2022年11月22日

日本医療政策機構認知症政策プロジェクトでは、2022年度の活動の1つとして、「特発性正常圧水頭症(iNPH)関連施策の課題と展望~治療で改善できる認知症へのフォーカス~」を実施しています。

日本における認知症の人の数はまもなく700万人を超えるとされる現代において、高齢期においてもよりよい生活を送るためには、認知症に伴う症状の緩和や原因疾患の治療が望まれています。認知症の原因疾患の多くは治療が難しいとされる中で、特発性正常圧水頭症(iNPH: idiopathic normal pressure hydrocephalus)は「治療で改善できる認知症」とされ、その患者数は認知症の人の約5%程度の約37万人に上るとされています。また近年では認知症の主要な原因疾患とされるアルツハイマー病との併発も指摘されており、推計よりもさらに多くのiNPH患者の存在が指摘されているのが現状です。

iNPHの適切な治療により得られる効果としては、寿命延伸のみならず、医療経済効果や転倒防止等、数多くのメリットが提起されつつあります。「治療可能な認知症に対する医療のあり方に関する調査研究事業」も厚生労働省老人保健健康増進等事業で実施される等、近年、政策的な重要性も徐々に高まっています。一方で、iNPHの治療によって認知症の症状を改善させ、1人でも多くの当事者が質の高い生活を送るためには、多くの課題も散見されます。第一に、的確な早期診断が重要ですが、他の認知症諸領域に比べて、iNPHに対する市民社会および医療・介護提供者の認知度は決して高いとは言えないのが現状です。第二に、iNPHの場合、症状が多岐に渡るため、様々な診療科での診断を経た後、シャント術を行う脳神経外科医との連携等、専門領域をまたがる協働が必要となります。さらには、このような治療提供体制の拡充に向けては、地域格差も散見されるため、今後は全国均てん化も期待されます。

そこでこうした課題を解決する方策の1つとしてテクノロジー活用が挙げられます。例えば、iNPHの3兆候「歩行障害・認知症・尿失禁」の1つである歩行障害は、iNPHの初期症状として表れやすく、かつ治療で最も改善が得られる症状と言われています。歩行の状態を撮影、分析するテクノロジーを用いることで、専門医以外であってもiNPHの初期症状である歩行障害に気付くことができ、早期診断・早期治療に繋げることが期待されます。

今回は名古屋市立大学大学院の山田茂樹氏をお招きし、iNPHを取り巻く現状や、産学連携を通じてAIによる自動画像認証技術や歩行障害の自動判定に関する臨床研究について、さらには今後の社会実装に向けた課題や展望についてお話しいただきます。

 

■登壇者:
山田 茂樹 氏(名古屋市立大学 大学院医学研究科 脳神経外科学分野 講師)

■日時:
2022年12月16日(金) 18:30-20:00

■形式:
オンライン(Zoomウェビナー)

■言語:
日本語

■参加費:
無料

■定員:
500名

 


■プロフィール:

山田 茂樹 氏(名古屋市立大学 大学院医学研究科 脳神経外科学分野 講師)
名古屋市生まれ。1997年に岐阜大学医学部を卒業後、京都大学・脳神経外科に入局。2001年に京都大学大学院博士課程に進学し、ゲノム解析・医療統計学・流体力学を学び、2002年から東京大学・生産技術研究所と共同研究をスタート、2004年にフランス国立ゲノムセンターへ留学。2004年 博士課程修了(医学博士)、2005年に日本脳神経外科学会専門医、2007年に日本脳卒中学会専門医を取得。2017年から現在まで、富士フィルム株式会社と画像解析、株式会社デジタル・スタンダードと歩行解析の産学・医工連携共同研究を継続中。2013年から2019年に勤務した洛和会音羽病院にて、石川正恒先生に師事し、特発性正常圧水頭症を専門領域とするようになった。2019年から2022年に滋賀医科大学・脳神経外科に勤務し、2022年10月より名古屋市立大学・脳神経外科に勤務し、特発性正常圧水頭症の啓発活動、診断・治療法の新規開発、病態解明の研究に従事。


2022年11月21日

日本医療政策機構では世界保健機関(WHO: World Health Organization)が設定している「世界抗菌薬啓発週間(WAAW: World Antimicrobial Awareness Week)」、および内閣官房による「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」を記念して、HGPIセミナーを開催いたします。

今回のHGPIセミナーでは、むらた動物病院 院長/東京農工大学 農学部附属未来疫学研究センター 客員教授/獣医臨床感染症研究会 会長であり、日本における愛玩動物(以下、ペット)の薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)対策を牽引する村田佳輝氏をお招きし、ペットとAMRの関係について解説をいただきながら、ワンヘルス・アプローチの視点からAMR問題について考えます。

抗菌薬をはじめとした抗微生物剤の使用により細菌などの病原体が変化し、抗微生物剤が効かなくなる(効きにくくなる)ことをAMRといいます。薬剤耐性を獲得した菌(薬剤耐性菌)に感染すると、抗菌薬による治療効果が十分に得られず、全身の状態が悪い場合は最悪の場合、死に至る可能性があります。世界ではAMRに関連して少なくとも年間127万人が死亡しているとされ、日本国内では2種類の薬剤耐性菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌及びフルオロキノロン耐性大腸菌)による菌血症のみにより年間約8,000人が死亡していると推定されています。

