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【開催報告】第2回NCDアライアンス・ジャパン患者当事者向けセミナー「コロナ禍で求められる病院 ~病室にWi-Fiを導入しなければならない理由~」(2022年2月22日)

【開催報告】第2回NCDアライアンス・ジャパン患者当事者向けセミナー「コロナ禍で求められる病院 ~病室にWi-Fiを導入しなければならない理由~」(2022年2月22日)

この度、日本医療政策機構が事務局を務めるNCDアライアンス・ジャパンでは、第2回患者・当事者向けセミナーとして、「コロナ禍で求められる病院 ~病室にWi-Fiを導入しなければならない理由~」と題し、フリーアナウンサーで、現在は「#病室Wi-Fi協議会」においても活動されている笠井信輔氏より患者・市民参画の好事例として、自身が入院する中で抱えた困難を当事者として政策に反映させた経験についてご講演いただきました。

本講演は今後、当事者の方々が政策形成の場に参画する際の参考となるよう、知識・ノウハウを蓄積することを目的として、動画(セミナー本編部分のみ抜粋)も併せて公開しております。


 

<講演のポイント>

・新型コロナウイルス感染対策のために面会禁止・面会制限が続く中、オンライン面会で気持ちが救われるという患者は多く、「病室Wi-Fi」は、病院選びの新たな基準になりつつある

・Wi-Fiが患者の娯楽であるという常識は、コロナウイルスが蔓延する時代には当てはまらない
 病室におけるWi-Fiは、もはやライフラインである

・2021年9月、初の全国調査「この病院は全病室でWi-Fi使えます!大調査」を実施
 都道府県別の病室Wi-Fi導入率や「全病室でWi-Fiが使える病院」をホームページで公表し、反響を呼んでいる

・岩手県では、上記全国調査の結果がきっかけとなり、すべての県立病院で全病室無料Wi-Fiが導入された
 行政も含めたマルチステークホルダーの巻き込みも政策を動かす上では重要である
 

 

■病室に患者用Wi-Fiがあるのが「当たり前」という時代は、必ずやってくる

日本の多くの病院において、病室に患者用Wi-Fiが整備されていないということが新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに大きな問題として浮き彫りになった。海外では、病室で患者用Wi-Fiを無料で利用できることが当たり前の国も多く、日本はまだ使えないのかという驚きの声が、欧米やアジア各国から寄せられている。

日本で病室における患者用Wi-Fiの導入が遅れている理由として、「病室にWi-Fiをつけても収益は上がらない」という常識が病院経営者の間に根づいているためであると考えている。一方、患者側にも一因がある。これまで病院選びの基準といえば、病気を治してくれるかどうか、充実した医療サービスを提供しているか、病室の環境は良いのか、病院食は美味しいのかといった点に限られていた。しかし最近、「次はWi-Fiを使える病院に入院したい」と考える人が増え、病院選びに新たな基準が生まれているが、多くの病院関係者は、まだそのことに気づいていない。

新型コロナウイルス感染防止のため面会禁止・面会制限という状況は、全国の病院で1年以上続いている。そこで重要になっているのが、オンライン面会である。オンライン面会だけでも、本当に気持ちが救われたという人は大勢いるため、「病室にWi-Fiをつけても収益は上がらない」は、もはや昔の常識となりつつある。今まさに変革の時が訪れている。

私は、2019年に33年間勤めたフジテレビを退社し、フリーアナウンサーになった直後、血液のがんである悪性リンパ種と診断された。2020年には、大量抗がん剤治療を受けるために4カ月半入院することとなった。初めの1カ月間は、友人、同僚アナウンサー、後輩、親戚など、多くの人がお見舞いに来てくれた。しかしその後、新型コロナウイルスが蔓延し、誰もお見舞いに来ることができなくなった。さらに緊急事態宣言が出されると、家族でさえ病院内に入れない状況となった。当時の大変な孤独は、経験した人にしか分からないと思う。

