第13回朝食会「後期高齢者医療のあり方を考える」
日付:2007年11月13日
去る2007年11月8日、第13回朝食会を開催いたしました。今回は、学習院大学経済学部教授の遠藤久夫先生に「後期高齢者医療のあり方を考える」というテーマでご講演いただきました。多数の皆様にご参加いただきまして、誠にありがとうございました。
(当機構副代表理事 近藤挨拶)
本日は中医協の委員もやっていらっしゃる学習院大学の遠藤先生にお忙しい中お越しいただきました。後期高齢者医療という、昨今の医療制度改革の中でも色々な議論がなされている重要な領域の中で、我々に公開できる部分をお話ししていただければと思います。
(要旨)
「後期高齢者医療のあり方を考える」
本日は、まだ現在進行形で構築されつつある後期高齢者医療制度についてお話しします。医療の技術進歩は高齢化を促進させ、医療需要の大きい高齢者の増加は国民医療費を増加させています。その結果、現役世代の医療費負担が増加しつつあり、これが医療保険制度の持続可能性を考える上で大きな課題となっています。後期高齢者医療制度は、高齢者にふさわしい医療を提供するという目的で構築されましたが、高齢者の医療費の増加を少しでも抑制したいということも重要な目的です。この制度の構築プロセスは大きく二段階に分かれます。第一は後期高齢者の独立保険を作ったことです。これは平成18年に保険の仕組みが出来上がりました。第二は平成20年度に出来上がる予定の後期高齢者を対象とした診療報酬制度の設計です。
まず独立保険の仕組みについてですが、後期高齢者は従来、受診者そのものの数が多いため若い世代と比べて5倍弱の医療費がかかります。そのため、高齢者の比率の高い保険集団は比率の低い保険集団より医療費がかかります。これに対して、これまでは高齢者比率の低い保険者から高い保険者に対して拠出金を出させるという形の財政調整を行ってきました。しかし、高齢者の数が増加するにつれて拠出金を出す方の保険者から不満が続出し、この財政調整の方法の継続が困難になりました。そのため後期高齢者だけの独立した保険制度ができたわけです。新制度の下では高齢者自身が保険料として医療費の一割を払い、更には、従来は市町村レベルの小さな保険集団だったのを全市町村が加入する広域連合を都道府県主導で作り、そこを保険者として運営させることにしました。そして、医療費の半分を税金で賄う形とし、足りない財源は若人がたくさん入っているその他の保険者から支援金という形で補ってもらう形になっています。
今述べたのは75歳以上を対象とする保険制度ですが、議論の当初は対象を65歳以上にするべきという議論もありました。ただ、認知症が増えたり、外来に比べて入院の方が多くなったり、働いている人が殆どいなかったりと、75歳以上と65歳以上とでは大きく違う部分があるので、厚労省は75歳以上を対象とするのが適切だとしました。勿論、別の背景もあったのだと私は思います。国民医療費に占める高齢者の医療費割合を考えるとき、75歳以上だと28.1%ですが、それを65歳以上にすると51%となり、国民医療費の半分を超えてしまいます。その膨大な医療費の半分を税金ではとても賄いきれないというのも背景にあったのでしょう。
これが後期高齢者医療制度の基本的な枠組みですが、高齢者が医療費の1割を保険料で負担することや保険者が広域連合をつくるという点は新味があるものの、医療費の半分を税金で賄い残りを他の各医療保険から支援金という名で支援してもらうという仕組みは、従来の老人保健制度とあまり違っていません。高齢者だけの医療保険制度を作るだけでは改革として道半ばです。そこで、第二段階として、高齢者にふさわしい医療を医療費の増加を抑制しつつ達成するための後期高齢者を対象とした独自の診療報酬体系を構築することが必要とされ、この議論が平成18年、19年に行われました。もちろん、診療報酬だけで解決できる問題ではありませんが、診療報酬が医療機関の行動や医療の質に及ぼす影響は大きいので、目的の達成に効果的な政策手段であることは否定できません。そのため、診療報酬体系をどうするかについて議論するために社会保障審議会の中に後期高齢者医療のあり方に関する特別部会を設け、そこで診療報酬のあり方について議論し、基本方針を作りました。現在はそれを中医協で審議をしているところですが、20年の診療報酬改定の中に一部盛り込むことになります。
