2021年05月12日

日本医療政策機構では、世界認知症審議会(WDC: World Dementia Council)が発足した2013年より日本から唯一の委員として代表理事 黒川清が参画し、共同での政策提言や好事例集の作成など、連携を深めています。

WDCでは現在「Dementia landscape project」と題し、2013年のG8認知症サミットで合意した2025年を目途とした「宣言(Declaration)」及び「共同声明(Communique)」の進捗状況と、COVID-19の影響を振り返るプログラムを実施しています。このプロジェクトは、2020年7月のWDCオンライン会合で合意されました。

現在、「治療とバイオマーカー」「臨床試験」「ケア」「テクノロジー」「予防」「低中所得国(LIMCs: low- and middle-income countries)」といったテーマごとにオンライン会合を開催し、世界中の産官学民の代表者が参加し、議論を深めています。

またテーマごとの会合の記録も「Project publication」として公開し、議論の詳細を広く発信しています。ぜひご覧ください。(英語のみ)

2021年05月11日

日本医療政策機構は、「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくりを考える」専門家会合を開催いたしました。

当機構はこれまで「市民主体の医療政策の実現」を掲げ、市民や患者・当事者の声を医療政策に反映すべく活動を進めてまいりました。2019年度から始動したメンタルヘルス政策プロジェクトにおいても、精神疾患を持つ本人や家族・支援者等の生活の質の向上を目指しています。精神疾患を持つ本人を含めたマルチステークホルダーによる議論により、メンタルヘルス政策の包括的な課題を整理すべく、2019年12月にはグローバル専門家会合を開催しました。そして専門家会合での議論や各ステークホルダーへのヒアリングを踏まえ、2020年7月には政策提言「メンタルヘルス2020 明日への提言」を公表しました。

2020年は新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、感染症そのものへの不安はもちろん、雇用不安等の経済的な課題を含む社会不安および生活様式の変化に伴う精神的苦痛が急速に広がり、メンタルヘルスが私たちにとって喫緊かつ身近な課題として顕在化しました。メンタルヘルスの不調・精神疾患の原因は多岐にわたり、これまでも注目されてきた自然災害に加え、今回のような社会的に大きな影響を与えるパンデミック、凶悪犯罪、事件・事故等もその原因となります。災害が引き金となるメンタルヘルス不調に関わる様々な課題については、2011年に起きた東日本大震災も一つの重要な契機となりその教訓が議論されてきました。例えば、メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくり(一般市民におけるメンタルヘルスリテラシーの向上等)、支援者への支援、メンタルヘルスに変化が生じた方を専門家へつなぐ役割の重要性等が指摘されています。

以上の背景、2021年が東日本大震災から10年となる節目の年でもあること等を踏まえ、日本医療政策機構メンタルヘルス政策プロジェクトチームでは、今改めて災害大国日本における災害メンタルヘルス政策を様々な視点から見直すべきと考え、今後の活動のキックオフ企画として本シンポジウムを開催いたしました。災害と向き合う市民の視点はもちろんのこと、支援を行う医療提供者、国や地方自治体などの行政、そして企業など、災害に関わる様々なステークホルダーの視点を踏まえ、長期に持続可能な体制・政策の在り方を議論いたしました。

 

基調講演1 ICTを活用した遠隔被災地メンタルヘルス支援と支援団体間連携

鈴木満氏

  • 災害メンタルヘルスは長期的な支援を必要とする。実際に、東日本大震災の被災者の中には今なお「喪失体験」に苦しむ方々が存在する。
  • 「心の架け橋いわて」では、東日本大震災後の長期的な支援および次の災害に備えた地域づくりを、多職種・多組織連携の中で進めている。具体的には、対面でのメンタルヘルス支援だけでなくICT(Information and Communication Technology)を活用したオンライン支援、地元の人材育成等を行っている。
  • 非対面でのメンタルヘルス支援においては、利用者のデジタルツール活用能力等によってその支援効果が左右されるといった課題はあるが、昨今のCOVID-19流行により外出自粛が続くことによる孤独問題の深刻化を阻止する観点からもICTを活用したメンタルヘルス支援は重要である。

 

基調講演2 パンデミックも含めた大規模災害とジェンダー

萩原なつ子氏

  • 自然災害やパンデミックは皆に平等に起こり得る。ジェンダー(社会的・文化的性)理解の不足は、災害時に支援が必要な方々が持つ個々の支援ニーズの把握を困難にする。
  • 災害弱者のニーズを的確に把握し支援するためには、ジェンダーの理解およびその基盤となる社会的な仕組み自体を変えることが必要となる。ジェンダーの理解はあらゆるマイノリティへの理解を促す観点からも重要である。
  • 大規模災害が引き起こす「孤立」という病は、地域のつながりという「社会的な処方」で治すことが可能であり、その地域のつながりが災害やパンデミックに強い地域づくりの基礎となる。

 

基調講演3 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援の現状と課題

原田奈穂子氏

  • こころの健康は明確な境のない濃淡のスペクトラムであり、個人の健やかさは長い年月をかけそのスペクトラムを行き来するものである。したがって、災害メンタルヘルスの支援においても、その長期的なこころの動きに合わせながら対応する必要がある。
  • 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援を維持・強化するためには、地域のレジリエンス(吸収能力・緩衝能力・対応力)を高めることが重要である。具体的には、BCM(Business Continuity Management)の整備、メンタルヘルスリテラシーの向上・メンタルヘルスに対するスティグマの解消等のアプローチが求められる。
  • 日本の災害対応は国際的に高く評価されているが、活動の効果検証が困難であること、民間ボランティア組織における支援者支援体制が確立していないこと等が課題として挙げられる。

 

パネルディスカッション「災害メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくり」

  • 災害メンタルヘルスを念頭に置いた地域づくりには、当事者のニーズの把握と地域を主体とする恒久的な仕組みづくりが必要である

 日本の精神医療保健福祉体制は長年、病院を中心とした体制が続いてきたが、近年では頻発する災害も一つの契機となり、地域を拠点とした活動が展開されるようになってきた。東日本大震災から10年の今、災害メンタルヘルスを含む精神医療保健福祉全体を視野に入れた地域づくりを模索していく必要がある。

 発災後に長期にわたりメンタルヘルス支援の実践から調査・啓発活動までを行う「心のケアセンター」のような恒久的な拠点/体制を地域に整備することにより、日本の災害メンタルヘルス支援の向上が期待できる。

※心のケアセンター:地域において、精神医療保健福祉に関する専門的な相談・診療、研究、人材育成、普及啓発等の様々な機能をもつ機関。大規模災害等を契機に、兵庫県こころのケアセンター、新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンター、岩手県こころのケアセンター、みやぎ心のケアセンター、ふくしま心のケアセンター、熊本こころのケアセンター等が設立されている。

  • 平時より、地域の各組織・関係者の特性を把握すること、各組織・関係者間をつなぐ人材を育成すること、災害時に支援組織・支援者を受け入れる地域の環境を整えておくことが重要である

 平時より、地域に密着した支援組織や専門家同士の関係を築いておくことが災害時のレジリエンスの向上につながる。
 災害時には個人間・組織間のつながりが重要になる。そのための人材育成・地域の環境整備(許容力の向上)が求められる。地域の許容力を向上させることが、災害時にマイノリティへの支援を改善するとともに、マイノリティを含む市民全員が生きやすい社会の構築に寄与する。

  • 大規模災害やパンデミックが生む喪失・孤独という個人的・社会心理的な課題に、当事者・支援者・専門家を含む地域全体が取り組む必要がある

 マイノリティや支援者に対するスティグマ、災害後の自殺等には、様々な社会的文化的な背景が関係する。災害時の求援力・受援力・支援力を高めるためには、地域住民一人一人が多文化を受け入れ、エビデンスに基づき行動することが重要になる。

 


■開催概要

日時:2021年3月26日(金)10:00-12:00
形式:Zoomウェビナーを使用したオンライン形式

■プログラム:(順不同・敬称略)

開会挨拶・趣旨説明
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー)

