2021年07月30日

グローバルヘルス若手人材育成のためのグローバルヘルス・エデュケーション・プログラム(G-HEP: Global Health Education Program)の第6回講義を開催し、国立社会保障・人口問題研究所副所長の林玲子氏をお招きしました。林氏は保健と人口、都市化と人口移動および人口と開発が専門で、国内外でご活躍されています。今回は、「移民の健康」をテーマにお話いただきました。

はじめに、移民や難民の概念・定義を説明の後、世界の人口移動の動向に関する紹介がありました。また、持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)ゴール10に照らして、人口移動に伴う格差を是正するための対策の実施やその進捗状況について共有がありました。国連統計局(UNSD: United Nations Statistics Division )によれば、移民が比較的少ない日本では、特に移民の社会・経済分野における福祉および緊急時における移民対応に関する政策がSDGsゴール10.7.2を満たしていないとされています。一方、タイでは、移民、特に難民や無国籍者が非常に多く、移民に関する政策が大幅に進んでいます。

後半では、日本のおける移民の健康状態に影響を与える様々な要因について紹介がありました。その中の1つは、保健医療へのアクセスに関する課題であり、新型コロナウイルス感染症( COVID-19: Coronavirus Disease 2019)の世界的大流行によって医療サービスを受けられない移民が増加しています。脆弱な立場に置かれた移民のCOVID-19による感染・死亡という直接的な影響に加え、失業や支援不足等による間接的な影響も深刻です。

次の講義(政策提言とアドボカシー)は2021年8月11日に開催します。

 

■プログラム(講義):
第1回 タイのヘルスシステムとCOVID-19(終了)
第2回 日本のヘルスシステムとCOVID-19(終了)
第3回 コミュニティヘルス(終了)
第4回 ヘルステクノロジー(終了)
第5回 グローバルヘルス(終了)
第6回 移民のヘルス(終了)
第7回 政策提言とアドボカシー
第8回 量的質的研究手法

 

グローバルヘルス・エデュケーション・プログラム(G-HEP: Global Health Education Program)は、日本医療政策機構とタイ・マヒドン大学公衆衛生学部の共同プログラムです。


■マヒドン大学について

マヒドン大学は、タイにおける医学教育を牽引する大学であり、公衆衛生学について国内で初めて専門的に取り組み始めた学術機関です。

ビジョン:
 2021年までにヘルスリテラシーに精通した専門家をASEAN諸国に輩出し、各国の人々の健康を促進する

ミッション:
 1. ヘルスリテラシーに精通した専門家になることにより、成果に基づく公衆衛生教育を提供する
 2. 公衆衛生教育、統合的かつ革新的な研究、健康と長寿および人類の発展を促進し、優れた意思決定に基づく専門的な学術に基づく知見を提供するリーダーを育成する

2021年07月23日

日本医療政策機構 認知症政策プロジェクトが2021712日に開催した「認知症疾患修飾薬の開発と普及に向けた課題と展望」について、2021713日付の日刊薬業にて記事が掲載されました。

 web版はこちら
※記事全文はログイン後にご覧いただけます。

 本専門家会合については、後日日英の両言語での開催報告書を作成し、webサイトに掲載予定です。

2021年07月21日

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター グローバルヘルス人材戦略センターは、保健医療分野の国際機関の上級・幹部職員候補となりうる人材として対象とできていなかった人材について調査を行い、「次世代国際保健リーダーの探索と提案」を2021622日にとりまとめ、公表しました。

日本医療政策機構マネージャー菅原丈二が、若手・中堅研究者に対するヒアリング調査のグループディスカッションに参加しています。

■レポート本体
次世代国際保健リーダーの探索と提案

■説明資料
WHO をはじめとした保健分野の国際機関の上級・幹部職員候補者データベース作成およびコンサルテーション  最終報告書(資料篇)

2021年07月09日

日本医療政策機構が行った「働く女性の健康増進に関する調査結果2016」と「働く女性の健康増進に関する調査2018」が毎日新聞の記事で引用されました。

記事はこちら
※記事全文はログイン後にご覧いただけます。

 

 

 

