2021年02月24日

<POINT>

・2019年に公表された認知症施策推進大綱も1年半が経過し、最初の1年の実施状況が取りまとめられた。各項目で進捗には差はあるが、重点項目は概ね順調に施策が進んでおり、またその振り返りも非常に詳細に行われていた。

・本コラムでは、認知症サポーター養成、認知症疾患医療センターの設置、認知症研究開発の体制整備の3点を取り上げて紹介する。

・一方で発信については不十分な面が見られ、国内外への施策実施状況も含めた政策情報をより積極的に発信することが求められる。

 

 

はじめに

日本ではじめて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者が確認されてから1年が経過しました。2021年1月7日には首都圏の1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)に再び緊急事態宣言が発出され、先の見えない日々が続いています。前回のコラムでは、早期受診・早期診断の阻害要因について、2017年に日本医療政策機構が公表した提言白書を基に改めて考えました。今回は2019年6月に政府が公表した「認知症施策推進大綱 」について改めて取り上げます。思い返せば2019年は認知症施策推進大綱が公表、そして認知症基本法案が国会に提出され、いよいよこれから日本の認知症政策を前進させていく、そんな年でした。しかしその年末にはじまったCOVID-19の影響により、社会的な機運の醸成はその歩みを緩やかにせざるを得ない状況となってしまいました。本コラムでは、認知症施策推進大綱の公表から1年半、その現在地を確認してみたいと思います。

 

認知症認知症施策推進大綱の実施状況

2020年12月上旬、内閣官房健康・医療戦略室のwebサイトにある「認知症施策推進関係閣僚会議」のページに、「令和2年度 進捗確認」というタイトルで資料が掲載されました。この資料は、2025年までを計画期間とする認知症施策推進大綱の最初の1年が終了したことを受け、現時点の実施状況を取りまとめたものです。資料では、認知症施策推進大綱策定時に設定した指標(KPI: Key Performance Indicators)の達成状況の他、大綱の本文に明記した施策についてその実施状況と今後の取り組みについて明記しています。さて今回のコラムではこの公表された資料から気になった点をいくつかピックアップしていきます。

 

 1.普及啓発・本人発信支援
1)認知症に関する理解促進
「企業・職域型の認知症サポーター養成数400万人」
2020年度末時点の認知症サポーター養成数 1200万人」

認知症施策推進大綱では、「認知症の人と地域で関わることが多いことが想定される小売業・金融機関・公共交通機関等の従業員等をはじめ、人格形成の重要な時期である子供・学生に対する養成講座を拡大する」とされ、より広く一般的に啓発を進めるフェーズから、より対象を絞った形に移行していることが読み取れます。この企業・職域型も2019年6月末時点で、約260万人養成されています。また従来型の認知症サポーターののべ養成数は2019年9月末時点で12,773,939人(※1)と、2020年の目標値を半年経過時点でクリアしています。今後の取り組みとしては、引き続き企業・職域型の認知症サポーター養成を推進するほか、オンライン受講用の研修教材の作成や配信用サイトの構築など、受講機会の拡大を図る取り組みを実施するとしています。

2005年から行われている認知症サポーターの養成も、広く社会に浸透し、単純計算で国民の約10人に1人以上が認知症サポーターということになります。認知症サポーター養成の取り組みは社会に広く根付いて、地域における認知症理解に大きく貢献していると言えるでしょう。また英国のDementia Friendsのように、海外でも日本の取り組みを参考にする国や地域が増えています。一方、これまでは認知症というものを全く知らない人に向けた啓発ツールとして活用されてきましたが、今後は社会づくりや地域づくりの観点も取り入れた次のステップが求められる時期に来ているかもしれません。二階建て方式とし、一階部分は従来型の養成講座を活用しつつ、二階部分は自治体ごとに「今自分たちの地域に必要な啓発のコンテンツは何か」を地域で暮らす認知症のご本人と共に考え、作るのも一案ではないでしょうか。

 

3.医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
1)早期発見・早期対応、医療体制の整備
「認知症疾患医療センターの設置数 全国で500か所 二次医療圏ごとに1か所以上(2020年度末)」

各地域における認知症医療の核となる「認知症疾患医療センター」の設置が進められています。2019年6月末時点では合計468か所が設置され、1か所以上設置されている二次医療圏域は310か所と全体の93%の実施状況です。今後も設置の推進を図るとともに、あわせて質の向上にも取り組んでいくとされています。また認知症疾患医療センターは現在、その規模や要件に応じて「基幹型」「地域型」「診療所型」の3つに整理されています。今後の取り組みとしては、これらの類型ごとの機能の見直しや役割分担なども含まれています。

さらに、認知症施策推進大綱では認知症疾患医療センターの役割として「診断後支援」にも言及しています。本コラムでも診断後支援の重要性について何度か取り上げていますが、早期対応には不可欠な要素と言えます。すでに多くの認知症疾患医療センターで取り組みが進められ、厚生労働省の調査研究事業を通じた事例収集も進んでいますが、今後は認知症疾患医療センターに過度な負荷がかかりすぎないよう、役割に応じた資源配分や地域ごとでの役割分担のビジョンづくりも必要になります。持続可能な体制づくりの観点から、1つのプレイヤーにいくつもの役割を付与しすぎないことが重要と言えます。

 

5.研究
2)研究基盤の構築
「薬剤治験に即刻対応できるコホートを構築」

そして長期的視点で考えたとき、非常に重要なのが研究の推進です。これまでも多くの企業が認知症の疾患修飾薬の開発に向けて研究開発を続けてきましたが、現在のところ開発には至っていません。最近でも候補となる薬の国際共同治験が始まるといった報道もありましたが、私たちに届けられるにはまだ時間がかかりそうです。特に認知症の創薬において課題となっているのが、治験体制の整備です。最近では、アルツハイマー型認知症をはじめ、超早期段階での介入が重要と想定されていますが、この段階の方々は症状が軽いもしくは症状がないために医療機関を受診されるケースが少なく、治験に参加してもらうのが難しい状況にありました。

その解決策の1つとして始まったのが、薬剤治験対応コホート「J-TRC(ジェイ・トラック)」です。これは観察研究と呼ばれるタイプの研究で、認知症ではない50歳から80歳の方にwebサイトにボランティアとして登録してもらい、定期的に記憶機能の変化を調べます。また、その中で予防薬の治験に参加頂ける条件を満たした人に対し、アルツハイマー病の予防治験への参加を促すといったことも行います。これによりアルツハイマー病の超早期段階で症状のないうちに診断する方法を研究し確立することを目指すほか、超早期段階で予防する薬の治験に参加する条件が整った方を治験に紹介する体制を作ることを目指します。

こうした取り組みも含め、最終的には日本もしくはアジアの周辺国も連携しながら、産官学が連携した大規模な研究支援の枠組みにつなげることが求められます。日本医療政策機構では、2016年度にAMEDの支援を受けて行った「認知症研究等における国際的な産官学の連携体制(PPP: Public Private Partnerships)のモデル構築と活用のための調査研究」において、世界で展開されている認知症研究に官民連携体制を調査し、日本における枠組み構築の提言を行いました。公的研究費や民間企業の研究資金のみの運営では持続可能性の面で課題があり、研究者やデータに加えて、資金についても集中する体制が必要と言えます。

 

おわりに

今回のコラムでは、2019年に政府が公表した認知症施策推進大綱の進捗状況について、最新資料を基にご紹介しました。本資料ですが、進捗の振り返りとして非常に丁寧に作成されています。「何を約束して、どこまでやったか」ということを、大綱の見出しやKPIのみならず、本文の1つ1つに至るまで振り返っています。一方で本資料が公表されたことについて、積極的な広報はされておらず、国民に対する政策推進の説明という観点では、非常にもったいないというのが率直な印象です。

また日本の認知症政策の進捗は、多くの国々が関心を持っています。日本医療政策機構でも、様々な国や地域の研究者や団体などから頻繁に問い合わせがあります。私たちも公表されている最新資料を宝探しの様に探り当てて、回答しています。国際貢献という点でも、また外交政策の一環としても、日本の保健医療に関する情報は大きな価値がありますので、統計資料を含めた政策情報を政府主導で日英含めた多言語で積極的に発信していただきたいと、ここに提言しておきます。

まだまだ辛抱の日々が続きますが、一日も早いCOVID-19の終息を願ってやみません。

 

 

【出典】

※1:特定非営利活動法人地域ケア政策ネットワークwebサイト「認知症サポーターの養成状況」(http://www.caravanmate.com/result/

 

【執筆者のご紹介】
栗田 駿一郎(日本医療政策機構 マネージャー/認知症未来共創ハブ 運営委員)


HGPI 政策コラム(No.19)-認知症政策チームより->

2021年02月23日

Global Coalition on Aging(GCOA) と日本医療政策機構 (HGPI: Health and Global Policy Institute) は、健康的な高齢化、イノベーションそしてシルバーエコノミーを主要議題とした第一回ラウンドテーブルの報告書を発表しました。

202010月にWebミーティング形式で開催されたラウンドテーブルでは、健康、経済、高齢化、高齢者在宅介護の各分野の専門家が政策的な議論を行いました。そこで、高齢化という世界的なメガトレンドをリードし、イノベーションを投資の中心に据えている日本のような国々は、健康への支出を重要な投資であると認識するよう各国政府に呼びかけました。

このラウンドテーブルはGCOAと経済協力開発機構(OECD: Organisation for Economic Co-operation and Development)及びファイザー株式会社の共催、およびHGPIの支援により開催されました。

 

本ラウンドテーブルでは、日本と世界の高齢化社会における医療イノベーションの重要性に焦点を当てるため、以下を重点として確認しました。

1. 日本には健康寿命の延伸を保証するイノベーションが期待されています。
2. イノベーションを促進するために、日本は医療イノベーションへの支出を健康でアクティブな高齢化への投資として捉えることが重要です。
3. 医療イノベーションを実現するためには、業種、学際、国や地域を超えた協力が不可欠です。
4. 日本での医療イノベーション投資が行われるためには、イノベーションを先導する見識のある人材に対するインセンティブが必要です。
5. グローバルに、そして日本に焦点を当てた高齢化政策の国際フォーラムでは、シルバーエコノミーの促進を図る医療イノベーションの新モデル策定のためのアクションの土台作りが進んでいます。

