manuel Barroso(前欧州委員会委員長、Gavi議長)
4. José Luis Castro(WHO慢性呼吸器疾患特別特使)
5. Wen Chen(復旦大学 公衆衛生学院 学院長)
6. Minister Khumbize Chiponda(マラウイ保健相)
7. Americo Cicchetti(イタリア国立医療サービス機関 特別委員)
8. Michel Demaré(アストラゼネカ 会長)
9. Victor Dzau(米国国立医学アカデミー 会長)
10. Khaled Abdel Ghaffar(エジプト副首相兼保健・人口相)
11. Githinji Gitahi(AMREF Health Africa グループCEO)
12. Roy Jakobs(ロイヤル・フィリップス CEO)
13. Vanessa Kerry(Seed Global Health CEO、ハーバード公衆衛生大学院 准教授)
14. Lord Andrew Lansley(英国元保健大臣)
15. HRH Princess Dina Mired of Jordan(国際小児がん学会 後援者)
16. 宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 教授)
17. Brendan Murphy(オーストラリア元首席医務官・保健省事務次官)
18. Maria Neira(元WHO 環境・気候変動・健康局長)
19. 乗竹 亮治(日本医療政策機構(HGPI) 代表理事・事務局長)
20. José Martínez Olmos(スペイン元保健総局長)
21. Carol Pollock(シドニー大学 医学部 教授、オーストラリア腎臓財団 理事長)
22. Lord David Prior(NHSイングランド 元議長)
23. Magda Robalo(ギニアビサウ元保健相、国際保健・開発研究所 所長)
24. Liam Smeeth(ロンドン衛生・熱帯医学大学校 校長)
25. Dan Vahdat(Huma CEO)
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