2021年07月08日

日本医療政策機構が事務局を務めるNCDアライアンス・ジャパンと当事者主体で病気をもつ人の支援を行う一般社団法人ピーペックの共催で「当事者による当事者のための『Our Views, Our Voicesワークショップ』を知ろう!」を4月26日に開催しました。


昨今、医療政策の策定プロセスへの患者・当事者参画のニーズが高まってきています。
その一方で、患者や当事者の声が適切に反映されていない、またどのように声を届ければ良いか患者や当事者の学ぶ機会が少ないといった課題も上がっているのが現状です。
このような状況を踏まえ、2019年よりNCDアライアンス・ジャパン一般社団法人ピーペックが共催で、患者や当事者のアドボカシー能力の強化を図ることを目的とした「日本版Our Views, Our Voicesワークショップ」を企画・開催してまいりました。
本ワークショップは、世界中の非感染性疾患(NCDs:Non-communicable diseases)[1]を持つ当事者の声により創られた世界基準のワークショップです。医療やNCDsに関する基本的な知識を学んだ上で、当事者の代弁者として自分自身の経験を効果的に発信し、戦略的に課題を解決していく手法を習得するための様々なプログラムによって構成されています。


本イベントでは、まず、2019年の「日本版Our Views, Our Voicesワークショップ」開催時にファシリテーターを務めた一般社団法人ピーペックの池崎悠氏より「日本版Our Views, Our Voicesワークショップ」の目的やプログラム概要、過去のワークショップの様子を紹介しました。次に、参加者の方々に本ワークショップをより具体的に理解していただくことを目的に、ワークショップのアクティビティのひとつである「アドボカシーのためのエレベーターピッチ」[2]のデモンストレーションを行いました。池崎氏がファシリテーター役を務め、ニモカカクラブ代表の和田芽衣氏に受講生役を務めていただき、患者・当事者によるアドボカシーの場面を想定したエレベーターピッチを実演しました。


受講者の声のご紹介では、ワークショップの参加動機、当事者が声をあげることの意義、疾患横断でつながることの重要性を、和田氏と難病カフェおむすび代表の新井美子氏、それぞれにお話いただきました。
終了後には参加者交流会を開催し、受講者への質問や、開催への期待などについて意見交換しました。


当日の動画を公開していますので、下記よりご覧ください。

 

■当日のプログラム

趣旨説明・団体紹介

Our Views, Our Voices について

模擬演習 エレベーターピッチ

受講者の声

ファシリテーター:
池崎 悠(一般社団法人 ピーペック事務局/難病NET. RDing福岡 代表)

スピーカー:
新井 美子(難病カフェおむすび 代表)
和田 芽衣(ニモカカクラブ 代表)

質疑応答

交流会(希望者のみ)


■実施主体

主催 特定非営利活動法人 日本医療政策機構(NCDアライアンス・ジャパン事務局)
共催 一般社団法人 ピーペック


■NCD AllianceとNCDアライアンス・ジャパンについて
NCD Allianceとは、国際糖尿病連盟、国際対がん連合、世界心臓連盟、国際結核・肺疾患連合の4つの国際連盟によって2009年に発足しました。現在は、約2000の市民団体・学術集団が約170か国で展開するNCDs対策のための協働プラットフォームであり、「NCDsによって引き起こされる、予防可能な苦痛、障害、死をなくすこと」をミッションに活動しています。NCDアライアンス・ジャパンは、2013年よりNCD Allianceの日本窓口として、マルチステークホルダーがフラットに議論できる場を提供し、NCDs対策において市民社会が果たす役割の重要性を国内外に発信しています。

Our Views, Our Voices(OVOV)ワークショップについて
OVOVワークショップとは、NCD AllianceがNCDsと共に生きる人びとを対象に実施している当事者のアドボカシー能力を強化するためワークショップです。NCDsに関する現状や課題、政策をグローバルな視点で理解を深めた上で、当事者が自身の経験をどのように発信し、よりインパクトのあるアドボカシー活動へと展開させていくための戦略的な手法について、グループワークや実践を通して学ぶ構成になっています。2018年より、各国のNCDアライアンスの代表を対象にトレーナー養成ワークショップが実施され、各国での展開が期待されています。日本では2019年より開催しています(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により中止)。

 