このように、後期高齢者に適した医療を行いながら医療費の上昇を抑えるという難しいパズルを解かなければなりません。その中で大きな流れは「脱病院化」ともいえるものです。社会的入院の解消に医療ニーズの低い入院患者さんがなるべく在宅医療、介護施設での療養を選択するようにという試みは今までもありましたが、なかなか実効が伴わなかったので、これを機会にもう一歩進めるというのが国の方針です。そのためには、外来・入院・在宅のそれぞれについて新たな取り組みが求められます。
外来医療では主治医の機能の強化がポイントです。総合的な診療が可能な主治医がいれば、ドクターズショッピングのような状態を改善できますし、患者にとっても何でも相談できるかかりつけ医がいるのは心強いことです。もちろん、どういう資格・能力がある人を主治医にするのか、総合的に診られる医師がどれほどいるのか、主治医の機能をどのように考えるかなど検討すべき課題は多いのですが。
入院医療については退院後の生活まで見通した計画的な医療を求めています。在宅・介護施設に移るとき移行がスムーズにいくように、カンファレンスを退院時に行うことも誘導します。
在宅医療については平成18年度に在宅療養支援診療所のシステムをつくり、在宅医療の点数が高くなるように設定しました。まだその実態を把握できるだけの適切なデータが出ていませんが、今後は拡大していくと考えられます。在宅医療は在宅介護がしっかりしていなければ実現が難しい。いわば在宅医療は介護保険制度の上に乗っかっているようなものなので、介護制度がどれほど充実しているかが重要なポイントです。また介護サービス・医療提供・訪問看護のバランスをうまくとる必要があるので、在宅医療についても医療者や介護者のカンファレンスが積極的に行われるように経済誘導することが考えられています。
以上のような話はあくまで従来から取り組まれてきたことの延長であり、20年改定の段階ではまだそんなにドラスティックなことは盛り込まれないと思います。今後状況を見ながら、逐次的に高齢者医療制度の改革が進められていくと考えます。また、医療連携のような話は何も後期高齢者に限らず今までずっと考えられてきた議題です。ですから、まずは後期高齢者で進めてうまくいくようであれば、それを75歳以外にも拡大しようという考えを国はもっています。
(当機構副代表理事 近藤挨拶)
本日は中医協の委員もやっていらっしゃる学習院大学の遠藤先生にお忙しい中お越しいただきました。後期高齢者医療という、昨今の医療制度改革の中でも色々な議論がなされている重要な領域の中で、我々に公開できる部分をお話ししていただければと思います。
(要旨)
「後期高齢者医療のあり方を考える」
本日は、まだ現在進行形で構築されつつある後期高齢者医療制度についてお話しします。医療の技術進歩は高齢化を促進させ、医療需要の大きい高齢者の増加は国民医療費を増加させています。その結果、現役世代の医療費負担が増加しつつあり、これが医療保険制度の持続可能性を考える上で大きな課題となっています。後期高齢者医療制度は、高齢者にふさわしい医療を提供するという目的で構築されましたが、高齢者の医療費の増加を少しでも抑制したいということも重要な目的です。この制度の構築プロセスは大きく二段階に分かれます。第一は後期高齢者の独立保険を作ったことです。これは平成18年に保険の仕組みが出来上がりました。第二は平成20年度に出来上がる予定の後期高齢者を対象とした診療報酬制度の設計です。
まず独立保険の仕組みについてですが、後期高齢者は従来、受診者そのものの数が多いため若い世代と比べて5倍弱の医療費がかかります。そのため、高齢者の比率の高い保険集団は比率の低い保険集団より医療費がかかります。これに対して、これまでは高齢者比率の低い保険者から高い保険者に対して拠出金を出させるという形の財政調整を行ってきました。しかし、高齢者の数が増加するにつれて拠出金を出す方の保険者から不満が続出し、この財政調整の方法の継続が困難になりました。そのため後期高齢者だけの独立した保険制度ができたわけです。新制度の下では高齢者自身が保険料として医療費の一割を払い、更には、従来は市町村レベルの小さな保険集団だったのを全市町村が加入する広域連合を都道府県主導で作り、そこを保険者として運営させることにしました。そして、医療費の半分を税金で賄う形とし、足りない財源は若人がたくさん入っているその他の保険者から支援金という形で補ってもらう形になっています。