日本語版の報告書はこちら。 英語版の報告書はこちら。 

ラウンドテーブルの口火を切ったのはMichael W Hodin氏(GCOA CEO)、牧原秀樹氏(衆議院議員)、村上由美子氏(OECD東京センター所長)でした。


ラウンドテーブル全体の主なコメントは以下の通りです。

村上 由美子 氏(OECD東京センター所長)

グローバルな連携とコミュニケーションは、医療イノベーションとシルバーエコノミーを促進する上で重要な役割を果たしています。65歳以上の人口が約3割を占める日本は、国際的なリーダーシップを発揮し、高齢化社会のモデルとなるよう医療イノベーションの促進に努めることが求められています。


須賀 幹郎 氏(独立行政法人日本貿易振興機構 ニューヨーク医療・健康・福祉部門
Head

医療イノベーションと経済成長を支える政策ソリューションを追求することで、日本は強い経済、医療費の適正化、そして健康で活動的な高齢者人口を擁する未来の基盤を築いていけます。


Michael W. Hodin氏 (GCOA CEO

高齢者の在宅介護、テクノロジー、医薬品などの分野では、イノベーションの増加は高齢者の身体機能維持とライフコース全体での経済活動の継続につながる可能性があります。イノベーションにインセンティブを与えることが求められています。

 

Global Coalition on Aging
Global Coalition on AgingGCOA)は、人口の高齢化が進むことにより生じる 21世紀の大きな変化に対応するグローバルリーダーのアプローチ方法や方策を再構築することを目指しています。GCOAは、高齢人口に対して知見があり、高齢化を包括的・体系的に理解しており、高齢化による影響を楽観視している様々な業種・世界的企業を、独自の方法で団結させています。 研究、公共政策分析、アドボカシー活動、戦略的なコミュニケーションを通じて革新的なソリューションを推進し、また、世界的な人口高齢化が健康増進、生産性向上、経済成長へ繋がるよう活動しています。詳しくは、www.globalcoalitiononaging.comをご覧ください。

e-mail: mmitchell@globalcoalitiononaging.com(担当:Melissa Gong Mitchell)

 

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2004年に設立された非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクです。市民主体の医療政策を実現すべく、中立的なシンクタンクとして、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供してまいります。特定の政党、団体の立場にとらわれず、独立性を堅持し、フェアで健やかな社会を実現するために、将来を見据えた幅広い観点から、新しいアイデアや価値観を提供し、グローバルな視点で社会にインパクトを与え、変革を促す原動力となることを目指しています。詳しくは、https://hgpi.org/をご覧ください。

e-mail: info@hgpi.org

2021年02月21日

Global Coalition on Aging(GCOA)と日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、過去に開催された超高齢化社会である日本における薬剤耐性(AMR)に関するラウンドテーブルに基づき、政策に焦点を当てた報告書を発表しました。

2020107日に開催されたラウンドテーブルでは、経済、政府、学術、高齢化、非営利の各分野の専門家が集まり、日本を筆頭とした世界中の高齢化社会におけるAMRの多面的なリスクを検討しました。特に、日本をはじめとする世界各国では、COVID-19の対応から得られた教訓をAMRの課題に応用することができます。

このラウンドテーブルはGCOA及びファイザー株式会社の共催、HGPIの支援により開催されました。

 

ラウンドテーブルでは、超高齢化社会を迎えた日本で、ヘルシーエイジングと活発なシルバーエコノミーを支えるための早急な対策推進に向けた議論を行い、以下の5つの提言がなされました。

1. 超高齢化社会を迎えている日本にとって、AMRは喫緊の公衆衛生課題です。脆弱な高齢者層を対象とした、政策支援と断固たる対応が求められています。
2. AMRに対抗するための新たな抗菌剤の不足は、重大な「市場の失敗」を示しています。この失敗に対し、新たなインセンティブと市場ベースの政策改革が求められています。
3. 新型コロナウイルス感染症の脅威を受けて、高齢者層への働きかけが一層重要になっています。
4. AMRの諸課題に対応するためには、社会全体の幅広いステークホルダーが関心を持つ必要があります。
5. 世界で最初に超高齢化を迎えている国として、日本はAMR対策において国際的に主導的な役割を果たすことが期待されています。

日本語版の報告書はこちら。 英語版の報告書はこちら。 

開会の挨拶は、Michael W Hodin 氏(GCOA CEO)と野田博之氏(内閣官房新型インフルエンザ等対策室 企画官)が行い、「日本国内および世界各国で拡大するAMRの課題に対処するために、日本政府は企業との連携に重要な役割を果たしています。そして今、私たちには、セクターを超えたコミュニケーションと協力が求められています。」と述べられました。


ラウンドテーブル全体の主なコメントは以下の通りです。

井上 肇 氏(内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室 次長)

我が国のみならず世界中で拡大するAMRという課題に対処するうえで、日本政府は産業界と連携して重要な役割を果たしています。まさにいま、セクターを超えた対話と連携が必要です。マルチセクトラルアプローチこそがこれほど大きな規模の課題に対処する唯一の方法なのです。


大曲 典夫 氏(国立国際医療研究センター
AMR 臨床リファレンスセンター センター長)

日本では65歳以上の患者に注射用抗菌薬を使用するケースが年々増加しています。しかしながら、高齢化社会を迎え始めている世界の国々は、世界で最初に超高齢化を迎えた日本がAMRの課題に取り組むリーダーとなることを期待します。


Michael W. Hodin 氏(GCOA CEO

超高齢社会である日本にとって、AMRはすでに大きな脅威となっています。このような緊急性にもかかわらず、抗菌薬のイノベーションは枯渇しているのが現状です。超高齢社会をサポートするためにも日本は新規抗菌薬開発への投資をしなければなりません。そして、強力なパイプラインを育成できるようなイノベーションに適した環境を支援することにコミットすることが求められています。

日本の超高齢化社会のニーズに対応して、GCOAの「AMR行動要請」は、「AMRはヘルシーエイジングを阻む最大の障害であり、21世紀に奇跡的な長寿をもたらした、科学・医療・衛生分野の20世紀の進歩を脅かすものである」と訴えています。GCOAの「AMR行動要請」は、こちらをクリックしてください。

 

Global Coalition on Aging
Global Coalition on AgingGCOA)は、人口の高齢化が進むことにより生じる 21世紀の大きな変化に対応するグローバルリーダーのアプローチ方法や方策を再構築することを目指しています。GCOAは、高齢人口に対して知見があり、高齢化を包括的・体系的に理解しており、高齢化による影響を楽観視している様々な業種・世界的企業を、独自の方法で団結させています。 研究、公共政策分析、アドボカシー活動、戦略的なコミュニケーションを通じて革新的なソリューションを推進し、また、世界的な人口高齢化が健康増進、生産性向上、経済成長へ繋がるよう活動しています。詳しくは、www.globalcoalitiononaging.comをご覧ください。

e-mail: mmitchell@globalcoalitiononaging.com(担当:Melissa Gong Mitchell)

 

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2004年に設立された非営利、独立、超党派の民間の医療政策シンクタンクです。市民主体の医療政策を実現すべく、中立的なシンクタンクとして、幅広いステークホルダーを結集し、社会に政策の選択肢を提供してまいります。特定の政党、団体の立場にとらわれず、独立性を堅持し、フェアで健やかな社会を実現するために、将来を見据えた幅広い観点から、新しいアイデアや価値観を提供し、グローバルな視点で社会にインパクトを与え、変革を促す原動力となることを目指しています。詳しくは、https://hgpi.org/をご覧ください。

e-mail: info@hgpi.org

2021年02月19日

AMRアライアンス・ジャパン(事務局:日本医療政策機構)は 、「日経・FT感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム 第4回AMR部会」を開催いたしました。
本部会では、抗菌薬の持続的な研究開発に繋がる提言の提出先や時期等について議論を重ねました。

なお、会議はコロナウィルス対策を鑑み、WEB会議システムを中心として、オンサイトで集まる場合は十分な距離を保って実施しました。

 

■概要
日時:2020年12月14日(月)
事務局: AMRアライアンス・ジャパン

■プログラム
冒頭あいさつ
舘田 一博(一般社団法人 日本感染症学会 理事長/一般社団法人 日本臨床微生物学会 理事長/東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座 教授)
乗竹 亮治(AMRアライアンス・ジャパン事務局/特定非営利活動法人 日本医療政策機 理事・事務局長CEO)

ご報告
第7回日経・FT感染症会議活動報告 および 今後の働きかけにかかる事務局案について:
Matt McEnany(AMRアライアンス・ジャパン事務局/特定非営利活動法人 日本医療政策機構 シニアマネージャー)

全体討議
座長:
舘田 一博(前掲)
・今後の働きかけにかかる事務局案について
・タイムライン
・対象者

ファシリテーター:
河野 結(AMRアライアンス・ジャパン事務局/特定非営利活動法人 日本医療政策機構 アソシエイト)

ネクストステップ・閉会
宮田 満(株式会社ヘルスケアイノベーション代表取締役/株式会社 宮田総研代表取締役)

 

■2019年度以降に開催した関連したイベント(開催日順)

2020年1月22日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) 第1回AMR部会

2020年3月11日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第1回ワーキング・グループ1

2020年3月19日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第2回ワーキング・グループ1

2020年3月24日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第1回ワーキング・グループ2

2020年4月27日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) 第2回AMR部会

2020年7月17日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第3回ワーキング・グループ1

2020年8月18日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第2回ワーキング・グループ2

2020年8月27日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第4回ワーキング・グループ1

2020年9月14日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第1回ワーキング・グループ3

2020年9月23日 日経アジア・アフリカ感染症会議アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) 第3回AMR部会

2020年10月7日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第5回ワーキング・グループ1

2020年10月8日 日経アジア・アフリカ感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム(AMIC) AMR部会 第3回ワーキング・グループ2

2020年11月7日 第7回日経・FT感染症会議 アジア・アフリカ医療イノベーションコンソーシアム AMR部会

2021年02月18日

AMR アライアンス・ジャパンは「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム~抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策のさらなる推進を目指して~」を開催いたしました。

