【開催報告】第62回定例朝食会「認知症にやさしい社会~今後の日本の認知症対策と各ステークホルダーの役割~」(2017年6月22日)

認知症フレンドシップクラブの理事である徳田雄人氏をお招きし、定例朝食会を開催いたしました。(司会:当機構 栗田駿一郎)
冒頭、当機構 事務局長の乗竹亮治より、当機構の認知症に関する研究「認知症研究における国際的な産官学の連携体制(PPP)のモデル構築と活用のための調査研究」の成果についてご報告いたしました。
■講演の概要
日本のみならず、世界中で認知症になる人が増えている。こうした状況によって起きる課題の本質は2つある。1つは認知症による認知機能の低下であり、もう1つが環境の変化であると考えられる。環境の変化とは、機械化の進展、ICTの普及、核家族化、地縁の衰退などによって、これまでの暮らしに不都合が生じてしまうことを指す。
本日のテーマである「認知症にやさしい」という言葉には、以下が含まれている。
1、よい医療・よいケア
2、専門職や地域住民の連携
3、認知症であってもなくても住みやすい町
また、「認知症にやさしい社会(Dementia-friendly Community) 」は、交通や金融、流通等の生活に関わるテーマをベースとする「テーマ型」アプローチと、個々の地域をベースとする「コミュニティ型」に分類できる。この2つを上手く組み合わせることがポイントだ。
認知症にやさしい社会を実現するための取り組みは、諸外国でも進んでいる。特にイギリスはその最先進国である。イギリス政府は認知症にやさしい社会を「認知症の人が、意欲や自信を持ち、積極的に活動に参加できる社会」と定義し、この実現に向けた取り組みを、国として進めている。また、英国アルツハイマー協会では、認知症にやさしい社会の登録・認定を推進している。この推進の代表的なプラットフォームが認知症アクション連盟(DAA: Dementia Action Alliance)であり、認知症の課題に関係する団体・企業・NPO等が加盟している。このプラットフォームに参加する地域コミュニティは、2013年ではイングランド全体の10%だったが、2017年には75%に増加した。各地域で、認知症当事者と交通機関、図書館、教会などが連携し、認知症にやさしい社会づくりを進めている。
一方、日本では「認知症にやさしい社会」についての明確な定義はない。地域によって異なるが、医療ケアのアプローチを超えて、認知症に伴う課題を、環境面(社会的・物理的)での要因から捉え、改善しようとする動きの総称として使われている。
国内外の情報を整理すると、認知症にやさしい社会づくりの目指すことは、複数の領域が存在することが分かる。代表的なものは以下の4つに分類される。
1、一般的意識(偏見の払拭)
2、行動変容(個人&職域)
3、社会資本(つながり・互助・ハブ機能)
4、社会的包摂(認知症の人の声の反映、社会参加、混ざり合い)
今後は、個別の領域の実現だけを目指すのではなく、4つの領域の実現をバランスよく組み込んだ取り組みが必要である。
また、取り組みを進めるにあたっては、さまざまなステークホルダーが連携することが必須である。例えば公共セクターは、リーダーシップを発揮し、医療介護福祉の分野を超えた生活への支援を進めるべきだ。ビジネスセクターは、CSRの枠を超え、本業に生かす必要がある。例えば、当事者が参加した商品サービスの開発や、業界ごとの取り組みのガイドライン策定等である。そして非営利セクターは、他のセクターと対等に協働可能な組織・ネットワークとしての自立が求められる。さらにアカデミアは、エビデンスの集積と、認知症にやさしい社会づくりに向けた活動を客観的に評価できる方法の開発・標準化を進めるべきである。

最後に、閉会の辞として当機構代表理事の黒川清より、ご挨拶をいたしました。黒川からは、「企業等の組織に属していても、自身のオフの時間の活用や企業の社会参画意識を高める等によって、社会をよくする活動にコミットすることは充分に可能であること、重要なのはひとりひとりがコミュニティ課題に向き合っていくことである」というコメントがありました。
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