病院の看護師の方々は、大きな助けになってくれた。それでも、友人と笑い合いながら会話をすることが、どれほど治療に立ち向かう力になることか想像してほしい。こうしたオンライン面会を可能とした病院のインターネット環境が孤独の淵から私を救ってくれたのである。


■2021年、「#病院Wi-Fi協議会」を設立

年間100万人ががんと診断される中で、当事者としての経験を言葉にして伝えるため、がんを啓発するチャリティ活動などに取り組んでいる。活動の中で出会った人々に、入院中、Wi-Fiが利用できず困った経験を話したところ、同じように共感してくれる人たちが出てきた。そこで、2021年1月に「#病室Wi-Fi協議会」を設立し、現在9人で活動している。

設立後、私たちはすぐに「病室Wi-Fi運動」をスタートし、病室Wi-Fi設置工事に対する政府の補助金を求め、坂本哲志孤独・孤立対策担当大臣(当時)や三原じゅんこ厚生労働副大臣(当時)をはじめとする国会議員に陳情した。すると2021年4月、活動開始からわずか3カ月で、病室Wi-Fi設置工事に対する補助金が決定した。いま誰を救うべきなのか、政治家や官僚の方々が気づいてくれたのである。

しかし、補助金制度は同年9月で終了となった。間もなく衆議院も解散となり、新たに岸田内閣が発足したことによって、これまで構築してきた人間関係がリセットされてしまったので、現在は新しいつながりを模索しているところである。


■全室無料Wi-Fiを整備することが必要な理由

2020年度「医療機関における適正な電波利用推進に関する調査」(電波環境協議会 医療機関における電波利用推進委員会 2021年5月)の結果を見ると、無線LAN(Wi-Fi)は、すでに約9割の病院で業務用として使用されている。その中で、入院患者にWi-Fiを解放している病院は、約3割に留まるという調査もあるため、活動を継続していかねばならない。

また、ある大学病院では、1日5万円以上の個室の患者にのみ、Wi-Fiのパスワードを教えていた。高額な特別室を利用している患者は、Wi-Fi使用料の負担は相対的に小さい。一方、大部屋の患者こそ家計に占める負担が大きくなるため、Wi-Fiを無料にすべきだと考える。


■病室でのインターネット(Wi-Fi)利用に関するアンケート調査を実施

キャンサーネットジャパン、筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト、#病室Wi-Fi協議会が協力し、入院経験のある600名を対象に、病室でのインターネット(Wi-Fi)利用についてアンケート調査を実施したところ、約40%がインターネットの利用を「我慢している」という実態が明らかになった。

また、インターネットの活用目的は、家族や親しい人とのコミュニケーションが256名と最も多く、情報検索、情報収集に次いで、娯楽(映画、ゲーム、音楽鑑賞など)は203名で4番目となっている(回答数338名、複数回答可)。インターネットは患者の娯楽サービスであるという常識は、新型コロナウイルス感染症の時代には当てはまらない。病室Wi-Fiは、もはやライフラインなのである。


■初の全国調査「この病院は全病室でWi-Fi使えます!大調査」を実施

病室Wi-Fi整備の補助金制度が始まると、多くの新聞に取り上げられ、整備の重要性を指摘する国会質問が中継で放送された。病室Wi-Fi整備の認識が広がるにつれ、Wi-Fi利用の可否をホームページ等に掲載していない病院が多かったため、#病室Wi-Fi協議会に対して入院患者のWi-Fi利用可能な病院についての問い合わせが数多く寄せられるようになった。

そこで2021年9月、#病室Wi-Fi協議会では、初の全国調査「この病院は全病室でWi-Fi使えます!大調査」を実施した。その結果、全国563病院(がん拠点病院451、小児がん拠点病院15、国立病院140)のうち、全病室で無料Wi-Fiを導入しているのは、がん拠点病院107(23.7%)、小児がん拠点病院2(13.3%)、国立病院11(7.9%)に留まることが明らかになった。さらに、全病室でWi-Fiをまったく使えない病院は全体の47%にのぼった。

