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【開催報告】第44回特別朝食会「世界が直面する人口遷移を克服する医療研究開発に向けて」(2019年6月25日)

【開催報告】第44回特別朝食会「世界が直面する人口遷移を克服する医療研究開発に向けて」(2019年6月25日)

この度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED: Japan Agency for Medical Research and Development)理事長である末松誠氏をお招きし、第44回特別朝食会を開催致しました。末松氏には、「世界が直面する人口遷移を克服する医療研究開発に向けて」というテーマで、世界に先んじて高齢化が進展する日本における、今後の医療研究開発の在り方、またダイナミックコンセントをはじめとした、個人レベルからのデータの利活用の在り方についての課題とビジョンをお話しいただきました。

 




■講演の概要
 ―世界が直面する「超・超高齢少子社会」とAMEDに求められるもの
2060年には、世界はほぼすべての地域で65歳以上人口の割合が40%以上になると予測されている。中国における一人っ子政策など例外を除き、基本的には人口構造の変化は政策によって変えることはできないとされている。
日本では、1970年後半から50歳以上人口の割合は急激に増加し、少子高齢化が進んできた。「20年後、現在の超高齢少子社会よりもさらに少子高齢化が進み、超・超高齢少子社会が訪れる」こと、そして「この超・超高齢少子社会は地球上の誰も経験していない世界である」ことは実はあまり理解されていない。
 こうした「超・超高齢少子社会」において、時代の要請に応えることのできる医療研究開発とは何かを考える必要がある。医薬品・医療機器の研究開発においては、基礎研究から実用化、上市まで最低でも10年を要するとされている。医療研究開発をスポーツに例えるなら、長い道のりを走る点は共通するが、「マラソン」ではなく「駅伝」とするのがふさわしいだろう。駅伝では坂道のエキスパートや直線のエキスパート等がいて、それぞれが協力していく必要がある。まさに医療研究開発も同様で、各分野のエキスパートのみならず、あらゆるセクターの連携が必要とされる。
しかしこれまでの日本の医療研究開発は、各セクターが時として対立・非協力関係にあり、効果的な研究開発が進められない状況にあった。AMEDはこの「バルカニゼーション」*を排除し、「各関連省庁が持つ予算の集約と一体的な研究支援・整備」、「基礎から実用化までの一貫した研究管理」を実行することで、各セクターの連携を促すことを期待され、設立されたと考えている。こうした期待に応えるため、「疾患領域対応型統合プロジェクト」と、すべての疾患において重要な領域を対象とする「横断型統合プロジェクト」を連携させ、限られたリソースの中で効果的に活動を行う方針を打ち出している。

 *バルカニゼーション(Balkanization):第一次世界大戦後のオスマン帝国崩壊に続いて起こった民族国家群の分離独立をあらわす歴史上の出来事から、ある地域や国家が、互いに対立するような小さな地域・国家に分裂していく様子をあらわす地政学用語。他分野においても、同一セクター内で細かくグループ化されて分断している状況を指す用語として使われる。(出典:ブリタニカ

―これまでのAMEDの取組 ―「分散統合・広域連携」を目指して―
 AMEDでは、設立当初から医療研究開発において「分散統合・広域連携」の体制づくりが必要だと考えてきた。日本の臨床研究は、中小規模の病院が個々に行っているものが中心で、韓国や中国のように3000床以上の大病院で行われる臨床研究とは異なり、世界で評価されるのが難しい状況にある。これを克服するためには、各研究機関や医療機関等の持つデータを中央に集めるのではなく、各拠点でデータは保有しつつも、各研究機関・医療機関が広域で連携しデータフォーマットを共通化することで、データの利活用、研究開発を促進する体制、「分散統合・広域連携」を進めていくべきである。今後はブロックチェーンの技術を使って「各セクターがどんなデータを持っているかを把握し、かつデータが変更された場合にもその変更をお互いが認識できる仕組み」を構築していきたいと考えている。
その1例が、画像診断のAI開発プロジェクト「Japan Excellence of Diagnostic ImagingJEDI)」である。このプロジェクトは国立情報学研究所(NII: National Institute of Informatics)をまとめ役として、日本病理学会、日本消化器内視鏡学会、日本医学放射線学会、日本眼科学会、日本皮膚科学会、日本医学超音波学会が連携し、共同でAI開発を行うものである。既に社会実装に向けた試みも始まっており、日本病理学会では、胃生検に関する画像情報を集積し解析を行うAIを開発し、福島県ではこれを活用して病理診断のダブルチェックを行う実装実験が行われている。
 また 「診断を求める終わりなき旅(Diagnostic Odyssey)」に陥っている患者とその家族を対象とした「未診断疾患イニシアチブ(IRUD: Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases))も現在進行中である。Diagnostic odysseyとはどの病院に行っても正しい診断がつかず、病院を渡り歩くような状況のことをいう。このプロジェクトは、日本全国の医療機関から患者の遺伝子情報や表現型等のデータを集積し、共通点を持つ患者情報をマッチングして、適切な診断結果を提示することを目的としている。これまでデータを集積するデータベースが日本になかったため、まず「IRUD Exchange」というデータベースを構築した。この5年間でナショナルセンター等の拠点病院だけでなく、中・小規模病院からもデータを集められるようになり、データ集積に関する目標は達成できたと考えている。
またアメリカ国立衛生研究所(NIH: National Institute of Health)の病院とのデータ共有に関する協定締結や、アジアで初めて、未診断疾患に関する国際的な症例比較プラットフォームである「MATCH MAKER EXCHANGE」への参入等、データ共有の取組を日本国内だけでなく、国際的に行うチャレンジも進んでいる。
 
