【開催報告】第50回定例朝食会『がんサバイバーシップをめぐる課題と提言』
第50回定例朝食会『がんサバイバーシップをめぐる課題と提言』講演録
2014年12月17日
■スピーカー
・高橋都氏
国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバ-シップ支援研究部部長
・秋山正子氏
株式会社ケアーズ代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長、「暮らしの保健室」室長、マギーズ東京プロジェクト共同代表
・鈴木美穂氏
民間放送局社会部記者(厚生労働省担当)、マギーズ東京プロジェクト共同代表、乳がん経験者
■モデレーター
宮田俊男
日本医療政策機構エグゼクティブディレクター
■日時
2014年12月17日(水)8:00~9:15
■場所
神戸屋シルフィー グランアージュ丸の内店
宮田:まずは高橋氏に、がんのサバイバーシップについてお教えいただくとともに、国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援研究部の今後の方向性について伺いたい。
高橋:がんサバイバーシップ支援研究部は昨年4月に国立がん研究センターに立ち上がった。サバイバーシップとは、病気や事故など、何かが起きた後の人生の過程全体を表す概念。これまでは、病気や事故の後にある患者の生活に関する考察が足りなかった。国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援研究部は、がんに焦点を当て、がんに罹患した人が、社会や地域でより良い暮らしを実現する方策に関して研究している。がんサバイバーシップは世界的にも注目されており、America Cancer Society(米国がん協会)など、欧米の大きながん支援団体の多くは「がんサバイバーシップが重要である」という前提で活動している。日本でも多くのがん患者支援団体があり、サバイバーシップの重要性を共有できていると思う。
がんサバイバーシップ支援研究部では、がんになった「その後の暮らし」について、さまざまな研究プロジェクトに取り組んでいる。特にこれからの1、2年で注力するプロジェクトとして、病院ベースでがん患者の就労支援プログラムを立案し、それを介入評価する研究がある。広く浅くがん患者の背中を押すことで実現する就労支援も多くあるため、そのような介入から検討していきたい。その他、小児期、思春期、青年期のがん経験のこと、がん罹患後の健康増進のこと、外見が変化した際の社会生活に関すること、カップル関係や親子関係などのプロジェクトも走っている。
宮田:続いて鈴木氏にはご自身の簡単な紹介と、がん治療の過程での困難、そして今までの取り組みについてご紹介頂きたい。
鈴木:入社3年目の2008年に乳がんを告知された。告知を受けた当時、がんへの正しい認識ができておらず、ショックで目の前が真っ暗になった。治療の辛さよりも、将来が見えない辛さの方が大きかった。
復帰後、記者の自分が出来ることは、「がんになった人にもその後の人生がある」ということを伝えることだと考え、2009年に「若年性がん患者団体 STAND UP!!」を立ち上げた。その中で、患者による患者のための活動に終始するのではなく、社会全体から認められるサバイバーシップへの転換が必要だと考えた。そのような中、今年3月にIEEPO (International experience exchange for patient organizations- 患者団体の集まる世界会議)でマギーズセンターを知り、その後、秋山さんがマギーズセンターについて多く発信していることを知ったのがマギーズ東京プロジェクトの始まりになった。
がんの経験者が安心し、癒されるような空間作りを、マギーズセンターで目指そうと考えている。また、がんになっても元気に生きている人がいることを社会に発信し、社会全体ががんについて正しい知識を持ち、偏見と向き合っていく過程の象徴に、将来マギーズセンターがなればよいとも考えている。このプロジェクトに対するクラウドファウンディングを9月から11月の2ヶ月間行ったところ、患者、家族だけでなく、がんとは直接関係のない人々の共感も呼び、多くの寄附をいただくことが出来た。
宮田:秋山氏は、マギーズセンターだけでなく暮らしの保健室の立ち上げも経験しているが、立ち上げに至った経緯や苦労されたことなどをご紹介頂きたい。
秋山:20数年前に当時41歳の肝臓がんの姉を在宅医療で看取ったことをきっかけに、当時はまだ在宅ケアの制度が整ってなく、これからは在宅での療養が必要な方が、がん患者も含め多くなるだろうと、訪問看護ステーションでの看護を始めた。その後、約10年経って、母体の医療法人解散という事態にあい独立した。がん患者の家族としての出発をしている。