[1] 非感染性疾患(NCDs)とは、がん・糖尿病・循環器疾患・呼吸器疾患・メンタルヘルスをはじめとする慢性疾患をまとめて総称したものです。NCDsは世界の全死亡における最大の死因であり、日本においても喫緊の課題となっています。これら、NCDs対策を促進し、さらにはより良い医療政策の実現に向けて、医療機関や政府のみならず、民間企業や研究機関、市民社会といった様々な立場の人びとや団体の協働は不可欠となっています。

[2] エレベーターピッチとは、自分がどんな人間で何を求めているかを、分かりやすく説得力ある形で伝える、30秒~1分の短いアピール文。エレベーター内で影響力ある人物にばったり出くわしたというシナリオに由来する。なお、アドボカシーのためのエレベーターピッチでは、意思決定者を行動に向かわせるため、自分が何を実現したいかや、その理由と方法を短く説明する。

2021年07月03日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、緊急事態宣言の発令をはじめとして、日本の社会経済に大きな影響を与え、感染症対策や医療・介護提供体制等について日々メディアで取り上げられるなど、日本の社会保障政策がこれまで以上に国民の関心事となっています。こうした状況のなか、COVID-19対策等への対応に追われる厚生労働省などの関係省庁における「ブラックな」働き方に関心が高まっています。2021年6月2日の衆議院厚生労働委員会では、2021年4月にいわゆる過労死ラインである月80時間以上の超過勤務を行った厚生労働省職員が全体のおよそ5人に1人にあたる830人にのぼったことが明らかとなりました。   

COVID-19流行以前からもこうした過酷な労働環境は課題として指摘されており、2019年8月には、「厚生労働省改革若手チーム緊急提言」が提出され、増員の必要性や生産性向上、審議会や国会対応の効率化などについて具体的に提言が出されました。また、長時間労働などの過酷な労働環境は厚労省だけでなく、霞が関全体の問題でもあります。2020年12月には、民間企業やアカデミアの有識者から「霞が関の働き方に関する提言」が行われ、2.7万人の署名が集められたほか2021年5月には、自民党行政改革本部公務員制度改革PTが霞が関の働き方改革に関する提言をまとめ、菅総理に要請しました。

当機構においても、2021年度より「霞が関働き方改革 推進プロジェクト」を立ち上げ、当分野における産官学民のオピニオンリーダーとともに提言をまとめ提起することで、広く日本の社会保障政策のさらなる推進に寄与していきたいと考えています。

こうした背景を踏まえ、今回のHGPIセミナーでは、厚生労働省で長年社会保障・労働分野の法律改正等に携わり、現在、株式会社千正組 代表取締役社長としてご活躍されている千正康裕氏をお迎えいたします。千正氏は、2020年11月に「ブラック霞が関」をご出版され、各種メディアでも霞が関の働き方改革の必要性や具体的な提言を発信されています。今回のセミナーでは、霞が関の働き方の現状や課題、また、働き方改革を進めて国民に届くよりよい政策をつくるための改革について解説いただくほか、千正組での現在の官民の橋渡しの取組についてもお話いただきます。またCOVID-19流行に伴い、国民の医療政策への関心が高まるなかで、政策策定プロセスの現状の課題や今後期待される取り組みについても、皆様と理解を深めたいと思います。

■お申込:
ご登録はこちら

■スピーカー:
千正 康裕(株式会社千正組 代表取締役社長)

■日時:
2021年7月28日(水)18:30-19:45

■場所:
Zoomウェビナー形式
ご登録はこちら

■参加費:
無料

■定員:
500名

■プロフィール:
千正 康裕(株式会社千正組 代表取締役社長)
1975年生まれ。1999年慶應義塾大学法学部政治学科卒、2001年厚生労働省入省。年金局等を経て、大臣官房総務課課長補佐、厚生労働大臣政務官秘書官を歴任。その後、2013年医政局研究開発振興課課長補佐で再生医療安全性確保法の立案を担当。厚労省初の在インド日本国大使館一等書記官として、日印規制当局間の交流を立ち上げインドにおける日本の医療機器の審査簡素化を実現。2016年厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課課長補佐として厚労省復帰。2017年政策統括官付社会保障担当参事官室室長補佐として2040年の社会保障の見通し、骨太の方針、外国人労働者の受入れなどを担当。2018年医政局総務課医療政策企画官として医師の働き方改革などに取り組む。2019年に44歳で厚生労働省退官。2020年に株式会社千正組を設立し、医療介護福祉分野を中心にコンサルティング、インド進出支援、政策提言を行うほか、執筆やメディア出演をしている。その他、内閣府男女共同参画局安心・安全WG 構成員、環境省働き方改革加速化有識者会議委員も務める。朝日新聞デジタル有識者コメンテーター、PoliPoli有識者会員も務める。医療関係の団体の登壇多数。著書に「ブラック霞が関」(新潮新書)。m3で医師の働き方改革について連載中。Noteで定期購読マガジン「政策人材の教科書」執筆中。