AMR アライアンス・ジャパンでは、産学官民のマルチステークホルダーによる議論を通じて、このような政策的な取り組みを後押しし、抗菌薬をはじめとした医薬品の安定供給政策を含むAMR対策の推進を目指してまいります。

本フォーラムの議論をもとに、「AMRアライアンス・ジャパン 抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム報告 ~抗菌薬サプライチェーンの強化策・安全保障の視点で問う~」をとりまとめました。詳しくは、本ページの末尾をご覧ください。

 なお、会議はコロナウィルス対策を鑑み、WEB会議システムを中心として、オンサイトで集まる場合は十分な距離を保って実施しました。

 

概要
日時:2021年1月15日(金)
主催:AMRアライアンス・ジャパン(事務局:特定非営利活動法人 日本医療政策機構)

プログラム:
趣旨説明
マット・マカナニ(AMRアライアンス・ジャパン/特定非営利活動法人 日本医療政策機構 シニアマネージャー)

講演「抗菌薬の安定供給について」
清田 (公益社団法人 日本化学療法学会 前理事長/厚生労働省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 座長)

パネルディスカッション「今後求められる打ち手と各セクターに求められる取組み」
座長 :

清田 浩(前掲)

パネリスト:
医薬品の安定確保を図るための取組(現状と今後の取組)
俊宏 (厚生労働省 医政局 経済課長)

作業部会(WG)の進捗及び優先確保医薬品選定後の見通しについて
松本 哲哉(公益社団法人 日本化学療法学会 理事長/国際医療福祉大学 医学部 感染症学講座 主任教授/厚生労働省 医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議 構成員)

基礎的抗菌薬セファゾリン供給の課題
島崎 (日医工株式会社 上席執行役員 信頼性保証本部長)

抗菌薬の品質要求・薬事規制の調和について
蛭田 (日本製薬団体連合会 品質委員会 前委員長/熊本保健科学大学 品質保証・精度管理学共同研究講座 特命教授)

薬価が抗菌薬製造の中国依存に及ぼす影響
澤田 拓子(塩野義製薬株式会社 取締役副社長)

AMRの観点からの抗菌薬の安定確保の重要性
上原 由紀(聖路加国際病院 臨床検査科・感染症科/日本感染症教育研究会(IDATEN) 代表世話人)

市民の視点で考える抗菌薬
阿真 京子(医療と子育て 代表/一般社団法人 日本医療受診支援研究機構 理事/一般社団法人 知ろう小児医療守ろう子ども達の会 元代表)

英国における医薬品の安定供給の取り組みについて
Diane Lloyd(駐日英国大使館 グローバル・チャレンジ副部長)

ファシリテーター:
柴田 倫人(AMR アライアンス・ジャパン事務局/特定非営利活動法人日本医療政策機構シニアアソシエイト)

閉会の辞
黒川 (特定非営利活動法人 日本医療政策機構 代表理事)

 

・・・

 

AMRアライアンス・ジャパン 「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム」報告

~抗菌薬サプライチェーンの強化策・安全保障の視点で問う~

 

2021年2月18日

 

2020年3月、厚生労働省医政局経済課は「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」(以下、「安定確保会議」)を立ち上げ、9月には同会議の取りまとめが公表された。また同年4月及び12月の政府臨時閣議において、海外依存度が高い医薬品原薬等の国内製造拠点の整備を支援することが決定し、補正予算に盛り込まれた。この重要な課題の次なる打ち手を検討するため、AMRアライアンス・ジャパンは2021年1月15日に「抗菌薬の安定供給に向けたフォーラム」を開催し、以下のとおり要点を取りまとめた。

  1. 抗菌薬の安定確保は各国における安全保障・危機管理上の問題である。抗菌薬を含む医薬品の供給不安の予防策・費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  2. 抗菌薬の供給不安は薬剤耐性(AMR)の拡大を助長する。
  3. 抗菌薬の安定供給のためには、既存の抗菌薬・新規の抗菌薬を問わず「人的資源、構造・設備等への資金投入」、及び「品質基準等の国際調和」が必要である。
  4. 抗菌薬の安定確保のために国としての踏み込んだ関与が必要である。そのためにも、市民への情報提供や市民の理解を得ることが必要である。
  5. 抗菌薬の供給不安は世界共通の問題であり、国際協力は不可欠である。新規の抗菌薬の開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある。

 

詳細は下記の通り 

  1. 抗菌薬の安定確保は各国における安全保障・危機管理上の問題である。抗菌薬を含む医薬品の供給不安の予防策・費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  • 公衆衛生は安全保障・危機管理上の問題である。2019年、重要な抗菌薬(以下、「Key Drug」)であるセファゾリンの供給停止及び代替抗菌薬の供給不足が、感染症治療の治癒率の低下、副作用の増加、死亡率の上昇等を引き起こした。
  • セファゾリンをはじめとするKey Drugを確保するためには「適正な薬価」を維持する必要がある。

(Key Drug:ペニシリンG、アンピシリンナトリウム/スルバクタム、タゾバクタム/ピペラシリン、セファゾリン、セフメタゾール、セフトリアキソン、セフェピム、メロペネム、レボフロキサシン、バンコマイシン、スペクチノマイシン塩酸塩、メトロニダゾール、コリスチンメタンスルホン酸ナトリウム、ファロペネムナトリウム、アズトレオナム、アミカシン硫酸塩、アモキシシリン水和物、セフジトレンピボキシル、ミノサイクリン塩酸塩、アジスロマイシン)

  • 安定確保会議の取りまとめは、医薬品の供給不安の予防策として、製造の複数ソース化、Key Materialの国内生産化等を提案している。その費用等にかかる難題を国民全体で共有する必要がある。
  • 安定確保会議ワーキンググループでは、医療上必要不可欠であり、汎用され、安定確保について特に配慮が必要な医薬品(以下、「安定確保医薬品」、58学会から提案された551成分)を、イ)対象疾患の重篤性、ロ)代替薬又は代替療法の有無、ハ)患者数、ニ)当該医薬品の製造/サプライチェーンの状況等(以下、「カテゴリ」)の各要素を勘案し、「最も優先して取組を行う安定確保医薬品」、「優先して取組を行う安定確保医薬品」、又は「安定確保医薬品」の3つに分類する。

 

  1. 抗菌薬の供給不安は薬剤耐性(AMR)の拡大を助長する。
  • 毎年、世界中で少なくとも約 70 万人もの人が薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)菌感染症により死亡していると考えられ、日本においても薬剤耐性菌による菌血症により年間約 8,000 人が死亡していることが推定されている。実際、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)のデータからも、ほとんどの医療機関が薬剤耐性菌を経験していることが明らかとなっている。
  • 抗菌薬と薬剤耐性菌の歴史は、抗菌薬に対する細菌の進化の歴史であり、「治療の対象となる細菌に適した抗菌薬を正しく使うことが極めて重要である」という認識が共有されてきた。すなわち、AMR対策の観点からは、抗菌薬の厳格な「適正使用」が求められる
  • 具体的には、AMRの拡大を回避するためには、体に害のない細菌は退治せず、病原菌だけに効く狭域スペクトラムの抗菌薬を使うことが重要である。セファゾリンは非常に優れた狭域スペクトラムの抗菌薬であるが、その供給停止によりセファゾリンの使用が困難となった。その結果、ある医療機関では、腸内細菌科細菌の第3世代セフェム系抗菌薬の感受性率は約20%低下し、短期間に薬剤耐性菌の増加が観察された。
  • 抗菌薬の供給不安は、本来の適切な使用に叶う抗菌薬の選択を不可能とし、結果として代替の抗菌薬による治療を医療現場に強いる結果を招くことから、長・短期的な「薬剤耐性菌の増加」や患者の「治療成功率の低下」をもたらす

 

  1. 抗菌薬の安定供給のためには、既存の抗菌薬・新規の抗菌薬を問わず「人的資源、構造・設備等への資金投入」、及び「品質基準等の国際調和」が必要である。
  • 抗菌薬の厳格な製造管理・品質管理基準へ対応するための人的資源、構造・設備等を整えることが、Key Drugを安定的に供給するための必須条件である。
  • 既存又は新規のペニシリン系及びセフェム系抗菌薬の製造にかかる課題として、「中国寡占の状態(核となる原料:6-アミノペニシラン酸又は7-アミノセファロスポラン酸)」、「生産撤退(核以外の原料)」及び「製薬企業3社のみによる国内製造(原薬)」がある。国内に抗菌薬原薬の生産体制を構築するためには、5年の時間と600億円の資金に加え、海外と比較した場合の人件費及びスケール格差による35倍の輸入原薬コストを賄う施策(原薬の買取りを含む)が必要となる。
  • さらに、進化し続ける薬剤耐性菌を治療できる新規の抗菌薬の継続的な市場投入も望まれることから、「薬価」にかかる施策等、市場活性化を促す制度が必要である。
  • 抗菌薬の安定供給上の課題として、日本の医薬品原薬等のバイイングパワーの弱さが存在する。日本のバイイングパワーを強化するためには、日本の医薬品の規格基準書である「日本薬局方」と「欧州薬局方」及び「米国薬局方」との調和を強力に進める必要がある。また、異物や色等の「上乗せ規格」の見直し、原薬の製造方法等に関する情報を含む「原薬等登録原簿」の記載事項の見直し(英語記載の許容を含む)等についても、欧米との調和を進め、日本市場の魅力を高める必要がある。

 

