2024年04月08日

当機構では、2022年より肥満症や肥満に関する社会全体の関心を引き上げ、効果的な対策を推進すべく「肥満症対策推進プロジェクト」を始動させています。

2023 年度は、2022 年度の提言内容の深堀および実装を目指し、肥満症当事者・医療関係者へのヒアリングおよび産官学民の有識者で構成されるアドバイザリーボード会合を開催しました。医療現場ならびに社会における肥満症当事者を取り巻く実態、課題の把握を踏まえて、当事者の視点に基づく社会、医療において求められる肥満症対策について、以下に提言します。

※本提言書は、3月4日に公表した提言概要【速報版】から更新された、提言本体【確定版】になります。


肥満症対策に求められる6つの提言(概要)

  • 提言1:行政機関と産業界が連携し、健康的な生活習慣に関する教育と健康リスクの少ない社会づくりを両輪として、肥満症を含めた生活習慣病の一次予防を強化すべき
  • 提言2:特定健康診査・特定保健指導におけるデータヘルスの推進と実効性の強化を通じた、疾病予防効果の高い二次予防政策を実現するべき
  • 提言3:肥満および肥満症の患者へ適切な介入を行うべく、地域において産官学民が連携の上、肥満症当事者の課題やニーズに寄り添った医療提供体制および支援体制を構築すべき
  • 提言4:高度肥満症の患者に集学的治療が行われるよう医療提供体制の整備と全国均てん化を推進すべき
  • 提言5:肥満症政策推進および医療提供体制の充実・均てん化のために、肥満症を含む慢性疾患対策への効果に関するエビデンスを創出すべき
  • 提言6:偏ったボディイメージを是とする風潮や、肥満への自己責任論から脱却するとともに、医学的な病態としての肥満や肥満症に関する理解を醸成し、適時適切な医療の妨げとなるスティグマを解消すべき

詳細については下部PDFをご覧ください。

 

■ヒアリングにご協力いただいた自治体、専門家及び当事者(敬称略・県と市・専門家・当事者ごとに五十音順)

佐賀県 健康福祉部 健康福祉政策課
福島県 教育庁 健康教育課
宮城県 保健福祉部 健康推進課
北海道釧路市 こども保健部 健康推進課
肥満症当事者4名

■「肥満症対策推進プロジェクト」アドバイザリーボードメンバー(敬称略・五十音順・ご所属・肩書はご参画当時)

今岡 丈士(日本イーライリリー株式会社 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 糖尿病領域兼臨床薬理メディカルアソシエイトバイスプレジデント・メディカル)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部衛生学公衆衛生学教室教授)
小熊 祐子(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院 健康マネジメント研究科 准教授)
加隈 哲也(大分大学 医学部看護学科基盤看護学講座 健康科学領域 教授)
黒瀨 巌(日本医師会 常任理事)
齋木 厚人(東邦大学医学部 内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 教授)
新垣 友隆(日本イーライリリー株式会社 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 糖尿病領域 シニアアドバイザー)
杉井 寛(ノボノルディスクファーマ株式会社 取締役副社長 開発本部長)
辻 沙耶佳(東邦大学医療センター佐倉病院 肥満症治療コーディネーター)
龍野 一郎(日本肥満症治療学会 理事長/千葉県立保健医療大学 学長)
横手 幸太郎(日本肥満学会 理事長/千葉大学医学部附属病院 病院長)

 

■協賛企業・団体(五十音順)

国立大学法人 政策研究大学院大学 グローバルヘルス イノベーション政策プログラム
日本イーライリリー株式会社
ノボノルディスクファーマ株式会社

2024年03月28日

日本医療政策機構は、今年度より個人賛助会員ならびに多方面から医療政策に関心を持たれている方向けに、勉強会を開催しています。
第2回となる今回は、アデコグループ 人材部門責任者(英国 & アイルランド)/英国政府 更年期雇用チャンピオンのHelen Tomlinson氏をお迎えし、ご講演いただきます。

Helen Tomlinson氏は、英国政府初の更年期雇用チャンピオンかつ、HRソリューションの世界的リーダーであるアデコグループの人材部門(UKおよびアイルランド)の責任者でもあり、アデコグループは英国初の企業更年期ポリシーを設計・実施しました。あらゆる規模の企業に対し、支援的な環境を整え、オープンな会話を促し、更年期以降も女性が職場で生き生きと働けるよう支援していらっしゃいます。これまでの活動の中で得られたご知見・ご経験をもとに、「–後戻りする時間はない– 企業の文化的変革が、いかに女性の活躍と潜在能力の発揮を支援できるか?」と題し、注目度が高まっている更年期政策についてついてお話しいただき、会場の皆様と一緒に理解を深めていきたいと思います。


■登壇者
Helen Tomlinson 氏アデコグループ 人材部門責任者(英国 & アイルランド)/ 英国政府 更年期雇用チャンピオン)

■日時
2024年4月11日(木)18:00-19:15(開場:17:40)

■形式
対面(オンライン配信なし)

■会場
グローバルビジネスハブ東京
(〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ3階)

■言語
英語のみ(同時通訳はありません)

■定員
50名程度(応募者多数の場合、抽選)

■参加費
・一般:事前クレジットカード決済 4,000円 当日キャッシュレス決済 4,400円
・学生(学部生のみ):事前クレジットカード決済 3,000円 当日キャッシュレス決済 3,300円(学生証をお持ちください)

※個人賛助会員は無料となります。また、本イベントは対面参加のみですが、個人賛助会員の方限定で後日、シンポジウムの動画リンクを共有いたします。
 個人賛助会員ご寄附のお申し込みはこちらから

■プロフィール
Helen Tomlinson 氏
Helen Tomlinsonは、英国政府が産業界における更年期対策を推進するために任命した初の「更年期チャンピオン」である。労働年金省とともに、Tomlinsonは更年期を経験している女性が職場にとどまり、キャリアを諦めることのないよう、雇用主の方針策定への支援をしている。また、文化変容を生み出す教育とこれまで見過ごされてきた人への支援のためにアライシップの原則を適用し、女性の健康の観点から、女性のキャリア全体を通して、インターセクショナリティのあらゆる側面において女性を支援するために、部門別に明確に定義された戦略を構築してきた。
ジェンダー平等を提唱することは、Tomlinsonの30年にわたる採用と雇用の分野におけるキャリアと専門性に共通するものである。同氏は、「更年期チャンピオン」としての積極的な役割に加え、人材ソリューションの世界的リーダーであるアデコグループ(英国およびアイルランド)の人材&インクルージョンの責任者でもある。更年期と仕事に関する彼女の先駆的なポッドキャストに触発され、アデコグループ英法人は同国初の企業更年期ポリシーを設計し、実施した。それ以来、Tomlinsonは欧州におけるあらゆる規模の企業に対し、支援的な環境を整え、オープンな会話を促し、更年期以降も女性が職場で生き生きと働けるよう支援してきた。経営、営業、戦略的人事プランニングなど30年にわたる経験を持つ同氏は、企業が啓発的アプローチを通じてビジネス上の利益を実現できるよう支援し、雇用者とその従業員にとって前向きで実用的な変化を促している。

 

申込み締切:2024年4月5日(金)
 「お申込みはこちら」ボタンよりお名前、メールアドレスなどの必要事項を入力ください。
 お申込み後に、申込完了メールが届きます。メールが届かない場合は、お手数ですが当機構事務局まで、メール(info@hgpi.org)またはお電話(03-4243-7156)にてご連絡ください。
当選のご連絡:2024年4月8日(月)中にお知らせ
 本イベントは対面のみの開催で会場のお席が限られているため、お申込みをいただいた後、当機構にて厳選なる抽選の後、ご参加いただける方にお知らせいたします。個人賛助会員の方は、優先的にご案内いたします。


申込みキャンセルについて:2024年4月10日(水)12:00まで
 キャンセルをされる場合は、2024年4月10日(水)12:00までにご連絡ください。これ以降のキャンセルにつきましては、参加費をいただく場合がございます。

 

2024年02月28日

今回のHGPIセミナーでは、埼玉県立大学 保健医療福祉学部 准教授/医療情報をわかりやすく発信するプロジェクト 研究代表者である山田恵子氏をお迎えし、医療情報の多様化に伴うヘルスコミュニケーションのあり方についてお話しいただきました。


<POINTS>

  • 同じ言葉を使用する際でも、医療現場や医学研究で使用される文脈と一般社会での文脈は異なることから、言葉の意味が違ってくる。両者を理解できる医学関係者はその差を埋めるための役割を担っている。
  • 前述のとおり、医学関係者と一般社会とでは、同じ言葉を使っていても、その意味合いが異なることがある。また、日本は「言わなくても通じる」高コンテクスト社会である。よって、日本における医療情報はこの2つの複雑さが絡み合っているといえる。医学関係者と一般の方の間の円滑かつ効果的なコミュニケーションに向けては、相互に歩み寄り、共通理解を持ったうえで、安全な情報共創をしていくことが重要である。その共通理解の一助になるべく、コミュニケーションのためのガイドライン「医学系研究をわかりやすく伝える手引き」を作成した。

