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【開催報告】2023 G7広島サミットレガシーイベント「認知症を考える~共生社会とイノベーションを日本から~」(2023年5月28日)

【開催報告】2023 G7広島サミットレガシーイベント「認知症を考える~共生社会とイノベーションを日本から~」(2023年5月28日)

※英語字幕付きのアーカイブ動画を英語ページに公開しました(2023年12月26日)

日本医療政策機構は、2023年5月28日(日)に、2023 G7広島サミットレガシーイベント「認知症を考える~共生社会とイノベーションを日本から~」を、広島大学霞キャンパス校内にて開催いたしました。

当機構では、認知症をグローバルレベルの政策課題として特に重視し、政策シンクタンクとしてこれまでも様々な調査・提言活動を行ってきました。認知症に関する政策は、特に2013年にG8認知症サミットが英国で開催されてから、世界各国での取り組みが加速し、国や地域を超えた連携も進んでいます。日本においては、認知症施策推進大綱を起点に、認知症の本人や家族による発信、政策形成への参画など共生社会構築の観点において大きな進展がみられています。2013年のG8サミットから10年を迎えた2023年、日本がG7の議長国として国際的な諸課題についてリードする年を迎えました。

このタイミングを機に、G7サミットが開催される広島にて、改めて市民社会・研究者・産業界・行政などのマルチステークホルダーが集い、高齢化最先進国と言われる日本から認知症について議論する場を設けたく、本シンポジウムを企画いたしました。最近特に注目が高まっている認知症の原因疾患に対する治療法や予防法の開発、それらのイノベーションを実装するための医療提供体制のこれからの姿を考えることが必要です。さらには認知症の早期発見・診断・対応に繋げていくための、体制づくりやデジタルテクノロジーの利用に対しても大きな期待が高まっています。また、こうした新たな取り組みを社会に実装する際には、認知症の本人や家族のニーズや想いが重視されることが前提となります。

本シンポジウムでは、グローバルレベルの政策課題である「認知症」について、日本が国際社会をリードするために必要な「共生社会とイノベーション」の観点から、最新の取り組みや課題、今後の展望について、マルチステークホルダーで議論を深めました。

※字幕入りの動画(日英)は後日、本ウェブサイトにて掲載予定です。


■アーカイブ動画:2023 G7広島サミットレガシーイベント「認知症を考える~共生社会とイノベーションを日本から~」(3:32:44)

 

 

【開催概要】(順不同)

  • 日時:2023年5月28日(日)13:00-17:00
  • 会場:広島大学霞キャンパス 凌雲棟5F R501(広島市南区霞一丁目2番3号)
  • 形式:現地開催(ライブ配信なし)およびアーカイブ配信
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 主催:日本医療政策機構(HGPI)
  • 共催:認知症の人と家族の会/日本認知症国際交流プラットフォーム
  • 協力:広島大学
  • 協賛:Integra Japan株式会社、SOMPOホールディングス株式会社、国立大学法人 政策研究大学院大学 グローバルヘルス・イノベーション政策プログラム

 

【プログラム】(敬称略・五十音順)

13:00-13:10 開会の辞

黒川 清(日本医療政策機構 代表理事/広島大学 特別顧問/世界認知症審議会(WDC: World Dementia Council)委員・副議長 /政策研究大学院大学 名誉教授)

今後重要になってくるのは、認知症の診断である。認知症の程度や将来のリスクが可視化され予測できるようになることが重要である。例えば、動脈硬化のリスクはコレステロール値から予測できる。認知症のリスクが、簡便な検査によって予測することができれば、効果的な対策が可能である。科学者の研究は予測できないものであり、認知症についても専門外の人々からヒントが得られる可能性がある。日本では100歳以上の高齢者が9万人を超え、認知症の問題を自分事として考え、議論していくなかで、一般の人々の知恵からもヒントが見つかるかもしれない。そうした社会に期待したい。

 


13:10-14:00 パネルディスカッション1「日本の認知症国家戦略と国際社会への貢献~G7を振り返って」

パネリスト:

石井 伸弥(広島大学大学院医系科学研究科 共生社会医学講座 特任教授)

日本の認知症国家戦略と国際社会への貢献 G7を振り返って
G7長崎保険大臣会合コミュニケにも記載された「地域包括ケア」は、日本の優れた取組の1つといえる。その他にも、認知症サポーターの養成、認知症施策推進大綱(以下、大綱)と認知症バリアフリーの推進、日本認知症官民協議会などの様々な取組が進められるなか、大綱の進捗評価(令和4年)の結果から、今後は普及啓発・本人発信の支援が求められる。日本は、新オレンジプランや大綱といった国家戦略を継続的に策定し、認知症の取組を進めている。こうした流れを継続し、積極的に国際発信していくべきである。

