【論点整理】血液疾患対策推進プロジェクト「血液疾患対策の推進に向けた現状の課題と展望」(速報版)(2025年6月13日)

日本医療政策機構では、血液疾患領域の新たな動きを後押しするとともに、好事例の他疾患領域への横展開を目指し、2024年度に政策提言プロジェクト「血液疾患対策推進プロジェクト」を始動させています。血液疾患に関係するマルチステークホルダーでの議論や個別ヒアリングをもとに作成した論点整理を公表いたします。
生活習慣の変化や高齢化などの複合的要素を背景として、慢性疾患、非感染性疾患(NCDs:Non-communicable diseases)は世界的に増加の一途をたどっています。一方で、新薬開発などのイノベーションが創出されてきたことにより、希少疾患や血液疾患を含む多様な疾患の一部で寛解の道が開かれてきました。さらに近年では、疾患を「治す医療」から、疾患と「ともに生きる医療」への転換が進み、生活の質(QOL:Quality of Life)向上に対するニーズが一層高まっています。
その中でも、血液疾患領域では日本血液学会をはじめとする関係者が患者・当事者のニーズにいち早く着目し、先進的な取り組みを進めてきました。血液疾患は、高度な専門性や希少性、治療の長期化・高度化といった特性を有し、診療体制、制度運用、患者支援などの面で、従来の枠組みを超えた柔軟かつ多層的な対応が求められる領域です。また、医療技術の進展に加え、学会や製薬企業等の関係者による患者・当事者の視点を取り入れた積極的な取り組みが進んでいます。その結果、血液疾患領域は日本の医療における「患者中心の医療モデル」の先駆的分野の一つとなり、他疾患領域への展開も期待されています。
こうした背景を受け、「市民主体の医療政策の実現」をミッションに掲げる当機構は、本プロジェクトを始動させました。2024年度は、血液疾患領域としては過去に例を見ない産学民によるマルチステークホルダーでの議論や個別ヒアリングを展開しました。最終的に、以下の4つの視点に分類して各課題を整理し、今後の方向性を合意しました。
視点Ⅰ.医療提供体制の構造的課題
血液疾患の診療には高度な専門性が求められ、専門医療機関に患者が集中する構造となっている。一般医療機関との役割分担や逆紹介の仕組みが機能しておらず、専門医の過重負担や患者のアクセスの格差といった歪みを生んでいる。視点Ⅱ.地域移行と診療連携の課題
慢性疾患として長期的に管理が必要な血液疾患においては、専門医療から地域医療へのスムーズな移行が理想とされるが、現実には受け皿の不足や連携体制の不備、専門医側の関与のあり方など、地域移行を阻む構造的課題が複数存在している。視点Ⅲ.患者中心の医療とQOL向上への障壁
血液疾患患者は治療の継続と生活の両立に日々向き合っており、不安や孤立といった心理的負担を抱えることが多い。情報提供や意思決定支援の不十分さ、生活への配慮の欠如、保険適用や報酬運用における地域差など、QOL向上に必要な基盤整備が十分とは言えない現状がある。視点Ⅳ.研究開発と制度的支援の課題
人材・資源の制約や制度的支援の不足により、治験や臨床研究を継続的に実施できる体制が十分に整っていない。さらに産官学民の連携やデータ基盤の整備も不十分であり、血液疾患領域における研究の推進力と国際的な競争力の低下が懸念される。
2025年度はこれまでに見出された課題解決の方向性を踏まえ、血液疾患領域における市民主体の医療政策のさらなる推進に向けて取り組みを加速させます。
論点整理の詳細は末尾PDFをご覧ください。
なお、英語版は後日公開予定です。また、日本語版については装丁後差し替え予定です。
■「血液疾患対策推進プロジェクト」アドバイザリーボードメンバー(敬称略・五十音順・ご所属・肩書はご参画当時)
新井 文子(聖マリアンナ医科大学 医学部 血液 腫瘍内科 主任教授)
大橋 晃太(トータス往診クリニック 院長/NPO血液在宅ねっと 理事長)
小林 竜太郎(慢性骨髄性白血病患者 家族の会「いずみの会」 代表)
髙折 晃史(京都大学医学部附属病院 病院長/日本血液学会 理事長)
髙久 智生(埼玉医科大学 医学部血液内科 教授)
橋本 明子(特定非営利活動法人血液情報広場つばさ 理事長)
武藤 真祐(医療法人社団鉄祐会 理事長)
山口 正和(公益財団法人 がん研究会有明病院 薬剤部 薬剤部長)
渡邉 健(ハレノテラスすこやか内科クリニック 院長)
Lisa Machado(Canadian CML Network 創設者)
■協賛企業・団体(五十音順)
株式会社インテグリティ・ヘルスケア
ノバルティスファーマ株式会社
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