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【開催報告】抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム~抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策のさらなる推進を目指して~(2021年1月15日)

【開催報告】抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム~抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策のさらなる推進を目指して~(2021年1月15日)

AMR アライアンス・ジャパンは「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム~抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策のさらなる推進を目指して~」を開催いたしました。

AMR アライアンス・ジャパンでは、産学官民のマルチステークホルダーによる議論を通じて、このような政策的な取り組みを後押しし、抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策を含むAMR対策の推進を目指してまいります。

本フォーラムの議論をもとに、「AMRアライアンス・ジャパン 抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム報告 ~抗菌薬サプライチェーンの強化策・安全保障の視点で問う~」をとりまとめました。詳しくは、本ページの末尾をご覧ください。

 なお、会議はコロナウィルス対策を鑑み、WEB会議システムを中心として、オンサイトで集まる場合は十分な距離を保って実施しました。

 

【開催概要】

日時:2021年1月15日(金)
主催:AMRアライアンス・ジャパン(事務局:特定非営利活動法人 日本医療政策機構)

 

プログラム】

趣旨説明

マット・マカナニ(AMRアライアンス・ジャパン/特定非営利活動法人 日本医療政策機構 シニアマネージャー)

講演「抗菌薬の安定供給について」

清田 (公益社団法人 日本化学療法学会 前理事長/厚生労働省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 座長)

パネルディスカッション「今後求められる打ち手と各セクターに求められる取組み」

座長 :
清田 浩(前掲)

パネリスト:
医薬品の安定確保を図るための取組(現状と今後の取組)
俊宏(厚生労働省 医政局 経済課長)

作業部会(WG)の進捗及び優先確保医薬品選定後の見通しについて
松本 哲哉(公益社団法人 日本化学療法学会 理事長/国際医療福祉大学 医学部 感染症学講座 主任教授/厚生労働省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 構成員)

基礎的抗菌薬セファゾリン供給の課題
島崎 (日医工株式会社 上席執行役員 信頼性保証本部長)

抗菌薬の品質要求・薬事規制の調和について
蛭田 (日本製薬団体連合会 品質委員会 前委員長/熊本保健科学大学 品質保証・精度管理学共同研究講座 特命教授)

薬価が抗菌薬製造の中国依存に及ぼす影響
澤田 拓子(塩野義製薬株式会社 取締役副社長)

AMRの観点からの抗菌薬の安定確保の重要性
上原 由紀(聖路加国際病院 臨床検査科・感染症科/日本感染症教育研究会(IDATEN) 代表世話人)

市民の視点で考える抗菌薬
阿真 京子(医療と子育て 代表/一般社団法人 日本医療受診支援研究機構 理事/一般社団法人 知ろう小児医療守ろう子ども達の会 元代表)

英国における医薬品の安定供給の取り組みについて
Diane Lloyd(駐日英国大使館 グローバル・チャレンジ副部長)

ファシリテーター:
柴田 倫人(AMR アライアンス・ジャパン事務局/特定非営利活動法人日本医療政策機構シニアアソシエイト)

閉会の辞

黒川 (特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事)

 

・・・

 

AMRアライアンス・ジャパン 「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム」報告

~抗菌薬サプライチェーンの強化策・安全保障の視点で問う~

 

2021年2月18日

 

2020年3月、厚生労働省医政局経済課は「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」(以下、「安定確保会議」)を立ち上げ、9月には同会議の取りまとめが公表された。また同年4月及び12月の政府臨時閣議において、海外依存度が高い医薬品原薬等の国内製造拠点の整備を支援することが決定し、補正予算に盛り込まれた。この重要な課題の次なる打ち手を検討するため、AMRアライアンス・ジャパンは2021年1月15日に「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム」を開催し、以下のとおり要点を取りまとめた。

  1. 抗菌薬の安定確保は各国における安全保障・危機管理上の問題である。抗菌薬を含む医薬品の供給不安の予防策・費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  2. 抗菌薬の供給不安は薬剤耐性(AMR)の拡大を助長する。
  3. 抗菌薬の安定供給のためには、既存の抗菌薬・新規の抗菌薬を問わず「人的資源、構造・設備等への資金投入」、及び「品質基準等の国際調和」が必要である。
  4. 抗菌薬の安定確保のために国としての踏み込んだ関与が必要である。そのためにも、市民への情報提供や市民の理解を得ることが必要である。
  5. 抗菌薬の供給不安は世界共通の問題であり、国際協力は不可欠である。新規の抗菌薬の開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある。

