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【開催報告】第39回特別朝食会「医療提供体制と地域医療」永井良三氏(2017年9月22日)

【開催報告】第39回特別朝食会「医療提供体制と地域医療」永井良三氏(2017年9月22日)

自治医科大学学長であり、当機構の理事でもある永井良三氏をお招きし、特別朝食会を開催いたしました。

■講演の概要

医療費の高騰や医師偏在など様々な医療システムが問題となっている。これらの問題に快刀乱麻の解決策はないと考えられる。日本の医療提供は米国の市場原理やヨーロッパの国家管理ではなく、当事者の協議で決められてきた。これによって現在の病床数や1病床当たりの医師・看護師の数が決まっている。これをどうバランスよく再配分するかは長年の政策課題であり、公共哲学的問題でもある。

 

2013年に公表された「社会保障国民会議報告書」には、病床機能分化やビッグデータの活用、医療職のタスクシフティングなど、今日の議論につながる多くの提言がなされた。これらは今年6月に公表された経済財政諮問会議「骨太の方針2017」にも色濃く反映されている。そのなかで、地域医療構想の実現が今後の重要課題となっている。

地域医療構想の実現に当たっては、医療費の地域差がクローズアップされることが多い。また、2018年度には都道府県が国民健康保険の財政責任を負うこともあり、地方自治体のガバナンスの強化と財政調整機能が求められる。医療費の議論においては、医療費の規模だけでなく、地域間の「ばらつき」にも注目しなくてはならない。入院医療費は県により2倍近い差があるが、その「ばらつき」の背景、すなわち合理的な理由に基づくのかを考えなければならない。

高齢者一人当りの医療費は、地域経済に占める医療介護費や高齢者の就業率など、地域の社会的状況と密接に関係する。したがって地域の医療費の問題を解決しようとすれば、地域の活性化にも真剣に取り組む必要がある。このため地域医療だけでなく、地域社会のリーダーとしても活躍できる医師の育成が期待される。

来年から新専門医制度が始まる。日本の医療界は「階層を作らない」ということを重視し、麻酔科以外は自由標榜としてきた。欧米は診療科を標榜するためには専門医を必要とする点で大きく異なっている。とくに米国は、医療の供給も市場原理で規定されており、専門医の数や配置も同様である。また欧米は外国人医師を受け入れている。これが困難な日本では、過度の専門分化により医療に隙間が生まれることが懸念される。

現在議論されている日本の専門医制度はいわゆる一階部分であり、競争原理に基づいたり、定数を定めたりするものではない。また日本の医師は、生涯の間に専門医から総合医へと変ることが多いため、専門医と総合医のダブルボード取得が可能な体制が求められる。実際、地域医療の現場では、総合医であっても特定の領域については対応できる必要がある。したがって少なくとも1つの専門領域を持ちながら総合医として活躍できることが重要である。こうした考えの下、自治医科大学は我が国の地域医療において大きな役割を果たしてきた。卒業生はへき地等で、活発にネットワークづくりを進めている。

看護師が行う処置の幅を広げる特定行為研修制度も最近の話題である。しかし受講には少なくとも半年を要し、経済的負担も大きい。そこで人材育成のための制度の活用が望まれる。各都道府県に設定されている地域医療介護総合確保基金や専門実践教育訓練給付金制度も人材育成に重要だが、残念ながら周知されていない。こうした情報を自治体と関係者が共有する必要がある。

なお地域医療の充実には、制度改革や医療補助に頼るだけでなく、地域における連携や情報共有、さらに思いやりの醸成が大切である。こうした文化的な面も含めて、多角的な取組みができる政策を求めたい。

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