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【開催報告】第75回定例朝食会「認知症の人が希望を持って暮らせる社会の作り方-スコットランドから学ぶ認知症の人の権利擁護と社会のあるべき姿-」(2019年2月15日)

【開催報告】第75回定例朝食会「認知症の人が希望を持って暮らせる社会の作り方-スコットランドから学ぶ認知症の人の権利擁護と社会のあるべき姿-」(2019年2月15日)

日本を筆頭に世界各国では、長寿による高齢化が進み、我が国でも、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、地域包括ケアシステムの構築が求められています。認知症分野でも同様の認識の下、認知症になっても可能な限り住み慣れた地域の良い環境で暮らし続けるために、「認知症にやさしい地域づくり」が各地域で進められています。

特に認知症と診断されてから、医療・介護サービスが本格的に必要となるまでの期間は、本人や家族が認知症と共に生きる体制を整える大切な時間とされています。こうした診断直後の期間に、就労や社会参加の機会など社会の接点があることで、認知症の人が社会の一員としての役割を持ち続け、認知症と共に暮らしやすい環境をつくることができるとも期待されています。

こうした「認知症にやさしい地域づくり」の実現を世界で先駆けてきたアルツハイマースコットランドからピアソン・ジム氏(所属、以下参照)をお招きし、これまでの歩みや今後の取り組みについてご紹介いただきました。


■認知症の進行に応じた支援と支援モデルについて
アルツハイマースコットランドでは、認知症の進行に応じた柔軟な支援を重要と考えている。認知症の診断後、進行に合わせて「5 Pillar Model」「8 Pillar Model」「Advanced Dementia Practice Model」と3段階の支援モデルを構築し、実践している。

中でも、診断直後の認知症の人や家族に最適としているのが「5 Pillar Model」である。これは診断直後で、まだ踏み込んだケアを必要としない程度の認知症の人を対象にしたものである。このモデルでは、診断後に少しでも長く本人が望む環境下で自立して暮らせるようにする」ことを目指し、次の5つを主な柱としている。

・地域社会とのつながりの支援
・当事者相互の助け合い
・将来のケア、計画づくり
・病気を正しく理解し受け入れる
・将来の自己決定の計画づくり

この「5 Pillar Model」では、診断直後に認知症の人や家族が孤立することのないよう、地域社会とのつながりをサポートし、また今後の生活・人生設計の『伴走者』としての役割を果たす「リンクワーカー」が支援を行っている。

現在進行中の「第三次認知症国家戦略」では、認知症と診断されると無償でリンクワーカーの支援を1年間受けることができると明記されている。今後その期間はニーズに応じて1年超への延長が可能となる。一方で、サービスを提供するリンクワーカーの数が限られていることもあり、待機者の増加が課題となっている。

その後、認知症の進行にあわせて、中期以降については「8 Pillar Model」や「Advanced Dementia Practice Model」に則った、より専門的なサポートが提供されている。


■本人の声を聞くことの重要性

認知症にやさしい地域づくり進めるうえで特に重要なことは、認知症のご本人たちの声を聞くことだ。認知症と共に生きる人々が、地域で自立した生活を継続するためには、まず当事者である本人や彼らを支援する人々の声を聞いてこそ、多様なニーズを踏まえたサポートを提供できると考えているからだ。
さらには、スコットランドの各地で活動をしている認知症当事者ワーキンググループ(SDWG: Scottish Dementia Working Group)のメンバーや各地域のマルチステークホルダーと連携しながら、こうした声を集めていくことも重要である。
スコットランド全域において、地域レベルで取り組んでいくことで、当事者の声に基づいた支援、そして政策が実現可能となる。


■Charter of Rights

アルツハイマースコットランドが提供している、当事者中心の支援への道のりは決して容易なものではなかった。様々な関係者との議論、協力を経て今に至っている。スコットランドの認知症政策において、特に重要である「認知症と共に生きる人々に対する権利憲章(Charter of Rights for Dementia」」が議会で承認されたのは2009年のことであった。

これまで抱えてきた認知症の人の権利擁護に対する障壁は以下である
・認知症の性質上、本人たちの声やエンパワメントが欠如してきた
・医療モデル優位のパラダイムが続いてきた
・「認知症の人は何もできない」という否定的な認識が持たれてきた
・長年にわたって差別の対象となってきた
・これまでのケアやシステムで成果が上がらなかった

こうした状況を受けて、この権利憲章は目指しているものは以下である
・認知症の人々とその介護者が、どこに住んでいても、日常生活のあらゆる場面で権利を尊重されること
・認知症とより良く暮らすために、エンパワメントや様々な選択への主導権を与えること
・医療モデル優位の状況から、当事者中心の権利に基づく支援モデルへと変化させること
・医療、福祉、その他のサービスを提供する人々が、認知症の人々とその介護者権利を理解し尊重するようにすること

2009年のこの権利憲章が承認されたことで、2010年以降の認知症国家戦略の制定に対する大きな推進力となった。


■今後の展開について

2010年に始まったスコットランドの認知症国家戦略は、2013年に第二次戦略が制定され、2017年に第3期に移行している。現在の戦略が重点を置くのは、ある程度進行した認知症の方や家族へのケア、緩和ケア・終末期ケアなどである。また、データによる戦略や臨床研究のなどをより一層推進するとともに、これまで同様に当事者や地域の人々の声に耳を傾けることを政策の柱においている。また現在アルツハイマースコットランドでは、エジンバラ大学における認知症研究にも参加するなど、政策の推進にむけて、引き続き精力的に活動を続けている。

写真:高橋 清

 



■プロフィール
ピアソン・ジム氏(アルツハイマースコットランドの政策研究ディレクター)
現在、アルツハイマースコットランドの政策研究ディレクターとして、組織における公共政策開発、広報活動、および認知症研究への参画をリードしている。主要なステークホルダーと協力し、スコットランドの認知症国家戦略における各種施策が地域および個人レベルで確実に実施されるよう管理する役割を担っています。また認知症の人や介護者が、アルツハイマースコットランドや国に対して、効果的に当事者の声を届け、国や地域における政策、実践、研究に影響を与えることができるようにするために、国・地域レベルでのネットワークを支援している。さらに現在は、欧州横断の組織であるアルツハイマーヨーロッパのボードメンバーとしても活動している。

 

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