 

詳細は下記の通り 

  1. 抗菌薬の安定確保は各国における安全保障・危機管理上の問題である。抗菌薬を含む医薬品の供給不安の予防策・費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  • 公衆衛生は安全保障・危機管理上の問題である。2019年、重要な抗菌薬(以下、「Key Drug」)であるセファゾリンの供給停止及び代替抗菌薬の供給不足が、感染症治療の治癒率の低下、副作用の増加、死亡率の上昇等を引き起こした。
  • セファゾリンをはじめとするKey Drugを確保するためには「適正な薬価」を維持する必要がある。

(Key Drug:ペニシリンG、アンピシリンナトリウム/スルバクタム、タゾバクタム/ピペラシリン、セファゾリン、セフメタゾール、セフトリアキソン、セフェピム、メロペネム、レボフロキサシン、バンコマイシン、スペクチノマイシン塩酸塩、メトロニダゾール、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、ファロペネムナトリウム、アズトレオナム、アミカシン硫酸塩、アモキシシリン水和物、セフジトレンピボキシル、ミノサイクリン塩酸塩、アジスロマイシン)

  • 安定確保会議の取りまとめは、医薬品の供給不安の予防策として、製造の複数ソース化、Key Materialの国内生産化等を提案している。その費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  • 安定確保会議ワーキンググループでは、医療上必要不可欠であり、汎用され、安定確保について特に配慮が必要な医薬品(以下、「安定確保医薬品」、58学会から提案された551成分)を、イ)対象疾患の重篤性、ロ)代替薬又は代替療法の有無、ハ)患者数、ニ)当該医薬品の製造/サプライチェーンの状況等(以下、「カテゴリ」)の各要素を勘案し、「最も優先して取組を行う安定確保医薬品」、「優先して取組を行う安定確保医薬品」、又は「安定確保医薬品」の3つに分類している。

 

  1. 抗菌薬の供給不安は薬剤耐性(AMR)の拡大を助長する。
  • 毎年、世界中で少なくとも約 70 万人もの人が薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)菌感染症により死亡していると考えられ、日本においても薬剤耐性菌による菌血症により年間約 8,000 人が死亡していることが推定されている。実際、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)のデータからも、ほとんどの医療機関が薬剤耐性菌を経験していることが明らかとなっている。
  • 抗菌薬と薬剤耐性菌の歴史は、抗菌薬に対する細菌の進化の歴史であり、「治療の対象となる細菌に適した抗菌薬を正しく使うことが極めて重要である」という認識が共有されてきた。すなわち、AMR対策の観点からは、抗菌薬の厳格な「適正使用」が求められる
  • 具体的には、AMRの拡大を回避するためには、体に害のない細菌は退治せず、病原菌だけに効く狭域スペクトラムの抗菌薬を使うことが重要である。セファゾリンは非常に優れた狭域スペクトラムの抗菌薬であるが、その供給停止によりセファゾリンの使用が困難となった。その結果、ある医療機関では、腸内細菌科細菌の第3世代セフェム系抗菌薬の感受性率は約20%低下し、短期間に薬剤耐性菌の増加が観察された。
  • 抗菌薬の供給不安は、本来の適切な使用に叶う抗菌薬の選択を不可能とし、結果として代替の抗菌薬による治療を医療現場に強いる結果を招くことから、長・短期的な「薬剤耐性菌の増加」や患者の「治療成功率の低下」をもたらす

 

