第9回朝食会「生活習慣病の予防について」
日付:2007年3月1日
今回は、当機構理事吉田裕明が「生活習慣病の予防について」をテーマに講演させていただきました。
(要旨)
戦略研究とは、行政のニーズにより計画され、その成果を「国民の健康に関する課題」や「国民の生活の安心・安全に関する課題」を解決するために使用されることを前提として開始された、我が国最初で唯一の大型の公的研究資金が投入されたアウトカム研究事業です。「医療の標準化」を促進し、医療費の増大への対策と医療の質の担保に寄与すること、また、この分野での日本発のエビデンスを発信することを期待したものです。ここで、従来の厚生労働科学研究一般公募課題と異なる点を説明しておきます。従来は、まず研究課題の提示があり、研究者は自身で考えた研究計画を応募します。一方、戦略研究では、まず、大局的観点から政策目標および課題が提示され、研究課題、アウトカム(想定成果)、プロトコール(研究方法)の設計、財団などのFunding Agencyが設立されます。その後、提示された研究計画に対して研究者が参加を申請します。ここでの成果は、必ずアウトカムとなります。「糖尿病予防に関する戦略研究」は、研究機関を平成17年~平成21年と予定しており、予算は年間約8億円(平成17年度参考)、国際協力医学研究振興財団がFunding Agencyとなっています。
2005年4月、厚生労働省は医療制度改革の柱を「生活習慣病予防」にしぼり、その基本方針として「メタボリック症候群」について、比較的早期から健康診断と保健指導を徹底する体制を整備する方針を打ち出しました。生活習慣病対策の概要を「予防」、「医療」、「介護」の3段階に分けると、「予防」段階においては、生活者の意識改革、運動する習慣、禁煙(自助努力)、検診システムの強化、国民運動などが、「医療」段階では、病気に対する正しい知識の普及啓発、食事・運動療法等、薬物療法、医療の標準化と体制整備、治療方法の確立などが対策として挙げられます。「メタボリック症候群」とは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高脂血症・低HDL血症・高血圧・高血糖のうち2つ以上を合併した状態を指します。高カロリー摂取、運動不足を背景として発症し、心臓病・脳卒中の発症・糖尿病と合併症のリスクを高めるという一方で、内臓脂肪は運動で燃焼しやすく比較的治療に対する反応が良いということもあり、予防が重視されています。
生活習慣病が問題となる大きな理由の一つに、医療費および介護費用・負担の増大が挙げられます。メタボリック症候群から引き起こされる心筋梗塞や脳卒中とその後遺症障害、糖尿病から引き起こされる腎症および腎不全による透析医療などが大きな経済的負担となります。近年の糖尿病発症者数は、緩やかな増加傾向にあり、1999年あたりからは多少現象していますが、その一方で、慢性透析患者数の数は毎年4%ずつ増加しており、減少傾向は見られません。2005年では26万人もの人が慢性透析療法を受けています。最近になって、やたら「メタボリックシンドローム」が提唱されている狙いを考えると、最終的な狙いは、やはり糖尿病対策と考えられます。糖尿病をより早く見つけて早く治療に入るためには、市民の意識を変えるきっかけが必要であり、今回、「メタボリックシンドローム」の広まりをうまく利用しているようです。
糖尿病を例にして生活習慣病対策を考えていきます。糖尿病人口は、可能性がある人も含めて1260万人いると言われています。その中で、本当に糖尿病の470万人のうち治療中の人は228万人しかいません。ここでの問題点は、健康診断で糖尿病の可能性がある、また実際に診断されていても、治療している人がごく僅かしかいないということです。臨床でやっていたときの感想は、「ようやく病院にきたら明日からすぐ透析です」という患者さんがいかに多いかということです。患者さんの意識としては、そこまで重大だと思っていなかったという、つまり、病気の知識がしっかり広まっていないということが一つあります。次の問題点として、合併症の対策について、糖尿病性腎症を例に述べたいと思います。現在の医療は、ポイント・オブ・ノーリターンのところまで進行しないよう予防することしかできません。ここで、予防のところの患者さんを誰が診ているのかという問題があります。糖尿病性腎症に起因する腰痛なのに整形外科に通うとか、女性ならば体調不良で婦人科に通っているうちに、本来の糖尿病や腎症の診断・治療が遅くなっているということがあるのではないでしょうか。
日本は健康大国で、日本ほど健康診断をしっかりやっている国はないと思うのですが、検診制度と医療保険制度はくっついているようで、まったく連携できておらず、ぷっつり切れてしまっているところは問題ではないでしょうか。健康診断で要診断・要治療となっても、本人が治療を始めないということが多いように見受けられます。また、近くの診療所のかかりつけ医が糖尿病の専門家とは限りません。かかりつけ医が悪いというのではなく、早い段階で専門病院の専門医のところに行き、しっかりとした治療を立ててもらうことが重要なのです。