基調講演1 ICTを活用した遠隔被災地メンタルヘルス支援と支援団体間連携
鈴木 満(認定NPO法人 心の架け橋いわて 理事長 / 在タイ日本国大使館 参事官・広域メンタルヘルス担当医務官)

基調講演2 パンデミックも含めた大規模災害とジェンダー
萩原 なつ子
(立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科 教授 / 特定非営利活動法人 日本NPOセンター 代表理事)

基調講演3 災害等緊急時における精神保健・心理社会的支援の現状と課題
原田 奈穂子(宮崎大学 医学部看護学科 精神看護学領域 教授)

パネルディスカッション「災害メンタルヘルスを念頭においた地域づくり」
パネリスト:
鈴木 満

萩原 なつ子
原田 奈穂子
福地 成(公益社団法人 宮城県精神保健福祉協会 みやぎ心のケアセンター 副センタ―長)
久我 弘典(厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 精神・障害保健課課長 補佐
モデレーター:
柴田 倫人
(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)

2021年04月30日

COVID-19の流行により、世界的にこどものメンタルヘルスへ注目が集まっています。2020年5月には国連がCOVID-19感染拡大下におけるこどものメンタルヘルスに関するレポートを公表し、多くの国々で、外出制限に伴いこどもの集中力低下や情緒不安定、神経質な状態などの変化が報告されていることが明らかになりました。日本でも、国立成育医療研究センターの「コロナ×こどもアンケート 第4回調査報告書」において、回答した小学4~6年生の 15%、中学生の 24%、高校生の 30%に、中等度以上のうつ症状があったことが示されており、COVID-19によるこどものメンタルヘルスへの影響は、喫緊の課題となっています。

また昨今、メンタルヘルスに限らず、こどもを取り巻く医療の在り方は、医療政策課題の大きなテーマとなっています。すべての妊産婦の妊娠期から子育て期、そしてこどもの出生後から成人期までの成育過程において切れ目のない医療・福祉等の提供、支援が求められています。2019年12月には「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律(成育基本法)」が施行され、2021年2月には「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」が閣議決定されました。さらに政府は、こどもに関する政策を一元的に担う「こども庁」の創設に向けた検討を進めるなど、こどもの心身の健康を社会全体が支援する体制の整備に対して関心が高まっています。

当機構においても、2020年度よりこの社会的モメンタムを促進し、我が国のこどもの健康に貢献すべく、国内外のステークホルダーとの連携による議論の喚起や、調査研究によるエビデンス創出に基づく政策提言を行うため、こどもの健康プロジェクトを立ち上げ、活動を進めてまいりました。2021年度からは、当機構のメンタルヘルスプロジェクトとのジョイントとして「こどものメンタルヘルス」に関する取り組みをスタートさせています。

こうした背景から、今回は、臨床児童心理学を専門として、教育や児童福祉領域におけるメンタルヘルス予防の研究されている同志社大学心理学部 教授 石川信一氏をお招きし、現在のお取り組みについてお話頂きます。石川氏は認知行動療法の考え方を活用した、こどものメンタルヘルス予防プログラムの実践研究を行っており、2020年度に当機構メンタルヘルスプロジェクトが実施した「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」では、教育領域における認知行動療法の考え方に基づいた支援方法の普及に向けて、様々なご知見を頂きました。

コロナ禍で休校や外出制限が進められる中、どのようにこどものこころの健康を支援していくか、現状の課題と今後の方策について、皆様と理解を深めたいと思います。

■お申込:
ご登録はこちら

スピーカー
石川 信一 氏(同志社大学心理学部 教授)

■日時
2021年6月3日(木)18:30-19:45

■場所
Zoomウェビナー形式
ご登録はこちら

■参加費
無料

■定員
500名

■プロフィール
石川 信一 氏(同志社大学心理学部 教授)
博士(臨床心理学)、臨床心理士専門行動療法士、公認心理師。2001年早稲田大学人間科学部卒業、2003年早稲田大学人間科学研究科修士課程修了、2005年北海道医療大学心理科学研究科博士後期課程中退、同年宮崎大学教育文化学部専任講師、フルブライト研究員(Swarthmore College)(2011-2012年)、2011年同志社大学心理学部准教授、マッコリー大学(2018-2019年)客員教授を経て、2018年より現職。現在、日本心理学会代議員、日本認知・行動療法学会理事、日本認知療法・認知行動療法学会幹事。主な受賞歴、日本行動療法学会内山記念賞(2005年)、日本カウンセリング学会独創研究内山記念賞(2006年)、公益社団法人日本心理学会優秀論文賞(2016年)

2021年04月16日

日本医療政策機構では、厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業として採択された「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」を実施し、事業報告書を公表致しました。

本報告書の第6章では、今後の認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法の普及に向けた提言を取りまとめましたので、抜粋しご紹介いたします。

本事業では、実装科学の考え方に基づき、今後の認知行動療法の普及に向けた要件を「エビデンス」「政策指針」「人材育成」「提供体制」「患者・当事者視点」「評価・モニタリング」の6つに分類し、これらの分類に基づいて提言を作成しました。

 

■提言の概要


(出典:「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」事業報告書 p.118

 

1. エビデンス

「認知行動療法」及び「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に共通の提言

  • 社会におけるニーズ調査・医療経済評価の必要性
  • 各領域における現場での実装可能性を検証する必要性

「疾患治療としての認知行動療法」に関する提言

  • 臨床現場の課題に応えることのできるエビデンスの必要性
  • 適切な認知行動療法の実施回数に関するエビデンスの構築の必要性

「認知行動療法の考え方に基づいた支援」に関する提言

  • 各種プログラムのメンタルヘルス・ウェルビーイングの向上への効果を検証する必要性


2. 政策指針

「認知行動療法」及び「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に共通の提言

  • メンタルヘルスの包括的な支援に向けた政策指針の必要性
  • 地域における認知行動療法の活用に向けた多様な施策の必要性
    • 入院医療・地域移行支援・精神科訪問看護等における活用促進施策
    • 集団やデジタルテクノロジーの活用も含めたセルフヘルプ等強度を下げた実施形式によるプログラムの提供促進施策
    • 多種多様な支援機関におけるプログラムの提供促進施策

「疾患治療としての認知行動療法」に関する提言

  • 重症度・複雑性や必要性に応じた診療報酬点数の傾斜設定の必要性
    • 重症度・複雑性に応じた傾斜設定
    •  必要性を踏まえた傾斜設定
    •  治療トータルで点数増加となるようなパッケージ化
  •  看護師が認知行動療法により参画しやすい体制を構築する必要性
  • 医師から公認心理師等の多様な専門職へのタスクシフティング・タスクシェアリングに向けた論点整理の必要性

「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に関する提言

  • 各領域における普及の促進に向けたインセンティブ設計の必要性
    • 地域保健や福祉領域における加算算定のための研修プログラムに認知行動療法の考え方に基づいた支援方法を含める
    • 健康経営優良法人認定制度や保険者インセンティブにおける評価指標への追加
    • 学習指導要領で、認知行動療法の考え方に基づいた支援に関する記述の検討


3. 人材育成

「認知行動療法」及び「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に共通の提言

  • 段階的な認知行動療法研修システムの整備の必要性
  • 継続的なスキルアップや情報提供のためのネットワーク構築の必要性
  • 認知行動療法の基礎を医師・看護師等のメンタルヘルスに関わる専門職のベーシックスキルとして位置付ける必要性


4. 提供体制

「疾患治療として認知行動療法」に関する提言

  • 他診療科やかかりつけ医との連携体制の構築の必要性
  • ICTやアプリケーションを活用した提供体制整備の必要性

「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に関する提言

  • 支援者の介入を前提としないセルフケアを促すプログラム開発の必要性
  • 医療との役割分担に向けて、各領域で当事者のリスク・重症度に応じた対応及び実施主体を規定したフローチャートを整理する必要性
    • ハイリスク群特定のための仕組みの導入


