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【開催報告】イブニング・セミナー「遠隔医療・オンライン診療への期待-今後のあるべき姿-」(2018年9月26日)

【開催報告】イブニング・セミナー「遠隔医療・オンライン診療への期待-今後のあるべき姿-」(2018年9月26日)

持続可能な保健医療を実現するため、新たなテクノロジーやイノベーション(「ヘルステクノロジー」)を医療の現場の生産性向上やより効果的・効率的に医療制度設計に活かす動きが、世界各国で推進されています。我が国でも、医療ICT、特に遠隔医療・オンライン診療については今年の診療報酬改定において新たな評価項目が新設され、さらにはその適切な実施に関する指針が策定されました。また、今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太の方針2018)においても、服薬指導を含めたオンライン医療全体の充実に向けて、さらなる前進を目指すことが明記されました。こうした遠隔医療・オンライン診療を巡る大きな動きがある中、今後どのような形で国民に遠隔医療・オンライン診療が普及していくのか、その期待が急速に高まっています。

そこで、日本医療政策機構では、オンライン診療の導入事例報告およびディスカッションを通して、遠隔医療・オンライン診療の必要性とあるべき姿について議論を行いました。

■セミナー概要
日時:2018年9月26日(水)19:00-20:30
会場:大手町サンケイプラザ3階 301-302号室
主催: 特定非営利活動法人 日本医療政策機構
参加者: 医療従事者、学術関係者、患者団体、メディアなど(140 名程度)
プログラム: (敬称略・順不同)
19:00-19:05 開会の辞
     • 黒川 清(特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事)

19:05-19:35 オンライン診療事例報告
     • 小野 卓哉(医療法人社団 桃医会 小野内科診療所 院長)
     • 内田 直樹(医療法人すずらん会 たろうクリニック院長)

19:35-20:15 ディスカッション
     • 武藤 真祐(株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長 )
     • 長谷川 高志(一般社団法人日本遠隔医療学会常務理事)
     • 佐藤 大介(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター主任研究官 )
     • 市川 衛(日本放送協会 制作局 第1制作センター科学・環境番組部ディレクター)(モデレーター)

■オンライン診療事例報告の概要

  • 「オンライン診療を始めて、初めてわかる医療」
    小野 卓哉(医療法人社団 桃医会 小野内科診療所 院長)

現在私は、江東区で内科の診療にあたっており、患者は外国人を含めた幅広い年齢層を対象としている。2017年7月よりオンライン診療を導入した。クリニックに通院している慢性疾患を持つ患者は、定期受診が重要になるが、「忙しくて通えない」「体力的に通えない」などの理由があって脱落していく人もいる。こうした患者に対して、オンライン診療を導入することで、治療を継続することができる。また、患者にイベントが発生し通院が困難な場合においても、安易に在宅医療へ移行せず、一度オンライン診療を導入する方法もあり。通院-オンライン診療-在宅間を行き来できるようになる可能性もある。

オンライン診療を受ける患者または介護者には、血圧などのデータや日々の症状をインターネット上に毎日記録してもらうことで、通常の対面診療に比べ、患者自身も自らの血圧データ等を踏まえ、症状に関する質問や相談を考えたうえで診察に臨む可能性が高いと考えられる。私たち医師も患者さんの状況がデータや記録が詳細にわかる。このように患者の日々のデータを医師と共有できることは極めて重要であり、限られた診療時間を充実したものにできると思っている。単に通院の不便さを解消するだけではなく、患者は、健康管理に関する重要性も理解するようになってきた。当院では、筋ジストロフィーと2型糖尿病を併発している患者にオンライン診療を導入したが、本人、介護者の通院の負担を解消するだけでなく、定期的な診療が可能になり、ヘモグロビンA1cも改善している。この患者は疾患により内向的になっていたが、オンライン診療でのコミュニケーションには前向きで、いい結果につながっている。

対面診療ではカルテへの記入をしながら診察をすることになるが、オンライン診療では映像を通して患者の目を見ることを強く意識するようになるため、心身ともに患者に向き合うことができ、患者の日々の生活も含めたより一層広い範囲のコミュニケーションを取ることができるようになった。オンライン診療を行うために私たちも「問診力」を鍛える必要がある。