(要旨)
戦略研究とは、行政のニーズにより計画され、その成果を「国民の健康に関する課題」や「国民の生活の安心・安全に関する課題」を解決するために使用されることを前提として開始された、我が国最初で唯一の大型の公的研究資金が投入されたアウトカム研究事業です。「医療の標準化」を促進し、医療費の増大への対策と医療の質の担保に寄与すること、また、この分野での日本発のエビデンスを発信することを期待したものです。ここで、従来の厚生労働科学研究一般公募課題と異なる点を説明しておきます。従来は、まず研究課題の提示があり、研究者は自身で考えた研究計画を応募します。一方、戦略研究では、まず、大局的観点から政策目標および課題が提示され、研究課題、アウトカム(想定成果)、プロトコール(研究方法)の設計、財団などのFunding Agencyが設立されます。その後、提示された研究計画に対して研究者が参加を申請します。ここでの成果は、必ずアウトカムとなります。「糖尿病予防に関する戦略研究」は、研究機関を平成17年~平成21年と予定しており、予算は年間約8億円(平成17年度参考)、国際協力医学研究振興財団がFunding Agencyとなっています。
2005年4月、厚生労働省は医療制度改革の柱を「生活習慣病予防」にしぼり、その基本方針として「メタボリック症候群」について、比較的早期から健康診断と保健指導を徹底する体制を整備する方針を打ち出しました。生活習慣病対策の概要を「予防」、「医療」、「介護」の3段階に分けると、「予防」段階においては、生活者の意識改革、運動する習慣、禁煙(自助努力)、検診システムの強化、国民運動などが、「医療」段階では、病気に対する正しい知識の普及啓発、食事・運動療法等、薬物療法、医療の標準化と体制整備、治療方法の確立などが対策として挙げられます。「メタボリック症候群」とは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高脂血症・低HDL血症・高血圧・高血糖のうち2つ以上を合併した状態を指します。高カロリー摂取、運動不足を背景として発症し、心臓病・脳卒中の発症・糖尿病と合併症のリスクを高めるという一方で、内臓脂肪は運動で燃焼しやすく比較的治療に対する反応が良いということもあり、予防が重視されています。
生活習慣病が問題となる大きな理由の一つに、医療費および介護費用・負担の増大が挙げられます。メタボリック症候群から引き起こされる心筋梗塞や脳卒中とその後遺症障害、糖尿病から引き起こされる腎症および腎不全による透析医療などが大きな経済的負担となります。近年の糖尿病発症者数は、緩やかな増加傾向にあり、1999年あたりからは多少現象していますが、その一方で、慢性透析患者数の数は毎年4%ずつ増加しており、減少傾向は見られません。2005年では26万人もの人が慢性透析療法を受けています。最近になって、やたら「メタボリックシンドローム」が提唱されている狙いを考えると、最終的な狙いは、やはり糖尿病対策と考えられます。糖尿病をより早く見つけて早く治療に入るためには、市民の意識を変えるきっかけが必要であり、今回、「メタボリックシンドローム」の広まりをうまく利用しているようです。
糖尿病を例にして生活習慣病対策を考えていきます。糖尿病人口は、可能性がある人も含めて1260万人いると言われています。その中で、本当に糖尿病の470万人のうち治療中の人は228万人しかいません。ここでの問題点は、健康診断で糖尿病の可能性がある、また実際に診断されていても、治療している人がごく僅かしかいないということです。臨床でやっていたときの感想は、「ようやく病院にきたら明日からすぐ透析です」という患者さんがいかに多いかということです。患者さんの意識としては、そこまで重大だと思っていなかったという、つまり、病気の知識がしっかり広まっていないということが一つあります。次の問題点として、合併症の対策について、糖尿病性腎症を例に述べたいと思います。現在の医療は、ポイント・オブ・ノーリターンのところまで進行しないよう予防することしかできません。ここで、予防のところの患者さんを誰が診ているのかという問題があります。糖尿病性腎症に起因する腰痛なのに整形外科に通うとか、女性ならば体調不良で婦人科に通っているうちに、本来の糖尿病や腎症の診断・治療が遅くなっているということがあるのではないでしょうか。
日本は健康大国で、日本ほど健康診断をしっかりやっている国はないと思うのですが、検診制度と医療保険制度はくっついているようで、まったく連携できておらず、ぷっつり切れてしまっているところは問題ではないでしょうか。健康診断で要診断・要治療となっても、本人が治療を始めないということが多いように見受けられます。また、近くの診療所のかかりつけ医が糖尿病の専門家とは限りません。かかりつけ医が悪いというのではなく、早い段階で専門病院の専門医のところに行き、しっかりとした治療を立ててもらうことが重要なのです。
申込締切日:2007-02-28
開催日:2007-03-01
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