5. 患者・当事者視点

「認知行動療法」及び「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に共通の提言

  • 患者・当事者視点の情報発信の必要性
  • 患者・当事者が支援を継続的に受けるための体制づくりの必要性
    • 実施継続率を考慮したインセンティブ設計
    • 地域において低負担で利用できる支援プログラムの提供
    • カウンセリング等のセルフケアに対する所得控除制度を活用した経済的支援


6. 評価・モニタリング

「認知行動療法」及び「認知行動療法の考え方に基づいた支援方法」に共通の提言

  • 実施状況と質についてモニタリングする必要性
  • 厚生労働省認知行動療法研修事業の効果検証を継続的に実施する必要性

 


■関連項目

【活動報告】メンタルヘルス政策PJT-厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業(3次)「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」事業報告書公表のお知らせ(2021年4月14日)

【活動報告】メンタルヘルス政策PJT-厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業(3次)「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」採択のお知らせ

【開催報告】メンタルヘルス政策PJT-「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」専門家会合(第1部:2021年2月12日・第2部:2021年2月18日)

2021年04月16日

グローバルヘルス若手人材育成のためのグローバルヘルス・エデュケーション・プログラム(G-HEP: Global Health Education Program)の第3回講義を開催し、順天堂大学のMyo Nyein Aung准教授をお招きしました。Myo氏は主に健康増進、高齢者の長期ケア、及び非感染性疾患・感染性疾患の予防を研究対象としています。今回は、「コロナ禍における健康な高齢化とコミュニティヘルス」をテーマに講義を実施しました。

アジア諸国においてかつてないほどの勢いで高齢化が進んでいます。その中でも日本における高齢者人口の割合は世界で最も高く、タイでも高齢者人口が年々増加しています。両国にとって健康な高齢化を促進するための革新的な解決策を講じることは最重要課題です。

Myo氏は、タイと日本で実施した「健康な高齢化のためのコミュニティ・イニシアチブ」に関する研究紹介しました。まず、前半では「タイにおける高齢者のための家族ベースの長期ケアを強化する地域統合型中間ケア(CIIC)サービスモデル」 について話がありました。タイでは、高齢者の介護に関して家族による長期ケアが一般的でした。しかし、世帯の小規模化や非感染性疾患の増加といった社会変化に伴い、家族による介護を維持することができなくなっています。高齢者のケアを提供するために、CIICという新しいサービスモデルが必要とされています。

後半では、「COVID-19大流行中の高齢者のための持続可能な健康増進: 東京からの教訓 」について話がありました。日本はすでに高齢化に関して長年の経験を持っており、国や地方自治体は高齢者にとってよりインクルーシブな社会を築くための努力をしてきました。高齢者の健康増進と、高齢者が地域社会で積極的な役割を果たせるようにすることにフォーカスしています。ただ、COVID-19の流行により、高齢者のための様々なサービスが停止しました。そのため、本講義では高齢者が安全に健康増進活動を継続し、最適な健康状態を維持するための方法について共有がありました。

東南アジアでは、多くの国が家族を中心として文化を共有しているため、日本とタイの事例は、これから同様のモデルを導入しようとしている国で導入される可能性があります。

次の講義(ヘルステクノロジー)は2021年5月12日に開催します。

 

■プログラム(講義):
第1回 タイのヘルスシステムとCOVID-19(終了)
第2回 日本のヘルスシステムとCOVID-19(終了)
第3回 コミュニティヘルス(終了)
第4回 ヘルステクノロジー
第5回 グローバルヘルス
第6回 移民のヘルス
第7回 量的質的研究手法
第8回 政策提言とアドボカシー

 

グローバルヘルス・エデュケーション・プログラム(G-HEP: Global Health Education Program)は、日本医療政策機構とタイ・マヒドン大学公衆衛生学部の共同プログラムです。


■マヒドン大学について

マヒドン大学は、タイにおける医学教育を牽引する大学であり、公衆衛生学について国内で初めて専門的に取り組み始めた学術機関です。

ビジョン:
 2021年までにヘルスリテラシーに精通した専門家をASEAN諸国に輩出し、各国の人々の健康を促進する

ミッション:
 1. ヘルスリテラシーに精通した専門家になることにより、成果に基づく公衆衛生教育を提供する
 2. 公衆衛生教育、統合的かつ革新的な研究、健康と長寿および人類の発展を促進し、優れた意思決定に基づく専門的な学術に基づく知見を提供するリーダーを育成する

2021年04月15日

■スピーカー
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)

聞き手:
乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事・事務局長/CEO)

■日時
2021年1月20日(水)12:00-13:30

■場所
Zoomウェビナー形式

 

■開催報告

乗竹:今回は、日本医療政策機構(HGPI)代表理事 黒川清とともに、2020年を振り返りつつ2021年の展望について議論していきたいと思います。HGPIでは2020年、医療システムの持続可能性とイノベーションの両立、薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)、メンタルヘルス、ワクチン、女性の健康といったさまざまな課題に取り組みました。各プロジェクトにおいて産官学民のマルチステークホルダーが集まって議論を深め、合意形成を図りながら政策提言を発表しています。2021年は、さらに多様な政策提言を発信していきたいと考えています。これまでも超党派の国会議員や各省庁の担当者への訪問、議員勉強会なども開催してきましたが、単に提言をまとめて終わるのではなく、実現に向けた活動にも邁進していきます。

COVID-19対策は、意思決定のプロセスをクリアに
乗竹:2020年を振り返ると、まさに100年に一度の大きな変革が起きた年になりました。

黒川:やはり何といっても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19: Coronavirus Disease 2019)ですよね。私は当初、COVID-19が発生した武漢の対応が意外とスピーディーだなと思いながら、次は、朝鮮半島か日本に飛行機で入国した人から陽性者が出るものと予測していたのです。ところが、ダイヤモンド・プリンセス号というクルーズ船が入港していた。それが、想定外の始まりだったように思います。

乗竹:当時、一部で対応策について批判合戦のようになってしまったことは、残念でしたね。医療関係者にも、対マスメディアを含めたコミュニケーションスキルの向上が求められていると感じました。

黒川:日本の新聞やテレビなどのマスメディアや官邸などの政府の広報が情報をどのように伝え、それを皆さんがどう感じたか、その感覚が大事ですね。最近の日本では、責任ある立場の人が、誰の話を聞いて、どういう決断をしたかというプロセスが、非常に曖昧だと感じます。今回も、提言すべき人たちが議論し、決定権者に上げていくというプロセスが不十分だったような気がします。「ちょっと何か足りないのでは?」と感じた人も、多いのではないでしょうか。

乗竹:ダイヤモンド・プリンセス号以降の感染拡大に対し、政府ではさまざまな検討会や専門委員会が立ち上がりました。黒川先生も、内閣府に設置されたAIアドバイザリー・ボードの委員長を務められた訳ですが、日本のCOVID-19対策について、どのような感想をお持ちでしょうか。

黒川:まず、速やかに新型コロナウイルス感染症対策担当大臣を新設したのは、良い決定だったと思いますね。安倍晋三首相(当時)によるコミュニケーションは良かったのですが、意思決定のプロセスは明確ではありませんでした。ただ、死亡率が低い日本のCOVID-19対策は、世界から一定の評価を得ています。
COVID-19が世界中にあっという間に広がってしまい、各国がどんな対応をしているのか、今はインターネットを通じて、誰もが情報を知ることが出来る訳です。ですから政府は、世界各国で良い事例があれば、積極的に取り入れて試してみるべきだと思います。しっかり情報を集めた上で、決断していく。各国の能力が試される一方で、誰もが情報を共有できるという点は、過去のパンデミックとは全く違った状況といえるでしょう。

乗竹:たしかに100年前のスペイン風邪との大きな違いは、情報の量とつながり(コネクティビティ)ですね。台湾など海外のCOVID-19対策からも、日本が学べることは多いように思います。