  • 「訪問診療における有効性」
    内田 直樹(医療法人すずらん会 たろうクリニック院長)

私は、福岡市の強化型在宅療養支援診療所に勤務しており、看取りを積極的に行っている。対象患者の多くは認知症高齢者で、介護保険を利用している。オンライン診療は、物忘れ外来の患者の治療に導入したいと考えていたが、福岡市が推進する「福岡100」事業の一環で導入した。

当院では、2017年8月にオンライン診療をはじめて導入した。2016年9月に初診を行った中等度アルツハイマー型認知症に悪性リンパ腫と糖尿病を併せ持つ患者で、悪性リンパ腫が原因で余命2ヶ月と予測されたため、通院が難しくなり在宅医療に切り替えた。そこでオンライン診療を導入し、疼痛のコントロールや画像診断を行っていた。オンライン診療では痙攣の種類も確認することができた。このように患者の様子を細かく確認できることから、オンライン診療を導入したことで看取りの時期を素早く判断し、患者家族に伝えることが可能となり、同居していない親族も看取りの場に立ち会うことができた。導入当初はスマートフォンを通じての診療に不安を覚えていた同居の家族も、オンライン診療によって緊急時も含めて、医師に連絡しやすくなったとその効果を実感してくださった。

これまでも在宅医療においては、電話による診療を行っていたが、電話で患者の状態を聞いても判断が難しいケースも多かった。また、患者にとっても電話よりオンライン診療を通しての診療の方が納得でき、医師からの「大丈夫ですよ」という言葉によって安心できるという点では、患者が感じる「安心の質」を上げることができていると思う。さらに訪問診療の現場では、一日のスケジュールを綿密に組んでいるため、緊急対応が入ることは医師をはじめ現場のスタッフにとって大きな負担になりやすい。緊急対応をオンライン診療で実施できれば、医師側の負担も減らすことができる。

しかし、オンライン診療を円滑に行う前提として、医師・患者間の信頼関係が重要であり、まさに信頼関係の上にオンライン診療が成り立っていると思っている。また、患者もしくは介護者の両者ともスマートフォンを使えない場合にはオンライン診療の実施は難しく、さらには診療報酬が低く抑えられていることも導入のネックになっているのではないかと感じている。さまざまな制約がある中、現時点では、対面診療を完全に代替えすることは難しいと思っているが、現場で実証してみて、オンライン診療で診療の質を上げることができていると思っている。

■ディスカッション
     • 武藤 真祐(株式会社インテグリティ・ヘルスケア代表取締役会長 )
     • 長谷川 高志(一般社団法人日本遠隔医療学会常務理事)
     • 佐藤 大介(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター主任研究官 )
     • 市川 衛(日本放送協会 制作局 第1制作センター科学・環境番組部ディレクター)(モデレーター)


議論のポイント

    遠隔医療・オンライン診療の日本の中での位置づけについて
• オンライン診療を通じて、医療者は、患者の日常生活データを取ることができ、生活習慣病の早期発見・早期介入が可能になったことで、患者の行動変容を促すことができるようになった。患者の日常生活データが蓄積されることで、今後は、プレシジョンメディスン、つまり個人にとって最適な医療・介護サービスの提供にどのようにつなげていくのかを考えていく必要がある。
• オンライン診療は、医師の偏在、医師の働き方改革などの課題解決ツールとして位置づけられており、厚生労働省だけではなく、経済産業省、総務省など関係省庁が一致団結して進めている。
• 20年前の遠隔医療は、テレビ電話であれその場で診断をしなくてはならなかった。こうした時代を経て、現在のオンライン診療は、画面を通じた診察だけではなく、時代とともに変化してきた日本の医療や医療制度に順応し、慢性疾患における症状のコントロールなどのために活用されているという点は大きな変化である。
• 2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」などの項目が新設され、各地で導入が進んでいる。オンライン診療が実際に、疾患の重度化を防止し、生活の質を高めていくことができる実証例が生まれている。

