【調査報告】「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の社会経済的負担に関する調査」
日付:2014年1月16日

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界保健機関(WHO)推計によると2030年には世界の死亡原因第3位になることが知られ、我が国においても今後ますます増加が見込まれる。COPDは患者の生活の質(QOL)を悪化させると同時に、労働者にとって生産性低下がもたらされると考えられる。しかし、COPD発症の程度によりQOLや生産性損失がどう異なるか、また日本おいてそれらによりどの程度金銭的負担が起きうるのかはほとんど明らかになっていない。そこで今回、1) COPD患者における生産性損失の実態、2) COPD患者のQOLへの影響、そして3) 診断されていない潜在的COPD患者の実態把握、を明らかにすることを目的に調査を実施した。
(詳細はページ下ファイルよりダウンロードできます)
《注目すべき調査結果》
1.スクリーニング尺度により分類されたCOPD非罹患者、潜在的COPD患者、COPD患者それぞれについて、段階的にQOLが低下する可能性がある
本調査で定めたCOPD非罹患者、潜在的COPD患者、COPD患者のQOLスコアを測定したところ、段階的にQOLスコアが低下した。本結果は年齢や性別を共変量に加えた重回帰分析によっても有意差は変わらなかった。
2.健常者と比較して、COPD患者の方が、週労働損失時間が有意に長い
健常者とCOPD患者の総労働損失時間を比較したところ、15.8vs19.9
(時間) と、COPD患者群の方が4.1時間有意に長かった。またCOPDによる超過労働損失は年間1人あたり約47万円と推計された。さらに患者の自己負担割合と、月あたり自己負担額から割り返した医療費負担額は約6万円であった。
3.COPD患者の費用負担は、医療費や生産性損失を勘案すると、少なく見積もっても約2,000億円にのぼる
COPD患者の費用負担は、医療費支出で1,584億円、生産性損失は496億円、あわせて2,080億円にのぼることが明らかになった。この金額は、就業者以外の日常生活への影響は組み込まれておらず、潜在的なCOPD患者の生産性損失も含めていない。これらを組み込んだ場合、総コストはさらに増大すると考えられる。
《調査結果から浮かび上がる今後の政策の方向性》
1. COPD早期発見・治療体制の確立
COPD疑いのある者の早期発見には問診票や簡易スパイロメータによるスクリーニングが有効とされている。しかし、検診の必須項目ではない等、活用の場が限定的である。今後は早期発見体制の確立により、有効とされるスクリーニングが広く活用されることが望まれる。
2. 適切な治療やケア提供体制を可能にする医療専門職育成の推進
COPDの適切な治療やケア提供体制を整備する上で、医療専門職による介入が必須である。しかし、国内の呼吸器専門医、慢性呼吸器疾患看護分野認定看護師は他領域と比べても少ないのが現状である。今後増加するCOPDに対するケア提供体制を踏まえると、医療専門職育成の更なる推進が肝要であろう。
3. 関連ステークホルダーによる連携体制の促進
糖尿病については、学会、医師会などで糖尿病対策推進会議をつくり、専門医でない医師への啓発と診療の標準化を地域で連携して行っているが、COPDにおいても近年「日本COPD対策推進会議」が設立される等の動きが見られる。これらのような関連ステークホルダーの活動の連携促進を通じ、全国的に地域の実情に応じた連携体制が取れるような仕組みを構築することが望まれる。
4. 国民全体への認知啓発活動の推進
健康日本21(第2次)において、「COPD」という言葉の認知度を 25%
(平成 23 年)から80% (平成 34 年度)に向上させるという方針が打ち出された。言葉は多くの人々に認知されてはいないが、今後の早期発見につなげていくために、広く認知啓発していく必要があるだろう。医療従事者をはじめとする、健康に関わる関係者には、「COPD」という言葉を正しく理解してもらう必要がある。
調査・提言ランキング
- 【調査報告】社会経済的要因と女性の健康に関する調査提言(2023年3月6日)
- 【当事者の声】薬剤耐性 伊東幸子氏 非結核性抗酸菌症(2022年3月18日)
- 【出版報告】こどもの健康プロジェクト 家庭向け小冊子「子どもとのかかわりを通して育む 保護者と子どものこころの健康」を5言語にて作成(2023年2月6日)
- 【緊急提言】成育基本法・成育基本計画の実施と運用に向けた課題と展望(2023年2月17日)
- 【出版報告】認知症の早期発見・早期対応の促進に向けた好事例集(2023年3月17日)
- 【緊急提言】「認知症観を変革する認知症基本法の成立を」(2022年9月27日)
- 【調査報告】「働く女性の健康増進に関する調査2018(最終報告)」
- 【政策提言】早期発見・早期対応の深化に向けた今後の論点(2023年3月17日)
- 【パブリックコメント提出】がん対策推進基本計画(案)(2023年2月18日)
- 【政策提言】こどもの健康プロジェクト 政策提言「幼稚園教諭・保育士等未就学期の保育者と保護者のメンタルヘルスケアの強化に向けて」(2023年2月7日)
注目の投稿
-
2022-10-21
【出版報告】メンタルヘルス政策プロジェクト 災害メンタルヘルス多言語翻訳資料 「日本における災害時のメンタルヘルス支援のこれまでとこれから~1995年から2020年までの地域における災害対応から考える~」英語版・中国語繁体字版・タイ語版・ウクライナ語版(2022年10月14日)
-
2022-12-26
【開催報告】慢性疾患対策推進プロジェクト「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策に向けて」アドバイザリーボード会合(2022年9月22日)
-
2023-03-07
【メディア掲載】『「健康な気候のための処方」が教えてくれる-気候危機に対するこれまでの保健医療のとりくみ-』(『民医連医療』2023年3月号掲載、2023年2月24日)
-
2023-03-09
【開催報告】HGPIセミナー特別編「薬剤耐性(AMR)時代におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(2022年8月18日)
-
2023-03-15
【開催報告】循環器病対策推進プロジェクト「各都道府県による循環器病対策推進計画の推進に向けた現状の課題と展望」(2023年3月15日)