黒川:そうですね。国のトップによる情報発信も注目されるところですが、中でも評判が高かったのは、ドイツのメルケル首相です。ドイツ語のスピーチを、英語をはじめ3カ国語に翻訳してすぐに発信した点も、戦略的に優れています。パンデミックのような緊急事態では、科学的なアドバイスを受けた上で、トップが責任を持って自分の意見を発信することが大事ですね。
日本は、PCR検査数が少ないと指摘されていますが、PCR検査を病院やクリニックではなく保健所で管理することにしたため、検査実施数は限定的になりました。しかし、だからといって責任を追及するのではなく、それぞれの場面での意思決定から、学んでいくことが重要です。よりオープンな議論の中で、大臣などのトップが意思決定を行う前に、常にいくつかの選択肢をクリアに示し、状況に応じて適宜修正していくプロセスが大切です。COVID-19の対応をめぐって批判合戦になってしまったのは、こうした議論のプロセスが見えづらかったために、社会の不満が募ったのではないでしょうか。

日本独特の「タテ社会」とデジタルトランスフォーメーション
乗竹:科学と政治の役割分担は、どのようにあるべきでしょうか。

黒川:政治家は、決定することへの責任を負っています。一方、科学的データに基づいた提言というものは、ゼロか1の選択ではなく確率の問題ですから、常に間違える可能性があることを念頭に置かなければなりません。ですから間違いを恐れるのではなく、間違いがあったら、すぐに直すことが大事です。間違いを直して、初めて賢さが生まれる。そういうカルチャーが欠けていたのが、今までの日本のやり方だったように思いますね。

乗竹:また、中央省庁で働く方々の業務量が増大し、多忙を極めることも課題の1つだと思います。今後、HGPIでは「霞が関の働き方改革」に関しても、なんらかの提言やプロジェクトの実施を検討していきたいと考えています。
台湾やシンガポールなど、COVID-19対策が上手くいっている国を見ると、やはりデータヘルスのプラットフォームが整備されています。一方で、日本はデジタルヘルスの分野で後れをとっていることが、COVID-19によって明らかになりましたね。

黒川:デジタル化は当然必要です。しかし、例えばマイナンバーにしても、まだ一般の人が使いやすい状況にはなっていません。はたして省庁横断的にデジタル化に向けて真剣に考えているのか、疑問ですね。どこか1つの省庁が主導するのではなく、先行している海外の事例を参考にしながら、政府の責任で国全体として推進すべきでしょう。

乗竹:まさに我が国のデジタルヘルスにおける課題として、個人に紐づいたヘルスケアレコードが存在していないことが挙げられますね。ワクチン接種のデータなども、一元管理されていない状況です。

黒川:この30年で、デジタルテクノロジーは大きく進展しました。インターネットにつながった個人が世界へ意見を発信し、国境を越えて能力を発揮できるようになりました。ですからルールや政策は、それを大前提に考える必要があります。デジタルトランスフォーメーションは1990年代から始まっていて、グローバルで見れば「タテ社会」は既に終わっているのです。日本独特の「タテ社会」、「忖度する」文化が弊害となり、省庁横断的な議論や対応が進まないならば、由々しきことですね。

日本のワクチン政策と医療体制の在り方
乗竹:COVID-19をはじめとするワクチン開発においても、日本は出遅れていますね。HGPIでは、ワクチン政策に関する提言にも取り組んでいますので、皆様にもご注目いただきたいと思います。

黒川:被験者への臨床試験など他産業と異なり巨額の開発費を必要とする製薬業界では、世界的に合併・買収が進み、数社のグローバルメガファーマへと集約されてきています。日本の製薬企業が国内にこだわる必要はなく、むしろ積極的にグローバル企業へと成長していかなければ、競争できません。その上で、本当に必要なものを伸ばしていくための政策が必要です。

乗竹:現在、COVID-19の陽性者増加に伴って、民間病院を含めた病床数がひっ迫しています。平常時に医療システムの再構築に取り組んでおくべきであったと思う訳ですが、今後の課題について、ご意見をうかがいたいと思います。

黒川:日本は、人口当たりの病院数は先進国の中でも多いのですが、病院当たりの医師数は、非常に少ないのです。高度な医療を提供する大学病院と地域のクリニックでは、やはり役割が異なりますので、日本に合った病院の在り方を考えていく必要があるでしょう。COVID-19をきっかけにして、大きな枠組みで考えていくことが大事です。

乗竹:感染症法の改正を議論することも大事かもしれませんが、医療供給体制をリデザインしていく大きなビジョンが求められているように思います。高齢化・慢性疾患が中心の時代にあって、今後、医療提供体制をどのように変革していく必要があるでしょうか。

黒川:日本の医療体制のルーツをたどると、鎖国が終わって開国した時に、イギリスをモデルにして整備されたといわれています。さらに戦後には、アメリカをモデルにするようになったため、制度全体に齟齬が生じている部分があるような気がします。さらには「フリーアクセス」という日本独特の状況が大きな課題となっているため、何とかしなければなりません。やはりCOVID-19をきっかけにして、病院の在り方を考えていくべきでしょう。

乗竹:医療提供体制に関する課題についても、HGPIとして提言に繋げていきたいと思います。COVID-19パンデミックによって日本の改善点が明らかになり、ピンチをチャンスに変える大きな転機を迎えているように感じます。

黒川:そうですね。医療の在り方を含め、方向性を定めながら、徐々に移行していくことが大事だと思います。

2021年の世界の潮流とHGPIの役割
乗竹:ここで2021年の展望について、参加者から質問が寄せられています。日本では首相が交代し、米国でもバイデン大統領が就任、ドイツのメルケル首相は退任を表明しています。各国のリーダーが代わり、2021年は地政学的にも重要な年になることが予想されます。黒川先生は、2021年の世界の潮流を、どのように展望されているでしょうか。

黒川:武漢を見ても分かるように、習近平国家主席率いる中国のCOVID-19対応が成功し、経済も成長している中で、中国は日本にとっても重要な国の1つであり、今後も日中関係が悪化するような対立は避けるべきでしょう。より大きな視野に立って、全人類が持続可能で健康な社会を目指していければいいのですが、どうしても国家の枠組みが障壁になってしまうのが現状です。
その意味で、HGPIは独立したシンクタンクであり、発信力もある。ペンシルバニア大学による「世界のシンクタンクランキング – The Global “Go-To Think Tanks”」に11年連続でランクインし、2019年は国内医療政策部門(Domestic Health Policy)で2位、国際医療政策部門(Global Health Policy)で3位という高い評価を得ています。(本セミナー開催後の2021年1月28日に「2020 Global Go To Think Tank Index Report」が発表され、12年連続ランクイン、国内医療政策(Domestic Health Policy)部門で2位、国際保健政策(Global Health Policy)部門で3位に選出されました。詳細はこちら
例えば、現在、日本の総人口に占める65歳以上の割合は28%を超えています。この長寿社会において、「認知症」は政策課題として大きな注目を集めていますので、2021年のアジェンダとして引き続き取り組んでいく必要があると思います。高齢社会の在り方を世界に示していくことは、日本の大事な役割でしょう。
私は、2013年12月のG8認知症サミットを受けて発足した世界認知症審議会(WDC: World Dementia Council)のメンバーに任命され、HGPIとしても共同研究や様々な意見交換、連携を行うなど大変有意義な活動ができています。こうした世界の動きに、日本も積極的に取り組んでいくべきだと思いますね。

乗竹:HGPIでは、認知症をはじめ高齢社会の在り方に関するいろいろな提言を公表しています。世界では、認知症フレンドリーやエイジフレンドリーという概念が広がっていますが、病院や介護施設の中に閉ざされた高齢者施策というよりも、社会全体で健康長寿社会をどのように作っていけるか、マルチセクターで議論を深めていくことが大事だと思います。ヘルスケア以外の産業界にも、期待が集まるところです。

黒川:例えば、オランダは「Dementiehuis(認知症ハウス)」という先進的な取り組みを行っていますので、こうした海外の事例も参考になると思います。

乗竹:「疾病のノーマライゼーション」といいますか、認知症があっても普通に生活できる社会をつくっていくことが大切ですね。HGPIでは、NCDs(非感染性疾患: Non-communicable diseases)の当事者の皆さんと一緒に政策提言をつくる活動も行っています。