訪問看護をやってきて、がんの治療の様相が変わって来たと感じている。外来期間が長くなり、慢性疾患の様相を呈してきて、がんと共に生きる人が多くなって来ている。そこの支援が手薄と感じた。最終コーナーを回った時に私たち訪問看護に繋がってくる。在宅とか緩和とかと言う言葉は、すべてをあきらめた時に提示される。低いQOLで最後までの時を過ごし、最後になって私たちにつながるっていうのはおかしいのではないか、もう少し前から患者やその家族への情報提供や相談場所提供を行えないかと考え、暮らしの保健室を始めた。始めて丸3年、がん患者さんと家族の相談が全体の3割を占める。今後は病院の中の相談支援も充実して頂きたい、しかし病院の外にも相談支援の場がないと、これだけ増えたがん患者の多様な相談に応じて行けない。
そのような中、2008年11月国際がん看護セミナーで、エディンバラのマギーズセンターのことを知った。病院の外にある施設で、がん患者がゆったり出来る空間。人の環境だけでなく、空間・周囲環境の良さがマギーズセンターの特徴。実物も見る中で、日本でもマギーズセンター実現の構想を持ち、周囲に啓発し、活動していたが、なかなか実現しなかった。そんな中、今年4月に鈴木さんが暮らしの保健室に尋ねてきたことで実現に向け動き出した。現時点では期間限定だが、新豊洲にパイロットスタディ的にマギーズ東京を立ち上げるべく、先日NPO申請が受理された。クラウドファンディングで、多くの方に賛同を頂き寄付を多く集めたものの、まだ資金は足りない。
宮田:マギーズセンターの取り組みは長いスパンでの継続性が重要だと考える。今後どういう方針で持続性を獲得するのか。
秋山:まず1件目のマギーズセンターをがんばって立ち上げ、その空間の良さを認知してもらい、自治体、企業などの皆さんに継続的な支援をお願いし、それにより継続的な自主運営が出来る形にして行く計画を立てている。
鈴木:がん患者だけでなく、一般の人にもがんが自分に無関係ではなく、いつか自分や家族ががんになり、マギーズセンターを使う可能性があることを社会全体に認識してもらい、定期的な寄附や、企業のCSR活動に組み込んでもらうことで継続性を確立できると考えている。
宮田:将来的に、タワーマンションの一室、あるいは住宅街の一角などに、それぞれマギーズセンターのような場を実現することを目標に頑張っていただきたい。個人的には、マギーズセンターが公的な制度だけでなく、色々な企業と手を組みながら、公民連携(public–private partnership)のプラットフォームをつくることで継続性が見えると思う。
2014年12月17日
■スピーカー
・高橋都氏
国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバ-シップ支援研究部部長
・秋山正子氏
株式会社ケアーズ代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長、「暮らしの保健室」室長、マギーズ東京プロジェクト共同代表
・鈴木美穂氏
民間放送局社会部記者(厚生労働省担当)、マギーズ東京プロジェクト共同代表、乳がん経験者
■モデレーター
宮田俊男
日本医療政策機構エグゼクティブディレクター
■日時
2014年12月17日(水)8:00~9:15
■場所
神戸屋シルフィー グランアージュ丸の内店
宮田:まずは高橋氏に、がんのサバイバーシップについてお教えいただくとともに、国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援研究部の今後の方向性について伺いたい。
高橋:がんサバイバーシップ支援研究部は昨年4月に国立がん研究センターに立ち上がった。サバイバーシップとは、病気や事故など、何かが起きた後の人生の過程全体を表す概念。これまでは、病気や事故の後にある患者の生活に関する考察が足りなかった。国立がん研究センターがんサバイバーシップ支援研究部は、がんに焦点を当て、がんに罹患した人が、社会や地域でより良い暮らしを実現する方策に関して研究している。がんサバイバーシップは世界的にも注目されており、America Cancer Society(米国がん協会)など、欧米の大きながん支援団体の多くは「がんサバイバーシップが重要である」という前提で活動している。日本でも多くのがん患者支援団体があり、サバイバーシップの重要性を共有できていると思う。
がんサバイバーシップ支援研究部では、がんになった「その後の暮らし」について、さまざまな研究プロジェクトに取り組んでいる。特にこれからの1、2年で注力するプロジェクトとして、病院ベースでがん患者の就労支援プログラムを立案し、それを介入評価する研究がある。広く浅くがん患者の背中を押すことで実現する就労支援も多くあるため、そのような介入から検討していきたい。その他、小児期、思春期、青年期のがん経験のこと、がん罹患後の健康増進のこと、外見が変化した際の社会生活に関すること、カップル関係や親子関係などのプロジェクトも走っている。