  1. 抗菌薬の安定確保のために国としての踏み込んだ関与が必要である。そのためにも、市民への情報提供や市民の理解を得ることが必要である。
  • 医療用医薬品の安定確保の責務は、一義的には当該医薬品の製造販売業者に存在する。一方、医療現場において重要な医薬品については、国としてのより踏み込んだ関与が必要である。安定確保医薬品については、カテゴリを考慮しつつ、(1)供給不安を予防するための取組み、(2)供給不安の兆候をいち早く捕捉し早期対応に繋げるための取組み、(3)実際に供給不安になった際の対応を順次進める必要がある。
  • 「供給不安を予防するための取組み」として、製造工程の把握、供給継続の要請・製造の複数ソース化等の推進(カテゴリを考慮し国も支援検討)、及び薬価上の措置を推進する必要がある。「供給不安の兆候をいち早く捕捉し早期対応に繋げるための取組み」として、各社でのリスク評価、及び供給不安事案の報告を実施する必要がある。「実際に供給不安になった際の対応」として、増産・出荷調整等、迅速な承認審査、及び安定確保スキームが求められる。
  • 抗菌薬の「薬価」について、医療上必要な医薬品の薬価が高くなることは市民に受け入れられる
  • 抗菌薬の品質」について、特別な品質(実質的な質の担保に繋がらず手続きが煩雑になるだけの品質)を求めないことは市民に受け入れられる
  • 安定確保医薬品を3つに分類し優先順位を付ける方針は市民に受け入れられるが、情報を市民に届け、理解を得ることは必要である。また、少ない患者を対象とする医薬品でも、供給不安により混乱を生じる可能性があるため、個別の医薬品の特性への留意は必要である。医薬品の世界的な供給不安時のロジスティクスの支援策の検討も必要となる。

 

  1. 抗菌薬の供給不安は世界共通の問題であり、国際協力は不可欠である。新規の抗菌薬の開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある。
  • 低所得国・中所得国を中心に、毎年600万人近い人々が抗菌薬を使用できずに死亡している。2017年の中国の工場爆発事故によるタゾバクタム/ピペラシリンの3か月間の欠品は、英国において3000万ポンド(約42億7000万円)相当の損失を生じさせた。抗菌薬の供給不安が、健康へ悪影響を及ぼし、AMRの拡大にも繋がることは、世界共通の問題である。
  • 英国は2021年G7の議長国であり、「AMR」はG7保健大臣会合における優先事項の1つ。抗菌薬のサプライチェーンはグローバルの課題であり、英国にとって各国との協力は必須である。原料の製造からエンドユーザーである患者までのサプライチェーン全体を理解した上で、サプライチェーンの多重化を推進し、中国やインドへの抗菌薬製造上の過剰な依存を解消する必要がある。英国では、過去の効果的な抗菌薬の市場再導入、環境に配慮した製造方法等を奨励するとともに、償還制度を整備している。また、医薬品製造業者と原薬供給業者間の情報共有を促す方法を検討している。
  • 英国、日本を含むG7各国は、新しいタイプの抗菌薬が30年以上市場に提供されていないことを再認識し、開発者にとっても魅力的な市場を整備する必要がある

以上

 

本書は、特定の登壇者の意見ではなく、本フォーラムの議論に基づき AMR アライアンス・ジャパン事務局(特定非営利活動法人 日本医療政策機構)が取り纏めた報告書である。

2021年02月17日

日本医療政策機構では認知症未来共創ハブと共催し、「第9回地方自治体認知症条例比較研究会」を開催いたしました。本研究会は、「認知症とともによりよく生きる未来」の実現という理念の下、現行の認知症関連の条例を比較し、そのあるべきプロセスや条例の内容について考えることを目指します。

第9回の研究会では、これまでの比較作業を踏まえて、中間報告書の提言部分について議論を行いました。事務局作成案を基に、メンバーによる闊達な議論を交わし、提言部分を最終化いたしました。今後は中間報告書の提言書以外についても最終化を進め、2021年3月下旬に中間報告書および提言書を当機構webサイト・認知症未来共創ハブwebサイトにて公開の予定です。

なお第5回から第8回の研究会で下記の通りヒアリングを実施しました。
第5回研究会:2020年12月3日(木)「滋賀県草津市」
第6回研究会:2020年12月9日(水)「東京都世田谷区」
第7回研究会:2020年12月18日(金)「和歌山県御坊市」
第8回研究会:2020年12月22日(火)「島根県浜田市」


■概要
日時:2021年1月26日(火)
場所:オンライン会議システム(Zoom)

■研究会メンバー
研究会メンバー(敬称略・五十音順)
粟野 悠希 (日本医療政策機構 アソシエイト)
栗田 駿一郎 (認知症未来共創ハブ 運営委員/日本医療政策機構 マネージャー)
河野 結 (日本医療政策機構 アソシエイト)
コスガ 聡一 (フォトジャーナリスト)
猿渡 進平 (認知症未来共創ハブ 運営委員/大牟田市役所 相談支援包括化推進員/白川病院 医療連携室長)
徳田 雄人 (認知症未来共創ハブ 運営委員/認知症フレンドシップクラブ 理事)
平井 正明 (まほろば倶楽部 代表)
三原 岳 (ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員)

※事務局機能は日本医療政策機構が兼任する

■オブザーバー
牛尾 容子 (東広島市議会議員)
齋藤 哲 (浦安市議会議員)
認知症未来共創ハブ 運営委員


【開催報告】第4回地方自治体認知症条例比較研究会(2020年11月24日)>

2021年02月16日

日本医療政策機構では、今年度より個人賛助会員の皆様を対象として「HGPIセミナー+(プラス)」をスタートいたしました。

「HGPIセミナー+」ではHGPIスタッフを中心に、プロジェクトで培った知見やスタッフの個々の専門性などをベースとして、様々なトピックをお届けいたします。医療政策の様々なテーマはもちろんのこと、よりHGPIを知っていただき、親しみを持っていただく場になればと考えております。

これまで、4回にわたって、「ピックアップ認知症政策」、「女性の健康政策の変遷とこれから」「Unhealthy Debate:日本から見たアメリカにおける政策議論の崩壊とコロナ禍」そして「グローバルヘルス・ベーシック〜世界のこどもを取り巻く健康課題〜」など、当機構のスタッフからお話をさせていただき、ご参加の皆様とともに理解を深めました。

 

この度、2021年2月26日(金)に「プラネタリーヘルス〜人々の健康のために求められる対策〜」と題し、第5回HGPIセミナー+を開催いたします。

今回は、当機構シニアアソシエイト菅原丈二より、ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)[1]持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)[2]、そして国際的な政治・社会・経済的な環境の変化を通して、「人」の健康を巡る議論がどのように変化したのか、またどのような方向に向かおうとしているのか、国際的な出来事や議論の事例などをご紹介しながら、お話させていただきます。

行き過ぎた森林伐採や乱獲などによる生態系の破壊、自然分解されることのないプラスチックの海洋流出などの環境汚染、温室効果ガスの大量排出などによる気候変動や異常気象の増加など、人類が自然環境へ与えてきた負荷によって数多くの問題が生じています。さらに、このような人類の活動は、正確な発生源については調査が続くものの新型コロナウイルス(SARS-Cov-2)、中東呼吸器症候群(MERS)、ジカウイルス感染症、エボラウイルス感染症など人獣共通感染症などを引き起こすきっかけにもなっていると考えられています。

国際社会における「人」の健康に関わる議論は、主権国家の国境を意識していたインターナショナルヘルスから国境を越えた形で課題を捉えるグローバルヘルスという考え方が広く認識されるようになりました。そして、SDGsのもとで「地球規模」で健康を捉えなおすプラネタリーヘルスという概念が注目を集めるようになりました。

今回は「プラネタリーヘルス〜人々の健康のために求められる対策〜」と題し、「人類」を中心としていた考えから、広く「地球」規模での課題解決へと舵を切るプラネタリーヘルスの国際的な動きについて、ご参加の皆様とともに理解を深めたいと思います。

今後も皆様と共に、HGPIがより開かれたハブとしての機能を持ち、「市民主体の医療政策の実現」に向けた政策コミュニティとなるような機会を創出してまいります。

※本セミナーは日本語のみの開催です。

 

【第5回HGPIセミナー+のご案内】

■日時
2021年2月26日(金)18:30-19:15

■担当
菅原 丈二(日本医療政策機構シニアアソシエイト)

■テーマ
「プラネタリーヘルス〜人々の健康のために求められる対策〜」

■形式
Zoomウェビナー
(お申込みは個人賛助会員の皆様に別途ご案内申し上げます)

■言語
日本語


[1] MDGsは、2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言を基にまとめられた、極度の貧困と飢餓の撲滅などを2015年までに達成すべき8つの目標を掲げた開発分野における国際社会共通の目標
[2] SDGsは、MDGsの後継として2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17のゴール・169のターゲットから構成された発展途上国のみならず、先進国自身が取り組む国際目標

 


【HGPIセミナー+概要】

■開催時期
概ね2か月に1回程度のペースで行います

■講演者
HGPIスタッフ

■開催概要
45分(講演30分+質疑応答15分)

■開催形式
当面の間オンラインセミナー形式


個人賛助会員のお申込みについてはこちらをご覧ください

2021年02月09日

今回のHGPIセミナーでは、女性クリニックWe! TOYAMA代表・産婦人科医、富山県議会議員を務める種部恭子氏をお迎えし、女性活躍を推し進めていくための健康政策という観点から、女性の身体について知っておくべき知識や女性の健康と女性を取り巻く社会環境の関係性についてお話しいただきました。

<講演のポイント>

  • 女性活躍の推進と女性の健康支援はパッケージで進めていくべきである
  • 女性がライフステージによって抱える様々な健康課題に対して、幼少期や思春期から正しい情報を学び、成熟期、老年期までつなげて考え、行動することのできるライフコースアプローチ[1]が重要である
  • 現在の日本の性教育では、女性が充実したライフプランを立てるために必要な妊孕性や個人の尊厳に関わるドメスティック・バイオレンス(DV: Domestic Violence)の回避に関する内容が不足しているため、性教育の在り方や教育内容の見直しが求められる

■日本女性を取り巻く社会の現状
日本では、今後加速していく人口減少を見据え、国全体の労働力の量的確保を図るという目的のもと、潜在していた女性労働力の積極的な活用が進められている。これまで日本女性の労働力率は、妊娠、出産、子育ての時期に低下するM字カーブが象徴的であった。一方、スウェーデンといった北欧諸国では女性の労働力率が非常に高く、妊娠、出産、子育ての時期にも下がらず高く維持されている。これらの先進事例をもとに、日本においても女性の労働力率の向上を目指し、男女共同参画に関する政策が進められている。また労働力の量的確保に併せて、国全体の生産性を高めるために労働力の質の向上も必要である。女性の活躍推進によって、これまで男性中心に作られてきた社会の中で見出されてこなかった新しい分野に女性が着目し、女性の視点で様々なイノベーションを起こすことができる。そのためには多くの女性が意思決定の場に参加することが労働力の質の向上、さらには日本の将来の切り札となるだろう。