今述べたのは75歳以上を対象とする保険制度ですが、議論の当初は対象を65歳以上にするべきという議論もありました。ただ、認知症が増えたり、外来に比べて入院の方が多くなったり、働いている人が殆どいなかったりと、75歳以上と65歳以上とでは大きく違う部分があるので、厚労省は75歳以上を対象とするのが適切だとしました。勿論、別の背景もあったのだと私は思います。国民医療費に占める高齢者の医療費割合を考えるとき、75歳以上だと28.1%ですが、それを65歳以上にすると51%となり、国民医療費の半分を超えてしまいます。その膨大な医療費の半分を税金ではとても賄いきれないというのも背景にあったのでしょう。
これが後期高齢者医療制度の基本的な枠組みですが、高齢者が医療費の1割を保険料で負担することや保険者が広域連合をつくるという点は新味があるものの、医療費の半分を税金で賄い残りを他の各医療保険から支援金という名で支援してもらうという仕組みは、従来の老人保健制度とあまり違っていません。高齢者だけの医療保険制度を作るだけでは改革として道半ばです。そこで、第二段階として、高齢者にふさわしい医療を医療費の増加を抑制しつつ達成するための後期高齢者を対象とした独自の診療報酬体系を構築することが必要とされ、この議論が平成18年、19年に行われました。もちろん、診療報酬だけで解決できる問題ではありませんが、診療報酬が医療機関の行動や医療の質に及ぼす影響は大きいので、目的の達成に効果的な政策手段であることは否定できません。そのため、診療報酬体系をどうするかについて議論するために社会保障審議会の中に後期高齢者医療のあり方に関する特別部会を設け、そこで診療報酬のあり方について議論し、基本方針を作りました。現在はそれを中医協で審議をしているところですが、20年の診療報酬改定の中に一部盛り込むことになります。
このように、後期高齢者に適した医療を行いながら医療費の上昇を抑えるという難しいパズルを解かなければなりません。その中で大きな流れは「脱病院化」ともいえるものです。社会的入院の解消に医療ニーズの低い入院患者さんがなるべく在宅医療、介護施設での療養を選択するようにという試みは今までもありましたが、なかなか実効が伴わなかったので、これを機会にもう一歩進めるというのが国の方針です。そのためには、外来・入院・在宅のそれぞれについて新たな取り組みが求められます。
外来医療では主治医の機能の強化がポイントです。総合的な診療が可能な主治医がいれば、ドクターズショッピングのような状態を改善できますし、患者にとっても何でも相談できるかかりつけ医がいるのは心強いことです。もちろん、どういう資格・能力がある人を主治医にするのか、総合的に診られる医師がどれほどいるのか、主治医の機能をどのように考えるかなど検討すべき課題は多いのですが。
入院医療については退院後の生活まで見通した計画的な医療を求めています。在宅・介護施設に移るとき移行がスムーズにいくように、カンファレンスを退院時に行うことも誘導します。
在宅医療については平成18年度に在宅療養支援診療所のシステムをつくり、在宅医療の点数が高くなるように設定しました。まだその実態を把握できるだけの適切なデータが出ていませんが、今後は拡大していくと考えられます。在宅医療は在宅介護がしっかりしていなければ実現が難しい。いわば在宅医療は介護保険制度の上に乗っかっているようなものなので、介護制度がどれほど充実しているかが重要なポイントです。また介護サービス・医療提供・訪問看護のバランスをうまくとる必要があるので、在宅医療についても医療者や介護者のカンファレンスが積極的に行われるように経済誘導することが考えられています。
以上のような話はあくまで従来から取り組まれてきたことの延長であり、20年改定の段階ではまだそんなにドラスティックなことは盛り込まれないと思います。今後状況を見ながら、逐次的に高齢者医療制度の改革が進められていくと考えます。また、医療連携のような話は何も後期高齢者に限らず今までずっと考えられてきた議題です。ですから、まずは後期高齢者で進めてうまくいくようであれば、それを75歳以外にも拡大しようという考えを国はもっています。
申込締切日:2007-11-12
開催日:2007-11-13
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