宮田:続いて鈴木氏にはご自身の簡単な紹介と、がん治療の過程での困難、そして今までの取り組みについてご紹介頂きたい。
鈴木:入社3年目の2008年に乳がんを告知された。告知を受けた当時、がんへの正しい認識ができておらず、ショックで目の前が真っ暗になった。治療の辛さよりも、将来が見えない辛さの方が大きかった。
復帰後、記者の自分が出来ることは、「がんになった人にもその後の人生がある」ということを伝えることだと考え、2009年に「若年性がん患者団体 STAND UP!!」を立ち上げた。その中で、患者による患者のための活動に終始するのではなく、社会全体から認められるサバイバーシップへの転換が必要だと考えた。そのような中、今年3月にIEEPO (International experience exchange for patient organizations- 患者団体の集まる世界会議)でマギーズセンターを知り、その後、秋山さんがマギーズセンターについて多く発信していることを知ったのがマギーズ東京プロジェクトの始まりになった。
がんの経験者が安心し、癒されるような空間作りを、マギーズセンターで目指そうと考えている。また、がんになっても元気に生きている人がいることを社会に発信し、社会全体ががんについて正しい知識を持ち、偏見と向き合っていく過程の象徴に、将来マギーズセンターがなればよいとも考えている。このプロジェクトに対するクラウドファウンディングを9月から11月の2ヶ月間行ったところ、患者、家族だけでなく、がんとは直接関係のない人々の共感も呼び、多くの寄附をいただくことが出来た。
宮田:秋山氏は、マギーズセンターだけでなく暮らしの保健室の立ち上げも経験しているが、立ち上げに至った経緯や苦労されたことなどをご紹介頂きたい。
秋山:20数年前に当時41歳の肝臓がんの姉を在宅医療で看取ったことをきっかけに、当時はまだ在宅ケアの制度が整ってなく、これからは在宅での療養が必要な方が、がん患者も含め多くなるだろうと、訪問看護ステーションでの看護を始めた。その後、約10年経って、母体の医療法人解散という事態にあい独立した。がん患者の家族としての出発をしている。
訪問看護をやってきて、がんの治療の様相が変わって来たと感じている。外来期間が長くなり、慢性疾患の様相を呈してきて、がんと共に生きる人が多くなって来ている。そこの支援が手薄と感じた。最終コーナーを回った時に私たち訪問看護に繋がってくる。在宅とか緩和とかと言う言葉は、すべてをあきらめた時に提示される。低いQOLで最後までの時を過ごし、最後になって私たちにつながるっていうのはおかしいのではないか、もう少し前から患者やその家族への情報提供や相談場所提供を行えないかと考え、暮らしの保健室を始めた。始めて丸3年、がん患者さんと家族の相談が全体の3割を占める。今後は病院の中の相談支援も充実して頂きたい、しかし病院の外にも相談支援の場がないと、これだけ増えたがん患者の多様な相談に応じて行けない。
そのような中、2008年11月国際がん看護セミナーで、エディンバラのマギーズセンターのことを知った。病院の外にある施設で、がん患者がゆったり出来る空間。人の環境だけでなく、空間・周囲環境の良さがマギーズセンターの特徴。実物も見る中で、日本でもマギーズセンター実現の構想を持ち、周囲に啓発し、活動していたが、なかなか実現しなかった。そんな中、今年4月に鈴木さんが暮らしの保健室に尋ねてきたことで実現に向け動き出した。現時点では期間限定だが、新豊洲にパイロットスタディ的にマギーズ東京を立ち上げるべく、先日NPO申請が受理された。クラウドファンディングで、多くの方に賛同を頂き寄付を多く集めたものの、まだ資金は足りない。
宮田:マギーズセンターの取り組みは長いスパンでの継続性が重要だと考える。今後どういう方針で持続性を獲得するのか。
秋山:まず1件目のマギーズセンターをがんばって立ち上げ、その空間の良さを認知してもらい、自治体、企業などの皆さんに継続的な支援をお願いし、それにより継続的な自主運営が出来る形にして行く計画を立てている。
鈴木:がん患者だけでなく、一般の人にもがんが自分に無関係ではなく、いつか自分や家族ががんになり、マギーズセンターを使う可能性があることを社会全体に認識してもらい、定期的な寄附や、企業のCSR活動に組み込んでもらうことで継続性を確立できると考えている。
宮田:将来的に、タワーマンションの一室、あるいは住宅街の一角などに、それぞれマギーズセンターのような場を実現することを目標に頑張っていただきたい。個人的には、マギーズセンターが公的な制度だけでなく、色々な企業と手を組みながら、公民連携(public–private partnership)のプラットフォームをつくることで継続性が見えると思う。
申込締切日:2014-12-12
開催日:2014-12-17
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