既に福井県や富山県といったいくつかの県では、女性の労働力率のM字カーブが解消され、北欧諸国と同等の高い労働力率を示す。しかしながら、このような女性の労働力率の高い地域において女性活躍が進んでいるかというと、管理職などの意思決定が下される場に女性が十分に参加しているとは言えないのが現状である。例えば、北陸地方における企業の管理職の女性比率や県議会議員の女性比率、さらには自治会長の女性比率は非常に低い。女性の就業率は高いが、固定的性別役割分担意識[2]が非常に強いため、女性たちは仕事も家庭のことも地域のことも全て行い、全ての役割を担いながらも、意思決定の場には参加できていない。また、日本女性の睡眠時間はOECD加盟国の中で最も短いことが示されている[3]。女性に多くの役割が集中していることにより、女性たちが自分自身の健康を犠牲にしながら生活しているということが示唆される。女性たちが何かを犠牲にしたり、何かを諦めたりすることなく活躍できる社会でなければ本当の意味での女性の活躍推進とは言えない。

さらに、これから社会で活躍していく女性新入社員の昇進意欲について、2011年頃までは増加傾向にあったが、近年は低下し、その一方で管理職につきたくないという人は増加している。その理由の1つとして、女性はキャリア形成の時期と妊孕性[4]が高い時期が重なるため、キャリアアップか子どもを持つことでのトレードオフを迫られてしまうということが挙げられる。加えて、結婚してから子どもを産むという概念が定着している日本では、結婚したら子どもを持つべきという世間の圧力から逃れるためにそもそも結婚をしない、または先送りにする女性も増えてきており、未婚率の上昇につながっている。このような状況を改善するために、女性たちが自分のライフプランを自分で選ぶことができるように、女性の健康に関する知識を知る機会を提供することも女性活躍の推進には必要であり、女性活躍の推進と女性の健康支援はパッケージで行う必要がある。

■女性の健康課題に対するライフコースアプローチの重要性
下記に示す通り、女性は、①女性に特徴的な健康課題②社会的決定要因に起因する健康課題③リプロダクティブヘルス[5]に関する健康課題といった様々な要因による健康課題を抱えるリスクを持っており、さらにライフステージによっても抱える健康課題は大きく異なる。そのため、女性が様々な病気やリスクを幼少期や思春期から成熟期、老年期まで一連の流れで考え、予防行動につなげることができるように包括的にサポートするライフコースアプローチが重要である。

①女性に特徴的な健康課題
女性にとって、毎月の月経周期に伴う女性ホルモンの変動は心身の状態に大きな影響を及ぼす。さらに、女性ホルモンが原因となって起こる月経困難症や子宮内膜症、子宮筋腫といった疾病にかかるリスクもある。このように女性ホルモンは思春期から性成熟期の女性の心身に様々な影響を及ぼすが、女性ホルモンが急激に低下する更年期、さらに閉経後によって女性ホルモンがなくなる老年期には、更年期障害や骨粗鬆症や認知症・フレイル[6]といった新たな健康課題も出てくる。

②社会的決定要因に起因する健康課題
過度なダイエットによって、栄養状態が非常に悪く、痩せの若い女性が多いことが指摘されている。この年代で低栄養の状態になると、将来、年をとってから健康状態を損ねる。特にロコモティブシンドローム(ロコモ)[7]やフレイルという状態になってしまう。また、男性と比べ女性のほうがうつや依存症の発症リスクが高いといったデータもある。特に、月経前、産後、更年期といった身体的・精神的にも弱っている「弱り目」の状態のときに、DVやハラスメント、虐待、貧困、孤立など負荷の大きなストレスがかかってくると、月経前気分障害、更年期障害、マタニティ・ブルーズといった症状が出てくる。この段階で医療にかかることができると症状を抑えられる可能性が高まるが、この時期に適切な支援を受けることができないと抑うつ状態、産後うつといった重症化してしまうケースもある。

③リプロダクティブヘルスに関する健康課題
性感染症は女性のほうが一般に重症化しやすく、不妊の原因となったり、出産時のリスクにつながったりとリプロダクティブヘルスに大きく影響する。さらに、ヒトパピローマウイルス(HPV: Human Papilloma Virus)が原因である子宮頸がんについては、安全、安心な妊娠、出産、育児に大きく関わる。HPV感染が原因で、結果的に妊娠、出産を断念する女性や、出産、育児に大きな不安を抱える夫婦が少なくない。ちょうどこの妊孕性の高い時期にかかりやすい疾患についての予防政策は重要である。

 

■現代女性のライフスタイルの変化に伴う健康課題
女性の生き方はこの30年で大きく変化している。30年前頃の女性に比べ、現代の女性は初経の時期が早く、初産の時期は遅い、さらに生涯における出産回数が減少したため、結果として生涯の月経回数が格段に増加した。これによって子宮内膜症といった婦人科系の疾患が現代の女性の間で増加している。子宮内膜症は月経痛や性交痛を引き起こすだけでなく、不妊やがん化のリスクにもつながる。さらに、子宮内膜症は妊孕性が下がる時期も早めるため、子どもを産む場合はライフプランを前倒しで考えなくてはいけない。

現代の女性の月経回数の増加は、職場でのパフォーマンスにも影響を与えることも少なくないが、低用量ピルをうまく活用することでパフォーマンスの低下を防ぐこともできる。ピルを内服することによって月経痛の原因となる子宮内膜が薄くなり、月経痛の軽減や経血量の減少といったメリットもあり、結果的に生活の質の向上につながるなどとても利益の多いものである。しかし、世界の国々と比べるとまだ日本ではピルの普及率は低く、情報が行き届いていないことも事実である。このような知識は中学や高等学校の授業で学んだとしても実感が湧かず覚えている人も少ないため、これから仕事を始めキャリアを積んでいこうと考えている人々に対しても教育の機会を提供していくべきである。

 

■日本の性教育で欠如している内容
日本の性教育では、主に避妊や予期せぬ妊娠、性感染症について取り上げており、ライフプランを立てるにあたって特に必要となる①妊孕性②DVの回避に関する情報提供がほとんどなされていない。

①妊孕性について
加齢によって妊孕性は大きく変化する。排卵があり、通常通り月経があっても37歳を過ぎると急激に卵子の数と質が低下し、妊娠しにくくなる。現代では不妊治療をするカップルが増えているが、不妊治療は通院回数が多く、働きながらの通院時間の確保や日程調整は難しく、精神的な面からも仕事との両立には困難が伴う。ライフプランを現実的に考えるためにはキャリアプランと合わせて妊孕性についての知識も不可欠である。

②DVの回避について
DVは配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあったものからの暴力のことを指し、身体的暴力だけでなく、精神的暴力や性的暴力も含む。特に、精神的暴力や性的暴力は目に見えづらく、加害者も被害者も何が暴力に該当するのか定義を知らないことも多い。例えば、避妊に協力しないといったことは性的暴力に入り、無視する、大声で怒鳴る、メールなどをチェックするといったことは精神的暴力に入る。一度、カップルや夫婦間で支配構造ができてしまうとそれらの暴力から逃げることは困難となる。そのため、交際中のカップル間に起こるDV(デートDV)の段階でDVを回避し、暴力から抜け出せない状況を防ぐことが重要である。

 

これら妊孕性やDVに関する知識は、異性との交際を経験し、結婚や出産、さらにはキャリアとの両立といったライフプランを立てていく上でとても重要かつ必要不可欠である。今後は「性から目を背ける」、「性を禁止項目にする」といった日本の性教育の在り方や教育内容を見直し、女性が充実したライフプランを立てる上で必要な知識を学ぶことのできる教育が求められている。

 

[1] 病気やリスクの予防を胎児期・幼少期から成熟期、老年期までつなげて考えアプローチしていくというもの
[2] 男性、女性という性別を理由として役割を固定的に分けること。例えば、「男は仕事・女は家庭」、「男は主要な業務・女は補助的業務」など固定的な考え方により、男性、女性の役割を決めていること。
[3] 出典:OECD Gender Data Portal: https://www.oecd.org/gender/data/OECD_1564_TUSupdatePortal.xlsx(アクセス日時:2021年1月21日)
[4] 妊娠しやすさ
[5] 性と生殖に関する健康
[6] 筋肉や関節の弱化
[7] 運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態のこと

 


プロフィール

種部 恭子 氏(女性クリニックWe! TOYAMA代表/富山県議会議員)
1990年富山医科薬科大学医学部卒、1998年富山医科薬科大学大学院医学研究科修了。富山医科薬科大学医学部附属病院、愛育病院産婦人科などを経て、2006年より女性クリニックWe富山院長、2019年から同クリニック代表を務める。医療だけでは解決できなかった社会問題に向き合うため2019年4月統一地方選挙に出馬し、富山県議会議員となる。主な役職は次の通り。内閣府男女共同参画会議重点方針専門調査会委員等、公益社団法人富山県医師会常任理事、公益社団法人日本産婦人科医会常務理事、公益社団法人日本産科婦人科学公益事業推進委員会副委員長、公益社団法人日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会委員、富山県産婦人科医会理事など。


【開催報告】第90回HGPIセミナー「日本における予防接種の在り方と予防接種推進専門協議会の取り組みについて」(2020年11月20日)>

2021年02月08日

今回のHGPIセミナーでは、予防接種推進専門協議会委員長の岩田敏氏をお招きし、「日本における予防接種の在り方と予防接種推進専門協議会の取り組みについて」と題して、日本における予防接種施策の現状と課題などについてお話しいただきました。

なお本セミナーは新型コロナウイルス感染対策のため、オンラインにて開催いたしました。

 

 