 

医学関係者が持つ”文脈“と一般社会が持つ”文脈“の違い

医学関係者が発信するヘルスコミュニケーションの中には、一般の方の間で使われていても受け取り方が異なる言葉がある。例えば、「標準治療」という言葉を用いる際、医学関係者は「科学的な根拠に基づいた、現在利用可能な最も効果的」な治療を指すが、国語辞典で「標準」を調べると、「目安や手本」「ふつう」といった意味で使用される。このように、「標準」という言葉に対して一般的な認識と、医学・医療の文脈で使われる「標準治療」が指す意味は異なる。我々は、このような違いに注目し、昨年、医学系の研究を分かりやすく伝える手引きを作成した。

医学は科学領域の一つで、科学によくあることだが、医学関係者は、一般社会と異なる、独自に発展させた文脈を使用している。そのため、ヘルスコミュニケーションにおいては、その違いを考慮した上で、共通認識を築く必要がある。特に、市民参画が必要な場面では、医学関係者と一般社会との文脈の差を十分に確認した上で、最終的な意思決定を行うことが必要である。そこから始めてヘルスコミュニケーションが円滑になると考えている。

「言わなくてもわかる」が通用する日本の高コンテクスト社会と医学の文脈が掛け合わされる複雑なコミュニケーション

コンテクストとは、一般的に背景・状況・場面等のことを意味する表現と定義されるが、そのコンテクストには、言葉では言い表しきれない「理解」や「感覚」が含まれる。例えば、「夫婦がお互いをよく理解している」という状態は、コミュニケーションの背景や文脈を共有し合っている高いコンテクストの状態にあり、お互いの意図を言葉にしなくても理解している状態を指す。しかし、一見通じ合っているように感じられても、実際にはまったく理解できていないといった全く逆の状況もありえる。高いコンテクスト社会の中では、言葉に頼らずとも共有されているであろうと思われていることが実際には異なり、予測不可能な出来事が生じる恐れがある。

日本は、言葉に頼らなくても考えが相手に比較的理解されやすい、高いコンテクスト社会である。さらに、科学者や医学関係者が発信する情報も、研究デザインやエビデンスが示されるなど決まった型があり、詳細を言葉にしなくても共通の理解が生まれる。よって、科学や医学・医療の世界では非常に高いコンテクストのコミュニケーションが行われている。そのため、日本社会では医療情報を発信する上で、言葉にしなくても理解されると思っている社会の前提と、科学者や医学関係者が発信する、専門家独特の文脈が組み合わさることで、非常に複雑でわかりづらいコミュニケーションが生まれていると考えられる。

時代を経て変化した医療情報を得るチャネルの特徴

最新の医学・医療情報は、一昔前までは医学系研究者が論文や本を購入して得るものであったが、現在はインターネット上で誰もが閲覧できる、非常に開かれた情報となってきている。また、SNSなどを通じてお互いに情報を共有する機会が増え、医療情報を得るチャネルが多様化し、ますます拡大している状況にある。

医療機関外で活用される個人の医療データ

かつて、個人の医療データはカルテに収められ、医療機関内に留まるものだけが大多数であった。しかし、現在では医療機関の外でもリアルワールドデータやパーソナルヘルスレコード(PHR: Personal Health Record)の活用に代表されるように、個人の医療データの範囲が広くなり、健康・医療データとして今後ますます多く利用されていくことが予測されている。このような状況の変化を受けて、カルテ情報は誰の物かという議論が度々起こる。昨今ではカルテ情報は究極の個人情報であり、個人のものだという考え方が時代の趨勢である。しかし、カルテの所有権は医療機関にあり、管理・保存義務も医療機関にあるのが現状で、情報のあり方としてはかなり特殊である。徐々に自分の医療情報は自分で管理すべきという流れがある一方で、患者がカルテ情報を持ち運ぶのはハードルが高く現実的でないことから、このような個人の医療データを管理する仕組みの整備も早急に必要となっている。

国も近年、PHRの普及を推進している。PHRとは、個人の健康や身体の情報を記録した医療・健康データを指し、比較的新しく出てきた話のように聞こえるが、デジタルではないものの、日本には古くから誇るべきPHRともいえる「母子手帳」がある。これを例にとるとPHRがイメージしやすい。母子手帳は、親が子の体重や状況などを記録し、子供の成長や予防接種の情報を持ち歩くための記録帳で、子供が成長して大人になっても、母子手帳があればこれまでに受けてきたワクチン情報や、出生時、胎児~乳児の頃の健康状況がわかる。これは自分の情報を自分で管理する良い例であり、近い将来、このような自己管理の文化が一般的になる可能性がある。国もPHRの普及を促進し、健康情報を効果的に管理・活用するための取り組みを進めている。

また、ヘルステック領域の成長は世界的に著しい。ヘルスケアアプリの市場規模は世界で104億米ドル、モバイルヘルス市場は740億ドルと言われ、成長率も約20%と非常に高く、日本でもウェアラブルデバイスやデジタル活用における市場が急速に拡大している。ヘルスケアアプリに関する研究も進んでおり、その効果に関するメタアナリシスなども増加しており、これらの研究結果から、ヘルスケアアプリの有用性の知見が少しずつ積み重なってきている。これからもますます増加することが予想される。

医療情報の特殊性と扱い方の注意点

医学・医療は本質的に健康課題を解決するものであり、情報量が多いほど望ましいと考えがちであるが、受け手が自身の感情や置かれた状況に応じて、無意識下に取捨選択しがちである。したがって、医療情報を伝える際には、相手にとってどのような心理的影響を及ぼすかを考慮する必要があり、受け取り方や心理的な影響は個人によって異なるため、コミュニケーションに配慮する必要がある。

また、医療は情報や手技が人命に直結することから、トライアンドエラーの許容範囲が非常に狭く、他の業界よりも厳しい側面がある。そのため、医療情報を伝える際には、正確性が特に重視されるという現実がある。

日本人の科学(医学)に対する意識

情報の正確性に着目すると、日本では一般的に科学が確実な答えを持つというイメージが強く根付いていることを考慮する必要がある。医学も科学の一分野であることから、既に完成したものと受け止められがちで、エラーが許されないという認識にも繋がっている。しかし実際には、日々の研究を基に、新しい知見や技術が発見され、時間とともにアップデートしている。COVID-19のパンデミックを例に挙げると、専門家が都度、情報を整理してメディアで伝えていたが、ウィルスの実態が解明されるにつれ最新の知見を述べると「これまでと違うじゃないか」と批判の対象になった。このように日本では、医学・医療は、完成品といった感覚が強くあるため、発信の際にはそういった社会の潜在意識を乗り越えることも必要となる。

医学系研究をわかりやすく伝える手引きの概要

我々のプロジェクトでは、医学関係者と一般社会とのコンテクストの差を少しでも縮めてお互いを知ることができれば、ヘルスコミュニケーションにおいてより良い意思決定できるのではないかと考え、医学系研究を分かりやすく伝える手引きを作成した。

この手引きは主に医療情報の発信者を対象にしており、プレスリリースにおける使用等を想定して、フォーマルな書き言葉を中心に構成している。作成にあたっては専門家のみならず一般の人々も含め、様々な意見を織り込んでいる。

手引きは、ベーシックな問題とアドバンストな問題に分類して作成した。ベーシックな問題では主に言葉に関する問題を扱い、アドバンストな問題では医学系研究の統計や研究デザインといった、より複雑な要素を考慮した形になっている。ベーシックな言葉の問題に対しては、大規模な言語テキストデータであるコーパスを作成して解析し、その結果を基にアンケートを行った。さらに、アドバンストな問題に対しては、国内外の文献レビューを実施した。これらの結果を用いて研究班のメンバーが様々な立場から議論した。最終的に、全ての議論をまとめ、「チェックリスト」と「用語の解説」という形でまとめている。

チェックリストは基本編と実践編に分かれている。基本編は分かりやすい資料作成のためのもので、医学系研究に限らず、あらゆる資料や科学研究の作成に役立つよう、文章の書き方、読みやすさ、全体の見やすさについてまとめている。他方、実践編は医学系研究に特有のポイントに焦点を当てている。
用語については、先の話通り、コーパス(データベース化された言語資料)を基に選定した用語の解説を作成している。具体的には、医学系研究の専門家向けと一般の人向けの記事から成るコーパスをそれぞれ作成し、そこから形態素解析を用いて名詞を抽出し、複数のメンバーが重要かつ解説すべきであるとして選んだ用語を33語群、68語として取りまとめた。さらに、その用語について一般の人2400人と専門家600人、合計3000人のインターネットアンケートを行い、理解の実態を調査している。用語の解説は上記を全て整理したものである。