    遠隔医療・オンライン診療の普及について
• 自由診療ではなく、公的保険が適用される医療として広まっていくべきである。オンライン診療は、医療のICT化を促進することで、かかりつけ医機能をより強化し、結果として医療の質を向上させながら、患者の満足度と医師側の負担軽減をめざすものである。
• 医師偏在の対策として医療機関の2か所管理が可能となったことから、必ずしも診療所に常勤医がいなくても医師が診療所に来る日に適宜対面診療を組み合わせながらオンライン診療を有効活用することで、地域包括ケアシステムの中の一部として、地域で提供される医療の質を担保することができる可能性がある。
• オンライン診療においては、ユーザーである医師と患者の視点を重視し、誰もが使いやすいシステムを構築すべきである。
オンライン診療の利用が有効であると考えられるユーザーは3タイプと想定している
(1) 諸事情により定期的に通院できない患者
(2) 引っ越しによる主治医の変更が望ましくない患者
(3) フレイル等で通院が困難である患者(介護負担を軽減し、介護離職を減少)

     遠隔医療・オンライン診療導入による医療者側のメリットについて
• 患者の日常計測によるデータ(生体情報など)が診療前に把握でき、医療の質の向上につながる。
• 患者の疾患にあわせて利用可能な必要情報(最新の診療ガイドラインや薬の情報)を画面上で見ることができる。
• 患者の所在地まで毎回移動する必要がなくなるため、移動による時間と身体の負担が軽減される。

    2018年度の診療報酬改定におけるオンライン診療の評価について
• 今回の改定では、オンライン診療によって医療の質をいかに担保するのかに重点を置いて政策を立案したこともあり、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、ガイドライン)による規制がやや厳しいように見えるかもしれない。しかし、オンライン診療を実施する上で最低限守るべきルールが整備され、今後は、オンライン診療の個別の運用についてどういった課題がありそれに対しどのような見直しが必要なのかを議論していくことになる。
• 診療報酬上にオンライン診療に関する項目が新設され、点数化されたことは大きな変化であり、今後はオンライン診療の普及状況に合わせてガイドラインも現実に即した形に変更すべきである。

    遠隔医療・オンライン診療によって提供される医療の質について
• 医療の質の担保という点でプロフェッショナルオートノミーは重要であるが、必ずしもそれだけではない。日本のオンライン診療では、医療の質を担保するためにガイドラインを作成している。質を担保するためには、オンライン診療による事例を積み上げていくことでプロフェッショナルオートノミーだけによらない何らかの仕組みが重要である。また、日常的にオンライン診療を実施することにより国民の理解を促すこともできるだろう。

    遠隔医療・オンライン診療のアウトカム評価について
• 医療の質の定義自体が変化している中で、診療報酬請求データやレジストリデータなどのリアルワールドエビデンスを使うことで、オンライン診療のアウトカムに重点を置いた評価指標を検討することが重要である。例えば、イギリスは国全体のオンライン診療の臨床試験データベースを保有し、研究を進めている。
• この場合のアウトカムとは、ICTやオンライン診療を利用することで、生活の質を改善することである。評価指標として、糖尿病患者のヘモグロビンA1cの変化などがあげられているが、生活の質の向上が直接的に示すことができるような数値化された評価指標が必要とされている。
• オンライン診療をはじめとした医療のICT化のアウトカムとしては、(1)クリニカルアウトカム(2)経済合理性(3)在宅医療における患者満足度の3点がある。また、病院の救急医療や専門外来における疾病管理もオンライン診療の対象となりえる。そのため、オンライン診療は、使用する場面に応じて対象とする評価指標を変えていく必要がある。
• オンライン診療を導入することでこれまで対面で行ってきた治療によって、余命がどのくらい伸びたのかといった具体的なアウトカムを追い求めるだけではなく、患者の治療の継続率や疾患の発見から開始までの時間が短縮できたなど、遠隔医療やオンライン診療を利用した結果に基づくデータも考慮してアウトカムを考えるべきである。

       2025年における遠隔医療・オンライン診療の位置づけについて
• 医療のICT化のスピードは想像以上に早い。行政もこの動きに対応していることが今回、日本医療政策機構と医療ICT政策研究会(HITEC: Healthcare Innovation with TeleCommunication)が産官学民のマルチステークホルダーに対して実施したオンライン診療に関するインタビュー調査により分かった。7年後の2025年は診療報酬・介護報酬の同時改定が2018年同様に行われる。地域医療構想や地域包括ケアシステム構築に向けた検討の過程で、遠隔医療・オンライン診療をどのように現場に適した形で組み込み、そして評価するか考えていく必要がある。

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