【開催報告】第57回定例朝食会:『ボケてたまるか!~認知症早期治療を体験して~』
今回の朝食会では、2年前に軽度認知障害(MCI)と診断されながら、週刊朝日の編集委員として現在もジャーナリストとして最前線で活動をされている山本朋史さんをお招きして「ボケてたまるか!~認知症早期治療を体験して~」と題して講演いただきました。当日参加された方々から、「大変勇気づけられた」「自分ごととして考えられた」など、数多くのコメントをいただき、大変有意義な会となりました。
■スピーカー:山本朋史氏 (週刊朝日編集部 編集委員)
著書「ボケてたまるか! 62歳記者認知症早期治療実体験ルポ」は こちら
■日時:2016年3月8日
■場所:EGG JAPAN (東京 新丸の内ビルディング)
~講演内容要旨~(敬称略)
■軽度認知障害 (MCI)と診断されるまで、そしてその後
定年を迎えてから一年ぐらい経った頃、物忘れが増えてきた。自分が認知症になるわけがないと思っていたが、病院で診察を受けると「軽度認知障害(MCI)」と診断された。医師にMCIの人は何もしないと、4,5年で50パーセントが認知症になる、と言われた。診断された後、「今の状態を維持して、なんとか仕事を続けたい」という想いから、医師に薦められた「認知力アップ・デイケア」に参加することにした。デイケアに参加することで、これまで通り仕事を続けることが難しくなったが「同じ悩みを持つ人が多くいる。だからこそ仕事を続け、記事を書き続けてほしい」という上司の言葉もあり、デイケアに通いながらも仕事を続けることができた。
■ボケてたまるか!1日5時間に及ぶトレーニング
デイケアでは認知ゲーム、筋トレ、音楽療法、絵画等、様々なトレーニングを行ってきた。始めた当初は難しく感じていたが、他参加者の励ましもあり、徐々に慣れることができた。またMCIの症状が進んだことで痛みを感じにくく、筋肉も動かしにくい状態にあったが、トレーニングを続けたことで通常通り痛みを感じられるようになり、また自由自在に身体を動かせるようになった。これらのトレーニングを2年間続けてきたことで脳波・脳の血流は改善され、認知症リスクも軽減された。また思考も以前よりクリアで、仕事でのミスも減らすことができた。人間の脳細胞は何億個とあるが、私は人よりも多く壊れていっている。しかし、今まで使っていなかった脳細胞もたくさんあり、それを活性化させることで壊れた分を補うこと(代償作用)がトレーニングによってできるようになったと感じている。
■~認知症を防ぐために~
「睡眠」、「バランスの良い食事」、「ちょっと強めの筋トレ」そして早期治療の大切さ
認知症は年齢が上がれば発症率が上がる。65歳以上は4人に1人、90歳以上になれば10人に8人は認知症および認知症予備軍にとなると言われている。健常者から軽度認知障害(MCI)、認知症と、症状は段階を踏んで進行するが、一旦認知症になってしまうと元に戻れない。しかし、MCIの段階なら希望を捨てることはない。早めに対処をすれば7~40%の人が元に戻ることができると言われている。実際、早期治療を行って職場復帰した人もたくさんいる。残念ながら現在ある認知症薬は、進行を遅らせることはできるが、進行を止めることや、元に戻すことはできない。良い薬ができるまでは、認知症を防ぐために「睡眠」、「バランスの良い食事」、「ちょっと強めの筋トレ」を続けていくことが大事だと考えている。
今後はトレーニングを行いながら、仕事を続けていきたい。そして、早期治療によって進行を遅らせたり、元の状態に戻したりできるのだということを発信していきたいと思っている。
■Q&Aセッション
Q1:「自分は認知症かもしれない」と思っていても、実際に診断されるのが怖くて、検査に行きづらいと感じる人が多くいると思う。山本さんが物忘れ外来を実際受診されるまでの心のプロセスを教えていただきたい。
A1:私の場合も葛藤があったが、「仕事を続けたい」という気持ちが物忘れ外来受診に踏み切らせてのだと思う。仕事でダブルブッキングをするという出来事があり、このままでは仕事に支障をきたすと思ったためだ。しかし、すでに退職している人や主婦の人は病院に行きづらいという人もいると思う。講演をしていると、「家族をどうやって病院に連れていればいいのか分からない」という相談も多く受ける。一方で、年相応の物忘れだと診断される人が多いのも事実。物忘れ外来に対して、敷居が高いと感じなくても良いのではないかと思っている。
Q2:睡眠について教えていただきたい。