鷲巣 典代(認知症の人と家族の会 理事)

「家族の会」の国際的な役割 ~C7での活動から~
認知症の人と家族の会(AAJ)は、国際アルツハイマー病協会(ADI)とともにG7広島サミットの公式エンゲージメントグループの1つであるCivil Society 7(C7)に参加。国際的な市民社会の立場を代表する世界中のNGOと連携して政策提言書を作成し、岸田首相に手渡した。その成果として、保健大臣宣言および首脳宣言には、高齢化・認知症に関する内容が明記された。AAJは今後、日本認知症国際交流プラットフォームの促進、WHO世界認知症行動計画(2017~2025)の推進協力4年間延長に向けて、双方向・多面的・重層的な国際交流を推進していく。

和田 幸典(厚生労働省老健局 認知症施策・地域介護推進課 認知症総合戦略企画官)

認知症と国際戦略 ~G7長崎保健大臣会合を振り返る~
G7広島サミットに先立ち開催されたG7長崎保健大臣会合では、「包摂性」と「リスク低減」をテーマに議論が行われた。そのコミュニケには、認知症および高齢化に関し、医療・介護連携、官民を含めたマルチステークホルダーによる協議の重要性とともに、認知症の予防、リスク軽減、早期発見、診断、治療を含めたトータルパッケージで健康アウトカムを改善するための研究開発の必要性が指摘されている。同時に、アルツハイマー病以外の認知症の存在が明示されていることに注目すべきである。

モデレーター:

栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

 


14:00-14:20 基調講演「認知症をめぐるイノベーションの現状と今後の展望」

岩坪 威(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 神経病理学分野 教授/日本認知症学会 理事長)

アルツハイマー病(AD)疾患修飾薬への期待が高まるなか、J-ADNI 研究によって、ADの早期段階にあたる軽度認知障害(MCI)の症状や進行速度の変化が測定可能となった。アミロイドPETの検査全国体制も確立し、AD疾患修飾薬のグローバル治験が日本でも実施可能となっている。さらにJ-TRCの治験即応コホート構築により、プレクリニカル期ADにおける超早期の治療・予防が射程に入った。血液バイオマーカー(Aβ42,リン酸化タウなど)の導入で、PETによる精査の効率化も期待される。こうして、当事者・家族、国民の期待にこたえる疾患修飾薬の実用化が現実になりつつある。

 


14:25-15:35 パネルディスカッション2「認知症治療におけるイノベーションと今後の医療提供体制」

パネリスト:

天野 純子(広島県医師会 常任理事)

「認知症治療におけるイノベーションと今後の医療提供体制」~広島における取組~
広島県・広島市・広島大学・広島県医師会で構成される広島県地域対策協議会では、認知症対策専門委員会を設置している。今年度は、①認知症対応の質の向上を目的とした学習・研修プログラムの開発、②山間部や離島における認知症支援システムの確立、③若年性認知症の実態調査、に多職種が連携して取り組んでいる。広島県医師会では、年に1回「かかりつけ医認知症対応力向上研修」を実施し、認知症診療の質の確保を心掛けている。とくに「かかりつけ医」(オレンジドクター)、「認知症サポート医」「認知症疾患医療センター」の連携システムが重要と考えている。

粟田 主一(東京都健康長寿医療センター研究所 認知症未来社会創造センター センター長)

認知症治療におけるイノベーションと今後の医療提供体制
国及び都道府県・指定都市には、「早期AD診断機関」と「疾患修飾療法(DMT)実施機関」を確保し、既存の医療介護サービス提供体制に組み込む責務がある。認知症疾患医療センターには、そのアクセシビリティを確保する責務がある。今後、独居の認知症高齢者が急速に増加していくなかで、都市部や島しょ部など、それぞれの地域でアクセシビリティを高める環境づくりを進めていかなければならない。DMTの適用か否かを問わず、「認知症になっても安心して暮らせる社会」の実現に向けて、認知症の人を支援する制度を充実させることが大切である。

井原 涼子(東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 医長)

認知症治療におけるイノベーションと今後の医療提供体制 ―診療におけるバイオマーカーの利用を中心に
日本で承認申請中のAD疾患修飾薬が適用となるのは、バイオマーカー検査(アミロイドPET、脳脊髄液検査)で特定の分子病態が確認された症例のみである。しかし、バイオマーカー検査のアクセスには地域格差があり、陽性/陰性判定には一定のトレーニングを要する。また、頻回のMRI撮像や投与ブースを確保するためには、地域単位での専門医療機関と投与機関との役割分担・連携が望まれる。患者・家族、地域のかかりつけ医、地域の専門医療機関、それぞれの役割に合った教育・啓発も求められる。