手引き作成の過程において、同じ文言であっても、医学関係者と一般の方で異なる意味に捉えられるものがあるということが明らかになった。これらは前述した通り、異なるコンテクストに置かれていることによる感覚の違いであり、医療情報を発信する人は、一般社会と医学関係者双方のコンテクストを理解した上で研究の取り組む必要があると考えている。今回の手引きがその一助となれば幸いである。

 

【開催概要】

  • 登壇者:山田 恵子 氏(埼玉県立大学 保健医療福祉学部 准教授/医療情報をわかりやすく発信するプロジェクト(研究代表者))
  • 日時:2023年12月19日(火)18:30-19:45
  • 形式:オンライン(Zoomウェビナー)
  • 言語:日本語のみ
  • 参加費:無料
  • 定員:500名程度


■登壇者プロフィール:

山田 恵子 氏(埼玉県立大学 保健医療福祉学部 准教授/医療情報をわかりやすく発信するプロジェクト(研究代表者))
東京大学医学部卒。都内整形外科・救急科勤務を経て、東京医科歯科大学大学院医療管理政策学修了。ダナファーバーヘルスコミュニケーション教室留学後、東大病院整形外科、東大医療情報経済学客員研究員。ハーバード大学公衆衛生学大学院留学、東大病院企画情報運営部を経て現職。整形外科専門医、博士(医学)、修士(公衆衛生学、医療政策学)。情報サイトAll About 女性の健康ガイド(2001年~現在)。

 

2024年02月13日

日本医療政策機構は、2024年度女性の健康推進プロジェクト アドバイザリーボード会合を2024年1月15日(月)に開催いたしました。なお、本会合での議論や各調査を踏まえた政策提言書は、2024年3月公開予定です。

当機構では、2005年より働く女性の健康推進や少子化に関する政策提言の他、大学生や企業向けの健康教育プログラムの開発、若年層向け助産師相談プラットフォームの構築等、セクシャルヘルス・リプロダクティブヘルス課題に主軸を置いた活動を実施しています。
近年、女性の健康に関する様々な施策が推進し、包括的な政策推進が期待できる状況ではありますが、中高年女性の健康課題、特に更年期症状に関する社会的な理解や施策は未だ十分ではないと考えています。また、2023年6月に発表された「女性版骨太の方針」に、プライム上場企業における女性役員比率を30%以上にすることを目標とする計画も盛り込まれていますが、女性活躍推進は健康増進と表裏一体であるべきにも関わらず、しばしば健康が置き去りにされてきており、45歳~55歳前後の、まさに役員世代に当てはまる女性の更年期の健康課題に向き合うことは必須であり、さらなる社会的認知の強化や支援策が必要であると考えています。

本アドバイザリーボード会合では、当分野における産官学民の専門家、オピニオンリーダーにお集まりいただき、当機構が事前に行った調査や企業独自の取組み、働く女性当事者の声ヒアリングから整理された3つの論点(医療提供体制、医療人材、産業保健)における課題と解決策について、議論を行いました。

 

【開催概要】

  • 日時:2024年1月15日(月)14:00 – 16:00
  • 形式:ハイブリッド(対面・オンライン(Zoomミーティング))

アドバイザリーボードメンバー(五十音順、敬称略)

小川 真里子(東京歯科大学市川総合病院 産婦人科 准教授)
川島 恵美(株式会社Keep Health 代表取締役)
川本 和江(ライオン株式会社 人材開発センター健康サポート室)
佐々木 成代(ライオン株式会社 ビジネス開発センター 統括室 ビジネスインキュベーション室)
白駒 伸春(日本航空株式会社 ウエルネス推進部 統括マネジャー)
寺内 公一(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授)
新田 真弓(日本赤十字看護大学 母性看護学・国際保健助産学 教授)
三羽 良枝(女性の健康とメノポーズ協会 理事長)
若槻 明彦(前日本女性医学学会 理事長/愛知医科大学 産婦人科学講座 主任教授)

オブザーバー

青栁 光葉(経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室 係長)
室 紗貴(経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課 室長補佐)

協賛(五十音順)

アステラス製薬株式会社
国立大学法人 政策研究大学院大学 グローバルヘルス・イノベーション政策プログラム
富士製薬工業株式会社

 

2024年02月02日

この度、Kurt Tong氏(アジア・グループ マネージング・パートナー)をお招きし、第52回特別朝食会を開催いたしました。

30年にわたる米国国務省での外務官僚及び上級外交官としてのご経験の後現在はアジア・グループでマネージング・パートナーとしての役割を担われているTong氏に、地域安全保障、ヘルスケア及び経済が交錯する日米中間の複雑な地政学的観点からご講演いただきました。

<講演のポイント>

  • 米中両国は、経済的相互依存と軍事的警戒の「疑似冷戦状態」にあり、協力関係が停滞しているが表立った紛争は望んでいない。しかし、気球撃墜事件、米下院議長の台湾訪問や貿易制限により、2023年以降の関係は悪化傾向にあり、来るべき米中首脳会談では台湾問題等踏み込んだ話題が扱われるであろう。
  • 中国への経済的依存度が高い日本は、関税や台湾問題の回避など、米国に比べて慎重に対応している。
  • 密接な対話や経済摩擦の極小化は強固な日米関係の特徴であり、さまざまな課題において協力関係を築いている。
  • 日本の制度では、イノベーションや新規参入を阻害する要因であり、製薬産業の再活性化にむけた改革が必要である。
  • 複雑な地政学的情勢から、米国政府による日本の製薬業界への介入は限定的である。また中国の製薬業界では、貿易制限、不公正競争、データの流れなどが課題である。


「悪くも安定した」米中関係

米中間には、経済的な相互依存がありながらも軍事的に警戒しあう、「疑似冷戦」の状況にある。両国とも表立った紛争は望まないものの、協力関係は停滞している。米国の戦略は中国の孤立化による成長の抑制を期待する一方で、中国は米国の政党の内紛などの影響が米国の衰退につながると予測している。日本の外交方針である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP: Free and Open Indo-Pacific)」は、ルールに基づいた国際秩序を確立し、中国に同意させるねらいがある。このようなアプローチはアップルやテスラが中国の製造業に依存している緊密な貿易関係、南シナ海における米中の軍事演習、米国の関税や技術輸出規制とそれに対抗する中国の報復関税や反米プロパガンダなどにも見て取れる。

 

米中関係改善の機会

2023年前半は、気球撃墜事件やNancy Pelosi米下院議長の台湾訪問により、米中関係が悪化した。この関係修復には2023年11月に予定されている米中首脳会談の場が期待されている。米国における気球撃墜事件は、中国が米国の防衛関係企業に対して制裁を科したことでさらに関係は悪化した。アジア太平洋経済協力(APEC: Asia Pacific Economic Cooperation)首脳会談では、経済問題、気候変動、台湾問題が焦点となるが、特に中国に領有権を主張されながらも自治権を持つ台湾が、潜在的に軍事統一の脅威に直面している問題に重点を置くと考える。

 

米日関係における対中姿勢の乖離

米国に比べ、日本は中国への経済依存度が高いため、より慎重な姿勢を崩さない。これは、貿易の20%を中国に依存し、米国の対中関税賦課に同調しない姿勢からも明確である。日本の対中国政策の一貫性は、米国の政権交代に伴う政策転換と対照的であり、また、日本と中国は台湾と地理的に近接していることから、台湾問題から派生する対立には特段配慮をしている。このほか、米国が台湾付近に空母を派遣したものの、日本は静観している点も、対照的といえる。

 

外圧の中での米日関係の強化

卓越したコミュニケーションと最小限の経済摩擦が、日米関係の特徴である。定期的な首脳会談や閣僚級会談は、コミュニケーションをより強固なものとし、二国間の貿易協定は多品目における関税を引き下げ、経済摩擦を最小限にとどめている。こうした強力な関係は、中国、ロシア、中東を含む様々な課題解決に協力し合い、また中国のインド太平洋地域における影響力にも共同して対処することを例証している。

 

 

アジア・グループ(TAG: The Asia Group)の日本の製薬政策に関する白書

アジア・グループの日本の製薬政策に関する白書は、重要課題を挙げつつ、製薬産業の再活性化のための方策を提言している。また、日本の医療提供側の医療効率化および個人の予防に対するインセンティブが小さいと言われる出来高払い(Fee for Service)の支払い方式や社会保障制度は、薬価の抑制に重点を置く一方で、イノベーションや投資の抑制につながっている。これは「加算係数ゼロ」ルール及び新薬創出加算も然り、新規参入や外資の進出にとっても一層障壁となり、新薬へのアクセスに支障をきたしている。本白書は、日本政府に対し、イノベーションや新規参入を促進し患者の利益に寄与するよう、「直ぐに実を結ぶ取り組み(Low-Hanging Fruit)」として政策の撤廃を求めている。

