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第24回朝食会「総選挙の総括と新政権の展望」

第24回朝食会「総選挙の総括と新政権の展望」
衆院総選挙の投開票直後の朝食会では、「総選挙の総括と新政権の展望」と題し、朝日新聞記者の岩﨑賢一氏と週刊東洋経済編集部の岡田広行氏にお越しいただきました。選挙結果の背景や要因の分析、新政権による医療政策の方向性、選挙の裏事情や新政権の構想、選挙後の与党の医療政策などについて伺いました。

坂野:本日は総選挙後ということで、民主党政権と医療政策をテーマに朝日新聞の岩﨑賢一氏と東洋経済新聞社の岡田広行氏にお話を伺います。まず岩﨑氏には政権交代を受け来年には参議院選挙を控えた大きな政治の流れについて、岡田氏には民主党のマニフェストの内容について解説をしていただきます。

岩﨑:ちょうど 9 月から紙面でも新政権になってどう変わっていくか特集していく予定でした。選挙前に「医師会は、自民党から民主党に舵をきっていくのか?」などの議論がありました。よく考えてほしいのは、前回の参議員選後、医師会などの団体は票に対する影響力を持っているかどうかで、これは懐疑的。今回は俗人的要素が大きく、こうした団体は投票行動にはそれほど大きく影響していないのではないでしょうか。確かに10~20 年前は公共事業が得票のポイントで、建設業者や宗教団体が影響していた。今、国民は暮らしの安心や社会保障の分野に関するマニフェストに関心があり、それも受けて各政党も社会保障に関する団体を巻き込むことがポイントになっています。

来年の参議院選までは、政策の光と影という意味では、光の入り口の部分が実行されていくのではないかと考えます。一方、医療現場で働く人や患者、国民が実感として利益をどれだけ享受できるかに関しては懐疑的。診療報酬のシステム改革も間に合わせるのは事実上難しいのではないか。可処分所得をどうにかしてほしいというのが、普通の一般の有権者の漠然とした感情であり、それを短期的にどう変えるのかもポイントです。

医師不足があり、自民党政権のころから医師の定員を増やしているが、医師が一人前になるのには10 年はかかります。さらに患者から医療へはフリーアクセスになっているが、医師は国家試験に受かれば自分の進路を基本的には自由に選択できます。そこの一定のプロフェッショナルフリーダムにある程度制限を加えなくては、各地方や各診療科、社会保険病院などに医師がまわらないのではないか。そういう点でも変化の実感を得るには今の民主党の政策ではすぐには難しいのではないか。

国民自身が自己負担を受け入れるなどして、医療が良くなったという実感が与えられなければ、参議院選でも勝てないだろうし、次回の衆議院選も勝てず、政権は保てないのでは。国民は短期的な視点でみる傾向があるので、メディアも含めもう少し長い目でみる必要があります。

参議院選挙後どうしていくのか、12 月までに国家戦略局の政策決定のプロセスがどうなるのかが注目されるが、個人的には、これまでの自民党の構図とあまり変わらないのではないかと考えています。官僚主導でなく政治主導といっている分だけやりやすくなるのかもしれませんが。

政治の世界は選挙で決まるので来年の参議院、次の衆議院にマニフェストの実現もかかっています。民主党が次の参議員選に勝つことをまず念頭にいれると、これから一年間は光と影では光の部分の政策にでてくるということになります。負担と給付のバランスという意味でも、負担の話は来年の参議院選挙後になるでしょう。またその時に政治が国民を説得し納得させられるかどうかに、日本の医療を変えていくことができるのかどうかがかかってくると思います。

坂野:政権交代から来年の参議員選挙までの大きな流れをお話いただきました。それでは具体的に何が参議員選までに実現され、何が先送りにされるのかについて、岡田氏にお話をお聞きします。

岡田:週刊東洋経済では、民主党のマニフェスト原型ができた2009年4月に、社会保障や農業、エネルギー、政策金融など民主党の諸政策の実現可能性について特集を組みました。私は特集で、医療・介護や年金などの社会保障分野についての検証記事を書きました。基本的な考え方は今も変わっていませんので、配布された記事コピーを後ほど参考にしてください。

今回のマニフェストに掲げられた諸政策の中では、医療政策に関する部分は、年金などほかの分野と比べて比較的理にかなった政策が多いのではないかと感じています。医療部分の政策の作成に関しては実務に精通した医師免許を持っている議員、たとえば足立信也参議院議員や梅村聡参議院議員などが中心になって作りました。医療提供体制に関しては、必要な政策が並んでいると考えます。