2021年07月03日

今回は同志社大学心理学部 教授 石川信一氏をお招きし、日本のこどものメンタルヘルスの現状やCOVID-19感染拡大が及ぼす影響、また現在取り組まれている認知行動療法の考え方を活用した、こどものメンタルヘルス予防プログラムの実践研究についてお話しいただきました。

<講演のポイント>

  • 近年、不登校や学校における暴力行為、いじめ等の件数は増加傾向にあり、その背景には不安や抑うつ等メンタルヘルスの問題が存在している
  • COVID-19がメンタルヘルスに及ぼす影響は大きく、例えば全校休校をした学校では、こども及び保護者の不安、抑うつ等の程度が高いことが示されている
  • メンタルヘルスの問題に対して、認知行動療法[1] の有効性が実証されている。メンタルヘルス予防における「すべての人に対する支援(Universal Prevention)」の観点から、学校教育での認知行動療法の考え方を活用した予防的介入の普及が期待される
  • 小・中・高等学校で認知行動療法を活用したメンタルヘルス予防プログラムの実証研究を実施し、一定の成果が得られた。今後さらなるエビデンス構築と普及が望まれる


■学校における生徒指導上の諸課題とこどものメンタルヘルスとの関連

不登校や暴力行為、いじめ等、学校における生徒指導上の諸課題は増加傾向にある。文部科学省「令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、小・中・高等学校における暴力行為の発生件数は78,787件(前年度72,940件)となっており、特に小学生については4年連続で増加し、過去最大の件数を更新し続けている。またいじめの認知件数は612,496件(前年度543,933件)、小・中学校における不登校児童生徒数181,272人(前年度164,528人)と、いずれも過去最大の件数を更新した。これまで様々な対策がなされているものの、学校における諸課題は改善されているとは言い難い。

こうした課題の背景には、こどものメンタルヘルスの問題が関連している。例えば、不登校の要因で最も多いのは本人の「不安」であり、次いで「無気力」が多い。この傾向は10年前から変わっていない。

では、どの程度のこどもがメンタルヘルスの問題を抱えているのか。世界保健機関(WHO: World Health Organization)が2001年に公表したデータによれば、何らかのメンタルヘルスの問題を抱えるこどもは全体の10~20%程度と見積もられている。また世界のこどもの6.5%が不安の問題を示しているとの研究もある。

日本国内でもいくつかの調査が行われており、文部科学省による調査によれば、学習面または行動面で著しい困難を示す児童生徒は全体の6.3%と示されている。また宮崎大学の研究では、中学1~2年生の4.9%がうつ病を抱えていると推計された。しかし、日本国内で「どの程度のこどもがメンタルヘルスの問題を抱えているか」について、大規模調査が実施されていないため、実態を正確には把握できていない。今後、日本でも実態把握に向けたデータ整備が求められる。


■コロナ禍でのメンタルヘルス

COVID-19はメンタルヘルスの問題に大きく影響を及ぼしている。2020年1月~3月までのCOVID-19に関する有病率のメタ解析研究によれば、対象者約22万人のうち、うつ(31.4%)や不安(31.9%)、不眠(37.9%)を抱える人がそれぞれ全体の30%以上にものぼることが示された。また本研究では、諸外国の医療従事者やCOVID-19罹患者を含め様々なサンプルを対象とした研究論文が解析されているが、各サンプル間の有病率には大きな偏りは示されなかった。

日本でも徳島大学の研究チームがメンタルヘルスに関するオンライン調査を実施し、対象者のうち約36%が軽度から中程度の心理的苦痛を感じていることが報告された。また報告では、特に若年層、女性、医療従事者等の心理的苦痛が高い傾向にあったことが指摘されている。