日中両国間の地政学的情勢は複雑であり、米国政府の介入余地は限られるものの、本白書では米国の製薬業界ないしアカデミアによる支援も提言している。しかし、貿易制限、不公正な競争、データの流れといった問題により、中国の製薬業界においても困難が増すと考えられる。いずれにせよ、本白書は、より広範な地政学的状況と製薬産業への影響を鑑み、日本の製薬業界をより活力ある革新的なものとするため、焦点を絞った政策改革を求めるものである。

(写真:井澤 一憲)


■プロフィール

Kurt Tong(アジア・グループ マネージング・パートナー)
Kurt Tong氏は、アジア・グループのマネージング・パートナー兼エグゼクティブ・コミッティのメンバーであり、日本、中国、香港、東アジア地域の政策に焦点を当てたコンサルティング・チームを率いている。また、同社の革新的なソート・リーダーシップ・プログラムも主導している。東アジアにおける外交・経済問題の第一人者である Tong氏は、外務官僚及び上級外交官として国務省で 30 年の経験を積んでいる。

2024年02月02日

日本医療政策機構の医療DXプロジェクトでは、「個人データの社会的な利活用が進むことで、個人および国民全体にメリットがもたらされる医療DX」を目指しています。医療DXでは、社会のデジタル化が基盤にあり、あらゆる情報が電子データ化されクラウドを介して共有できることが最大の強みです。このような強みを保健医療分野で活かすためには、まず市民・患者の健康医療データを収集するための環境整備が最優先となってきます。しかし、共有を前提としたデータの蓄積を進めるには、安全性が担保されていることが前提であり、個人の生活体験において利便性の向上を実感するようなメリットがないことには協力を得ることは難しく、現在明示されているような公共的なメリットに加えて、個人が自身の健康医療行動において直接メリットを実感できるような取り組みの明示も重要であり、個人と公共の双方に利益をもたらす医療DXを目指すことが望まれます。この医療DXの導入を通じて、患者、当事者、市民の視点を重視し、より効率的かつアクセスしやすい医療サービスを実現することが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経験し、保健医療システムの持続可能性と強靭性を考慮した今後の改革の中で極めて重要です。

そのためには、第一に、健康課題への主体的自己決定の促進を目指し、個人の健康医療データへのアクセスを向上させます。これにより、市民・患者は自身の健康状態に対して、より意識的で自律的な選択が可能になります。第二に、市民・患者が実際のメリットを享受し、サービスに満足する保健医療システムの構築を目指します。これは、サービスの質の向上、待ち時間の短縮、治療オプションの多様性などを含みます。第三に、医療データの利用によるイノベーションを促進し、不当な差別や個人の不利益となる利用に対して適切に対応することを目指します。

政府は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、医療DXの実施主体の確定などを通じて、医療DXを推進しています。これにより、国民の健康増進、より質の高い医療の提供、医療機関の業務効率化、システム人材の有効活用、医療情報の二次利用などが実現します。医療DXの目標達成により、市民・患者の健康医療体験に大きな変化が期待されます。例えば、オンライン診療の普及、医療アクセスの向上、診療情報の透明性向上、個別化された治療プランの提供、公衆衛生上のリスク管理の強化などが挙げられます。

このフォーラムでは、政府による医療DX推進本部の取り組みについてその基本的な考えと具体的な取り組みや今後の予定について広く理解を深めるとともに、当機構の取り組みなどを通じて得られた患者・当事者・市民が有する医療DXに対する期待や不安について、その具体的な課題を明らかにし次の打ち手についてマルチステークホルダーで議論します。

【開催概要】

  • 日時:2024年2月22日(木)16:00-18:00(開場:15:30)
  • 形式:対面(オンライン配信なし)
  • 会場:東京都千代田区大手町1-9-2大手町フィナンシャルシティ グランキューブ3階 Global Business Hub Tokyo Field
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 主催:日本医療政策機構
  • 協賛:政策研究大学院大学 グローバルヘルス・イノベーション政策プログラム
  • 定員:100名程度(応募多数の場合、抽選)

 

受付は終了いたしました

*結果は、2月19日(月)18:00までにお申し込みいただいたメールアドレスでご案内いたします。
**登録完了後、ご登録いただいたメールアドレスに確認メールが自動送信されます。届かない場合は、大変恐れ入りますが、info@hgpi.org までメールをお送りください。

 

【プログラム】(敬称略)

16:00-16:10 開会挨拶/趣旨説明

乗竹 亮治(日本医療政策機構 事務局長/CEO)

16:10-16:20 メッセージ1「政府による医療DXの現状と将来展望」

武見 敬三(厚生労働大臣)

16:20-16:30 メッセージ2「日本におけるDX化と医療DXの位置づけ」

河野 太郎(デジタル大臣/規制改革担当大臣)

16:35-17:55 パネルディスカッション「市民の求める医療DXの実現に向けて」

パネリスト:
市川 衛(一般社団法人 メディカルジャーナリズム勉強会 代表理事)
加藤 浩晃(デジタルハリウッド大学大学院 特任教授/東京医科歯科大学 臨床教授)
木戸口 結子(アストラゼネカ株式会社 コーポレートアフェアーズ 本部長)
園生 智弘(TXP Medical株式会社 代表取締役)

モデレーター(デュアル):
藤田 卓仙(日本医療政策機構 リサーチフェロー/神奈川県立保健福祉大学 ヘルスイノベーション研究科 特任准教授/慶應義塾大学 医学部医療政策・管理学教室 特任准教授)
津川 友介(日本医療政策機構 理事/カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部(内科)・公衆衛生大学院(医療政策学)准教授)

17:55-18:00 閉会挨拶

黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)

2023年11月07日

日本医療政策機構は、個人賛助会員ならびに多方面から医療政策に関心を持たれている方向けに、第1回朝食勉強会を開催しました。

 

初回は、「医療情報、どうやって伝え、どうやって選ぶのか?」と題し、フリーランス医療記者の岩永直子氏にご登壇いただきました。

講演では、医療記者を目指されたきっかけや、これまでのご経歴の中で培われたウェブメディアに対するお考え、正確な情報の価値とその見極めについてなど、幅広いご知見から多くの示唆をいただきました。

また、Q&Aセッションでは事前に寄せられた質問に加え、活発な意見交換が行われました。

 

■個人賛助会員を募集中(年会費:1口10,000円)
当機構は設立より、国内外の財団や企業、個人の皆様からの寄附や助成などに支えられて活動を行ってまいりました。非営利・独立の立場から活動を継続していくためには、財政の自立性と継続性が不可欠です。
皆様の温かいご支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。

ご寄附のお申し込みはこちらから


■講師プロフィール
岩永 直子 氏
東京大学文学部卒業後、1998年4月読売新聞社入社。社会部、医療部記者を経て2015年にyomiDr.(ヨミドクター)編集長となる。2017年5月、BuzzFeed Japan入社、BuzzFeed JapanMedicalを創設し、さまざまな観点から医療記事を執筆。2023年7月よりフリーランス記者として、株式会社OutNowが提供するニュースレターメディアプラットフォーム「theLetter」で『医療記者、岩永直子のニュースレター』などで医療記事を配信している。2022年8月より本業のかたわら、都内のイタリアンレストランで接客のアルバイト中。著書に『言葉はいのちを救えるか?生と死、ケアの現場から』(晶文社)、『今日もレストランの灯りに』(イースト・プレス)がある。

 

2023年11月02日

日本医療政策機構(HGPI)医療情報の信頼プロジェクトでは、第1回グローバル賢人会議「情報共創時代の健康・医療情報のあり方」を開催いたしました。

デジタル化が進行し健康・医療情報が交錯する現代において、ヘルスセクターに関わる人々はもちろんのこと、患者・当事者リーダー、歴史学、哲学、人類学、宗教学などの有識者をご招待し、「正確で信頼のおける健康・医療情報とは何か」について、分野横断的で歴史的視座や文化的視座に富んだ議論を行いました。“健康・医療情報“というテーマを中心に、現代および近未来において求められる健康・医療情報のあり方、そしてそれを捉える人々のあり方についても広く共有されました。

※詳細はPDFをご覧ください

 

【開催概要】

  • 日 時:2023年7月21日(金)14:00-17:30
  • 会 場:グーグル合同会社オフィス内イベント会場(東京都渋谷区)
  • 言 語:日本語・英語(同時通訳あり)
  • 主 催:日本医療政策機構(HGPI)
  • 協 賛:YouTube
        モデルナ・ジャパン株式会社

