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【開催報告】日本製薬工業協会Aging Group・HGPI共同シンポジウム「高齢化に伴う健康課題、認知症とがん」(2023年9月8日)

【開催報告】日本製薬工業協会Aging Group・HGPI共同シンポジウム「高齢化に伴う健康課題、認知症とがん」(2023年9月8日)

日本が健康で長生きをする人生を支える社会として成熟していくために何が求められているのかに注目し、高齢者に多いとされる認知症とがんに焦点を当てたシンポジウムを開催いたしました。基調講演とパネルディスカッションを通して、日本の健康寿命延伸に向けた気付きや備えのきっかけとなることをめざしました。

● 日 時: 2023年9月8日(金) 10:30-12:00
● 会 場: 日本橋ライフサイエンスハブ A会議室
● 主 催: 日本製薬工業協会(JPMA)
● 後 援: 日本医療政策機構(HGPI)


オープニング

日本製薬工業協会 常務理事
中川 祥子氏

日本は世界で最も平均寿命が長い国で、健康寿命の長さでも知られています。高齢化に伴う非感染性疾患の増加は世界の共通課題です。健康寿命の延伸について身近に考え、取り組みを発信していくことは、日本の使命ではないでしょうか。本日のシンポジウムでは、認知症とがん分野における第一人者の先生方によるご講演とパネルディスカッションを通じて「どうすれば健康寿命が延びるのか」を考えてみたいと思います。早期の気付きや備えのきっかけづくりとなり、健康寿命延伸の一助となることを祈念しております。

 


基調講演1 「アルツハイマー病の疾患修飾治療法の実現に向けて」

東京大学大学院医学系研究科 神経病理学分野 教授/国立精神・神経医療研究センター神経研究所 所長
岩坪 威氏

認知症の研究は昨今大きく進歩しています。認知症の中核をなすアルツハイマー病において、発症メカニズムに即した抗体薬(レカネマブ)がFDA(米食品医薬品局)の承認を受けるに至りました。アルツハイマー病は、脳の中でアミロイドβ(ベータ)というタンパク質が蓄積し、年月を経て神経細胞の脱落へと進むことにより、認知症としての症状が発現します。レカネマブは軽度の症状を持つ患者さんが対象で、アミロイドβの凝集体に結合し取り除く作用があります。臨床試験において臨床症状の悪化を27%抑制しました。一方、副作用として脳の軽い浮腫等も一部で確認されています。さらに、認知症進行への抑制効果を一層高めるため、症状発現前のさらに早い段階での予防的な治験が様々な研究施設で行われています。共生社会と研究開発の両輪駆動実現に向けて、研究開発における当事者視点や市民の参画などをさらに進めていきたいと考えています。

 


基調講演2 「高齢化におけるヘルスケアおよびがんへの取り組みの課題」

国立研究開発法人 国立がん研究センター 理事長
中釜 斉氏

日本における高齢者のがん患者数は増えており、がんによる死亡者も高齢者が多くなっています。2040年には65歳以上の割合が35%になると予測され、将来的にもがん医療は大きな課題を抱えています。今年4月から第4期がん対策推進基本計画が施行され、高齢者のがん医療対策の重要性が挙げられています。高齢者の特徴として、ステージが進行したがんの発見、合併症の併存が多いこと等があり、個人による平均余命の差も大きいと言えます。障害が残る可能性がある場合、積極的な治療を希望しない方も増え、高齢者患者の科学的エビデンスが揃わない状況もあり、医療提供では十分な議論と総合的な判断が重要です。検診においては加齢による不利益が大きくなることへの考慮も必要です。2021年には疾患横断的な予防に関する提言(https://www.ncc.go.jp/jp/icc/cohort/040/010/6NC_20210820.pdf)も出されており、がんの予防と同時に健康寿命を意識した対策が必要と思います。

 


パネルディスカッション 認知症やがんに対する社会全体での「備え」について考える

パネリスト:
岩坪 威氏中釜 斉氏鎌田 松代氏(公益社団法人 認知症の人と家族の会 代表理事)、扇屋 りん氏(厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課 がん対策推進官)

モデレーター:
栗田 駿一郎氏(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

栗田 認知症とがんは身近な症状/疾患で誰もが発症する可能性があります。高齢期の健康は個人だけでなく社会全体での大きな課題と認識されています。市民社会、病院や医療、また政策としてどのような向き合い方が求められますか。

鎌田 認知症施策推進大綱には「共生」と「予防」が基本的な考えとして挙げられています。これらを実現するためには認知症を知ることが大切です。当事者の方が支援者や仲間と繋がっていくことが重要だと思います。

扇屋 がん診断後には生活や治療上の意思決定などで不安があると思います。不安の解消には、まず何よりも正しい情報の取得と相談が大切です。国はがん情報サービスや拠点病院等でのサポート機能を整備しています。ぜひ広く利用していただきたいと思います。

岩坪 認知症の新しい治療法が出始めており、社会や医療界での準備が重要です。がんを併発する高齢者への治療機会も増えており、ニーズに適した医療提供の必要性を再認識しています。

中釜 がんは生存率、治癒率が非常に高まってきました。医療技術が進んだ一方、治療だけではなくサバイバーシップや心理的ケアの実装など社会生活に根差した取り組みや、健康リテラシーを高めていく必要があると思います。

栗田 病気に対する不安や誤解を解消し、早期治療を促し、社会生活の中で患者さんと共存するためには、市民社会、研究者、行政の連携した発信が非常に重要であると認識いたしました。

扇屋 がんとの地域共生社会を実現するため、仕事や学業との両立、患者と家族の療養生活の質の向上、高齢者への治療の研究など、国からも様々な分野での施策を打ってまいります。

鎌田 施策の検討や薬の研究開発といったところで、認知症当事者の参画を進めいてくことが重要と思います。

栗田 ありがとうございました。


 

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