こどものメンタルヘルスへの影響については、同志社大学の研究チームが小・中学生の保護者へアンケートを実施し、学校での休校実施状況(全校休校・一部休校・全校開校)とこども及び保護者の不安や抑うつ症状等との関連性を調査した。その結果、全校休校した学校におけるこども及びその保護者の不安や抑うつ症状、過敏性等の数値が突出して高く、次いで部分休校した学校が高い傾向を示した。このことから、COVID-19感染対策として実施された休校はこども及び保護者のメンタルヘルスに影響をおぼしていると考えられる。


■こどものメンタルヘルスに対する認知行動療法の有効性と現在の課題

心理的問題に対して、認知行動療法(CBT: Cognitive Behavior Therapy)の有効性を示すエビデンスが確立されつつある。CBTはこどもの不安症、強迫症、薬物依存等様々なメンタルヘルスの問題に対する高い効果が示されており、日本でも多くの研究が行われている。しかし、対象となる問題、症状によって、エビデンスの質・量にばらつきがあり、特定の問題がない集団に対するCBTを活用した予防的介入に関する論文と比較して、不安やうつ、攻撃的行動に対するCBTの有効性を研究した論文は少なく、さらなる発展が望まれている。今後はそうした領域におけるCBTのエビデンスを構築するとともに、既に一定のエビデンスがある領域、特に学校におけるCBTの考え方を活用した予防的介入を実装、拡充していく必要がある。


■メンタルヘルス予防の考え方と学校教育の重要性

COVID-19感染拡大や英国等での取り組み、持続可能な開発目標(SDGs : Sustainable Development Goals)[2] に代表される国際的な潮流を受け、学校におけるメンタルヘルス予防、予防的教育への社会的要請が高まっている。WHOにおいても、「学校はこどもの社会的・情緒的な発達を促進するカギとなる役割を担う」と述べられ、こどものメンタルヘルスにおける学校教育の重要性が指摘されている。

メンタルヘルス予防の考え方については、下記図を示しながら説明したい。


図1:講演者資料より引用

図1の三角形の上部で示されているように、ハイリスク群に対しては、専門家による集中的な介入、治療的支援(treatment)が必要となる。しかし、メンタルヘルス予防を考えるうえではより多くの個人・集団を対象とした「すべての人に対する支援(Universal Prevention)」も非常に重要だ。そうした観点から、学校、特に義務教育における予防的介入は、すべての人へアプローチできるため、メンタルヘルス予防へ大きく寄与できる。

また予防については、初発予防、再発予防、メンタルヘルスの問題が引き起こす二次的な問題に対する予防、啓発的予防等、様々な取り組みがなされているが、なかでも「リスク低減予防」が重要と考えている。リスク低減予防とは、これまでの研究で明らかになっている心理的問題のリスク要因をできるだけ取り除くことを重視した考え方だ。リスク要因には遺伝的・生物学的要因のほか、発達段階に応じて家族要因、社会的要因、学校要因等様々な要因がある。私たちの研究チームでは、特に学校での実施という観点から、こどもの社会性、社会的要因に注目したプログラムを実施している。学校という場でこども自身のものの捉え方(認知)やストレスとの向き合い方について学べるプログラムを実施することによって、こどもたち同士のつながり等の社会的要因にも同時にアプローチできる。


■実践研究としての「こころあっぷタイム」とその展開

このような考え方に基づいて、私たちの研究チームでは、2000年以降、学校でのメンタルヘルス予防プログラムに関する研究を進めてきた。主な取り組みを図2に示す。


図2:講演者資料より引用


2014年から開発に取り組む「こころあっぷタイム」については、現在、「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(ソリューション創出フェーズ)」の一つのとして研究を進めている。このプログラムは、認知行動療法の考え方に基づいて、幼児から青少年までのこどものこころのレジリエンス[3] 向上を目的に開発されたものだ。開発にあたっては、ユーザー視点のデザイン(Principle of User Centered Design)を意識しながら、下記のような工夫を施し、より効果的かつ実践しやすいプログラムを目指している。
1. 現場の教師と相談しながら指導案、板書計画を作成
2. 漫画を使ってわかりやすく、かつ楽しく前向きに学べる仕組み
3. 登場人物を工夫し、メタファーを使って多様な問題を網羅的に学べる仕組み
4. 教室の場を活かし、グループ活動を重視したプログラム内容

