活動報告 イベント

【開催報告】第78回定例朝食会「超高齢社会に向き合うファイナンシャル・ジェロントロジーの知恵」(2019年7月3日)

【開催報告】第78回定例朝食会「超高齢社会に向き合うファイナンシャル・ジェロントロジーの知恵」(2019年7月3日)

今回の定例朝食会では、駒村康平氏(慶應義塾大学 経済学部教授、慶應義塾大学経済研究所 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター センター長)をお迎えし、会場の皆様と一緒に超高齢社会に向き合うファイナンシャル・ジェロントロジーへの理解を深めました。

 

■金融庁WG報告書と公的年金制度のこれから
少子高齢化がより一層進むとされる今後の日本社会において、マクロ経済スライド(その時代の現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み)によって公的年金の給付水準は低下することが見込まれている。

諸外国の年金制度改革を見ても、財政的安定性の確保に加えて、低所得者の生活改善や労働者保護の改善といった包括的な対策を進めている。日本ではこれまで、主に財政的安定性の確保に取り組んでいるが、今後を見据えて低所得者の保護をしながらも、年金財政の安定化を目指して給付水準を下げるといった動きが必要になってくるであろう。

これまで老後の所得保障については、労働・金融・公的年金のいずれかを中心とする「一本足打法」であったが、これからは各々の状況に合わせて、労働・私的年金を含む金融・不動産資産・公的年金の最適な組み合わせを目指す「三本足打法」ともいえる姿を目指すべきと考える。

こうした状況を踏まえて今回の『金融庁金融審議会市場ワーキンググループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』では、若い世代が、老後を見据えて、少額投資非課税制度(NISA: Nippon Individual Saving Account)や個人型確定拠出年金(iDeCo: individual-type Defined Contribution pension plan)などを公的年金の補完的制度として活用するように普及啓発を進める必要があることを記している。さらには高齢期の資産形成を安心して行えるよう、手数料偏重であった金融商品をより顧客本位の在り方に変えることや高齢者の資産管理支援の拡充を目指すなど、金融商品・サービスの改革を進めることを提言した。

今後の展望として、公的年金制度改革だけでは年金財政の安定化を図ることはできない。上述の通り、低所得者の生活改善はもちろんのこと、在職老齢年金の制度改善や夫婦共働きがしやすい社会環境の整備など、働くことで収入が増え、何らかの事情で働けない場合も最低限の収入が得られる社会保障制度への転換が必要である。

一方で国民の側もNISA・IDeCoといった公的年金の補完となる制度への理解の促進をはじめとして金融リテラシーを高めることや、人生最後半における認知機能低下リスクへの対応が求められている。

 

■「ファイナンシャル・ジェロントロジー」と今後の在り方
ファイナンシャル・ジェロントロジーは、老年学、医学、脳神経科学の分野で蓄積されてきた知識・経験を経済・法律の分野に活かすことを目指している。これまで経済・金融の分野においては、個人ないし企業などの経済主体がみずからの行為を合理的に選択すると考えて様々な理論を設計してきた。しかしながら、高齢化に伴って認知機能が低下すると、想定されてきたような「合理的な人間像」に該当しないケースが出現する。こうした特性や高齢者の心理を踏まえた顧客本位の商品・サービスの提供や金融分野と介護・福祉分野の連携(金福連携)といった新たな領域の研究を進めていく。

2016年10月、慶應義塾大学は、経済学部・医学部精神神経科が主体となり、長寿・加齢が社会経済に与える影響について研究を進めるため、「ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター」を開設した。また2019年4月、認知機能が低下した人を社会がどのように包括していくのか、超高齢化社会におけるこれからの社会経済のあり方を考えるため「日本金融ジェロントロジー協会」を設立し、野村證券株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社と共同研究を開始した。

例えば高齢期になると、「勘定の支払い準備をする」機能が低下する傾向にあることが海外の研究で明らかになっている。また、年齢と金融資産の管理能力との関係や、認知能力と資産運用パフォーマンスの関係における調査においても加齢にともない客観的な判断能力の低下が確認されている。日本の研究では、運転技術や金融リテラシーに関する調査により、若い世代とともに高齢世代における自信過剰バイアスが生じていることも明らかになるなど、高齢期にはそれまでには見られなかった認知機能の低下や心理的変化が起こることも確認されている。

今後2025年には団塊の世代が75歳以上になる。認知症をはじめとして認知機能の低下を伴ってもできる限り自立した暮らしを続けることができるようにするには、金融商品・サービスがこうした高齢者に対してより開かれたものになるよう改革が急務である。

講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。

  

(写真:高橋 清)


■プロフィール
駒村 康平 氏
慶應義塾大学経済学部 教授、ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長、博士(経済学)、1995年慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
著書:「年金はどうなる」岩波書店、「最低所得保障」岩波書店、「日本の年金」(岩波書店)、「社会政策」(有斐閣)など
受賞:日本経済政策学会優秀論文賞、生活経済学会奨励賞、吉村賞、生活経済学会賞など
学会:日本経済政策学会副会長
主な公職:
2009-2012 厚生労働省顧問
2010-現在 社会保障審議会委員
2012-2013 社会保障制度改革国民会議委員
2018― 現在 金融庁金融審議会市場WG委員


<<【開催報告】第79回定例朝食会「医療システムの持続可能性とイノベーションの両立~患者の目からみた期待と不安~」(2019年8月20日)

【開催報告】第77回定例朝食会「NCDs(Non-communicable Diseases: 非感染性疾患)疾患横断の共通課題への理解促進に向けて」~2018年度市民社会のためのNCDグローバルフォーラムより~(2019年5月14日)>>

イベント一覧に戻る
PageTop