 

【プログラム】(敬称略・五十音順)

14:00-14:10 趣旨説明
 滋野 界(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)
14:10-14:30 基調講演「情報共創時代の健康・医療情報のあり方」
 中山 健夫(京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康管理学講座健康情報学 教授)
14:30-14:50 基調講演「健康の決定要因としての“情報”」
 ガース グラハム(YouTubeヘルスケア&パブリックヘルス ディレクター兼グローバルヘッド)
14:55-15:35 パネルディスカッション1:正確な健康・医療情報とは何か
パネリスト:
 大曲 貴夫(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 理事長特任補佐/国際感染症センター長・同科長/感染症内科医長 併任)
 桜井 なおみ(キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長)
 鈴木 蘭美(モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長)
モデレーター:
 吉村 英里(日本医療政策機構 シニアマネージャー)
15:35-16:20 パネルディスカッション2:情報の信頼性・妥当性をどう考えるか
パネリスト:
 戸田 聡一郎(東北大学大学院 文学研究科 専門研究員)
 松本 紹圭(産業僧/株式会社Interbeing 代表取締役/世界経済フォーラム Young Global Leader)
モデレーター:
 乗竹 亮治(日本医療政策機構 理事・事務局長/CEO)
16:20-17:30 ネットワーキングレセプション

2023年08月24日

この度、田畑裕明氏(衆議院議員/自由民主党 厚生労働部会 部会長)をお招きし、第50回特別朝食会を開催いたしました。2022年8月より自由民主党厚生労働部会長を担われている田畑氏に、骨太の方針2023年を踏まえたこれからの日本の保健医療のあり方についてご講演いただきました。

<講演のポイント>

  • 労働市場改革の完遂には、「三位一体の労働市場改革」が必要不可欠であるが、全産業・全事業所においてすべてを一度に導入するにはハードルが高く、組織に合わせて段階的に組み合わせながら導入する必要がある
  • 持続可能な社会保障制度の構築には、2024年度に予定されている介護・医療・障害福祉報酬トリプル改定やそれに伴う法改正、財源確保に向けた予算編成が非常に重要である
  • 創薬力強化において、薬価改定が広範かつ頻繁であることが製薬企業等の財務基盤の脆弱性に繋がっているため、特許期間を含めた適切な評価が重要である。またジェネリック医薬品においても安定供給に向けた産業構造転換が求められる


■「骨太の方針」の概要

「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(骨太の方針)」が「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行政策」、「規制改革実施計画」とともに2023年6月16日に閣議決定された。骨太の方針は、来年度の政府全体の予算編成方針を定める重要な政策の取りまとめであり、これらをもとに8月末に向けて概算要求までの議論を深めていく。

骨太の方針2023は、岸田政権が3年目に入り議論が煮詰まってきたことにより、昨年より9ページ増の全45ページ、次の5章から構成されている。

  1. マクロ経済運営の基本的考え方
  2. 新しい資本主義の加速
  3. 我が国を取り巻く環境変化への対応
  4. 中長期の経済財政運営
  5. 当面の経済財政運営と令和6年度予算編成に向けた考え方

今回の講演では特に保健医療のあり方という視点から第2章と第4章についてまとめる。


■第2章 新しい資本主義の加速 ~三位一体の労働市場改革~

雇用労働政策に関心を持って活動しているが、この30年、日本人の平均賃金は横ばいで欧米諸国と比較しても賃金の伸びが鈍化していることに大きな危機感がある。平成初期とは異なり、現在はゼロ金利政策や保険料、社会保障費などの増大による国民への負担が大きく、可処分所得が減っている現状から、労働市場改革をやり遂げる必要がある。そのためには「三位一体の労働市場改革」実現が必須であるが、全産業、全規模の事業者に対して三位一体の自由な労働市場を作り、ジョブ型人事を導入することは現実的に困難であり、段階的に適応する分野から導入することが重要である。今後はこれに伴う法制度の作成や、制度の拡充化を図っていく。その中で、以下の3つが特に、今後の改革のためには重要な動きである。

  1. リ・スキリングによる能力向上支援
    日本では大学を卒業することで全ての学びが終了したと考えるが、知識を身につけ、学びを実践する喜びを感じるなど、学び続けることで自身をアップデートする価値観を広めていく必要がある。
  2. 個々の企業の実態に応じた職務給の導入
    年齢ではなく能力で評価され、客観的に報酬に反映する仕組みが中堅企業まで浸透することが重要である。
  3. 成長分野への労働移動の円滑化
    多様な背景を持つ中途採用人材が多く集まる中小企業で成長が達成されている。


■第4章 中長期の経済財政運営 ~持続可能な社会保障制度の構築~

医療や介護における総論的な問題

今国会では、日本版CDC法案と呼ばれる国立健康危機管理研究機構法案が採択され、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し「国立健康危機管理研究機構」を設立することが決まった。今後は実現に向けた予算的な措置や体制の整備が必要である。

また、コロナ禍で停滞していた地域医療構想の進展や、子どもの支援の需要、分娩可能な医療機関の閉鎖問題を抱える周産期医療などの問題解決が求められる。救急医療体制において、2022年中の救急自動車による救急出動件数は722万9,838件(対前年比103万6,257件増、16.7%増)、搬送人員は621万6,909人(対前年比72万5,165人増、13.2%増)と救急出動件数、搬送人員ともに対前年比で大幅に増加し、集計開始以来、最多となり負担が増大している。消防庁でも救急安心センター事業(♯7119)の利用を促進する対策を講じている。

医療DXではマイナンバーカード、オンライン資格確認において個人情報の紐づけ誤りが発生し、国民のマイナンバーカードへの信頼が揺らいでいることは、憂慮すべきで遺憾である。ヒューマンエラーを発生させない前提で構築されたが、結果として発生しており、解消に向けた対応が必要である。2024年秋には紙の国民健康保険証が廃止されることが明確に記載されているが、国民には様々な背景や事情があり、段階的な移行が現実的である。また、健康寿命延伸のため、健康づくり・予防・重症化予防を強化し、デジタルヘルスは医療DXと関連付け、第3期データヘルス計画を見据えてエビデンスデータを活用した解析・分析に力を入れていく必要がある。

歯科医療について、歯の健康が全身の健康につながるという認識が増したことから、口腔の健康の指摘・重要性が記載された。がん医療について今国会において議員立法によりガンゲノム医療の法案が成立した。この分野は期待が高く、がん治療の伸展をさらに誘発する。難聴対策、難病対策、移植医療対策、慢性腎臓病対策、アレルギー対策、メンタルヘルス対策、栄養対策等も多くの議員の指摘を受け、厚生労働部会長として多くの協議・議論を主導した。

創薬力の強化に関して

製薬企業や医薬品・医療に関わる企業の財政的圧迫の要因として、薬価改定が2年に1回の頻度で実施され、改定範囲の幅が広くなっていることが考えられる。特許期間中の価格維持に関しても大きな課題があり、「保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置」と記載されたことは1つの楔となっている。また、ドラックラグ・ドラッグロスの問題に対応すると明確に記載されたので、未承認薬の解消に向け、短期的課題・中長期的課題に分けて対応する。

「新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。」とあるが、すでに自民党の社会保障制度調査会において創薬力の強化育成に関するプロジェクトチームがあり、政府全体としてこの分野における国際展開のための司令塔機能を置くことを提言した。厚生労働省単独ではなく官邸も巻き込みながら、政府全体の司令塔機能を厚生労働省の外に置いて連携し、大きなムーブメントとして国際展開をしていくのが理想である。医療保険財政の中でイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し・検討を進める。薬剤の分野において選定療養を広めるのではなく、長期収載品においても様々な特性のある薬剤があると考えられることから、「自己負担の在り方の見直し、検討を進める」といった表記に留められた。

大麻由来医薬品の利用等に向けては次の臨時国会で関連法案の法改正が予定されている。OTC医薬品やセルフメディケーションの促進、バイオシミラーの使用促進等も記載されており、輸入促進や国内製造強化という意味合いが含まれている。プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化などはハードルが高いが、迅速化できるように取り組む必要がある。血液製剤に関して、人口減少に伴う中長期的な視点から、献血する若者の数が減少するという危機感を持ち、献血への理解促進とともに、国内自給、安定的な確保及び適正な使用の促進などの対応が必要である。