このプログラムの効果について、パイロットスタディとして小学校4年生から6年生、約300名を対象としたシングルアーム研究を実施した。結果として、プログラム実施前と3か月後時点を比較して、一般性自己効力感[4] が有意な向上がみられた。また総合的困難を表す指標(SDQ: Strengths and Difficulties Questionnaire)[5] についても、児童及びその保護者について、プログラム実施後に有意な改善がみられた。さらに教師によるこどもの社会性評価についても、実施後3か月、6か月の時点で改善がみられている。

また上述のプログラムを応用して中高生を対象とした青年期版のメンタルヘルス予防プログラムを開発し、効果検証を行った。中学1年生、及び高校1~2年生をそれぞれ対象とした研究を実施し、プログラム実施前後による不安症状の軽減が示されている。しかし、現状ではコントロール群が設定できていないこと等、プログラムの効果検証には課題が残っている。
こうした課題を踏まえ、現在、市単位で2つの研究が進行している。一つは12の学校、約2,100名の生徒を対象に、3年間プログラムを継続的に実施し、その効果検証を行う研究だ。これまでのトライアルと同様に対象生徒の不安やうつ、怒り等の指標に加え、教師のメンタルヘルスリテラシーやストレスも評価する。また、複数の学校に対して時期をずらしてプログラムを実施し、その効果を検証する研究も進めている。プログラム実施予定の学校と実施済みの学校とを比較評価することで、上述のコントロール群の不在という課題を解決し、プログラムの効果を十分に検証できると考えている。


■今後の展望

今後は、プログラムを日本全国の小学校、中学校、高等学校等で実装させるべく、人材育成、研修体制の整備、プログラムの効果検証を行っていきたい。また将来的には、福祉の領域への展開や、海外在住の日本人向けのプログラム実装等も視野に入れて活動していく。上述の通り、メンタルヘルス予防において、学校教育は「すべての人に対する支援(Universal Prevention)」として非常に重要な役割を持つ。学校等におけるメンタルヘルス予防プログラム開発、社会実装を通じて、将来の社会を担うこどもたちのこころのレジリエンス向上に寄与していきたい。

 

[1] 認知行動療法(CBT: Cognitive Behavior Therapy)は、人の気分や行動は、物事に対する見方(認知)の影響を受けるという認知行動モデルに基づき、問題解決につながる柔軟な考え方や健康的な行動パターンに修正を図っていくことで気分の改善を目指す精神療法。うつ病のほか不安症やストレス関連疾患などの様々な精神疾患に対する治療効果と再発予防効果が実証されており、標準的治療の一つとして国内外の診療ガイドラインに推奨されている。

[2] 2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成されており、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている。(参考:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

[3] 逆境に対する反応としての精神的回復力や自然的治癒力

[4] ある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまくできるかという確信の程度

[5] 子どものこころの健康度を評価する指標の一つ。子どもの困難さ(difficulty)のみならず、強み(strength)も評価できる点が特徴であり、英国を中心に北欧やドイツなどヨーロッパで広く用いられている(参考:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken07/h7_04a.html

 

■プロフィール

石川 信一 氏(同志社大学心理学部 教授)
博士(臨床心理学)、臨床心理士専門行動療法士、公認心理師。2001年早稲田大学人間科学部卒業、2003年早稲田大学人間科学研究科修士課程修了、2005年北海道医療大学心理科学研究科博士後期課程中退、同年宮崎大学教育文化学部専任講師、フルブライト研究員(Swarthmore College)(2011-2012年)、2011年同志社大学心理学部准教授、マッコリー大学(2018-2019年)客員教授を経て、2018年より現職。現在、日本心理学会代議員、日本認知・行動療法学会理事、日本認知療法・認知行動療法学会幹事。主な受賞歴、日本行動療法学会内山記念賞(2005年)、日本カウンセリング学会独創研究内山記念賞(2006年)、公益社団法人日本心理学会優秀論文賞(2016年)