日本の大学、組織に求められるガバナンス
乗竹:医学教育の重要性についても、質問が届いています。現在、COVID-19対策のために実習が出来ない中で、医学教育が行われています。それも含め、今後どのような医学部教育が必要でしょうか。

黒川:まず、日本の大学は、教授などの投票によって学部長が選ばれることが多いのですが、これは日本独特の変わった慣習といえるでしょう。私が最も尊敬している学長といえば、イエール大学のリチャード・C・レビンリチャード元学長ですが、日米の大学を比べると、日本の大学はガバナンスが効いていないと感じます。大学に限らず日本の組織の問題点として、トップを辞めさせるというメンタリズムが薄い。大学運営において責任が果たされていないと判断された場合、トップを辞めさせなければ、組織そのものが駄目になってしまいます。

乗竹:リーダーシップの育成という観点では、日本発のグローバルリーダーが出て来ないという課題も指摘されています。日本の企業ではリーダーシップ教育の機会が十分でない現状がある一方で、グローバル企業を見ると、30代後半から1つの国のカントリーマネージャーを任され、ダイバーシティに富んだスタッフをマネジメントするなど、若いうちから豊富な経験に恵まれているという差が生まれています。このままでは、海外の若い人材が日本の企業に目を向けないと危惧する声もあります。

黒川:リーダーは組織に対する責任を担う訳ですが、その責任を果たしているかどうか、組織がしっかり管理する必要があります。またリーダーは、若い頃から自分の責任でさまざまな意思決定をする経験が必要だと思いますね。この30年、日本のGDPは実質的に伸びていません。国の借金も増加の一途をたどる中で、次の世代に私たちが何を残せるか。これは大事なテーマです。HGPIとして日本内外の状況を分析し、世界にシェアしていくことで、日本なりの貢献ができればいいと考えています。

乗竹:HGPIは、優秀な若手スタッフに支えられて運営しています。今後も、若い人たちにとって魅力あふれる組織をつくっていきたいですね。さて、黒川先生に少し個人的な質問も寄せられています。「黒川先生は、なぜそんなにお元気なのでしょうか。モーニングルーティンがあれば、教えてください」とのことです。

黒川:とくにないですね。気をつけていることといえば、炭水化物を控えめにすることぐらいでしょうか。基本的に、一日一食でいいと思っています。

自分が何をやりたいのか、次の世代が見つける応援をしたい
乗竹:黒川先生個人として、2021年のテーマがあれば、お聞かせください。

黒川:今年は、HLABをつくった時の小林君(一般社団法人HLABの代表理事 小林亮介氏)のように、自分のやりたいことが決まっている大学生を応援することが多くなりそうですね。次の世代を育てることが大事だと思っています。皆、大学3年生ぐらいになると就職のことばかり考えがちですが、その前に、自分がやりたいことを見つける機会をつくってあげたいのです。やはり海外に出ると、感覚的に日本の弱い部分を認識できるし、だからこそ、それを良くしようという健全な愛国心も養われます。自分の国をよく知ることは、すごく大事だと思いますね。

乗竹:偏狭なナショナリズムに陥らないためにも、大事なことですね。COVID-19の影響で国家の権力なども見直されている中、ナショナリズムを脱却し、グローバルな視野に立つことが大事だと思います。さて、「最近、読まれた中で、おすすめの本は?」という質問をいただいています。

黒川:いろいろあるのですが、急に聞かれてタイトルが出て来ませんね。

乗竹:では、後ほどうかがって、改めて皆さんにご紹介したいと思います。ちなみに私のおすすめは、イヴァン・イリイチという医療社会学者が書いた『脱病院化社会―医療の限界』です。これは、医療システム自体が病気をつくっているのではないかと指摘した著書ですが、コロナ禍で自粛警察のような話が増えている中で、医療社会学、医療人類学の視点からも、改めて考えておきたい概念だと感じています。

黒川:最近、日本の若い人たちは留学を避ける傾向があるようですが、やはり健全な愛国心を養うためにも、海外へ行ったほうがいいですね。私は「必ずしも、帰ってくる必要はない。一生、日本人であることは変わらないからね」と学生たちに言うのです。ハーバード大学の学長を1800年代後半から40年間にわたって務めたチャールズ・エリオットは、大学の目的は、自分が何をやりたいかを学生に見つけさせることだと述べていますが、その通りだと思いますね。

乗竹:HGPIがペンシルバニア大学による世界のシンクタンクランキングで高い評価を得ていることの理由の1つに、健全な非営利経営が挙げられると思います。2021年も引き続き、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。

(以上)


■プロフィール
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)
東京大学医学部卒。1969年渡米、1979年UCLA内科教授。1983年帰国後、東京大学内科教授、東海大学医学部長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術会議議員(2003-2007年)、内閣特別顧問(2006-2008年)、世界保健機関(WHO: World Health Organization)コミッショナー(2005-2009年)などを歴任。国会福島原発事故調査委員会委員長(2011年12月-2012年7月)、 公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金のChair and Representative Director(2013年1月‐2018年6月)、内閣官房健康・医療戦略室健康・医療戦略参与(2013年10月‐2019年3月)、現在、マサチューセッツ工科大学客員研究員、世界認知症協議会(WDC: World Dementia Council)メンバー、ハー バード公衆衛生大学院 John B. Little(JBL)Center for Radiation Sciences 国際アドバイザリーボードメンバー、政策研究大学院大学名誉教授、東京大学名誉教授。 <http://www.kiyoshikurokawa.com

乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事・事務局長/CEO)
日本医療政策機構 理事・事務局長/CEO。日本医療政策機構設立初期に参画。慢性疾患領域における患者アドボカシー団体の国際連携支援プロジェクトや、震災復興支援プロジェクトなどをリード。その後、国際NGOにて、アジア太平洋地域を主として、途上国や被災地での防災型医療施設の建設や、途上国政府と民間企業および国際NGOが共同参画する医療アセスメント事業などを実施。エンジニアリングやデザインをはじめとした異なる専門領域のステークホルダーを結集し、医療健康課題に対処するプロジェクトに各国で従事。また、米海軍と国際NGOらによる医療人道支援プログラムの設計など、軍民連携プログラムにも多く従事。WHO(世界保健機関)’Expert Consultation on Impact Assessment as a tool for Multisectoral Action on Health’ワーキンググループメンバー(2012)。慶應義塾大学総合政策学部卒業、オランダ・アムステルダム大学医療人類学修士。米国医療支援NGO Project HOPE プロボノ・コンサルタント。政策研究大学院大学客員研究員。東京都「超高齢社会における東京のあり方懇談会」委員(2018)。


【開催報告】第91回HGPIセミナー「女性活躍推進の基盤となる健康政策~女性や若者が直面している困難の解消を目指して~」(2020年12月17日)>

2021年04月13日

この度、日本医療政策機構は厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業として採択された「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」を実施し、事業報告書を公表致しました。

認知行動療法(CBT: Cognitive Behavior Therapy)は、人の気分や行動は、物事に対する見方(認知)の影響を受けるという認知行動モデルに基づき、問題解決につながる柔軟な考え方や健康的な行動パターンに修正を図っていくことで気分の改善を目指す精神療法の一つです。うつ病のほか不安症やストレス関連疾患などの様々な精神疾患に対する治療効果と再発予防効果が実証されており、標準的治療の一つとして国内外の診療ガイドラインに推奨されています。

本事業では、これまで実施された厚生労働省認知行動療法研修事業研修の効果を分析・検証し、研修の効果や課題点を明らかにしました。さらに、患者・当事者や当該分野における国内外の有識者へのヒアリング、ならびにワーキンググループ会合、専門家会合での議論をもとに、今後の認知行動療法の普及や人材育成等の体制整備に向けた提言を取りまとめました。

詳細は本ページ末尾のPDFをご参照ください。

■関連項目
【活動報告】メンタルヘルス政策PJT-厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業(3次)「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」採択のお知らせ