<講演のポイント>

  • ワクチンはリスクとベネフィットのバランスを考慮する必要がある。また、ワクチンで防げる病気(VPD: Vaccine Preventable Diseases)については、ワクチンによる感染制御、そして重症化の予防が重要である
  • 予防接種推進協議会は、2010年に設立され、予防接種制度について継続的に評価・検討するとともに、全ての年代に、必要な予防接種を適切・安全に実施できる国内の体制整備に貢献することを活動の目的としている。現在までワクチン施策に関する様々な要望・声明・提言を学会横断的に取りまとめてきた
  • 日本のワクチンギャップは大幅に改善されてきたが、依然として存在している。予防接種はその価値と意義を踏まえると、国の危機管理および政策として対応していくことが重要である

 

予防接種推進専門協議会のこれまでと現在の取り組み
予防接種推進専門協議会が発足した2010年頃はまだ日本のワクチンギャップが大きい状況であった。そのため、予防接種推進専門協議会の当初の目的は、予防接種施策の見直しを行い、子どもたちや成人に必要なワクチンを国内で有効的に接種できる体制整備に貢献することであり、米国の予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP: Advisory Committee on Immunization Practices)のような専門家組織の構築を目標としていた。しかしその後、予防接種法の改正により、国内の予防接種制度を検討する組織として厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会が設立された。この動きを受けて、現在は予防接種制度について継続的に評価・検討し、全ての年代に、必要な予防接種を適切・安全に実施できる国内の体制整備に貢献することを活動の目的としている。

予防接種推進専門協議会として、これまで様々な提言や要望書を提出してきた。VPDについて、所得や収入と関係なく、希望者が全員ワクチンを接種できる体制を構築する必要性について、当時の厚生科学審議会感染症分科会 予防接種部会に要望書を提出した。また、ヒトパピローマウイルス(HPV: Human Papillomavirus)ワクチン等への新しい公費助成の制度を恒久化する必要性についても緊急声明で示した。さらには、教育の重要性も鑑みて、厚生労働省だけではなく、文部科学省に対して「がん教育推進のための教材」にワクチンに関する内容を含めるよう要望したこともある。

現在、協議会内では、百日咳ワクチン・不活化ポリオワクチンの就学前接種、東京オリンピック・パラリンピック等のマスギャザリングにおける感染症対策としてのワクチン接種、ワクチン接種の際のリスクコミュニケーションの具体的な方法などについて検討している。

 

ワクチン導入の意義と課題
ワクチン導入の意義は、いくつかに分類できる。たとえば、「VPDはワクチンで防ぐのが感染制御の原則」「ワクチンは流行しやすい疾患、罹患者は少ないが発症すると重症化・難治化・死亡する疾患が対象」「原則は個人防衛であるが、個人防衛の積み重ねが社会防衛につながる」「院内感染予防」「医療経済的にも有利」そして「予防接種は国の政策として推進する意義がある(感染症予防・感染症に対する危機管理、国民の健康の維持・増進)」である。

このようなワクチン導入の意義について社会の理解が進んではいるものの、依然としてワクチンギャップは存在している。その一因として、ワクチンが定期接種化されるプロセスの長期化が挙げられる。日本のワクチン制度では、任意接種と定期接種の2つがあるが、公衆衛生上必要度の高いワクチンが広く普及するためには、定期接種化されることが重要である。しかし、近年定期接種化に関する審議は長期化する傾向にあり、薬事承認から定期接種化への見通しが不透明であるため、企業のワクチン開発の意欲が阻害されている。米国ではACIPを中心として、ワクチンの開発後期の段階からワーキンググループ等での評価が開始され、法律による薬事承認後には公費の拠出の観点を含めて定期接種化の議論が可能である。米国の柔軟な制度運用に比べて、日本では、厚生労働省厚生科学審議会において、ワクチンにかかる様々な検討が独立してなされており、定期接種化の判断までにはかなり長い時間を要する。その一例として、おたふくかぜのワクチンは、発売から27年が経過しており、定期接種化に向けた審議は7年も行われているが、未だにこの審議が続いている。

 

HPVワクチンを巡る動き
子宮頸がんは若い女性の発症率・死亡率が高いことで知られている。国立がん研究センターの報告によると、現在約10,000人の女性が子宮頸がんを発症し、約3,000人が死亡、そして20~30代女性の間で罹患率・死亡率が増加している。子宮頸がんはHPVワクチンによる予防効果が知られているものの、日本では、2013年の定期接種開始後に生じた様々な出来事が影響し、2020年12月現在ではHPVワクチンの積極的勧奨はなされていない。

今後、HPVワクチンに関する適切な情報を接種者・保護者に確実に伝えることが求められる中で、「アカデミアからの科学的に裏付けられた情報発信」「行政(国、地方自治体)からの定期接種としてのHPVワクチンに関する情報の提供(個別通知)」「かかりつけ医からの適切な情報提供と接種勧奨」「教育現場における適切な情報提供」そして「国の積極的接種勧奨の再開」が強く求められる。また、最近は行政の取り組みなどによりHPVワクチンの接種率は上向いているものの、今後も引き続き注視する必要があると考えている。

また、このHPVワクチンをめぐる状況は、子どもを持つ親が自分自身や子どもへのワクチン接種を躊躇したり拒否したりするワクチン忌避(Vaccine Hesitancy)の一例と捉えることも大切である。日本の文化・社会では、友人・知人・周囲の人の行動を見てワクチン接種の必要性を判断する傾向がある。欧米で一部見られる、ある種信念をもってワクチンを接種しないと決断する層は少ないものの、ワクチンのリスクとベネフィット、つまり副反応と有効性の両方について情報を示しつつ、ワクチン接種の意義を伝えることが重要になる。そのためには、無知や偏見による影響を減らすため、メディア等がワクチンの効果や副反応を誇張することなく、可能な限り中立的かつ科学的な報道が出来るようにするためにも、専門家による助言の重要性が今後高まっていくと考えている。

 

今後のワクチン施策の改革のために
米国では、ワクチン開発後期の段階からACIP が評価を開始し、薬事承認後に速やかに定期接種化の評価を判断できる制度が構築されている。日本においても、既存の体制や方法が効果的・効率的に機能しない場合は、定期接種化に必要な議論や審議のプロセスもより一層の工夫が必要かもしれない。また、実際に定期接種化を実現するためには、定期接種の実施主体となる地方自治体等に対して支援をする総務省、そして定期接種を実施するための予算を割り当てる財務省等とも円滑な議論ができることが重要である。

以上のことより、今後のワクチン施策においては、開発段階から定期接種に必要な要件や定期接種化に至るまでのタイムラインを明確化するとともに、新規ワクチン開発や定期接種化に必要な疫学データを日頃から収集する努力が必要である。また、優先度の高いワクチンに焦点を絞り、開発促進を行う姿勢も求められる。さらに、定期接種化等に必要な審議を速やかに進めるためにも、国の危機管理、社会保障・安全保障の観点から、関係省庁が一体となって審議を行うことが重要である。特に政策立案に関しては、アカデミアや産業界等との強い連携も望まれる。

ワクチンにおいて重要なのは、ヒトの健康を維持しながら、様々なリスクベネフィットのバランスを考慮する事である。ワクチンのベネフィットとは、個人・社会レベルでの疾患予防や医療費削減であり、ワクチンのリスクは有害事象、ワクチンの費用である。一般的には疾患の治療等に必要な費用よりワクチン接種の費用のほうが安価と言われているが、ワクチンが普及し、個人・社会レベルでの疾患予防や医療費削減が実現されると、このベネフィットが一見わかりづらくなってしまう。したがって、正確な情報を用いたリスクコミュニケーションを通じて、ワクチンのリスクベネフィットを理解してもらい、接種の判断につなげることが重要である。

VPDはワクチンで防ぐことが感染制御の原則である。またリスクコミュニケーションと合わせて、ワクチン接種の公費負担が接種機会を増やすことにもつながるため、予防接種は国の政策として実施する姿勢が重要だと考えている。

 


プロフィール

岩田 敏 氏(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 感染症部長、慶應義塾大学医学部 客員教授、予防接種推進専門協議会 委員長)
1976年、慶應義塾大学医学部卒業。同年、慶應義塾大学医学部小児科学教室入局。1996年には米国セントルイス大学およびコロンビア大学に短期留学。
帰国後、1999年、国立病院東京医療センター小児科医長に着任。独立行政法人国立病院機構東京医療センター教育研修部長、同統括診療部長、医療安全管理部長、治験管理室長を歴任。2010年に慶應義塾大学医学部感染制御センター教授に就任し2013年には、慶應義塾大学医学部感染症学教室教授。2017年から国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院感染症部長および2018年からは慶應義塾大学医学部客員教授に従事。
予防接種推進専門協議会委員長、日本臨床腸内微生物学会理事長、公益財団法人日本感染症医薬品協会理事長を務めており、2013年から2017年には一般社団法人日本感染症学会理事長。


<【開催報告】第91回HGPIセミナー「女性活躍推進の基盤となる健康政策~女性や若者が直面している困難の解消を目指して~」(2020年12月17日)

【開催報告】第89回HGPIセミナー「『もうこれ以上治せない』となる前に ―AMRに立ち向かうために英国が取り組む新規抗菌薬の研究開発へのインセンティブとはー」(2020年10月19日)>

2021年02月03日

この度、厚生労働省顧問であり、前医務技監の鈴木康裕氏をお招きし、第46回特別朝食会を開催致しました。鈴木氏には、医務技監としての1124日を振り返っていただくとともに、今般の新型コロナウイルス感染症への対応について、さらには今後の医療の在り方についてもご講演いただきました。

 

なお本特別朝食会は新型コロナウイルス感染症対策を鑑み、消毒の徹底や人の移動動線の管理、会場の人数制限等を行ったうえで、開催いたしました。

 


<講演のポイント>

  • 2017年に「省内・他省庁・民間との連携強化」「国際保健の活発化」を目的として、医務技監が創設された
  • 日本は諸外国と比べて高齢化率は高いものの、医療・介護施設の努力、秩序を守る国民性等により新型コロナウイルス感染症による死亡者数は抑えられてきた
  • 今後Withコロナの医療提供体制を考える上では、平時の準備、緊急時での予備資源の活用、国民とのリスクコミュニケーションのあり方、希少資源の配分等を議論する必要がある
  • COVID-19は私たちにとって大きなリスクだが、日本の医療制度や経済システムをより強靭なものに深化させていく契機とし、制度設計を行っていくべき