川井 元晴(認知症の人と家族の会 理事・山口県支部代表世話人/脳神経筋センター よしみず病院 副院長)

新薬への期待と医療提供体制の課題
疾患修飾薬は、当事者・家族の多くが期待するように認知症を「治す薬」ではないものの、早期発見・早期治療に向けた画期的な進歩をもたらす。疾患修飾薬の投与対象となるには、①当事者が医療機関を受診し早期ADと診断されること、②アミロイドβ検査で陽性判定であること、といった要件がある。そのため、アミロイドPET検査をはじめとするアルツハイマー病診療の均てん化が必要となる。また、非アルツハイマー病や中等度以降の認知症を含め、共生社会を考慮した医療・ケアの早期介入と支援の継続が求められる。

岩坪 威(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 神経病理学分野 教授/日本認知症学会 理事長)

モデレーター:

石井 伸弥(広島大学大学院医系科学研究科 共生社会医学講座 特任教授)

 


―休憩―

 

15:50-16:50 パネルディスカッション3「認知症のリスク低減・早期発見とイノベーション」

パネリスト:

貴島 晴彦(大阪大学大学院 医学系研究科脳神経外科 教授/日本正常圧水頭症学会 副理事長)

特発性正常圧⽔頭症 ―⼿術でよくなる認知症―
手術で改善する認知症である特発性正常圧⽔頭症(iNPH)は、高齢者で頻度が高いものの、受診しているのは発症者全体の10%未満といわれる。歩行障害、認知障害、排尿障害を3徴とし、日本正常圧水頭症学会では、積極的なMRI検査を推奨している。MRIでiNPHが疑われ、タップテストで症状が改善する場合、シャント手術が有効である可能性が高い。

櫻井 孝(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 研究所長)

わが国の多因子介入研究(J-MINT)の進捗と社会実装に向けた取り組み
認知症予防を目指した多因子介入によるランダム化比較研究(J-MINT)は、新型コロナの緊急事態宣言に伴う介入中断、オンライン介入(対象地域)を経て介入が終了し、現在解析中である。J-MINT-社会実装モデルの横展開に向けた検証も進んでいる。認知症の予防法確立は避けられない課題であり、エビデンスに基づいたサービスの開発が求められる。同時に、全世代が認知症を正しく理解するための啓発活動を推進すべきである。

橋本 泰輔(経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長)

認知症イノベーションアライアンスワーキンググループにおける予防サービス市場の環境整備について
認知症イノベーションアライアンスワーキンググループでは、予防ソリューションの質の評価の在り方について検討し、認知症予防に関するサービス(薬物療法等を除く)を提供する事業者に対する提言を作成した。主な内容として、「効果検証の内容および結果」と「サービスの効果の謳い方」における整合の重要性、効果検証の際の適切な研究方法・指標設定の重要性等を指摘している。

村上 敬子(認知症の人と家族の会 広島県支部世話人代表)

家族の会の歩んだ42年
認知症の人と家族の会 広島県支部(発足当時の名称は「老人ぼけの人を支える家族の会」)は、1981年に介護家族5人で結成した。その後、働き盛り世代の認知症にいち早く着
目し、若年期認知症の本人・家族のつどいの場「陽溜まりの会」を2003年12月に発足。2007年2月に広島で開催した「若年期認知症サミット~本人と家族の困難と生きる道~」は各地から600人が参加し、全国で若年期認知症に取り組むきっかけとなった。広島県の認知症疾患医療センター(10カ所)には地域の世話人も運営委員と参加している。専門職をはじめさまざまな立場の皆さんと連携しながら、家族の会の活動を次世代に継続していきたい。

モデレーター:

栗田 駿一郎(日本医療政策機構 シニアマネージャー)

 


16:50-17:00 閉会の辞

田中 純子(広島大学 理事・副学長)

誰もが認知症になり得る現代において、日本では様々な先進的な取り組みが行われていることが今回のシンポジウムで明らかになった。認知症施策では、「共生」と「予防」の両方においてイノベーションが進展していることを改めて理解できた。超高齢化社会を迎える日本の取り組みには、将来への希望と無限の可能性が感じられる。広島大学は、G7広島サミットに関連して9つの行事を実施したが、その最後の企画として、世界に有意義なメッセージを発信できた。広島大学は、持続可能な発展を導く科学を実践する知の拠点として、「共生」と「予防」を目指した認知症への取り組みにも貢献していきたいと考えている。

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