―今後の展望 ―研究者も研究参加者も意義を感じるデータ共有に向けて―
 2019年に、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)と介護DB(介護保険総合データベース)についての関連法案(医療保険制度の適正かつ効率的な運営を図るための健康保険法等の一部を改正する法律案、2019515日成立)が成立し、法律上、両データベースのデータを連結し、解析することができるようになった。
両データベースの連結には個人情報保護への配慮や各患者情報をつなぎ合わせるため識別子の整備等多くの作業が必要となるが、このデータベースを利活用することが今後の政策や医療研究開発に大きく寄与すると考えている。
またデータの連結解析と同時に、特に下記3項目の研究開発を進めていくことが必要だと考えている。
・生活活動度、介護度、認知症のアウトカム分析を見ながら、健康寿命の指標の開発を行うこと
・医療と介護の連携効果分析
・医療と介護の費用分析、総費用の把握
 さらに今後データの利活用を進めていくにあたり、研究参加者である患者および市民に対する情報提供に関する説明および意思表示の在り方として、「インフォームドコンセント」の仕組みを見直すことが求められる。日本では子どもが生まれてから成長するまでの様々な情報は異なるセクターが保有しており、生涯を通じた健康に関するデータを取得・活用する際に、一体的に管理ができる主体が存在していないことが課題となっている。
こうした課題克服の際に注目されるのが、近年欧米で取り組みが始まっている「ダイナミックコンセント」である。ダイナミックコンセントとは、自分のデータが活用されている臨床研究に関して、リアルタイムに個人情報端末を通じて、同意の変更や撤回等を行うことができる仕組みである。研究参加に際し、同意・撤回の二種類しか選択肢がなく、当初の同意内容がずっと継続する現行の仕組み(静的:Static)に対して、ダイナミックコンセントは、活発な双方向のコミュニケーションを行い、研究参加者が自身の状況変化に応じてリアルタイムで同意内容を変更できる(動的:dynamic)という特徴を持つ。実際の導入に当たっては検討の必要な項目が多々あるが、こうした制度も参考にしながら、研究参加者への情報提供や意思表示の仕組みについて議論する必要がある。
 
講演後の会場との質疑応答では、活発な意見交換が行われました。

  

(写真:井澤一憲)


■プロフィール
末松 誠 氏(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 理事長)
昭和58年 3月     慶應義塾大学医学部 卒業
昭和63年 4月     慶應義塾大学 助手(医学部内科学教室)
平成 3  5   カリフォルニア大学サンディエゴ校応用生体医工学部 / Research Bioengineer (Professor Benjamin W. Zweifach) として留学
平成13年 4月     慶應義塾大学 教授(医学部医化学教室)
平成196     文部科学省グローバルCOE生命科学「In vivoヒト代謝システム生物学拠点」拠点代表者 (~平成243月)
平成1910   慶應義塾大学医学部長(~平成27331日)
平成2110   科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (ERATO
 「末松ガスバイオロジープロジェクト」研究統括 (~平成283月)
平成274月     国立研究開発法人 日本医療研究開発機構 理事長 / 慶應義塾大学医学部客員教授

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