■「医務技監」創設の背景

まずは直近、初代医務技監としての役割を振り返ってみたい。医務技監は、保健医療分野の重要施策を一元的に推進するための統括的役割の担うポジションとして2017年7月に創設された。

医務技監の創設には、2つの背景があった。1つ目は、医務技監が「省内・他省庁・民間との連携に向けた司令塔」となることへの期待である。例えば、「厚生労働省内の連携の強化」という側面では医薬品開発などが挙げられる。厚生労働省において、医薬品に関わる部署は、研究開発が「厚生科学課」、承認は「医薬・生活衛生局」、価格決定は中医協を含めた「保険局」の下で行われ、さらに産業政策としては「医政局」が担当している。このような多様な業務を遂行するうえでの省内各部門でのビジョンの共有が求められており、医務技監が「横串」を指すことが期待された。また「厚生労働省の代表として他省庁との連携の強化」も役割として期待された。厚生労働省は、文部科学省と連携して大学医学部の卒前卒後教育や医学研究に携わっている。また経済産業省とは、医療機器や健康経営などの産業政策において連携している。これらの分野は厚生労働省が単独で政策を推進することは難しいため、より一層の連携強化が必要であると考える。

そして省庁内、省庁間の連携も重要だが、近年では「運命共同体」とも言える官民連携の強化も重要な使命であり、今後の医療政策において非常に重要な取り組みである。例えば、人工知能(AI: Artificial Intelligence)技術を活用した医療機器の承認審査について考えてみたい。現在の医療機器の承認審査では、申請後に仕様変更が認められないこととなっている。しかしAIは常に進化を続けることこそが特徴であり、現行の承認審査の仕組みでは、その進化を反映することができない。今後は、AI技術を活用した医療機器に用いるアルゴリズム自体を承認する仕組みに変えていかなくてはならないのではないか。また高額医薬品への対応についても官民連携が必要な領域といえる。この問題を解決するために価格や販売量が多い医薬品を一律で値下げしていくこともひとつの方法ではあるが、官民が連携して製造販売後調査(PMS: Post Marketing Surveillance)や治験におけるコストやリスクを低減することに注力すべきであると考える。医薬品医療機器総合機構(PMDA: Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)が開発した「MID-NET」は、主としてPMSでの活用を想定しているが、さらに向上できる点も多い。利用する企業側にとってはセキュリティ上の制限が非常に多いほか、現代の最新のデータ処理規格に合わせた仕様に変えていくことが可能だろう。また治験においては「疾患登録システム(レジストリ)」のさらなる利活用が期待される。従来の治験では、毎回投薬群と投薬しない群(対照群)のリクルートが必要であったが、疾患登録システムを活用できるようにすれば、対照群は条件にあった患者情報を引き出して比較できるようになる。これが可能な領域はまだまだ限定的ではあるが、こうした積み重ねによってコストを抑えられるようになれば、これは医薬品業界にとっても、国民にとってもメリットとなる。

医務技監創設の2つ目の背景は、「外交ツールとしての国際保健を活発化させること」であった。かつて私が南米のアマゾン地域を訪れた際に、高い乳児死亡率への対策として日本の青年海外協力隊に相当する米国の平和部隊が大量に抗生物質を投与した事例を経験した。乳幼児死亡率を抑えることはできたが、結果的に人口が急増し、就学・就職できない人が増加、スラムの人口を増やすことにつながってしまったという。目の前の命を救うことは非常に重要であるが、それに加えて、社会に与える影響も含めた対策が必要であることを痛感した。第二次世界大戦後の日本は、他国に対する軍事援助には相当制限があるため、医療・保健援助を外交ツールとして積極的に活用することが求められる。そして、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19: Coronavirus Disease 2019)を通じて、全ての国や地域が安全な状態でなければ、自国の安全も保たれないことが改めて確認された。今後オリンピックの開催や貿易、人々の移動を再開していけば、感染症はまたどこかの国から流入してくる。そのためにはいかに水際対策を充実させるかが大切になるが、いざパンデミックが起きた際に水際対策の負担を減らすには、平時における他国の感染症対策への支援は重要であり、いずれは自国を助けることにもなるのではないだろうか。

 

■COVID-19が日本の医療提供体制に与えた影響

まず緊急事態宣言が出された4月以降、医療機関の経営指標は大幅に悪化した。特に5月は大きな落ち込みがあり、他の医療に比べれば緊急性の低い健診・人間ドック等収入は前年同月比で60%を超える落ち込みであった。また5月は外来・入院とも落ち込んでいたが、6月以降外来は徐々に持ち直しているといえる。入院については、診療科問わずCOVID-19対策として患者の健康管理やPCR検査、病室の消毒などこれまでにない負荷がかかっており、必然的に回転率も5%以上は下がっている。また外来診療を診療科別に比較すると、耳鼻咽喉科、小児科、整形外科が特に落ち込みが顕著であった。特に小児科受診の減少については感染を恐れての受診控えだけではなく、オンライン診療が普及してきたことに加え、マスクや感染対策が例年よりも徹底されていることで、インフルエンザやロタウィルス、麻疹・風疹が減少したことも影響している。診療科による違いだけでなく、各医療機関における動線の確保や密にならない工夫など対応の違いによっても、受診状況の回復に差が出ていると考えられる。また今回のCOVID-19によって、オンライン診療の是非について議論が高まっているが、オンライン診療のみでは完結できない部分もあり、対面診療とどう組み合わせるかを考えていく必要がある。また電子処方箋が普及すればウェアハウス型の薬局と地域浸透型で訪問を行う薬局の再編成も可能になる。

 

■「Withコロナ」において考えるべきこと

・Core capacityとSurge capacityの整備
この約20年の状況を考えると、1997年の鳥インフルエンザ(H5)、2003年のSARS、2009年の新型インフルエンザ(H1)、2012年のMARSそして2020年のCOVID-19とこれまで5回にわたって世界的に大きな死者をもたらすパンデミックが起きている。つまり我々は4~5年に1度程度の頻度で世界的なパンデミックに襲われていることになり、それを前提に医療経営や社会・経済を組み立てる必要がある。どのようなCore capacity(通常時の体制)を持ちながら、Surge capacity(緊急時の体制)を整備しておくかということが大事になる。Surge capacityの例として「予備自衛官」が挙げられるが、彼らには一定額の支給をしながら、毎年訓練を受けてもらい、本人の同意があれば有事に自衛官として活躍してもらうことになっている。このような考え方を医療に適用すると、いわゆる「潜在看護師」についても、有資格者の3分の1に上るとされている中で、本人の希望に応じて定期的なトレーニングを行いながら、必要時には保健所や外来を助けるなど平常時と緊急時の両方に対応できるような体制を整えることが必要ではないか。

・個人の権利の取り扱い
COVID-19の感染状況を見ると、欧米と比較して東アジアの感染者は少ないが、そのなかでもシンガポール・韓国・台湾の感染者数が抑えられている。共通しているのは、GPSを国が管理していることにある。COVID-19では、若い世代の感染者のうち無症状・軽症で入院による集中的な治療を必要とせず、自宅で療養するケースも多い。こうした国々では、例えば2週間の自宅療養期間に自宅から半径10m以上離れるとアラームが鳴り、3回以上繰り返せばペナルティを課すといった取り組みが行われ、感染を防いでいる事例もある。一方、日本では、保健師が自宅に連絡をし、在宅確認を行うといった対応がとられている。上記3か国は、SARSやMARSといったパンデミックの教訓があるだけでなく、隣国との緊張関係があるなど、日本と異なる経験・状況を有している。今回のパンデミックを教訓に、日本でも緊急時のGPS情報の取り扱いなど、議論が必要な点もあると考えている。

・リスクコミュニケーション
今回のCOVID-19の対応を振り返ったときに、政府・行政の対応としてリスクコミュニケーションは十分とはいえなかった。COVID-19のワクチンや治療法が確立されていない状況においては、リスク情報をどのように正確に伝え、国民の行動を変化させるかが流行の防止には必要で、今後のパンデミックに備えて検証と方法論の確立が必要である。

・希少資源配分の議論
今回のようなパンデミックの際に、限られた医療資源をどのように配分するかの議論も必要であると考えている。例えば、都道府県において全ての患者を受け入れる病床を確保できることが理想ではあるが、実際には難しい。また体外式膜型人工肺(ECMO: Extracorporeal Membrane Oxygenation)の数が限られている中で、現場では日々誰に使うのかという意思決定が求められる。こうした事態に備え、私たちは「どういう人を優先するのか」という問題と向き合わなくてはならない。

・サプライチェーンのジレンマ
今回のパンデミックでは、マスクをはじめ様々な医療物資の供給が危機に立たされた。経済合理性を考えれば、最も安くて品質の良いところから集中して調達することになる。しかし、こうしたサプライチェーンへの依存は、危機管理上リスクが高いといえる。今後のパンデミックに備えるため、これから備蓄(3か月輸出が停止しても問題ない程度の量)、調達先の国や地域の多様性、国内生産に対する補助など多角的な対策を取る必要がある。

 

■諸外国におけるCOVID-19の状況

諸外国のCOVID-19の感染状況にも触れておきたい。欧米各国の超過死亡の値を見ると、国によって差がある。同一地域の国々では感染状況に大きな差はないことから、感染状況以外の要因が死亡者数の過多に影響していると考えられる。

一般的に20~60歳代の感染者の致死率は低く、この層の人たちが、活動することで感染が広がってしまっている。特に彼らが医療機関や介護施設で働き、高齢者に感染させる事態も起きている。日本は国際的に見ても非常に高い高齢化率だが、アフリカやアジアの比較的高齢化率の低い国と比較しても、死亡率は平均的であった。その背景には、老健局の早々の要請に基づき、介護施設が面会を禁止し、業者との接触を減らし、スタッフには外での飲食を禁止するという厳格な対応を行ってきたことが功を奏しているのではないか。