【開催報告】メンタルヘルス政策PJT-「認知行動療法及び認知行動療法の考え方に基づいた支援方法に係る実態把握及び今後の普及と体制整備に資する検討」専門家会合(第1部:2021年2月12日・第2部:2021年2月18日)

※本事業報告書は日本語のみの公表となります。

2021年04月12日

日本医療政策機構は、参議院議員会館にて医療政策勉強会「30分で伝える医療政策最前線」第3回「女性活躍推進の基盤となる女性の健康対策の重要性」を開催いたしました。

大須賀穣氏(東京大学 産婦人科学講座 教授)が講演を行い、政府が今後も女性活躍を推し進めていくうえで重要となる女性の健康対策についてご説明いただきました。講演後にはご参加いただいた国会議員の方々より多くのご質問をいただき、活発な意見交換の場となりました。

 

 


■趣旨

当機構で2015年から本格的に始動した女性の健康プロジェクトでは、女性活躍推進に向けた取り組みが社会全体でなされている一方で女性自身の健康増進やヘルスリテラシー向上に向けた社会の支援はまだ不十分であるということに課題意識をもち、調査や政策提言を行っています。今回の勉強会は、国会議員の方々の中で、医療政策分野に今まで関わってこられた方だけでなく、他の分野を専門領域としてきた方にも女性の健康対策について今一度考えていただくきっかけとしていただきたいというコンセプトで開催いたしました。これを踏まえて大須賀先生には、女性の身体が経験する生涯のホルモンの変化に関するお話や、その変化とどう向き合っていくかをヘルスリテラシー向上の重要性とともにお話しいただきました。

日本医療政策機構が行った「働く女性の健康増進に関する調査」「大学生の包括的健康教育プログラムの構築と効果測定調査」はホームページからご覧いただけます。

 

■プログラム
趣旨説明
今村 優子(日本医療政策機構 マネージャー)


開会の辞

自見 はなこ(参議院議員)

 

講演
「女性活躍推進の基盤となる女性の健康対策の重要性」

大須賀 穣(東京大学 産婦人科学講座 教授)

 

閉会の辞
黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)

2021年04月09日

日本医療政策機構では、2019年度より「国際潮流と日本のメンタルヘルス政策」と題し、当事者や既存のステークホルダーを含めた国内外の当分野における産官学民のキーオピニオンリーダーや関係団体によるアドバイザリーボードを組織し、ヒアリングを重ねるなかで、日本のメンタルヘルス政策における現状の課題や論点を抽出し、その課題に対する解決の方向性を検討してまいりました。2020年度のメンタルヘルス政策プロジェクトでは、下記のような取り組みを進め、政策の進展に寄与してまいりました。

メンタルヘルスに関わる課題は、国や地域を問わず現代社会に大きな影響を与えています。日本において精神疾患を有する患者数は2017年で約419.3万人と増加傾向にあり、この患者数は、いわゆる4大疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)よりも多い状況にあります。特に外来患者数は年々増加傾向にあり、2017年には約389.1万人に上っています。入院患者数においても約30.2万人と減少傾向にはありますが、日本は人口当たり世界最大の精神科病床数を有し、2018年の病院報告によれば、最新の精神病床平均在院日数は265.8日にのぼり、一般病床の16.1日と比較すると長く、地域格差も大きいとされています。またメンタルヘルス不調・精神疾患の原因は多岐にわたり、これまでにも阪神淡路大震災や東日本大震災のような災害や経済状況の悪化に伴う雇用不安、家庭環境など、社会・経済的要因も大きいとも言われており、ヘルスケア領域に留まらず、社会課題として取り組むことが求められています。

日本では、2013年からの第6次医療計画においては、重点疾病のひとつとして位置づけられているほか、第7次医療計画および第5期障害福祉計画には「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」が掲げられています。これは精神障害の人が、地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができるよう、医療・障害福祉・介護・住まい・社会参加(就労)・地域の助け合い・教育を包括的に確保されることを目指すものであり、まさにマルチステークホルダーによる連携が必要とされています。しかし、国際的な状況と比較すると、各精神疾患への国民理解や啓発、当事者ニーズに基づくアプローチ、当事者自身がサービス開発・提供に参画すること、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの進展に向けて多職種と官民が連携した患者支援体制の構築、さらにはライフコースに沿ったメンタルヘルスケアの構築など、今後、さらに取り組みの強化が期待される政策領域も多いとされています。

今回は、これまでもメンタルヘルス政策に当事者組織として深く関わってこられた一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構の五十嵐信亮氏・田中洋平氏をお招きし、現在のご活動内容についてご紹介いただくほか、当事者組織がメンタルヘルス政策の立案プロセスにどのように関わっていくかについてお話しいただきます。

■お申込:
ご登録はこちら

■スピーカー:
五十嵐 信亮 氏(一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 業務執行理事)
(話題提供者)
田中 洋平 氏(一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 理事補佐/精神保健福祉士)

■日時:
2021年4月27日(火)19:00-20:30

■場所:
Zoomウェビナー形式
ご登録はこちら

■参加費:
無料

■定員:
500名

■プロフィール:
五十嵐 信亮 氏(一般社団法人日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構 業務執行理事)
1970年生まれ。宮城教育大学卒。鬱病により福島県小学校教員退職。福島県の(精神領域)ピアサポーター養成事業を受講後、竹田綜合病院こころの医療センターに就職、アウトリーチ推進事業に参加。令和2年より日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構の業務執行理事に就任。

2021年04月08日

日本医療政策機構では、2020年度より個人賛助会員の皆様を対象として「HGPIセミナー+(プラス)」をスタートいたしました。

「HGPIセミナー+」ではHGPIスタッフを中心に、プロジェクトで培った知見やスタッフの個々の専門性などをベースとして、様々なトピックをお届けいたします。医療政策の様々なテーマはもちろんのこと、よりHGPIを知っていただき、親しみを持っていただく場になればと考えております。
これまで、5回にわたって、「ピックアップ認知症政策」「女性の健康政策の変遷とこれから」「Unhealthy Debate:日本から見たアメリカにおける政策議論の崩壊とコロナ禍」「グローバルヘルス・ベーシック〜世界のこどもを取り巻く健康課題〜」「プラネタリーヘルス〜人々の健康のために求められる対策〜」など、当機構のスタッフからお話をさせていただき、ご参加の皆様とともに理解を深めました。


この度、2021年5月7日(金)に「新型コロナの薬とワクチン」と題し、第6回HGPIセミナー+を開催いたします。
今回は、当機構マネージャー柴田倫人が、医薬品審査の報告書等を題材に、くすりの作用(有効性と安全性)の観点から、新型コロナウイルスの治療薬・ワクチンの関連政策について、ご参加の皆様とともに考えたいと思います。
今後も皆様と共に、HGPIがより開かれたハブとしての機能を持ち、「市民主体の医療政策の実現」に向けた政策コミュニティとなるような機会を創出してまいります。
※本セミナーは日本語のみの開催です。

 

【第6回HGPIセミナー+のご案内】

■日時
2021年5月7日(金)12:00-12:45

■担当
柴田 倫人(日本医療政策機構 マネージャー)

■テーマ
「新型コロナの薬とワクチン」

■形式
Zoomウェビナー
(お申込みは個人賛助会員の皆様に別途ご案内申し上げます)

■言語
日本語


個人賛助会員のお申込みについてはこちらをご覧ください

2021年04月07日

<POINT>

・日本医療政策機構(HGPI)と認知症未来共創ハブが開催した認知症条例研究会の報告書では、認知症条例を制定している11の自治体の多くは、早期に制定きっかけとなる地域性やこれまでの取り組み、市民社会の動きなどがあることが分かった。

・今後より多くの自治体において「相互参照」されることが必要であり、それにより各地で多様な認知症条例が制定されることが期待される。

・制定プロセスにおいて当事者を含めた多様なステークホルダーが参画することで、その地域独自の認知症条例が作られ、地域に必要な認知症施策が推進されるようになる。

 