一方で、来年の参議院選挙後に取り組まざるを得ない、高齢者医療制度の改革に関しては、ほとんど白紙の状態です。民主党は中期的にはOECD 諸国の平均並みに医療費を増やすという方針を掲げていますが、必要な財源の規模などは書かれていません。マニフェストに書かれているのは来年の診療報酬の改定プラスアルファくらいまでの工程表のみ。ただ、あまり無理をせず、実現できそうなものからやっていくのは必ずしも悪くないともいえます。

民主の医療政策は国政選挙を重ねるごとに変化してきました。郵政選挙ではもっぱら、医療安全や医師免許の在り方など、医療の質の向上に関する政策を多く掲げていました。一方で医療費に関しては、老人医療費の適正化や社会的入院の是正による医療費の伸びの抑制などを掲げていた。2007 年の参院選で初めて医師不足の問題や産婦人科など個別の提供体制の問題などが取り上げられました。しかし2007 年の参院選では、医学部の定員の増員が掲げられた程度で、きわだった政策はありませんでした。

今回のマニフェストでは、国民が不安に感じている問題への対応を政策に取り入れている点に関しては非常に評価に値します。

民主党は今回のマニフェストで、医療の立て直しに9,000 億円、高齢者医療の改革に8,500億円を投じるとしています。前出の9,000 億の大半は来年の診療報酬の改定に使うと見られています。具体的には、大学病院や大手の病院を中心とした入院基本料や手術料の引き上げ、救急加算などを中心に二桁以上のプラス改定を検討しているようです。こうした方針が具体的に持ち上がった場合、新聞などは好意的に報じると思われます。

一方、日本の医療機関の多くを占める民間の病院、地域の診療所などに関する診療報酬は若干のプラス改定程度でとどまるのではないかと思われます。今回の選挙でも自主投票とする地域の医師会が目立ち、表だって民主党を支持した医師会はさほど多くありません。その割にはまずまずの票を開業医からも取ったともいえます。マニフェストでは開業医を刺激しないように注意深く書き方がされています。マニフェストの中では、社会保険病院の存続のための機構を作る準備、レセプトの義務化の見直しなどは進められていくでしょう。年間 2,200 億の社会保障費削減をやめることについても、当面であれば予算配分の見直しで対応できるのではないか。

一方、マニフェストに盛り込まれた政策が実現するだけでは、地域医療の再生につながるとは考えにくい。中長期的に医療を充実させていくためには抜本的な財源の拡充が必要であり、社会保障財源をどう確保していくかが明確にならなければ意味がありません。

民主党は年金制度に関して、全額を税財源で対応する最低保障年金の創設など、抜本改革を公約しています。しかし、最低保障年金の受給に所得制限を設けるとしても13 兆円程度が必要になるとされています。しかし、現在、消費税のうち、国の取り分は7 兆円しかなく、最低保障年金に必要な財源にはまったく足りません。また、現在、消費税は高齢者医療や介護への国庫負担として充当されていますが、もし消費税全額を年金に投じた場合、医療や介護の財源が枯渇するという問題に直面します。つまり、医療や介護の充実は、民主党が掲げてきた年金政策をどう見直すかという問題と深くかかわることになります。

民主党は後期高齢者医療制度を廃止し、制度間の不公平を是正し、将来は地域保険に一元化する考えを打ち出しています。しかし、保健制度の一元化は現実には難しいと思われます。財政調整の方法を通じて、高齢者(65 歳以上)の医療費を現役世代が負担していくという方法が現実的かつ望ましいのではないかと思います。また、総医療費の約5割は保険料で賄われていることから、保険料を適切に引き上げていくことが必要になります。

質疑応答
会場 社会保険病院の経営者の立場から発言します。最大の課題は後期高齢者医療制度であることには同意します。しかし、廃止したあと具体的にどうするかが課題。民主党の医療政策を占う点でそこが大事だと考えます。また医師数に関して、ただ医師がいなくなっているのではなく、社会保険病院の勤務医は増えているが、医師の増える病院と減る病院があります。一律に開業医にながれているという話にしてしまうのはよくない。医療機関の経営実態に合わせて新療報酬の改定も考えなければならないと思います。

岩崎:病院によって医師が増えるところと減っているところがあるというのは、その通りだと思います。

会場:後期高齢者医療制度廃止に関してメディアの見方はどうでしょうか?民主党は廃止すると言っていますが、野党として挙げたこぶしが下げられないのではないでしょうか。患者から困っているという声は聞きません。そうなると廃止するロジックがなりたたないのではないでしょうか?患者側としても廃止する必要があるという事例があれば教えてください。