A2:新聞記者は不規則な生活で、睡眠時間も短かった。物忘れがひどくなったときは、うつ症状も相まって、眠れなかった。抗うつ剤と睡眠導入剤を服用していたが、医師に相談して服用していた睡眠導入剤をやめ、生活習慣を改善すると、最近では自然に眠れるようになった。生活習慣を改善すれば、睡眠導入剤なしでも良い睡眠がとれるようになると考えている。
Q3:MCIと診察されて、周りの人に変化はあったか。
A3:最初は、なかなか認知症予備軍と診断されたことは友人や同僚にも言えなかった。しかし、デイケアでは隠し事をせず、30人くらいのグループで励まし合いながらトレーニングをしていた。このことが、症状の改善につながったと思う。
また周りに知ってもらったことで、自分のミスに関して他の人が寛容になってくれたし、励ましてくれるようになった。周りの人からのサポートがないと、前向きに治療するのはなかなか難しいのではないかと思う。
■40、50代の人へのメッセージ
私も55歳くらいまではただただ突っ走って、夜中まで外で飲んで深夜に帰るような生活が多かった。そういう生活を長く続けてもあまりいいことがないと、今になってわかってきた。生活習慣を早い段階で変えていれば、と思う。生活の合間で運動をしていくことで物忘れも減っていくと思う。健康な方でもトレーニングをすることが必要だと思う。最近物忘れが多いと、少しでも悩んでいる人はトレーニングをしてみてはどうだろうか。
■クロージング(黒川清)
年を取ってくると誰でも物忘れなどは起こってくる。まだデータはないが、認知症を防ぐために大事なのは、例えば絵を描く、書をやる等、脳に外界から刺激を与え、クリエイティブに使うことではないかと思う。MIT(マサチューセッツ工科大学)の学生を対象とした実験があるが、人の脳波は授業やテレビ等、受動的な行動では活性化しないようだ。どんどん自発的に頭を使うことが重要なのではないだろうか。
調査・提言ランキング
- 【政策提言】持続可能な社会のための気候と健康の融合:国が決定する貢献(NDC)にプラネタリーヘルスの視点を(2024年12月9日)
- 【調査報告】メンタルヘルスに関する世論調査(2022年8月12日)
- 【政策提言】保健医療分野における気候変動国家戦略(2024年6月26日)
- 【政策提言】肥満症対策推進プロジェクト2023「患者・市民・地域が参画し、協働する肥満症対策の実装を目指して」(2024年4月8日)
- 【調査報告】「働く女性の健康増進に関する調査2018(最終報告)」
- 【政策提言】環境と医療の融合で実現する持続可能な健康長寿社会~プラネタリーヘルスの視点を取り入れた第3期健康・医療戦略への提言~(2024年12月20日)
- 【調査報告】日本の看護職者を対象とした気候変動と健康に関する調査(最終報告)(2024年11月14日)
- 【政策提言】腎疾患対策推進プロジェクト2024「労働世代における慢性腎臓病(CKD)対策の強化にむけて」~健診スクリーニング、医療機関受診による早期発見、早期介入の重要性~(2024年10月28日)
- 【調査報告】「子どもを対象としたメンタルヘルス教育プログラムの構築と効果検証」報告書(2022年6月16日)
- 【政策提言】女性の健康推進プロジェクト「産官学民で考える社会課題としての更年期女性の健康推進政策提言書」(2024年7月31日)
注目の投稿
-
2024-11-25
【申込受付中】(オンライン開催)第130回HGPIセミナー「難病法施行から10年『難病と社会を繋げる~メディアと当事者家族の視点から~』」(2025年1月28日)
-
2024-12-09
【政策提言】持続可能な社会のための気候と健康の融合:国が決定する貢献(NDC)にプラネタリーヘルスの視点を(2024年12月9日)
-
2024-12-12
【HGPI政策コラム】(No.51)-プラネタリーヘルスプロジェクトより-「第11回:日本の製薬業界におけるカーボンニュートラルの実現に向けた取組み」
-
2024-12-18
【政策提言】腎疾患対策推進プロジェクト2024「労働世代における慢性腎臓病(CKD)対策の強化にむけて」~健診スクリーニング、医療機関受診による早期発見、早期介入の重要性~(2024年10月28日)
-
2024-12-20
【政策提言】環境と医療の融合で実現する持続可能な健康長寿社会~プラネタリーヘルスの視点を取り入れた第3期健康・医療戦略への提言~(2024年12月20日)