【開催報告】第94回HGPIセミナー「当事者主体のメンタルヘルス政策の実現に向けて~ピアサポートの理念を通じた政策立案プロセスにおける「協働」~」(2021年4月27日)>

2021年07月02日

この度、日本医療政策機構では令和3年度障害者総合福祉推進事業「自治体の災害時の精神保健医療福祉対策にかかる実態把握及び取り組みのあり方の検討」を実施することとなりましたのでご報告いたします。

日本医療政策機構では、2019年度よりメンタルヘルス政策プロジェクトを進めています。本プロジェクトでは、当事者をはじめとした国内外の当分野における産官学民のオピニオンリーダーや関係団体に広くお集まりいただき、アドバイザリーボードミーティングやヒアリング、専門家会合の開催を通じ、日本のメンタルヘルス政策における現状の課題や論点を抽出し、その課題に対する解決の方向性を検討してまいりました。これらを踏まえ、2020年7月には、本プロジェクトの初めての政策提言として「メンタルヘルス2020 明日への提言」を公表し、ここに書かれた5つの視点をベースとして活動を進めております。

視点3「「住まい」と「就労・居場所」を両輪として地域生活基盤を整備する」では、主に就労支援や居住支援について多く言及していますが、その根底には地域における精神保健医療福祉の体制整備といった視点があります。その中でも日本においては、安心した地域生活を送るために、災害への備えは欠かせません。こうした観点から本プロジェクトでは「災害メンタルヘルス」へも注目しており、2021年3月には「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくりを考える 専門家会合」を開催しました。

地域における災害時のメンタルヘルス支援においては、各自治体が大きな役割を果たしており、例えば発災直後から活動が可能な災害派遣精神医療チーム(DPAT:Disaster Psychiatric Assistance Team)の派遣や受け入れに指標を設定し、体制整備を図っているところもあります。一方、DPAT、災害拠点精神科病院、こころのケアセンター、精神保健福祉センター等との連携体制など、地域の支援の在り方が十分に確立されていないとの指摘もあり、支援の地域差に繋がる可能性もあります。

本事業では、自治体への調査や有識者会合等を通じ、現在実施されている取り組みや、より効果的な支援のあり方について分析することで、各自治体が災害精神保健医療福祉に関する対策を策定する際の基礎資料を作成することを目的とします。

2021年07月02日

日本医療政策機構メンタルヘルス政策プロジェクトでは、2021年6月10日(木)に2021年度アドバイザリーボードミーティング「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの推進を考える」を開催いたしました。

メンタルヘルス政策においては、疾病領域や関連するステークホルダーが非常に多岐にわたり、また当事者の生活・臨床現場・アカデミアの最前線の研究などを踏まえ、あるべき姿を考えることが求められています。そこで当機構のメンタルヘルス政策プロジェクトでは、当事者や既存のステークホルダーを含めた国内外の当分野における産官学民のオピニオンリーダーや関係団体の皆様にご参画いただき、アドバイザリーボードを組成し、プロジェクトに対する助言や提案を頂いています。なお当機構が公表する報告書・提言は、特定のアドバイザリーボードメンバーの意見を代表するものではなく、助言や提案、議論を踏まえて当機構が独自に取りまとめるものであることを付しておきます。

今回のアドバイザリーボードミーティングでは、本年3月に厚生労働省より公表された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書を参考にしながら、その推進に資する論点を抽出し、今後産官学民マルチステークホルダーで取り組むべき内容について議論を行いました。

なお、会議は新型コロナウイルス対策を鑑み、WEB会議システムによって行われました。

 

■概要
日時:2021年6月10日(木)18:00-20:00
事務局:日本医療政策機構


■プログラム
基調講演「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会について」
友利 久哉(厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課 課長補佐)

日本医療政策機構2021年度方針について
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー)

ディスカッション


■アドバイザリーボードメンバー(敬称略|五十音順)

