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【開催報告】第2回HGPI代表理事対談セッション「患者報告アウトカム尺度(PROMs)から考える、参加型政策立案の可能性 ー皮膚疾患における患者指標の紹介」(2025年7月16日)

【開催報告】第2回HGPI代表理事対談セッション「患者報告アウトカム尺度(PROMs)から考える、参加型政策立案の可能性 ー皮膚疾患における患者指標の紹介」(2025年7月16日)

本セミナーシリーズは、日本および世界のヘルスケア・医療政策における重要課題に対して、開かれた議論の場を提供することを目的として企画されました。各回においては、ヘルスケアを取り巻くグローバルリーダーを講師としてお招きし、特定のテーマに関するご講演をいただくとともに、当機構代表理事との対談を行います。

第2回は、グローバル・スキン(GlobalSkin)の執行責任者であるアリソン・フィッツジェラルド氏をお迎えし、「皮膚疾患に対する世界的な評価と理解の変革」を主題にご講演いただきました。講演後には、日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)代表理事・事務局長の乗竹亮治と対談を実施し、医療政策の意思決定において患者の声を反映させることの重要性について、多角的な視点から活発な意見交換が行われました。


<POINTS>

  • 患者の声を政策に反映させることは、当事者に寄り添った政策を立案するうえで重要である一方、個人の経験を包括的な政策に反映することは簡単ではない。
  • GlobalSkinの活動は、定性的データとして扱われてきた精神面への影響などを定量的データとして比較可能な形にしたことで、政策立案者や医療従事者が活用しやすくなった特徴を持つ。
  • 定量的データの有効性を理解促進と、臨床や研究、治験などの現場で活用により、Globalskinの活動の重要性が社会全体に広く認識されることを期待する。

 

■動画(英語のみ)

 


GlobalSkinにおける皮膚疾患症状の評価指標開発

生活への影響に着目した尺度PRIDDスケールの開発主導による、皮膚疾患症状が引き起こす生活困難度の理解促進と個別化診療の実現

医療政策の立案において、患者の経験や声は、患者に寄り添った政策の実現に重要である。一方で、このような定性的な情報は、個人の経験に基づいていることが多く、多様な意見を取り入れることが難しい。GlobalSkinは、個人の一意見となりやすい多種多様な皮膚疾患症状が患者に与える影響を定量的に捉えるため、患者報告指標であるPRIDD(Patient Reported Impact of Dermatology Diseases)を開発した。

PRIDDは、皮膚疾患が患者に与える影響を、特に生活面に着目して多面的に評価する尺度である。「身体的健康」、「精神的健康」、「社会的影響」、「人生の責任(経済的影響を含む)」の4つのドメインに基づいて評価される。各ドメインには質問が設定されており、回答者は1項目を除いて、5段階(0(影響なし)から4(多大なる影響))で回答することで、生活への影響を客観的に捉えることができる。最大63点から成り、スコアが高いほど悪影響が大きいと評価されるため、専門的知識がなくても理解しやすく、かつ一定の基準をもった定量的データとして活用することもできる。また、総合スコアに加えてドメイン毎のスコアも産出されるため、患者が特にどの領域で困難を感じているかを可視化することもできる。

医療従事者がこれらのスコアを参照することで、他の患者との比較を可能とし、個人的な課題に寄り添った個別化医療が実現する。PRIDDは、皮膚疾患による影響を調査する国際プロジェクトであるGRIDD(Global Research Impact of Dermatology Diseases)において、2023年にはじめて患者を対象としたデータ収集を行い、これまでに90か国以上で80種類以上の皮膚疾患を対象に4000名以上の患者よりデータが集められている。

生活への影響を中心とした「心理的影響」「社会的影響」を含む、患者の実体験に即した指標として開発されたPRIDDは、患者の個別課題解に期待されている

PRIDDは、Dermatology Life Quality IndexやSkindexなど、これまで皮膚疾患領域で使われてきた指標とは異なり、質問項目の作成過程に患者が参画し、実測定においてもっとも重要な核を決定するデルファイプロセスを経ているため、現実的で経験に基づいたツールとなっていることが大きな特徴である。特に、皮膚疾患は、症状から引き起こされる生活への影響のほかに、見た目からくる誤解や偏見などが心理面に与える影響も大きい。そのため、多くの患者が強く訴える「心理的影響」が多くの項目に反映されている。これは、診療時には身体的症状の治療だけでなく、心理的側面とそれに関連する「社会的側面」を含む包括的な支援の提供を可能とする。

患者のアドボカシー活動への活用、意思決定の支援、病状管理や患者、臨床試験におけるアウトカム指標としての活用など、PRIDDには多様場面での活用が可能である。医療の本質である患者が個々に持つ課題解決に対して、質の高い患者報告アウトカム尺度(PROMs: Patient-reported outcome measures)を開発するための先進モデルとして、他の疾患領域からも期待されている。

■HGPI理事との議論

セッション後半では、アリソン・フィッツジェラルド氏と乗竹亮治による対談が行われ、医療従事者と患者コミュニティの橋渡し、データ収集の課題、ファンディングの確保について議論された。医療従事者でさえ、疾患や症状が患者の生活に与える影響を十分に理解できていない現状を踏まえ、GlobalSkinは患者が生活状況を伝えやすくするアプリを開発し、今後はその活用を医療現場に広げること展望があることが共有された。また、国際調査において取り組まれている言語・文化・倫理面の違いを乗り越える工夫や配慮についても意見が交わされた。医療・製薬業界からの支援により財政面が支えられてきたが、国際団体として各国の制度に対応しながら資金を確保する難しさも議論された。

 

【開催概要】

  • 登壇者:アリソン・フィッツジェラルド氏
  • 日時:2025年7月16日(水)
  • 形式:オンライン
  • 言語:英語

 

■登壇者プロフィール

アリソン・フィッツジェラルド氏(グローバル・スキン 執行責任者 )

アリソン・フィッツジェラルド氏は、皮膚疾患患者の国際的な声を医療政策に反映させることを目的とし、 GlobalSkinの執行責任者として、世界各国の患者団体と連携しながら活動を主導している。これまで、オタワ・フードバンクにおいてプログラム企画・戦略責任者、カナダ王立内科・外科医協会にて会員サービス部門のマネージャーを歴任した。
以前は、カナダ国防省において情報マネジメント関連プロジェクトの運営に携わったほか、個人がより環境に優しい行動を取るように促す、ワン・チェンジ(One Change)でキャンペーンマネージャーを務めたり、キリスト教青年会(YMCA: Young Men’s Christian Association)でシニアリージョナルマネージャーとして、設立当初の収益および会員数の目標を上回る成果を達成したりした。公共、非営利、医療分野を中心に、豊富なプロジェクトマネジメントの経験を有している。


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