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【開催報告】日本発のイノベーションに向けた認知症研究開発における産官学民の連携構築 キックオフ専門家会合「認知症疾患修飾薬の開発と普及に向けた課題と展望」(2021年7月12日)

【開催報告】日本発のイノベーションに向けた認知症研究開発における産官学民の連携構築 キックオフ専門家会合「認知症疾患修飾薬の開発と普及に向けた課題と展望」(2021年7月12日)

*****最終報告書を作成し、発表しました。(2021年10月22日)
詳しくは、当ページ下部のPDFファイルをご覧ください。

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日本医療政策機構(HGPI)では、非営利・独立の医療政策シンクタンクとして、認知症をグローバルレベルの医療政策課題と捉え、世界的な政策推進に向けて取り組みを重ねてまいりました。認知症政策の推進に向けたマルチステークホルダーの連携促進を基盤とし、「グローバルプラットフォームの構築」「当事者視点の重視」「政策課題の整理・発信」を柱として、多様なステークホルダーとの関係を深めながら、活動を行っています。

日本における認知症の人の数は、2012年時点で高齢者の15.0%にあたる462万人であり、2025年には約20%にあたる700万人となると推計されています。2019年6月に策定された認知症施策推進大綱では、認知症の発症や進行機序に関する研究や治療法等の開発、さらには研究開発を促進する基盤整備に関する施策も盛り込まれています。高齢化が進む我が国において、認知症の疾患修飾治療法(DMTs: Disease Modifying Therapies)の研究・開発や普及に向けた体制整備は、共生社会の構築と並ぶ喫緊の課題となっています。

認知症全体の約60%を占めるアルツハイマー型認知症(AD: Alzheimer‘s disease)の治療薬の開発における臨床試験の被検者リクルートに要する期間は、実際の試験期間の2倍から10倍に及ぶと報告されており、これは研究開発の大きな障壁となっていると考えられます。こうした課題に対して、2019年10月に運用が開始された薬剤治験対応コホート(J-TRC)は、認知症を持たない方の認知機能をモニターし、AD予防薬の治験参加者と研究者をつなぐプラットフォーム機能を果たしています。今後は、例えばがん領域で行われているような患者と研究者の連携によるコホートの整備など、他疾患の好事例を踏まえたさらなる体制整備が求められます。2021年3月までに臨床試験下にあるAD治療薬は国内外で28品目あり、1品目はアメリカ、日本、その他各国で、承認審査中となっており、世界初の認知症治療薬の上市への期待が高まっています。しかし、これらの新薬は高額かつ、適応される患者数も相当数に上ることが予想され、その保険収載は医療財政上の大きなチャレンジとなります。また処方にあたり、新薬の臨床適応基準に応じたスクリーニング体制の整備が必要となります。特に超早期の患者を対象とする場合には、標的となるバイオマーカーの検出や早期診断に向けた体制の拡充が不可欠であり、こうした領域にはデジタルテクノロジーの活用に大きな期待が寄せられています。研究開発の環境整備・促進と同時に、近い将来の上市が期待される新しいDMTsの臨床普及に向けた検討を進める必要があります。

こうした観点から、当機構 認知症政策プロジェクトでは、キックオフ専門家会合「認知症疾患修飾薬の開発と普及に向けた課題と展望」を開催し、認知症分野のDMTsの研究開発とその臨床普及に関する課題や今後必要な打ち手について、マルチステークホルダーの視点から議論を行いました。

 


<認知症領域における研究開発の今後の論点>

  • 研究開発成果の最大化に向けた「共生社会」の推進
    認知症に対する差別や偏見があることで、診断や治療を適切なタイミングで受けられない人がいれば、認知症の疾患修飾治療法(DMTs)が開発されても、本当に必要とする人たちにそれらを届けることができない。これは研究開発に認知症の本人や家族・ケアラーが参加する際も同様であり、差別や偏見が払拭されてこそ、研究開発への当事者参画も推進されると言える。現在日本においては「共生」と「予防」を車の両輪として掲げる認知症施策推進大綱の下で施策が推進されているが、研究開発の成果を最大化するためには、認知症と共に生きる社会の構築は前提条件として必要不可欠である。

 

  • 当事者を中心に据えた研究開発デザインの構築と研究への理解促進に向けたコミュニケーションの実施
    医学的効能のみに着目するのではなく、認知症の本人の「暮らしやすさ」や「QOLの向上」に寄与する当事者視点に立った研究の推進が必要である。例えば、英国では臨床研究の研究デザインであっても、策定段階から認知症の本人及び家族・ケアラーが研究へ参画し、当事者にとって優先度の高い研究を推進する仕組みが取られている。日本においても、諸外国や他領域での好事例を参考としながら、研究開発における当事者参画の推進に向けた議論が必要である。

    特に臨床試験の実施にあたっては、参加者のリクルートが重要である。日本でも、J-TRC(認知症予防薬の開発をめざす登録研究)が開始され、研究参加の仕組みが整備されつつある。今後さらに認知症の本人の参加を促進するために、アカデミアや行政が研究の目的や意義、期待される成果や参加者への影響・効果などを、分かりやすい言葉で社会や認知症の本人及び家族・ケアラーに対して発信することが求められる。加えて、研究に参加する認知症の本人や家族・ケアラーの心身への負担を理解し、配慮することも必要である。