医療介護分野における費用や職業紹介

第4章に「次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定(トリプル改定)においては、物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う。」とある。2024年度の同時改定には介護報酬の改定があり、一部、法改正が含まれると見込まれる。後期高齢者の増加、認知症高齢者の対応など、地域における介護保険会計の健全化が問題である。現在の介護報酬体系は介護度の改善に対する報酬が無いため、介護度が高い状態を保つ、もしくはより介護度が高い人を受け入れる事業者が多いと考えられ、介護度の改善に対するインセンティブに肉付けが必要である。また4~5年間にわたる様々な協議を経て、認知症基本法(共生社会の実現を推進するための認知症基本法)が議員立法として成立した。基本法に基づいた介護支援体制を構築していくことで、多くの人がより安心して介護を受けられ介護難民を出さない環境づくりなどにも対応を進める。

コメディカルや介護職員の人手不足が問題になっているが、民間の有料職業紹介事業者における法外な紹介料取得や、クーリングオフ期間後の契約解除に伴う高い罰則金請求なども問題である。ハローワークなどの公的な職業紹介機関がより機能し、健全な活動の見える化が必要である。これについては多くの議員からも声が上がっている。

財政運営の新たな舵取り

国の財政運営は、3年サイクルで1つの財政フレームの方向性が定められているため、現在は2021年の骨太方針の財政運営の考え方に準ずる。2021年において、社会保障関係費は高齢化による増加分に相当する伸びに収められるとされており、予算編成についても高齢化の伸び以上は他の予算を圧縮し、財源を確保することが財政的な指針となっていた。圧縮する財源としてより多く活用されていたのは薬剤費であり、多いときで1600億円近くを捻出している。その考え方を覆す必要があり、多くの賛同する議員と強く働きかけた。今回の骨太の方針の中では記載されなかったものの、自由に議論する平場の会議で財務官僚の次長と議論ができたことから、12月の予算編成で再度検討されるものと考えている。トリプル改定において公定価格を上乗せすることに関して、昨年の予算の編成方針とは異なる形になった。

社会保障費の増額に伴う財源の捻出には不必要な歳出を抑える必要がある。一方で医療や介護、創薬の現場の投資意欲、働くモチベーションを意識しながら、政治的なメッセージを発信し、あるべき議論を進めていく。

インフレと物価上昇への対策の必要性

最近はデフレから反転しインフレ傾向にあり、物価上昇基調に局面が変わっている。岸田政権は民間企業に賃金上昇を依頼し、経団連ベースでは大企業を中心に春闘で3%以上の賃上げが報告されている。一方で公定価格の対象事業所で働く方々が蚊帳の外になることから、政府として民間企業の賃金上昇を目指すのであれば、公定価格もそれに見合う価格に上げる必要がある。

被扶養者はいわゆる「年収の壁」があり、社会保険上は106万と130万が適用されている。この壁を超えることは厚生年金などにも影響するため冷静に議論する必要があり、政府は見直しに取り組むことを宣言している。

医療機関や製薬企業においては、エネルギー価格や電気代などの高止まりが顕著であり、経営を圧迫している。本来は利益を賃金に還元することが市場メカニズムとして当然であるべきだが、目減りしている中に得た収益を企業の維持管理に回さざるを得ない現状は由々しき問題である。

ジェネリック医薬品

多くの医療現場や調剤薬局において、ジェネリック医薬品の安定供給に関する不安の声が上がっている。厚生労働省においても有識者検討会が提言を出しているが、次の構造的な問題がある。

  • 市場実勢価格が反映されない薬価制度
  • 過度な価格競争
  • 薬局・医療機関との交渉による価格下落
  • 共同開発、製造能力に余力のない企業の存在など

医療財政の観点から、広く安定的にジェネリック医薬品を供給し続ける産業構造への転換が大変重要で、次の対策が求められる。

  • 共同開発の仕組みの是正
  • 更なる製造能力向上のため製造能力に応じた評価の検討
  • 医療上の必要性が高い医薬品から段階的に薬価制度への反映
  • 医薬品全体におけるサプライチェーンの強靭化

抗菌薬も重要物資に指定されたため、経済安全保障の視点においても医薬品に積極的に取り組むべきである。


講演後の会場との質疑応答では、国の財源のあり方や、予防医療における受診継続率の課題などについて、活発な意見交換が行われました。

 

(写真:井澤 一憲)


プロフィール

田畑 裕明(衆議院議員/自由民主党 厚生労働部会長)
1973年富山県生まれ。富山市議会議員、富山県議員を経て2012年衆議院議員初当選。以来4期連続当選。衆議院厚生労働委員会理事、総務副大臣、厚生労働大臣政務官を歴任。2022年8月より自由民主党厚生労働部会長に就任。医療、医薬品分野の政策づくりも精力的に取り組む。「ひきこもり支援推進議員連盟」「認知症グループホームを考える議員連盟」「地域で安心して分娩できる医療施設の存続を目指す議員連盟」ではそれぞれ事務局長を務めている。


2021年02月15日

コンテンツ

自己紹介及び現在のご活動

政策提言『メンタルヘルス2020』を受けて

精神疾患を持つ人の災害対策も今後の重要な視点

 

萩原 なつ子 氏(日本NPOセンター代表理事/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科 教授/HGPIメンタルヘルス政策プロジェクト アドバイザリーボードメンバー)
「障害を持つ人を社会全体で支えるための市民主体の政策を」

  • 自己紹介及び現在のご活動

「市民研究コンクール」が原点
日本医療政策機構(HGPI)は、「市民主体の医療政策の実現」を目指していらっしゃいますね。私は、トヨタ財団の市民研究コンクール(1979-1997年、以下コンクール)「身近な環境を見つめよう」のプログラムオフィサーを務めていました(1989-1997)。これは、市民による身近な環境に関する研究に対し助成金を出すというおそらく日本で初めての助成プログラムです。

なぜ「市民」なのかというと、当時、トヨタ財団のプログラムオフィサーを務めていた山岡義典氏(現・日本NPOセンター顧問)が、「市民が自分たちの目で見て歩き、調査・研究を行い、エビデンスに基づいて地域の課題解決のための政策を提案する」というコンセプトを考え、実施されました。当時では、画期的な取り組みだったといえます。地域に住み続けている市民が責任感を持って地域を調査・研究する訳ですから、その問題に関してはある意味「専門家」といえます。それから、研究者の研究は、ともすれば、自身の研究業績のためのものになりかねないという傾向があります。ですが、そこに居住する住民、関わりの強い人々が中心となる研究は当事者性が強く、無責任なことはできません。たとえば阪神淡路大震災では、外部からやってきた研究者や専門家、ジャーナリストも含まれると思いますが、機械的にインタビューするなどして、被災者の心を傷つけてしまう、私の言葉で言えば「通りすがりの研究者」等の問題が指摘されました。その教訓を生かし、東日本大震災では、そのような行為を慎むよう通達が出されたと記憶しています。(HGPI補足:日本学術会議2013年3月28日提言「東日本大震災に係る学術調査―課題と今後について―」 )そもそも地域の課題の発見や解決の主体に、「専門家」「素人」という分類自体、意味のないことであることを私はプログラムを通して学びました。

もうひとつコンクールの活動を通して、私は大事なことを学ぶことができました。ある団体の代表を務める重度障害者の方とお話した際に、彼は「ベビーカーや車いすの方のことを考えると、町中をバリアフリーにすればいいと思うかもしれないけれども、それは違う。視覚障害の方にとっては、段差がない道ほど怖いものはない」というのです。なるほど、と思いましたね。その方は「同じ障害者でも、自分たちのことだけを考えていては駄目なのだ」と強調されていました。

では、何センチメートルの段差がいいのか、どんな点字ブロックが必要なのかは、当事者たちにしか分かりません。ですから、いろいろな当事者の方たちが参加し、対話しながら進めていくことが大事です。政策提言も同じだと思うのです。どのように市民が、当事者が関わっていけるのか、プロセスデザインが重要になります。

私の原点は、やはりこのコンクールですね。市民と地域社会を構成する多様なステークホルダーが対話し、調査・研究を通して繋がりながら問題を解決していく、普遍的なプロセスデザインを学べたと思います。

行政経験を生かし「としまF1会議」の座長を務める
その後、私は大学教員になったのですが、6年ほど経って当時の宮城県知事の浅野史郎氏の招聘で宮城県環境生活部の次長を務めました。2年間の期限付きでしたが、地方行政の経験から得たものも大きかったですね。例えば、市民からの政策提言は、行政の仕組みが分かっていなければ、タイミングを間違えてしまいます。消滅可能性都市と言われた豊島区の再生に向けて立ち上げた「としまF1会議」(以下、F1会議)が約8,800億円の事業化を実現できたのは、秋までに予算を提出し、2月の議会に間に合わせるというタイミングを逃さなかったことが、成功要因の1つといえます。