この結果をホームページで公表したところ、次々と「全病室Wi-Fiを実現したため、当施設もリストに載せてほしい」という追加情報が寄せられるようになった。とくに岩手県では、県内の9施設すべての県立病院で全室無料Wi-Fi導入を実現。これは、岩手県の医療行政で設置を推進した結果であり、病院任せではなく、政策として押し進めることも重要だと感じている。


■電子カルテへの影響の懸念は古い常識である

病院が病室Wi-Fiに消極的な理由として、電子カルテへの影響への懸念がある。私たちの元へ「救命救急センターで働いています。Wi-Fi環境を整備しようと医師と働きかけましたが、電子カルテに支障が出る。特にワイヤレスで動き回りながら電子カルテを使用する看護師が困ると電子機器メーカーから意見があり、工事は行えないとの回答があった」というメールが送られてきた。しかしこれは古い情報に基づく間違った意見である。

すでに国立がん研究センターやがん研有明病院でも、全病室でWi-Fi使用が無料である。もし危険ならば、病室Wi-Fi設置工事に補助金はつかない。これは、国が病室Wi-Fiは安全にできるとお墨付きを与えた証拠といえる。例えば、中継器でアクセスポイントを共有し、電子カルテとは異なる周波数帯に病室Wi-Fiを設定する、あるいはアクセスポイントを新設するといった方法が可能である。一部の業者では、導入費用の値下げも始まっている。


■「誰一人取り残さない」ために、Wi-Fi利用の推進が必要

昨年、横浜刑務所で集団感染が発生し、面会が長期中止となった。これに対し、神奈川県弁護士会が受刑者の権利侵害だと指摘して報道がなされた。しかし患者の場合、面会が長期中止になっても、なかなかニュースにはならない。SDGsのキャッチフレーズは、「誰ひとり取り残さない」(leave no one behind)である。今、入院患者が病室Wi-Fiを使用できないためにインターネットの利用を我慢し、取り残されていることに気づいてほしい。

大手Wi-Fi機器メーカーの人に聞いた話によると、今の病院は、10年前のホテル業界と似ている。10年前には、ホテルへ営業に行くと「Wi-Fiを付けてもお客は増えない」と言われて帰されたが、それから5年経つと「Wi-Fiがないとお客が来ない」と、ホテル側から声がかかるようになったという。今では、どこのホテルでもWi-Fiは設置されている。「おそらく同じことが、病院業界でも起きますよ」とのことであった。

一方、2020年度、新型コロナウイルス感染症に罹患した患者のための空床確保料の補助金は、1.1兆円にのぼり、赤字続きであった公立病院では、大幅黒字になったケースもあると聞く。もし可能ならば、その一部を、病室Wi-Fiに振り向けることはできないかと考えている。皆さんが、どのように考えるかぜひ声を届けていただきたい。

 

【開催概要】

  • スピーカー:笠井 信輔 氏(フリーアナウンサー/#病室WiFi協議会)
  • 日時:2021年2月22日(火)18:30-19:30
  • 形式:Zoomウェビナー形式
  • 参加費:無料
  • 使用言語:日本語のみ
  • 定員:500名
  • 主催:日本医療政策機構(NCDアライアンス・ジャパン事務局)
  • 対象者
    -政策形成の場に現在参加している方
    -政策形成の場に今後参加したいと思っている方
    -政策形成の場に声を届けたいがどうすればよいかわからない方
    -疾患の有無にかかわらず、医療政策に興味をお持ちの方


【プログラム】
(敬称略)

18:30-18:35 開会挨拶
 今村 優子(日本医療政策機構 マネージャー)