メンバー:
五十嵐 信亮(一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 業務執行理事)
石井 知行(公益社団法人 日本精神科病院協会 理事)
宇田川 健(特定非営利活動法人地域精神保健福祉機構・コンボ 共同代表)
神尾 陽子(一般社団法人 発達障害専門センター 代表理事、医療法人社団 神尾陽子記念会 発達障害クリニック附属発達研究所 所長、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部 客員研究員、お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所 人間発達基礎研究部門 客員教授、日本学術会議第二部会員)
茅野 龍馬(WHO 健康開発総合研究センター 医官)
神庭 重信(九州大学名誉教授、公益社団法人 日本精神神経学会 理事長)
金 吉晴(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 所長)
北中 淳子(慶應義塾大学文学部 教授)
小幡 恭弘(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会 事務局長)
澤 明(京都大学大学院 医学研究科 先端国際精神医学講座、The Johns Hopkins University School of Medicine、The Johns Hopkins University Bloomberg School of Public Health、The Johns Hopkins Schizophrenia Center、The Johns Hopkins Hospital)
富田 博秋(東北大学 大学院医学系研究科 精神神経学分野 教授)
萩原 なつ子(特定非営利活動法人 日本 NPOセンター 代表理事)
古川 壽亮(京都大学大学院医学研究科・医学部 健康要因学講座 健康増進・行動学分野教授)
堀合 研二郎(YPS 横浜ピアスタッフ協会)

2021年06月28日

日本医療政策機構主催の主催する、医療政策アカデミー第10期が開講しました。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを鑑み、第10期は医療政策アカデミー初となる全プログラムハイブリッド(対面とオンラインの併用)形式での開催とし、遠方からも多くの受講生にご受講いただいております。

初回のプログラムとなる第1回講義では、「イントロダクション」と題し、日本医療政策機構理事の小野崎耕平による、新型コロナウイルス感染症や予防医療など最新のトピックを交えながら医療政策や公衆衛生のフレームワークを包括的にカバーする講義を行いました。Q&Aセッションでは、多様なバックグラウンドを持つ受講生の皆様から積極的にご質問いただき、業界や地域の壁を越えた活発な意見交換となりました。



第10期医療政策アカデミーは、豪華な講師陣からの講義と多様な受講生間での議論を通して医療政策の基礎知識を身に着けることを目的に、約半年間にわたり開催いたします。

2021年06月24日

日本医療政策機構は、参議院議員会館にて医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線」第5回「生涯を通じた女性の健康支援~リプロダクティブヘルス・ライツの重要性~」を開催いたしました。

対馬ルリ子氏(一般財団法人日本女性財団理事長/NPO法人女性医療ネットワーク理事長/産婦人科医)が講演を行い、セクシュアル・リプロダクティブヘルス・ライツ(SRHR: Sexual and Reproductive Health and Rights)の基本的な概念から、SRHRの広い観点で困難を抱える女性たちの実態、ヘルスリテラシーと月経について、経口避妊薬(低用量ピルを含む)、妊娠中絶薬の普及に関してエビデンスを示しながら若い女性にとってのSRHRの重要性を幅広くお話しいただきました。講演後にはご参加いただいた国会議員の方々より多くのご質問をいただき、特に日本の性教育の現状やHPVワクチンの接種率の低さに焦点が当てられました。そういった質問に対して海外の事例も紹介しながら回答いただき、活発な意見交換の場となりました。


■ 趣旨

当機構で2015年から本格的に始動した女性の健康プロジェクトでは、女性活躍推進に向けた取り組みが社会全体でなされている一方で女性自身の健康増進やヘルスリテラシー向上に向けた社会の支援はまだ不十分であるということに課題意識をもち、調査や政策提言を行っています。今回の勉強会は3回超党派国会議員向け医療政策勉強会に引き続き、国会議員の方々の中で、医療政策分野に今まで関わってこられた方だけでなく、他の分野を専門領域としてきた方にも女性の健康を生涯を通じて支援していくためのSRHRの重要性ついて学び、今一度考えていただくきっかけとしていただきたいというコンセプトで開催いたしました。
日本医療政策機構が行った「働く女性の健康増進に関する調査」「大学生の包括的健康教育プログラムの構築と効果測定調査」はホームページからご覧いただけます。


■ プログラム

趣旨説明
今村 優子(日本医療政策機構 マネージャー)

講演「生涯を通じた女性の健康支援~リプロダクティブヘルス・ライツの重要性~」
対馬 ルリ子(医療法人社団ウィミンズ・ウェルネス 理事長、女性ライフクリニック銀座・新宿、産婦人科医、医学博士)

閉会の辞
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)

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