はじめに

前回のコラムでは、2019年に日本政府が公表した認知症施策推進大綱について、政府が自ら公表した進捗状況についてご紹介しました。新たな政策ビジョンである認知症施策推進大綱に盛り込まれた各種施策が着々と進んでいる一方で、政府の発信に関する取り組みには課題が残ることを述べました。今回のコラムでは、地方自治体が定める認知症条例について取り上げたいと思います。


日本医療政策機構(HGPI)・認知症未来共創ハブ「認知症条例研究会」について

近年、地方自治体が認知症に関する条例を制定する動きが起きています。2017年12月には愛知県大府市が「大府市認知症に対する不安のないまちづくり条例」を全国に先駆けて制定させました。2020年10月1日時点で11自治体(1県・10市区町)が認知症関連の条例を制定していますが、条例の名称も様々で、内容も地域ごとに異なります。認知症未来共創ハブが掲げる「認知症とともによりよく生きる未来」の実現、そして日本医療政策機構が掲げる「市民主体の医療政策の実現」には、国全体の画一的な取り組みではなく、地域社会において住民が主体となって認知症に関わる政策を考えることが必要です。

そこで日本医療政策機構と認知症未来共創ハブでは、2020年10月に認知症関連の条例について考えるため研究会を立ち上げました。本研究会は、認知症未来共創ハブの目指す「認知症とともによりよく生きる未来」そして日本医療政策機構のミッションである「市民主体の医療政策の実現」に賛同してくださった有志の方々にも研究会メンバーやオブザーバーとしてご参画いただきました。2021年3月22日には、「これからの認知症条例の方向性」と題して、地方自治体・地方議会、さらには住民・国・民間企業等の関係者に対する提言をまとめ、比較結果等の報告書と共に公表しています。(リンク:認知症条例比較研究会中間報告書・政策提言書「住民主体の認知症政策を実現する認知症条例へ向けて」

研究会メンバー兼事務局統括として、本中間報告書が無事に公表できたことを嬉しく思います。2019年には国は認知症施策推進大綱に加えて、議員立法によって認知症基本法案が提出されました。国の認知症政策が大きく動き始めた今だからこそ、改めて最も私たち市民社会に近い政府である地方自治体の認知症政策の在り方を考える必要があると感じています。研究会の意義や本中間報告書への想いは報告書本体に十分に記載しましたので、ぜひ上記リンクよりご覧いただければ幸いです。今回のコラムでは、条例研究会の開催過程や報告書・提言書の執筆過程で考えた「今後認知症条例を制定する自治体は増えるのか」について考えます。


自治体が条例を制定するとき

認知症条例研究会の中間報告書が対象としている自治体は、2020年10月1日時点で施行されている全11自治体(施行された順に:愛知県大府市、兵庫県神戸市、愛知県設楽町、愛知県、和歌山県御坊市、島根県浜田市、愛知県名古屋市、愛知県知多市、愛知県東浦町、滋賀県草津市、東京都世田谷区)です。これらの自治体が「なぜ条例を制定しようと考えたのか」に思いを巡らせたとき、そこには様々な背景があると考えられます。もちろん自治体の意思決定は様々な関係者との議論の末に成り立っていますので、その理由は1つに絞ることはできないでしょう。比較作業をする中で、公開資料や議会・委員会の会議録など沢山の資料に目を通し、そこから見える背景を様々想像していました。(それだけでとても興味深い時間なのですが)もちろんその理由が何であれ、その良し悪しは第三者である私たちが評価すべきものではないことは念のため断っておきます。

例えば今回対象とした11自治体のうち愛知県内に属する自治体は、愛知県自身も含め6自治体、n数が少ない中ではありますが、全体の過半数を占めています。日本全国1700を超える自治体がありながら、愛知県に集中しているのは興味深い傾向と言えます。報告書本文でも言及しましたが、愛知県には国立長寿医療研究センターや認知症介護研究・研修大府センターなど高齢者医療・介護に対する研究が盛んな地域であったことと無関係とは言えないでしょう。そして何より2007年に大府市内で発生した認知症の高齢男性とJR東海の鉄道接触事故は、愛知県、大府市をはじめ県内の自治体にとって政策課題としての認識を決定づけたと考えています。また、2017年に制定された愛知県の「あいちオレンジタウン構想」には、現在の認知症施策推進大綱でも重要視されている「企業型認知症サポーター(認知症の人にやさしい企業サポーター)」の養成が施策として盛り込まれているなど、非常に先進的な行政計画の例であったと考えています。


今後認知症条例を制定する自治体は増えるか

今回研究会で比較した自治体を見ると、愛知県以外にも周辺地域に大学や研究機関があったり、首長が強い関心を持っていたり、以前から地域で認知症共生の取り組みが盛んであったりと、何らかの特徴を持った自治体が多いように感じています。しかし今後は、こうした条例制定の流れを踏まえて「我が街でも条例を作ろう」と考える自治体が増えると予想(期待)しています。私の個人な意見ですが、認知症条例を制定する動機が「他の自治体でもやっているから」というものであっても良いと考えます。

では、今後認知症条例を制定する自治体は増えるのでしょうか。この疑問を考える上で参照すべき自治体の政策立案過程の先行研究として、政治学者・伊藤修一郎が提唱した「動的相互依存モデル」があります。伊藤は、自治体がある政策を立案するプロセスを「内生条件」「相互参照」「横並び競争」という3つのメカニズムを用いて説明しています。本コラムは政治学の論文ではなく、一般の読者を対象としておりますので細かな説明は控えますが、「内生条件」の具体的なものとしては、上述のような自治体内に研究機関があるといった社会資源の観点やその他社会的・経済的・政治的条件などの「社会経済要因」のほか、「政治要因」「組織要因」などがあるとされます。さらに、それらの内生条件によってはじまった先行自治体の動きを全国に波及させるメカニズムとして「相互参照」の動きが起こります。そしてその後の全国的な波及や、国が同様の政策を採用したことなどを受け、内生条件に関係なく、我先にと全国の自治体が同様の政策を採用する「横並び競争」のフェーズに移るとしています。(※1)

今後、認知症条例について「相互参照」が進めば、制定に向けて動き出す自治体も増えることでしょう。そして、現在国会に提出されている認知症基本法が成立すれば、それは「横並び競争」の呼び水にもなるでしょう。多くの地方自治体では、企画立案において全てを0から考えるのではなく、日頃から他の自治体の事例や動向を相互参照しています。相互参照の実態として「あまりよく考えずにコピーのような政策・条例を作っている」と言った批判がありますが、実際にはいわゆる「金太郎飴」的なものではなく、条例の類似化傾向はあるものの画一化は生じていないとの指摘もされています。相互参照を通じて、自らの地域に適した内容に工夫を重ねることで、「条例内容の多様化」につながっているのです。(※2)特に現代では、条例本文はインターネット等誰もが見える形で公開されますから、あまりにも酷似した条例であれば今回のような比較研究を行う第三者によって明らかにされてしまいます。自治体にとっては自分たちの条例の独自性を伝えることが必要であり、研究会の提言書で指摘している「制定プロセスにおける情報公開」は非常に重要な点と言えます。また制定プロセスにどのような関係者が参画しているかも、条例の独自性に影響を与えるものと予想されます。実際に、地方自治体の文化条例を比較考察した先行研究では、文化政策の専門家が検討段階で参画・協力した自治体には、「国の法律への無自覚な追随を避け、独自性のある内容が盛り込まれている」と指摘されています。(※3)


「我が街の認知症政策」の実現へ

認知症条例においても、今後地方自治体間の相互参照によって多様な情報・要素を収集し、その後の丁寧な制定プロセスにおいてマルチステークホルダーが検討を重ねることで、その条例はその自治体独自のものとして形作られていくはずです。内容面では、今後検討を進める自治体の多くは認知症施策推進大綱や認知症基本法案が外部要因として大きな影響を与えるでしょうし、先行している自治体を参照することになるのではないでしょうか。そして検討委員会等には、認知症のご本人はもちろん、地域課題を理解する様々なステークホルダーの参画を促すことで、「我が街の認知症政策」の実現につながっていくと考えています。