  1. 抗菌薬の安定供給のためには、既存の抗菌薬・新規の抗菌薬を問わず「人的資源、構造・設備等への資金投入」、及び「品質基準等の国際調和」が必要である。
  • 抗菌薬の厳格な製造管理・品質管理基準へ対応するための人的資源、構造・設備等を整えることが、Key Drugを安定的に供給するための必須条件である。
  • 既存又は新規のペニシリン系及びセフェム系抗菌薬の製造にかかる課題として、「中国寡占の状態(核となる原料:6-アミノペニシラン酸又は7-アミノセファロスポラン酸)」、「生産撤退(核以外の原料)」及び「製薬企業3社のみによる国内製造(原薬)」がある。国内に抗菌薬原薬の生産体制を構築するためには、5年の時間と600億円の資金に加え、海外と比較した場合の人件費及びスケール格差による35倍の輸入原薬コストを賄う施策(原薬の買取りを含む)が必要となる。
  • さらに、進化し続ける薬剤耐性菌を治療できる新規の抗菌薬の継続的な市場投入も望まれることから、「薬価」にかかる施策等、市場活性化を促す制度が必要である。
  • 抗菌薬の安定供給上の課題として、日本の医薬品原薬等のバイイングパワーの弱さが存在する。日本のバイイングパワーを強化するためには、日本の医薬品の規格基準書である「日本薬局方」と「欧州薬局方」及び「米国薬局方」との調和を強力に進める必要がある。また、異物や色等の「上乗せ規格」の見直し、原薬の製造方法等に関する情報を含む「原薬等登録原簿」の記載事項の見直し(英語記載の許容を含む)等についても、欧米との調和を進め、日本市場の魅力を高める必要がある。

 

  1. 抗菌薬の安定確保のために国としての踏み込んだ関与が必要である。そのためにも、市民への情報提供や市民の理解を得ることが必要である。
  • 医療用医薬品の安定確保の責務は、一義的には当該医薬品の製造販売業者に存在する。一方、医療現場において重要な医薬品については、国としてのより踏み込んだ関与が必要である。安定確保医薬品については、カテゴリを考慮しつつ、(1)供給不安を予防するための取組み、(2)供給不安の兆候をいち早く捕捉し早期対応に繋げるための取組み、(3)実際に供給不安になった際の対応を順次進める必要がある。
  • 「供給不安を予防するための取組み」として、製造工程の把握、供給継続の要請・製造の複数ソース化等の推進(カテゴリを考慮し国も支援検討)、及び薬価上の措置を推進する必要がある。「供給不安の兆候をいち早く捕捉し早期対応に繋げるための取組み」として、各社でのリスク評価、及び供給不安事案の報告を実施する必要がある。「実際に供給不安になった際の対応」として、増産・出荷調整等、迅速な承認審査、及び安定確保スキームが求められる。
  • 抗菌薬の「薬価」について、医療上必要な医薬品の薬価が高くなることは市民に受け入れられる
  • 抗菌薬の品質」について、特別な品質(実質的な質の担保に繋がらず手続きが煩雑になるだけの品質)を求めないことは市民に受け入れられる
  • 安定確保医薬品を3つに分類し優先順位を付ける方針は市民に受け入れられるが、情報を市民に届け、理解を得ることは必要である。また、少ない患者を対象とする医薬品でも、供給不安により混乱を生じる可能性があるため、個別の医薬品の特性への留意は必要である。医薬品の世界的な供給不安時のロジスティクスの支援策の検討も必要となる。

 

  1. 抗菌薬の供給不安は世界共通の問題であり、国際協力は不可欠である。新規の抗菌薬の開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある。
  • 低所得国・中所得国を中心に、毎年600万人近い人々が抗菌薬を使用できずに死亡している。2017年の中国の工場爆発事故によるタゾバクタム/ピペラシリンの3か月間の欠品は、英国において3000万ポンド(約42億7000万円)相当の損失を生じさせた。抗菌薬の供給不安が、健康へ悪影響を及ぼし、AMRの拡大にも繋がることは、世界共通の問題である。
  • 英国は2021年G7の議長国であり、「AMR」はG7保健大臣会合における優先事項の1つ。抗菌薬のサプライチェーンはグローバルの課題であり、英国にとって各国との協力は必須である。原料の製造からエンドユーザーである患者までのサプライチェーン全体を理解した上で、サプライチェーンの多重化を推進し、中国やインドへの抗菌薬製造上の過剰な依存を解消する必要がある。英国では、過去の効果的な抗菌薬の市場再導入、環境に配慮した製造方法等を奨励するとともに、償還制度を整備している。また、医薬品製造業者と原薬供給業者間の情報共有を促す方法を検討している。
  • 英国、日本を含むG7各国は、新しいタイプの抗菌薬が30年以上市場に提供されていないことを再認識し、開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある

以上

 

本書は、特定の登壇者の意見ではなく、本フォーラムの議論に基づき AMR アライアンス・ジャパン事務局(特定非営利活動法人 日本医療政策機構)が取り纏めた報告書である。

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