政策づくりは、多くの人々に開かれた中で進めることが大事です。精神障害を持つ人も、それぞれの視点を持っているはずですから、いかに多様な人たちの声を集められるかが肝だと思うのです。現状を可視化させていく仕掛け、仕組みを誰かがつくらなければなりません。あとは、どのタイミングで、どういうやり方で、どのような形で市民に関わってもらうかが重要です。「参加」したら、次は「参画」(企画)する側になってもらうことで、点から線へ、そして面へと広がっていきます。そして声を聞いて終わりではなく、少しずつであっても形にして、実現していくことが大切です。

F1会議では、ワールド・カフェ方式(※)で吸い上げた多くの意見をまとめ、行政と一緒に同じテーブルで議論しながら優先順位をつけ、提言しています。こうした方法は、現在「としま型」として政策形成に活用されています。豊島区は、誰にとっても暮らしやすい町へと変わってきました。

※ワールド・カフェ方式:一般的な会議とは異なり、リラックスした雰囲気を作り、特定のテーマに集中して会話をするための方法。互いの意見を否定することなく、相手の意見を尊重しながら新たな発見を得ることを目的に行う。4~5名の少人数で行い、定期的にメンバーの組み合わせを変えながら、会話を続ける。

孫がメープルシロップ尿症になったことで「当事者」を意識
私の孫は、2013年6月にメープルシロップ尿症という先天性代謝異常を抱えて生まれました。日本では64万人にひとりという難病で、必須アミノ酸を分解できないので母乳を含め、タンパク質を摂取することができません。生まれた当時はまだ難病指定されていなかったのですが、患者会で署名活動などに取り組んだ結果、2015年7月の法改正により、メープルシロップ尿症が指定難病の対象なったのです。(メープルシロップ尿症とは | MSUD-JAPAN

私の娘は、患者会に参加して、同じメープルシロップ尿症の患者さんの元気な姿を見た時に、希望を持ったそうです。お互いに協力し合いながら生きている存在を見ることは、すごく大事だと思いましたね。

病気を受け入れるのは大変なことですが、私たちはオープンにして、知り合いの専門家などに積極的にアドバイスを求めていきました。周囲から前向きな励ましをもらえたことが、とてもよかったと思います。

ありのままを受け入れ、人と繋がることが大事
HGPI:どのような疾患でも、診断を受けて悩み苦しみ、心を閉じて外との関係性をつくれなければ、周囲の助けを得ることもできません。そこを乗り越えてオープンにすることで、いろいろな人と繋がり、協力を得られるようになる訳ですね。

萩原:病気を壁だと思うと乗り越えなければなりませんが、「ありのままの自分を受け入れられるかどうか」だと思うのです。おそらく幼少期からの教育も重要になりますね。人と繋がるには、「私を理解しようとしてくれている」「私の言っていることを受け入れてくれる」と感じることが大事だそうです。ですから、そう思える関係性をつくっていくことも必要でしょう。その媒介となる役割を果たす存在、それがNPOなのかもしれません。

  • 政策提言『メンタルヘルス2020』を受けて

明るく繋がっていく
娘はメープルシロップ尿症という病名にちなんで、メープルシロップを扱う企業や団体へ積極的に協力を呼び掛けてきました。ほとんどノリでしたね。「お手紙をいただいたので」と連絡をくださった輸入企業の社長さんとの交流は、今でも続いています。このようにメンタルヘルスの取り組みも、できる限り明るく進めていってほしいと思います。あまり深刻だと、かかわる方もつらくなってしまいますよね。

「求援力」と「受援力」
日本人は、幼い頃から「誰にも迷惑をかけないように」と教育されているため、「求援力」つまり「助けてと言える力」「助けを求める力」が弱いのです。「いいえ、大丈夫です」ではなく、自分が何に困っていて、どういうことをして欲しいのかを相手に伝えることが重要です。また「受援力」(支援を受ける力)も大事ですね。防災分野でも多様な支援活動を受け入れる地域や個人の「受援力」の重要性が注目されています.「伝える」と言うことに関しては、「伝えるこつ」が大事です。日本NPOセンターは、電通と協働でNPOが活動を広げていくためのコミュニケーション力向上を支援するプログラム「伝えるコツ」のセミナーを16年ほど前から続けています。参考にしていただけると嬉しいです。(伝えるコツ | 日本NPOセンター

  • 精神疾患を持つ人の災害対策も今後の重要な視点

ケアラーに対する支援
東日本大震災では、「隠された障害者」の問題が指摘されました。障害を持つ家族の存在を周囲に隠して暮らしてきたため、避難所にも行けなかったとか、自主防災組織が障害者の存在を確認することができなかったという問題がありました。難病者を要支援者に入れている自治体も少ないと聞いています。

災害が起これば、精神疾患を持つ人は、更なる困難を抱えることになります。病状が悪化する中で、平時に支えてくれていた地元のNPOなども被災して弱体化することが想定されますので、障害者とケアをする家族等ケアラーへの支援も含めて一緒に考えていかなければなりません。平時の時から、当事者支援とともに、「ケアする人を支援する」ケアラー支援も含めた政策提言が必要だと思います。

障害を持つ人たちを可視化できる環境づくり
身体的なハンディを持っている障害者の方々と違って、精神障害者、内部障害者、近年増加傾向にある発達障害者の方々は、当事者あるいは関係者が声を上げなければ他者には分かりづらいものです。

とくに発達障害については、「発達障害」とひとくくりにできない複雑な問題を抱えていますので、当事者や関係者からの発信が重要だと思います。たとえばCOVID-19の影響で大学もオンライン授業が当たり前になっていますが、自閉症スペクトラム障害(ASD: Autism Spectrum Disorder)や注意欠如・多動性障害(ADHD: Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)といった発達障害の特性によってオンライン授業に「向き不向き」があるということが、私の勤務する立教大学のアンケート調査によって分かってきました。

大学における発達障害の学生に対する就労支援についても、私のゼミ生が修士論文執筆のために調査を実施しましたが、特性によってきめの細かい、寄り添い型の支援が求められていることがわかっています。近年、障害のあるなしにかかわらず、仕事に対する価値観や働き方が大きく変わろうとしています。例えば、職務ではなく組織への帰属を求め「メンバーシップ型雇用」から、それぞれの専門性や特性を活かした「ジョブ型雇用」への移行は日本でも進みつつあります。ある意味では障害者にとっては就労の機会が広がる可能性があるといえます。ですので、障害を抱える方々のそれぞれの特性や得意分野を生かせる「ジョブ型」の就労支援も広がっていくことでしょう。 

当事者だから分かる「戦略的おせっかい」
障害を持つ人たちを可視化できる環境をつくっていくためには、お互いの存在を認め、何らかの役割を担えるような場、仕組み、仕掛けが必要です。ダイバーシティが進む社会において、その要請はますます高まっていくことでしょう。「お互いさま」の社会を創るにはちょっとしたお節介が必要だと思います。余計なお節介になってもこまりますので、節度ある介入をめざす、「戦略的お節介」が大事だと思っています。どの程度のお節介がいいのかなかなか難しいですが、私自身が孫の病気を通して当事者の立場になったことで、学びつつあります。

自分自身が、いつでも同じ立場になり得ることを自覚したリスクマネジメントも大切ですね。ウルリッヒ・ベックが「個人化」と言っているように、現代は企業や家族などの形が変わり、あらゆるリスクを個人が背負わなければならない状況におかれつつあります。「助けて」と言えない状況に陥っているのです。ですから、いざという時に「助けて」と言えたり、助けたりできる「ゆるやかな繋がり」をつくっておくことが重要です。ゆるやかなつながりを創る方法として、よく例として取り上げられるのがパリのアパルトマンから生まれたと言われている「隣人まつり」です。料理や飲み物を持ち寄っておしゃべりするというとってもシンプルな「お祭り」です。近所の人たちと気軽に出会える場を日常的に創ることによって、住民を、交流を通してつなぐ仕組みです。それが結果として、地域のセーフティネットの整備につながっているのでしょう。

制度の対象から外れた人への支援
制度ができると、必ずマージナル(marginal: 境界)が発生します。ですから制度をつくる時には、対象から外れてしまう人が必ず出てくることを忘れてはなりません。それを前提として、今より良いものをつくっていくしかない訳です。たとえば、難病指定に入る疾患もあれば、外れてしまう疾患もある。その外れてしまった人たちへの支援を考える必要があります。

メープルシロップ尿症の患者は一生涯を通じて、必須アミノ酸を除去した、特殊なミルクを飲む必要があります。企業の社会貢献として製造してくださっていますが、患者数が少なく製造コストがかさむため、1缶何万円もします。小児慢性特定疾患として18歳未満までの経済的補助がありましたが、難病に指定されたことで、ようやく18歳以降も経済的補助の対象となりました。難病指定されていない希少疾患の人たちをどのように応援していくかが、今後の課題だと思っています。