COVID-19の対策として、感染者数を抑えることで死亡者数を抑えるという考え方と、60歳以上が感染したとしても病床の余力で死亡者を抑えるという考え方ができる。イタリアとスペインは感染者、死亡者共に多いが、ドイツでは、感染者数は多いが死亡者数が非常に少ない。この背景には、イタリアやスペインは元々病床数に限りがあったが、ドイツはヨーロッパの中で唯一病床数が多いとされる。この緊急時の病床数の余力が、ドイツの低い死亡者数につながっているのではないか。日本としてもこのモデルを目指すべきと考えている。

 

■これからの医療政策重点事項

最後に、これからの医療政策において重要と考えられる点を指摘しておきたい。

・アウトカムベースの支払い方式の構築
現在は検査など実施した内容に対しての支払いになっているが、今後は治療の結果に対する支払いを行う方式に転換していくことも検討されるべきだろう。薬剤投与のみならず、運動・栄養指導でも、どのような効果が得られたかに基づいて支払いをすることで、効果的・効率的な医療資源の活用が期待される。

・クラウド型電子カルテ
現在の電子カルテは病院ごとのシステムになっており、相互にコミュニケーションを取ることができない。クラウド型の電子カルテによってデータアクセスの利便性を高めれば、災害時にも患者データを把握できるほか、他の医療機関でもアレルギー情報などを正確に把握することができる。個人情報保護法や各種資格関連の法律の改正・整備が必要であるが、議論を進めるべきポイントといえる。

・がん治療におけるゲノム医療の進展
生活習慣病といわれるがん・脳卒中・心臓病のうち、がんが最も遺伝子的要因が大きいと言われている。起因遺伝子情報は人種によっても異なるため、日本独自で研究を進めることが必要である。遺伝子分析が広がっていけば、その人に適した治療や投薬を選択でき、医療資源の観点でも患者の生活の質の観点でも大きなメリットがある。こうしたゲノム医療を発展させるには、従来の薬事承認の制度やスピードを改革し、日本でもバイオ製品の研究開発が進むようなビジネスの土壌を作っていく必要がある。

・薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)対策
英国の研究では、2050年にAMRによる死亡者数はがんによる死亡者数を上回ると予測されている。抗生物質の開発には5~10年かかるため、将来悔やむことのないよう、今から開発を進めなくてはならない。特に日本の特徴として新しい世代の抗生物質を使うため、使える抗生物質のない耐性菌が生じやすいとされている。日本では、成長促進を目的としたものも含む動物への使用が全体の58%を占めており、この状況は改善が必要である。

 

■最後に

今の日本は生産年齢人口が減少し、これは社会保障制度にとって税金や保険料の「払い手」が減っていることを意味する。そして、4~5年に1度はパンデミックが起きる。こうしたことを前提とした社会保障制度の構築が必要である。公的医療保険制度もこれまで通りの支払いを続けることは難しく、重点化に向けた改革が不可欠だ。病床数も国際的に見ても過剰な状況が続いており、秩序だった集約を進めなくてはならない。また、今回のCOVID-19でわかったように、厳しい罰則がなくても大半の人は秩序を守ることができるという日本社会の良さを生かした制度設計であってほしい。

労働集約型の産業である医療・介護は、人がやらなくてはならない部分とテクノロジーで代替できる部分と、上手くタスクシェアリングすることが求められている。現在の労働者の40%はAIの進出によって職を失うという報告があるが、これからますます生産年齢人口が減る日本では、労働者の減少分をうまく相殺することも期待できるのではないか。

1962年のキューバ危機に際し、当時のケネディ大統領は交渉で疲れ切った閣僚を励ますため、「中国語で書くと、危機という言葉は二つの漢字でできている。ひとつは危険、もうひとつは好機である。」と表現した。リスクに直面しながらも、それをきっかけとしてソ連との交渉窓口を開いたり、キューバと友好関係を築いたりすることができるチャンスと捉えたのだ。今回のCOVID-19も私たちにとって大きなリスクであるが、これをきっかけに日本の医療制度や経済システムをより強靭なものに深化させていく契機にできればと思っている。

 

講演後の会場との質疑応答では、アウトカムベースの医療保険システムのあり方や、今後のCOVID-19対策などについて、活発な意見交換が行われました。

(写真:井澤 一憲)

 


プロフィール
鈴木 康裕(すずき やすひろ) (厚生労働省顧問・前医務技監)
・昭和59年慶応大学医学部卒。同年厚生省入省。
・平成10年世界保健機関派遣、平成17年医政局研究開発振興課長、平成21年厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長、平成22年保険局医療課長、平成24年防衛省衛生監、平成26年厚生労働省大臣官房技術総括審議官、平成27年(併)グローバルヘルス戦略官、平成28年6月厚生労働省保険局長、平成29年7月より医務技監、令和2年8月退任。


【開催報告】第45回特別朝食会「活力ある日本の復活に向けて~成育基本法と切れ目のない子育て支援~」(2019年12月20日)>

2021年02月02日

NCDアライアンス・ジャパン/日本医療政策機構は国際的な非営利組織である世界脳卒中機構(WSO: The World Stroke Organization)との協働により、「世界脳卒中ガイドライン及びアクションプラン: 質の高い脳卒中治療に向けたロードマップーロードマップ実施要項」を日本語に翻訳しました。なお、一般社団法人日本脳卒中学会、公益社団法人日本脳卒中協会の専門家による監訳を受けています。

詳細は、NCDアライアンス・ジャパンウェブサイト「記事・資料」のページからご覧ください。

 

■NCDアライアンス・ジャパンとは

NCDアライアンス・ジャパンとは、包括的かつ疾病横断的なNCDs対策の推進のため、日本医療政策機構が運営する市民社会のための協働プラットフォームです。
2013年より約2000の市民団体・学術集団が約170か国で展開する協働プラットフォームであるNCD Allianceの日本窓口として活動し、2019年1月17日にNCD Allianceのフルメンバーとして正式に加盟いたしました。

NCDアライアンス・ジャパンは、患者・当事者の視点から政策課題を抽出し、疾病横断の政策を提言することが重要だと考えています。そのため、国内外の患者・当事者、産官学民などのマルチステークホルダーを結び、その声が活かされ反映される政策提言や、患者・当事者リーダーの育成・支援に取り組んでいます。また、国内外における政策動向をモニタリングし、国内の知見を積極的に世界へ発信することにより、NCDsにおける課題解決へ寄与することを目指しています。

2021年02月02日

NCDアライアンス・ジャパン*/日本医療政策機構は、調査・提言「日本の非感染性疾患に関わる医療者の役割と働き方最適化に向けた調査〜Strengthening of Health Workforce on Non-Communicable Diseases and Universal Health Coverage〜」を公表いたします。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、医療供給には限界があることをこれまでになく多くの人が実感しているのではないでしょうか。しかし、世界で最も早く深刻な高齢社会を経験している日本において医療提供体制、中でも医療者の不足と地域・専門領域の偏在は、以前より喫緊の課題でした。特に非感染性疾患(NCDs:Non-Communicable Diseases)は死因の80%以上を占め、増加する高齢人口が複数のNCDsを併発する状況があり、限られた医療資源の有効な配分や全体最適化に資する議論や具体的な施策が展開されつつあります。

これを踏まえ、NCDアライアンス・ジャパンでは、NCDsに関わる医療者の役割を見つめ直し、医療者の働き方改善ややりがいの向上を通じた、NCDs患者・当事者へのさらなる医療の質向上に貢献すべく、本調査を実施しました。また、高齢先進国の日本の対応についてNCDアライアンスメンバーをはじめ、諸外国に発信する意図も込めています。

第Ⅰ章では、机上調査により、昨今の議論や施策を包括的にまとめました。
第Ⅱ章では、「医師と看護師間のタスク・シフティング、タスク・シェアリング」をテーマに、現役の医師と看護師への定性調査を実施しました。なお、政府議論の中で、タスク・シフト、シェア先として「特定行為研修を修了した看護師」が想定されていることから、特定行為研修を修了した看護師の活用に関する課題と展望に関する意見を主に収集しています。

■定性調査「タスク・シフティング、タスク・シェアリング医療者の声」結果のポイント

  •  日本の医療提供体制の主たる課題である医師の多忙、医療者の不足・偏在を是正するほど、タスク・シフティング、タスク・シェアリングは広まりを見せておらず、働き方の改善には現状ほとんど至っていない。
  •  一部の医師・看護師はタスク・シフティング、タスク・シェアリングの効果を感じ始めており、医療者の働き方改善のみならず、患者・当事者に迅速かつ質の高い医療を提供する手段の一つになりうることが大いに期待される。
  •  タスク・シフティング、タスク・シェアリングはあらゆる専門領域、地域、医療セッティングで導入すべきである。特にNCDs領域においては、急性期のみならず回復期、慢性期において、また、高齢化により今後さらに需要が高まるとされる在宅医療、介護事業所、地方・へき地医療において活躍の可能性が多分にある。

今後、タスク・シフティング、タスク・シェアリングが医療提供体制最適化の一つの有効な打ち手になると考え、さらなる推進および改善に向けたアクション例を、以下3つの視点から提示しています。詳細は調査提言書の本文をご覧ください。

■本調査結果を受けた提言:3つの視点

視点1:タスク・シフティング、タスク・シェアリングを推進するための臨床現場での具体的導入策や特定行為ができる看護師のトレーニング環境の整備の必要性

視点2:インセンティブ付けや教育制度改革による特定行為研修受講者数の拡大

視点3:タスク・シフティング、タスク・シェアリングの効果測定による有用性の見える化

今後は、本調査・提言書をベースとして、より多くのマルチステークホルダーと意見交換を重ねることで、さらに活動を深化させ、政策の変革を目指してまいります。

 

■本調査に関するお問い合わせ先
特定非営利活動法人 日本医療政策機構(担当:吉村)

*日本医療政策機構では、心疾患、がん、糖尿病、慢性呼吸器疾患、メンタルヘルスなどに代表される非感染性疾患(NCDs: Non-communicable Diseases)対策を推進すべく、NCDsに関連した患者・当事者を含めた産官学民のステークホルダーが集まる協働プラットフォームとしてNCDアライアンス・ジャパンを運営し、政策提言、患者・当事者支援、調査・研究を実施しています。

 

PageTop