私たちとしても、日本医療政策機構(HGPI)・認知症未来共創ハブによる報告書・提言書「住民主体の認知症政策を実現する認知症条例へ向けて」が、1つでも多くの自治体の条例制定に向けた検討に寄与することを心から願っています。

 

 

【参考文献】

※1:伊藤修一郎(2004)『自治体政策過程の動態 政策イノベーションと波及』慶應義塾大学出版会
※2:市川喜崇(2011)「市町村総合行政主体論と「平成の大合併」」寄本勝美・小原隆治編『新しい公共と自治の現場』コモンズ, p350-351
※3:吉田隆之(2012)『各自治体の文化条例の比較考察 ―創造都市政策に言及する最近の動きを踏まえて―』文化政策研究第6号, p114-132

 

【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー/認知症未来共創ハブ 運営委員)


HGPI 政策コラム(No.20)-認知症政策チームより->

2021年04月06日

日本医療政策機構はグローバル専門家会合「『予防接種・ワクチン政策推進』プロジェクト~ライフコースに基づいた予防接種政策に向けた今後の打ち手を考える~」を開催いたしました。

*****最終報告書を作成し、発表しました。(2021年4月6日)
詳しくは、当ページ下部のPDFファイルをご覧ください。

 

■概要:

世界保健機関(WHO: World Health Organization)は、健康、社会、経済、教育への影響を考慮した際に、ワクチン接種が最も費用対効果の高い公衆衛生学的な介入であると述べている。一方で、世界的にはワクチン接種をしないもしくはできないことにより「ワクチンで予防可能な疾患(VPD: Vaccine Preventable Disease)」に毎年150万人が罹患している。日本では、ワクチン接種に関連する健康被害に対して社会が過敏に反応し、メディア報道や訴訟などにより予防接種政策を再考しなければならない事例が生じている。また、子どもを持つ親が親自身や子どもへのワクチン接種を躊躇したり拒否したりするワクチン忌避(Vaccine Hesitancy)と呼ばれる現象も見られている。そのため、定期予防接種をスケジュール通りに国民に提供できない事態が生じている。また、制度の変更などの影響もありVPDが日本でもいまだに報告されている。

近年の国際機関や諸外国における予防接種政策では、科学技術の進歩や生活様式の多様化を踏まえた上で、小児期のみならず青年期、中年期、高齢期を含む生涯を通じたライフコースに基づいた予防接種の重要性が益々高まっている。また、ワクチン忌避の動きに対応するために、その有効性、安全性そして接種の必要性について科学的なエビデンスをわかりやすく発信するとともに未接種世代に対してキャッチアップのための制度を導入するなど、様々な取り組みを実施している。日本では予防接種の制度設計、行政の認識、また医療提供者の認識といった要因において、ライフコースアプローチの取り組みが必ずしも十分とはいえない現状がある。

2020年11月上旬の時点において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19: Coronavirus Disease 2019)は、約120万人の命を奪うとともに、世界的な経済および社会の混乱を引き起こしている。その終息に向けて、有効な治療方法の確立とともに有効で安全なワクチンに対する期待が世界的に高まっている。日本においても、感染症に対する危機感の高まりとともに、季節性インフルエンザの予防接種に対して高齢者や基礎疾患を有している人などにおいても需要が高まっている。

以上のように、予防接種・ワクチン政策に関して社会の関心が高まる中で、国民一人一人が予防接種で享受する個人と社会に対する価値について理解を深め、ライフコースを通じて予防接種の実現と全世代に渡って予防接種のもたらす価値を認識することが重要である。日本において、ライフコースに基づく予防接種や未接種世代に対するキャッチアップに対する政策の実現が期待される。

本グローバル専門家では、当機構が設置している産官学民の専門家からなるアドバイザリーボードとともに、外部の有識者を交えて議論を行った。本議論を通して、今後のワクチン政策の議論や国民の議論の促進に寄与することを期待している。

 

■ラウンドテーブル・ディスカッションで示された論点:

  • 論点 1:
    • 被接種者とのコミュニケーション
  • 論点 2:
    • 医療従事者への教育
  • 論点 3:
    • 予防接種へのアクセス(医療機関にかかる機会がない方へのワクチン接種機会の拡充、予防接種の公的補助)
  • 論点 4:
    • ワクチンの科学的な評価
  • 論点 5:
    • 日本のワクチン施策のあり方(成人向けワクチン接種体制の整備と政策サイクルへのアカデミアの参画)
  • 論点 6:
    • 日本のワクチン研究開発体制の改善
  • 論点 7:
    • 新型コロナウイルスでの対応

■プログラム:

開会の辞

  • 黒川 清(特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事)

特別講演「予防接種・ワクチン政策の再考 ~COVID-19流行を経験して~」

  • 武見 敬三(参議院議員/ WHO UHC親善大使/ スペシャルアドバイザー)

 

基調講演「グローバルなワクチンを取り巻く環境の変化とこれからの計画」

  • Huong Thi Giang Tran(WHO 西太平洋地域事務局 疾病対策局 ディレクター)

基調講演「ライフコースアプローチの重要性と世界の動向」

  • Lois Privor-Dumm (ジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院 世界ワクチン・アクセス・センター 大人のワクチン ディレクター)

ラウンドテーブル・ディスカッション

パネリスト:

  • 阿真 京子(一般社団法人 知ろう小児医療守ろう子ども達の会 前代表)
  • 荒井 秀典(国立長寿医療研究センター 理事長/ 日本老年医学会 副理事長)
  • 岩田 敏(国立がん研究センター 中央病院 感染症部/予防接種推進専門協議会 委員長)
  • 氏家 無限(国際感染症センター トラベルクリニック医長/ 予防接種支援センター長)
  • 大石 和徳(富山県衛生研究所 所長)
  • 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所 所長)
  • 落合 利穏(サノフィ株式会社渉外本部・ワクチン担当 ヘッド)
  • 齋藤 昭彦(新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野 教授)
  • 菅谷 明則(すがやこどもクリニック/ 特定非営利活動法人 VPDを知って、子どもを守ろうの会 理事長)
  • 高島 義裕(WHO西太平洋事務局 疾病対策局 VPD部門 コーディネーター)
  • 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター 第三室(予防接種室) 室長)
  • 中山 久仁子(医療法人メファ仁愛会 マイファミリークリニック蒲郡)
  • 廣瀬 佳恵(ヤンセンファーマ株式会社 インテグレイテッド・マーケットアクセス本部 ポリシーインテリジェンス部 マネージャー)
  • 松本 愼次(欧州製薬団体連合会(EFPIA)日本支部 ワクチン部会 部会長)
  • 宮入 烈(国立成育医療研究センター 生体防御系 内科部 感染症科 診療部長)
  • 守屋 章成(名古屋検疫所 中部空港検疫所支所 検疫衛生課 空港検疫医療管理官)

モデレーター:

  • 菅原 丈二(特定非営利活動法人 日本医療政策機構 シニアアソシエイト)

閉会の辞

  • 古屋 範子(衆議院議員/ 国民の健康増進を推進する議員の会(ワクチン予防議員連盟) 会長代行/ スペシャルアドバイザー)

 

 

■関連した項目(開催日順)

– 2020年11月10日(木)【開催報告】予防接種・ワクチン政策推進プロジェクト「国際潮流と日本の予防接種政策~求められる次の打ち手~」第3回アドバイザリーボード会合

– 2020年09月17日(木)【開催報告】予防接種・ワクチン政策推進プロジェクト「国際潮流と日本の予防接種政策~求められる次の打ち手~」第2回アドバイザリーボード会合

– 2020年09月07日(月)【提言】「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの国際的な供給体制に関する提言」

– 2020年08月07日(金)【開催報告】予防接種・ワクチン政策推進プロジェクト「国際潮流と日本の予防接種政策~求められる次の打ち手~」第1回アドバイザリーボード会合

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