法律をつくることの重要性
「男女雇用機会均等法」が成立するためには10年以上の年月が必要でした。私は法律制定以前に就職活動をした世代です。四年制大学を卒業予定の女子学生にはほとんど就職試験を受ける機会すらありませんでした。ですから、法律ができた時は嬉しかったです。確かに罰則規定等がなかったので「ザル法」とも言われていました。しかし、作れるときに作っておかなければ前へ進まないのです。法律があれば、状況に応じて、改正していくことができます。実態にあった法律にするために改正を重ね、理想的な法律にしていくための政策提言が重要になってくる訳ですね。やはり法律をつくることの意味は大きいと思います。

 

インタビュー日付:12月4日 萩原氏研究室にて開催


メンタルヘルス政策プロジェクト インタビュー連載企画「当事者からみたメンタルヘルス政策」

日本医療政策機構では2004年の創設以来「市民主体の医療政策の実現」を掲げ、エビデンスに基づく市民主体の医療政策を実現すべく、中立的なシンクタンクとして、市民や当事者を含む幅広い国内外のマルチステークホルダーによる議論を喚起し、提言や発信をグローバルに進めていくことを目指し活動をしてまいりました。

2019年に開始したメンタルヘルス政策プロジェクトにおいても、当事者の皆様からのお知恵を頂きながら活動に取り組み、2020年7月には政策提言「メンタルヘルス2020 明日への提言~メンタルヘルス政策を考える5つの視点~」を公表しました。今後は、他のプロジェクトとも連携しながら、他疾患領域の当事者組織からの学びや海外の精神疾患の当事者組織との意見交換・相互交流などにより、当事者が今後のメンタルヘルス政策を主体的に考え、発信する場の創造を目指してまいります。

そうしたビジョンの一環として、今回当事者のインタビューを連載する企画をスタートさせます。前述の政策提言に対し当事者の視点からストレートなご意見を頂き、それらを日英で発信することで、日本の当事者が置かれている現状や彼らのQOLをさらに向上させるメンタルヘルス政策の実現に寄与したいと考えています。

■ 第1回:宇田川 健 氏 (認定NPO法人地域精神保健福祉機構 代表理事)
「縦断的研究の充実によりリカバリーの生理学的解明を」

■ 第2回:小幡 恭弘 氏(公益社団法人 全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)事務局長)
「医療体制と地域社会の融和に向けて メンタルヘルスを国の政策の中心に」

■ 第3回:堀合 研二郎 氏(YPS横浜ピアスタッフ協会)
「精神障害を持つ本人として 同じ境遇の人の助けになりたい」

■ 第4回:小林 圭吾 氏
「当事者が安心して生活するために ロールモデルの蓄積・共有、セーフティネットの整備を」

2018年10月05日

このたび、特定非営利活動法人日本医療政策機構(東京都千代田区、代表理事:黒川 清)は、今後のさらなる活動の強化のため、2018年10月2日に開催された理事会において、津川 友介氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA: University of California, Los Angeles)助教授)、堀田 聰子氏(慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 教授・研究科委員)、乗竹 亮治(当機構 事務局長)を理事に任命することと決定いたしました。なお乗竹 亮治は、引き続き当機構事務局長としてその任にあたります。

今回の人事異動について、当機構代表理事の黒川は次のようにコメントしています。
「勢いのある若手が活躍し、さらに世界に羽ばたいていく場として、これからもHGPIは活動の幅を広げていきたい。皆さまからの引き続きのご支援をお願いしたい。」

新体制のもと、今後もさらに活動をさらに強化して参ります。引き続き当機構をご支援頂けますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

■役員一覧(2018年10月3日)

  • 代表理事 黒川 清
  • 副代表理事 吉田 裕明
  • 理事 小野崎 耕平
  • 理事 津川 友介
  • 理事 永井 良三
  • 理事 乗竹 亮治
  • 理事 堀田 聰子
  • 理事 武藤 真祐
  • 監事 大 毅
  • 監事 前川 健嗣

※下線は新任
※事務局長である乗竹以外の役員は非常勤・無報酬

2018年09月03日

*****最終報告書を作成し、発表しました。(2018年9月3日)
詳しくは、本ページの末尾のPDFファイルをご覧ください。

2018年5月29日(火)、日本医療政策機構は、「市民社会のためのNCDグローバルフォーラム 糖尿病セッション『患者リーダーなどによるワークショップの部』『フォーラムの部』」を開催いたしました。

心疾患、がん、糖尿病、慢性肺疾患などに代表されるNCDs(Non-Communicable Diseases:非感染性疾患)は、世界で主要な健康課題となっており、WHOの統計によると、2015年には、世界で3950万人がNCDsに起因し死亡し、その数は全死因の約70%にのぼっています。また、それらの死亡の4分の3は、低所得および中所得国で発生しており、喫緊のグローバルヘルス課題でもあります。


日本を含む先進国においても;

  • NCDsの増加による疾病構造の変化に、保健医療システムが対応しきれていない(例:NCDsの増加は、患者さんや当事者の自主的な疾病管理の必要性や、日常生活のなかで疾病と向き合う機会の増大を生み、より一層、患者さんや当事者の声が届く制度設計の仕組みづくりが必要)
  • NCDsでも、画期的な新薬や医療機器が創出されつつあるが、医療費の抑制も同時に求められており、イノベーションと医療システムの両立や維持が必要
  • NCDs分野でのイノベーションの状況、医療システム全般への理解などについて、価値を共有・発信できる市民社会リーダーが、より一層必要
  • NCDsが、低中所得国で多く発生しているグローバルヘルス課題であるという認識の周知が必要(例:先進国での課題解決や教訓の事例の共有、先進国による低中所得国支援への具体的な支援が求められている)

といったニーズが散見されています。

このようななか、国際的にも、NCDs対策を促進するモメンタムは高まりを見せています。2009年に設立され、約2,000の市民団体や学術団体が参画し、約170か国に展開する協働プラットフォームであるNCD Allianceの呼びかけもあり、2018年9月には、国連総会においてNCDsをテーマとしたハイレベル会合が、2014年以来に開催されます(日本医療政策機構は、NCD Allianceの日本窓口として登録されており、このモメンタムを推進しています)。

NCDsを取り巻く課題や現状に対峙すべく、日本医療政策機構では、NCDsの各疾病領域において、患者さんや当事者目線から各疾病における政策課題を抽出し、求められる政策を提言することが重要だと考えています。そのため、国内外の患者さんや当事者を含めた産官学民がフラットに結集し議論を重ねるグローバルフォーラムを開催することとなりました。

今回の第1回では、関係団体の協力のもと、糖尿病をテーマとし、患者さんや当事者目線から政策課題を抽出するために、グローバルフォーラム開催前の午前には、患者・当事者リーダー向けのワークショップ・意見交換会を開催致しました。

 

■患者リーダーなどによるワークショップの部

共催:
特定非営利活動法人 日本医療政策機構(HGPI)
特定非営利活動法人 患者スピーカーバンク (KSB)
特定非営利活動法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会(J-CDSMA)
米国 Partnership to Fight Chronic Disease(PFCD、慢性疾患対策パートナーシップ)

参加者:
患者リーダー、次世代患者リーダー、海外患者リーダー、アカデミア、産業界など

ワークショップでは「患者の課題を起点にマルチステークホルダーで考える糖尿病政策の次なる打ち手」と題し、活発な議論が交わされました。

 

■フォーラムの部

開会の辞(ビデオメッセージ)

黒川 清(日本医療政策機構 代表理事)


患者リーダーによるワークショップ・意見交換会
レポート

武田 飛呂城(特定非営利活動法人 日本慢性疾患セルフマネジメント協会 (J-CDSMA) 事務局長)

 

基調講演1「厚生労働省の糖尿病対策について」

相原 允一(厚生労働省 健康局 健康課 課長補佐)

 

基調講演2「日本における糖尿病ケアと政策的課題」

植木 浩二郎(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長)

 

スペシャルセッション「糖尿病をはじめとする非感染症疾患に対する国際協力」

ケニス トープ(米国 Partnership to Fight Chronic Disease (PFCD) (慢性疾患対策パートナーシップ)代表理事)

 


パネルディスカッション
コミュニティにおける患者中心の糖尿病ケア・マネジメントの国際的潮流と展望」

パネリスト:
植木 浩二郎
オーレ ムルスコウ ベック(ノボノルディスクファーマ株式会社 代表取締役社長)
クリスティーナ パーソンズ ペレス(NCD Alliance能力開発ディレクター)
ケニス トープ
能勢 健介(任意患者団体 MYSTAR-JAPAN 共同代表)
山﨑 優介(広島市立安佐市民病院 看護師)

モデレーター:
乗竹 亮治(日本医療政策機構 事務局長)

 

(順不同・敬称略)
(写真:井澤 一憲)

 
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