【開催報告】専門家会合「将来への投資~AMRから世界を救うために求められる投資家の役割」(2021年9月8日)
日付:2021年12月2日
タグ: AMR
AMR アライアンス・ジャパン(事務局:日本医療政策機構)とInvestor Action on AMRは、専門家会合「将来への投資~AMRから世界を救うために求められる投資家の役割」を共催いたしました。
感染症から人類を守るためには、抗菌薬が不可欠です。しかし、抗菌薬の使用量が増えるにつれ、感染症の原因となる微生物が抗菌薬に耐性を示し、治療は困難になります。このように、微生物に対して薬が効かなくなることを「薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)」といいます。AMR はある種自然発生的な過程ではありますが、それに輪を掛けて、人間の行動や企業の判断等に大きな影響を受けています。
AMR は本来治せるはずの感染症の治療を困難にしています。その結果、既に日本では年間 8,000 人が AMR感染症により亡くなっていると推定されており、これは交通事故による死亡者数の 2 倍に相当します。将来に目を向けると、高齢化が進む日本では AMR がますます重大な課題になると予想されます。例えば、年齢とともに尿路感染症などの感染症が増加することを考慮すると、総じて高齢者にとっては抗菌薬の必要性がさらに高まることが予想されます。AMR とは、既に今あるパンデミックなのです。早急に対策を講じなければ、日本における AMR の影響はさらに大きくなる一方でしょう。
AMR は日本以外でも大きな脅威となっています。高所得国でも低所得国でも、医療において患者を治療できるかどうかは、効果的な抗菌薬が容易に入手できるかどうかにかかっています。現在、AMR 感染症により世界で年間 70 万人が命を落としており、2050 年までには毎年 1,000 万人が亡くなると推定されています。
このような状況下で増大していく AMR の脅威に対処するためには、新規抗菌薬とワクチンが求められます。しかしながら、新規抗菌薬等の研究開発は限定的です。効果のある新規抗菌薬等が開発されなければ、AMR の発生や拡大のスピードに追い付けず、この戦いには敗北することになるでしょう。しかし、抗菌薬市場や製薬業界には課題も多く、抗菌薬の研究開発が阻害されています。このままの状態では、 AMR の拡大が進む一方かもしれません。
それだけではなく、実は世界的にも多くの抗菌薬が動物に対しても使用されています。そのほとんどは動物の治療目的ではなく、発育促進のために飼料に抗菌薬を混ぜるといったビジネスの目的です。このような動物への抗菌薬の過剰投与の影響は、人類の健康や持続可能な抗菌薬のサプライチェーンにまで派生します。
AMR は公衆衛生のみの課題ではありません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で私たちが経験しているように、感染症は経済にも深刻な影響を与えます。もし、世界がこのまま何も対策を講じなければ、2050 年までに AMR による世界経済の損失は 100 兆米ドルに達すると推計されており、これは、世界の GDP が 3.8%も減少することを意味しています。AMR は個人の行動では解決できない複雑な問題です。社会全体での対策が求められ、社会の一員としても投資家が果たす役割は非常に重要です。現在、AMR 対策の進展を妨げている要因の多くは、製薬、動物、農業分野における市場の課題に由来します。つまり、AMR は投資家の判断に影響を与え、そして、投資家の判断の影響を受けるということです。AMR は投資家にとっても重大なリスクとなりえます。投資家自身が自分たちの投資が AMR という課題にどのような影響を与えているかについて、慎重に検討することが求められます。その検討こそが、将来的に社会、経済、そしてポートフォリオの長期的な価値を守ることに繋がります。投資家、そして消費者の力は大きく、すでにファストフードチェーンや小売業者は、食品サプライチェーンにおける抗菌薬の使用を減らしています。投資家はこのような動向に注目し、先導していくことが望まれます。
本ラウンドテーブルでは、感染症、動物、医薬品、投資の各分野のステークホルダーが、AMR が投資にどのような影響を与えているかを検討し、AMR 対策を一歩前進させるために各分野で何ができるか、議論を深めました。
■概要
日時:2021年9月8日(水)
主催:AMRアライアンス・ジャパン(事務局:特定非営利活動法人 日本医療政策機構)、Investor Action on AMR
■プログラム:
開会の挨拶
Matt McEnany(AMRアライアンス・ジャパン シニアマネージャー)
基調講演1:拡大するAMRの脅威
舘田 一博(一般社団法人 日本感染症学会 前理事長/一般社団法人 日本臨床微生物学会 理事長/東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座 教授)
基調講演2:抗菌薬市場の課題―研究開発に対するインセンティブと安定供給
澤田 拓子(塩野義製薬株式会社 取締役副社長)
基調講演3:動物分野における抗菌薬使用―現状と今後の課題
浅井 鉄夫(岐阜大学大学院 連合獣医学研究科 教授)
基調講演4:投資チャレンジとしてのAMR
Maria Lettini(Executive Director, FAIRR Initiative)
基調講演5:EBRDのAMRへの取り組み
市川 伸子(Senior Environmental Advisor, The European Bank for Reconstruction and Development)
ラウンドテーブルディスカッション
パネリスト:
舘田 一博(前述)
澤田 拓子(前述)
浅井 鉄夫(前述)
Maria Lettini(前述)
市川 伸子(前述)
池畑 勇紀(Asset Management One Co.,Ltd)
川添 誠司(三井住友トラスト・アセットマネジメント)
宮尾 隆(野村アセットマネジメント)
黒川 清(特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事)
閉会の辞
黒川 清(前述)
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