(開催報告)社会的投資により認知症課題を解決する -G7認知症サミット後継イベント 民間サイドミーティング-
日付:2014年11月8日
2014年11月5-6日に日本政府が主催した「認知症サミット」日本後継イベントに合わせ、11月7日に当機構・OECD共催で民間セクターによるサイドミーティングを開催しました。
このイベントは、地球規模課題である認知症に対する民間主導の取り組みを加速させるキックオフ・イベントとして開催されたもので、国内外の企業・政府・NPO・メディアなどから約120名が出席致しました。
当日の会場の様子
本ミーティングは、まずマーク・ピアソン氏(OECD雇用労働社会政策局次長)から「OECDの高齢社会への貢献」と題したプレゼンテーションで幕を開けました。
“感情認識・表情認識ロボットであるPepperは、実は発表当初は高齢者を意識していたわけではなかった。しかし発表後に多くの高齢者からお手紙や問い合わせをいただいたのがきかっけで、Pepperが高齢者の方にも何かできるのではないかと考え、開発を進めている。デイケアセンターでのテストでは、高齢者の方にとても喜んでいただくことができた。今後は、認知症の方との対話、家族による見守り、予防のためのエクササイズとしてダンスをPepperと一緒にできないかなど、さまざまな可能性を考えていきたい。”
会場でPepperとふれあう参加者
“ホンダは戦後まもなく創業、ひとりひとりの「移動」に焦点を当て商品を開発してきた。我々がいつも考えているのは、こんな乗り物があったら楽しいだろうという「夢」の実現。たとえば「UNI-CUB」はハンドルもブレーキもアクセルもなく、行きたい方向に目を合わせればそちらへ進んでくれるという新たなパーソナルモビリティを実現する乗り物だ。今は、ホンダが認知症の方に直接役立てる製品はない。しかし、今の技術を発展させれば、認知症の当事者やご家族、医療や介護関係の方などが社会と交わるときに不可欠な「移動」で役立つことができると信じている。”
前競争的分野におけるパラダイムシフトなどについて述べるリン・クレマー氏(エーザイ株式会社チーフクリニカルオフィサー、ニューロサイエンス & ジェネラルメディスン創薬ユニットプレジデント)
”製薬産業の目標は、有用性の高い医薬品の開発と改善を通して人々の健康と福祉の向上に貢献することだ。疾患に対する理解を深め、いかにイノベーティブな発想ができるのかが問われる。エーザイでは、共同研究におけるさまざまな協業のベースがあり、かつ新薬開発早期の「前競合的な」分野でイノベーションが起きつつある。アルツハイマーに立ち向かうには、できるだけ早期の診断とバイオマーカーが必要だ。治療薬や診断薬を開発することで、認知症の課題解決に貢献したい。”
「サイバニックシステムが拓く未来」として、ロボット研究と実装化の最前線についてプレゼンテーションする山海嘉之氏 (筑波大学システム情報系教授/サイバニクス研究センター長)
“これから我々が直面する高齢化社会の中では、どうしても身体機能や認知機能は低下していく。そういった中で、身体機能、特に脳神経系と身体をつなげる技術がサイバニックシステムだ。また、多くの研究者の方が、運動療法やエクササイズ、ウォーキングといった運動が、認知症の予防や改善に効果的だと述べている。ロボットスーツHALは、人間とテクノロジーが一体化する世界初のサイボーグ型ロボットだ。このような技術を使って身体のみならず認知症という課題にもチャレンジしていきたい。”
“配達先の独居高齢者の孤独死をきっかけに、「まごころ宅急便」がスタートした。ヤマト運輸には全国にの15万人の社員がいる。特に地域のドライバーは、幼い頃からその地に慣れ親しんだ現地採用者がほとんど。その配達ネットワークを見守り活動に活かせないかと考えた。日本中にある我々民間企業の力を合わせれば、国を立ち上げる大きな力となる。企業単独ではなく、連携と共有を行い事業を継続し、そして社会に貢献できる「見守り」を行うため、皆さんと協力していきたい。”