岡田:後期高齢者医療制度では、低所得者に対して相当な保険料の軽減措置が行われています。また、前期高齢者である70~74 歳に関しては、窓口負担は当分の間、1 割負担にとどめられています。そうしたことから、負担感が大幅に増えたということはなく、後期高齢者医療制度だから医療を受けにくくなったという問題は今のところあまり起きていません。昨年の診療報酬の改定の中で、後期高齢者で脳卒中の長期入院患者に関する診療報酬が引き下げられるということがありましたが、まだ一部にとどまっています。ただし問題は、5 年から10 年先を考えたとき、高齢者医療の必要な医療費の財源をまかなえるのかどうかという問題が出てきます。問題は、将来にわたって、高齢者にとって必要な医療費を確保できるかという財源調達の問題につきるのではないかと思われます。

会場:今度の民主党の医療政策は、かつての自民党が関係団体に配慮することで、還元していた発想と変わっていないのではないでしょうか。医療者の方向を向いていてそのあと患者国民に還元するという発想。医者の擁護が多く、マニフェストのいい点は病院経営者や医療従事者にとってなのではという感じがしますが?

岡田:マニフェストでは、医療界や医師などに配慮する項目が並んでおり、医療提供者業界寄りではないかいう指摘はその通りだと思います。しかし、現実に医療が危機的状況にある中で、医療提供体制についてしっかりした対策を講じることは必要不可欠だと思います。これを支えないと中核的な病院や地域の病院が成り立たなくなります。ここ2~3 年は医師、看護師の労働条件の改善や病院経営の改善に資金を投じるべきだと考えます。

岩﨑:2005、6 年の医療制度改革では、医療の質の向上に焦点をあてていました。普通は医療の政策決定に影響力を与えることはできませんでしたが、発想の転換によってコミットしていった患者団体などもありました。今はまず医療崩壊を食い止めるというところで、質は2 番手になってしまうのか、両輪になるのかは分からないところ。

会場:予防医療に関して、特定健診・保険指導でしてきた準備があります。中長期的に考えて予防が大事ということがありましたが、まったくこの議論がなくなったことはどうお考えになりますか。

岡田:特定健診・特定保健指導において、メタボリックシンドロームに着目するのがいいのかどうかわかりません。しかし、民主党が同健診を廃止するというのであれば、後期高齢者医療制度の見直しとセットでなければならないと思います。いずれにしても、学識経験者の意見を踏まえたうえで、きちんと見直していくことが必要だと思います。

岩﨑:かなり政局論で動いているところが多く、岡田克也氏が政調会長の時と、小沢・鳩山氏の時とで、政策の打ち出し方が変わってきているのではないでしょうか。

坂野:非常に盛りだくさんの論点で、基本的なところが政権交代で変わってくるというところが感じていただけたのではないかと思います。

日本医療政策機構 代表理事
黒川 清

タイムリーにお二人にきていただいてよかったと思います。今回衆議院選で何が起こったかというと、政権が変わったというのは民主主義の基本です。ビルエモットがガーディアンにも書いていますが、野党に政策運営能力がないのは当たり前、特に日本は自民党が50 年以上やってきたから。デモクラシーの根幹は政権をとった党がミスを犯した際にパニッシュすることが大事。そしてまた次の人たちにミスをさせるということを繰り返すのが民主主義とすると、始めて民主主義が機能したのです。
メディアの情報社会での役割はなにか?ということを考えなくてはいけませんが、皆が何を選択するのか?ということが、インターネットなどで、メディアを介さずに言えるようになったことは素晴らしい。
今回の政権交代のようなことを数回やっていくのが市民社会のプロセスです。これがまた自分たちのリアリティに戻ってきて自分たちに何ができるかということを政治を通して考える。国民一人一人、日本が本当のcivil society になる。興味がある人がこうして集まり、それぞれの立場でのプライオリティは何なのかを考えることが大事です。

申込締切日:2009-08-26

開催日:2009-09-03

■時間
07:45 受付開始
08:00 開始
09:00 終了予定

■参加費
賛助会員:1500円
一般・登録会員:3000円
学生:900円(学生証をご提示下さい)

■会場
WIRED CAFE(日本橋三井タワー2階)
銀座線・半蔵門線「三越前」駅A-7・A-8直結
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