 

  • 研究開発成果の社会実装を円滑に進めるための体制整備
    日本において、今後の認知症有病者数の増加は必至である。認知症の原因疾患に対する画期的なDMTsに対しては、社会実装を円滑に進めるために、その対象者の規模、社会や経済へのインパクトを考慮した上で、イノベーションを適切に評価する体制が必要であり、その評価方法について社会的合意が求められる。例えば、先般米国FDAで迅速承認(accelerated approval)された疾患修飾薬は、国内外の報道においてその薬価に注目が集まっている。イノベーションを適切に評価する上では、認知症の本人及び家族・ケアラーが議論に参画し、短期的なコストのみならず、中長期的に本人や家族・ケアラー、さらには社会・経済にもたらされるベネフィットも踏まえて検討されることが重要である。

    さらには精度の高い早期診断の体制構築も必要である。正確かつ簡便な診断技術が確立されれば、研究参加者の負担が軽減されるほか、臨床試験における対象者選定がこれまで以上に精緻化され、より個々の体質や特徴に合わせたDMTs開発が期待できる。DMTsの社会実装にはこうした診断体制の確立が必要不可欠であり、特に臨床症状での判断が難しいプレクリニカル期を対象としたDMTsの開発・普及を進める上では、健康診断や検診といった過程を通じて治療・介入対象者を特定する必要性が想定される。現在、従来の脳画像検査のさらなる進化に加えて、血液バイオマーカーやデジタルバイオマーカーに関する研究、加えてそれらを用いた診断技術の開発にも期待が寄せられる。こうした技術が実用化され、より正確かつ簡便な検査が可能となれば、公的な施策として健康診断や検診等へ導入することも可能となり、早期診断へのアクセス向上が期待される。

    また諸外国で実証された研究成果を取り入れ、日本で社会実装する取り組みも必要である。例えば、世界で初めて認知機能低下抑制効果を実証したフィンランドの高齢者の生活習慣への介入研究(FINGER Study: Finnish Geriatric intervention Study)は、現在日本でも社会実装プログラムが進められている。今後、認知症予防や症状の改善等のメカニズム解明に向けた基礎的な研究とともに、国際的に確立したエビデンスのある取り組みの社会実装に向けた研究も重要と考えられる。

 

  • マルチステークホルダーが集う研究推進プラットフォームによるグローバルな連携
    2013年に英国で開催されたG8認知症サミットでは、2025年を目標にDMTsの開発を目指すことが宣言され、そのために各国が研究資金の増加や研究開発に従事する専門家の増員を図ること、さらにはグローバルに研究データや結果、その他の情報を連携することが合意された。以降、世界的には認知症領域の研究開発へのモメンタムは高まっているが、依然としてがんなどの疾患に比べればその規模は小さいのが現状である。また2019年以降、COVID-19感染拡大により、感染症対策が喫緊の課題とされており、認知症への関心、官民の投資が停滞することが国際的にも危惧されている。

    こうした状況を打開すべく、認知症の本人及び家族・ケアラーを中心とした国内外における産官学民のステークホルダーが認知症研究開発の重要性を国際社会へ引き続き発信していくことが求められる。さらに、本シンポジウムの議論でも取り上げられた英国の「Join Dementia Research」のような、社会に対する発信や各ステークホルダーがもつ知見、データ、成功事例等を共有できるプラットフォームの構築が求められる。

 

■開催概要

  • 日時: 2021年7月12日(月)17:00-20:00
  • 会場: Zoomを使用したオンライン会議
  • 主催: 日本医療政策機構(HGPI)
  • 共催 東京大学医学部附属病院 早期・探索開発推進室、世界認知症審議会(WDC: The World Dementia Council)
  • 言語: 日本語及び英語(同時通訳有り)

 

■プログラム(敬称略)

17:00-17:05 開会・趣旨説明
 栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー)

17:05-17:25 基調講演1「日本における認知症研究開発施策の現状と展望」
 田中 稔久(厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課 認知症対策専門官/課長補佐)

17:25-17:55 基調講演2「アカデミアから見た認知症疾患修飾薬の開発と実装に向けた課題と展望」
 岩坪 威(東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻基礎神経医学講座 教授/東京大学医学部附属病院 早期・探索開発推進室 室長)

18:00-18:30 基調講演3「WDCの活動と認知症研究開発の国際的な促進に向けて」
 Lenny Shallcross(世界認知症審議会(WDC) Executive Director)

18:40-19:50 パネルディスカッション「認知症疾患修飾薬の開発と普及に向けた課題と展望」
パネリスト:
 鈴木 森夫(公益社団法人認知症の人と家族の会 代表理事)
 藤田 和子(一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ 代表理事)
 岩坪 威
 田中 稔久
 Fiona Carragher(英国アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Society)Director of Research and Influencing)

モデレーター:
 乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事/事務局長)

19:50-20:00 閉会の辞
 黒川 清(日本医療政策機構 代表理事/世界認知症審議会(WDC) 委員・副議長)

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