“ダスキンのホームインステッド事業は、信頼関係を重視したケアモデルという、独特のスタイルを重視している。移動、買い物の手伝い、食事の手伝いに限らず、あらゆるサービスを提供している。アルツハイマー型の認知症が深刻な状態になった方にも役に立ちたい。高齢者が長く自宅で過ごせるように、また高齢者が自宅で快適かつ安全に暮らせるようにサービスを通じて貢献したい。また社内での認知症サポーター養成にも力を入れている。”
“単独の企業や産業セクターだけでは、真のイノベーションは作り出せない。セクターを超えた連携のためには、社会エンジニアリングともいうべき新たなチャレンジが必要だ。また認知症の方は、実は我々にとってはATM等の製品の使いにくさなどに気づいてくれる「スーパーユーザー」でもある。銀行関係者やATM設計者も気づかない問題を指摘してくれる。認知症に対してフレンドリーな社会をつくることは、ビジネスの視点でも既に競争領域となってきている。英国で行われているような企業横断型の取り組みが日本でも必要だ。”
“民間主導の街づくりを40年以上続けている。開発当初から「少子高齢化」「高度経済通信」「環境共生」「地方分権化」「国際化」の5つの仮説に基づいて創られたのが、ユーカリが丘だ。特に少子化と高齢化は、常に一対で考えるべきであり、その象徴がグループホームの中心に学童保育を造った新たな施設。現在60名が利用し、高齢者とお子さんが共同生活をすることで、認知症の高齢者と子どもが自然に過ごせる場所を提供している。官民一体は当然だが、我々は大学も誘致して産官学の連携を行いたい。米の「カレッジリンク型CCRC」が進んでいるが、これを日本でも実現すべきだ。”
“日本の素晴らしい取り組みを見ることができて感動すら覚えた。なぜ民間セクターがこの問題に関わる必要があるのか。高齢化社会は日本だけでなく、他の国も抱える課題であり、アルツハイマーも大きな課題となっている一方で、政府だけの取り組みでは限界があるからだ。先日の政府本会議でも、安倍首相が新たな国家戦略により認知症に対して取り組むと発表した。他の国も日本に習い、国際的な協業を展開していく必要があるだろう。”
“PCやスマートフォンなどのデジタルテクノロジーがものすごい勢いで進み、世界は産業革命以来の大転換をしている。ビッグデータやロボットも大きな可能性を秘めている。少子高齢化先進国である日本の中で、プライベートセクターとして何ができるか考えて行動することが重要だ。また今日紹介されたような製品やサービスがいかに外に出ていくか、ということも大事。日本国内に限定しないグローバルな戦略的思考を持ち、マーケットのある場所に出て行くことが必要だ。良い技術を必要な場所に届けるために、どんどん世界に出て行ってほしい。”
また塩崎恭久厚生労働大臣からは、「認知症に対して政府が全力を挙げて取り組むのはもちろん、官民一体で取り組むべく民間主導の知恵や取組みに大いに期待している」とのビデオメッセージが寄せられました。
“政府でも、医療・介護の有機的な連携や、認知症の当事者やご家族にやさしい社会づくりを行うなど、認知症施策に省庁横断的に取り組んでいく。そのようななか、民間サイドでも認知症課題に取り組んでいることに感謝したい。認知症の予防、診断、治療、そして地域や家庭でのケアサポートなど、民間セクターアイデアや知恵に期待したい。ICTやロボットなど、日本が誇るものがたくさんある。官民が協調して、世界最速で高齢化が進む日本から世界をリードするような取り組みが出てくることに期待したい。”
■メディア掲載情報
・「認知症対策は重要な国家戦略だ -安倍内閣でも本腰-」(日経ビジネスオンライン、2014年11月21日)
・「民間の社会的投資を呼び込め」(日刊工業新聞、2014年11月17日)
・「認知症の人が「働く」デイサービス できることで社会参加を」(産経新聞、2014年11月13日)
・「企業も本腰 知恵出し合う ロボット、見守り・役割模索」(読売新聞、2014年11月9日付)
・「春秋」(日本経済新聞、2014年11月9日付)
・「認知症対策 日本モデルの確立を急げ」(産経新聞、2014年11月7日付)
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