18:35-18:40 歓迎のコメント
 木幡 美子(株式会社 フジテレビジョンCSR・SDGs推進室部長)

18:40-19:20 講演「コロナ禍で求められる病院~病室にWi-Fiを導入しなければならない理由」
 笠井 信輔(フリーアナウンサー/#病室WiFi協議会)

19:15-19:30 質疑応答

 


■スピーカープロフィール

笠井 信輔(フリーアナウンサー/#病室WiFi協議会)
東京都出身。早稲田大学を卒業後、フジテレビのアナウンサーに。
「タイム3(スリー)」をはじめとしたワイドショーや、夕方 のニュース番組「ザ・ヒューマン」 のメインキャスター、「ナイスデイ」の司会を経て朝の情報番組「とくダネ!」を20年間担当。
2019年、33年勤めたフジテレビを退社し、フリーアナウンサーになるものの2か月後に血液のがんである「悪性リンパ種」が判明。4か月半の入院、治療の結果「完全寛解」となる。現在、がん患者のための活動、テレビ、ラジオ、講演と幅広く活躍している。


■NCD AllianceとNCDアライアンス・ジャパンについて
NCD Allianceとは、国際糖尿病連盟、国際対がん連合、世界心臓連盟、国際結核・肺疾患連合の4つの国際連盟によって2009年に発足しました。現在は、約2000の市民団体・学術集団が約170か国で展開するNCDs対策のための協働プラットフォームであり、「NCDsによって引き起こされる、予防可能な苦痛、障害、死をなくすこと」をミッションに活動しています。NCDアライアンス・ジャパンは、2013年よりNCD Allianceの日本窓口として、マルチステークホルダーがフラットに議論できる場を提供し、NCDs対策において市民社会が果たす役割の重要性を国内外に発信しています。

■NCDアライアンスジャパンメンバー登録
今後NCDアライアンスジャパンメンバー向けのセミナーを行っていきます。
よろしければこちらよりご登録ください。


■NCDアライアンス・ジャパン患者当事者向けセミナー

昨今、医療政策の策定プロセスへの患者・当事者参画のニーズが高まり、実際に国(厚生労働省など)や自治体が主導する委員会や検討会、審議会などに多くの患者・当事者の方々が委員として出席し発言を求められる機会が増えてきています。このような活動は患者・市民参画(PPI: Patient and Public Involvement)と呼ばれ、他国でも患者・市民主体の医療政策の実現に不可欠な活動だといわれています。

しかし、実際に委員会や検討会に参加した患者・当事者委員からは「積極的な発言ができなかった」「自分の意見を伝えられなかった」といった声も数多く聞かれているという現状があります。こうした現状を踏まえ、日本医療政策機構が事務局を務めるNCDアライアンス・ジャパンは、本来のあるべきPPIを実現するために、あらためてPPIの意義や好事例を紹介するとともに、現場で必要な知識やスキルに触れられるセミナーを開催しています。

本セミナーでは、実際に当事者として多くの委員会や検討会に出席されている方や、患者としての経験をもとにご自身の声を社会に届ける活動をしている方、また、患者・市民を中心とした医療の提供を目指す法律の制定に向けて活動されている方々をスピーカーとしてお招きします。豊富な経験をもつ方々から、ご自身の活動や、PPI活動の好事例・困難事例をお聞きし今後当事者が声を上げていくために必要な視点を提供していただきます。

NCDアライアンス・ジャパンでは、当アライアンスメンバー向けのセミナーを開催予定です。セミナーでは、PPIに必要な医療・政策に関する基礎知識の提供はもちろん、参加者同士がつながる場を提供したいと考えております。当セミナーが、既にもしくは将来患者・当事者委員になられる方々の不安や悩みを共有でき、より良いPPIを実現するためのプラットフォームの一部となるよう運営する予定です。

第1回「当事者の声を政策に反映させるために」(2021年12月7日)
阿真京子
(「子どもと医療」プロジェクト代表)

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