AMR対策は国内外で活発な議論がなされています。2022年、ドイツで開催された主要国首脳会議(G7)エルマウ・サミットでは、保健、財務、農業、気候・エネルギー・環境大臣会合それぞれのコミュニケにとどまらず、首脳コミュニケにおいてもAMR対策の必要性が言及されています。AMR対策のなかでも、動物、人間、そして環境における問題を一つの問題として考えるワンヘルス・アプローチに基づいた対策の重要性は首脳コミュニケでも指摘されています。国内では内閣府健康・医療戦略推進事務局によって取りまとめられた「グローバルヘルス戦略」においてもAMR対策としてのワンヘルス・アプローチが強調されており、今年度改定がなされようとしている「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」においても引き続き研究開発推進等と共に取組が強化されるものと期待されます。

このようにワンヘルス・アプローチへの注目が高まる背景には、世界が新型コロナウイルス感染症を経験し、人獣共通感染症(Zoonosis)の脅威を再認識したことも大きく関連しているでしょう。今後はこのワンヘルス・アプローチがAMRをはじめとした新興・再興感染症に留まらず、広くヘルスケア分野における議論の潮流の一つになると考えられます。

しかしながら、我が国においてAMR対策は依然としてヒトの医療の文脈で語られることが多く、各関係者の努力にも関わらず、ヒト以外の分野におけるAMR対策の取組に対する認知度は決して高くありません。例えば、医療機関内の薬剤耐性モニタリングである院内感染対策サーベイランス(JANIS: Japan Nosocomial Infections Surveillance)は2000年に開始されていますが、実は動物分野の薬剤耐性モニタリング体制も時を同じくして1999年から家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制(JVARM: Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System)が導入されています。くわえて、ペットのAMR対策に関する議論はまだ始まったばかりです。実際に、再びサーベイランスに注目すると、ペットの薬剤耐性モニタリングは2016年に策定されたAMR対策アクションプランを契機として開始したばかりです。これは世界を先導する取組であるものの、AMRにおける分野横断的対策、すなわちワンヘルス・アプローチ的な検討はまさにこれから期待されるところです。

2022年10月には4つの国際機関(the Quadripartite)*による「ワンヘルス共同アクションプラン(OH JPA: One Health Joint Plan of Action)」が公表されたばかりです。同プランでも今後世界が注力すべき主要な分野としてAMRが挙げられています。また、WHOは毎年11月18日から24日を「世界抗菌薬啓発週間(WAAW)」として定めていますが、今年のスローガンは「Preventing Antimicrobial Resistance together(みんなで薬剤耐性菌を防ごう)」です。日本でも2016年から、内閣官房が毎年11月を「薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)対策推進月間」と定めています。また、当機構においても2018年にAMRアライアンス・ジャパンを設立し、AMR対策について分野横断的にマルチステークホルダーで議論を行うための独立したプラットフォームとして政策提言活動や情報発信等を継続してきました。

そこで今回は、むらた動物病院院長である村田佳輝氏をお迎えし、ヒトにとって最も身近な動物であるペットに焦点を当てながらAMR対策についてご講演いただきます。村田氏は獣医師として日々の臨床業務に加えて、獣医臨床感染症研究会会長としてペットにおけるAMRの実態調査の実施や、獣医師向けとしては初となる抗菌薬使用の手引書である「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き―2020―」の作成を行うなど、日本におけるペットのAMR対策を牽引されています。ご講演では、ペット分野におけるAMRの現状と対策、ヒト分野を含む他分野との関わりや今後の展望についてお話いただきます。そのうえで、これまでのご経験から、AMRを地球規模の問題として捉え直しながらも、それぞれが身近な問題としてみんなで薬剤耐性菌を防ぐためのワンヘルス・アプローチに基づくアクションについても改めて考える機会としたいと思います。

 

*4つの国際機関(Quadripartite)は国連職業農業機関(FAO: Food and Agriculture Organization)、国連環境計画(UNEP: United Nations Environment Programme )、世界保健機関(WHO)、国際獣疫事務局(OIE: Office International des Épizooties)が創設した世界動物衛生機関(WOAH: World Organisation for Animal Health)によって構成されています。2022年10月に「ワンヘルス共同アクションプラン」を公表し、2022年から2026年までの5年間にわたるワンヘルス・アプローチに関する行動計画を定めました。同プランでは、今後世界が注力すべき主要な分野としてAMRによるサイレントパンデミックへの対処が挙げられています。

 

■登壇者:
村田 佳輝 氏(むらた動物病院 院長/東京農工大学 農学部附属未来疫学研究センター 客員教授/獣医臨床感染症研究会 会長)

■日時:
2022年12月9日(金)19:00-20:15

■形式:
オンライン(Zoomウェビナー)

■言語:
日本語

■参加費:
無料

■定員:
500名

 


■登壇者プロフィール:

村田 佳輝 氏(むらた動物病院 院長/東京農工大学 農学部附属未来疫学研究センター 客員教授/獣医臨床感染症研究会 会長)
1980年北里大学獣医学部獣医学科卒業、1982年同大学院獣医学修士取得、さわき犬猫病院を経て、1984年からむらた動物病院院長を務める。2009年千葉大学大学院医学薬学部にて医学博士を取得(医真菌学)する。国内外で、ペットに関する感染症関連の論文・本を多く執筆する。2013年に発足された小動物分野における臨床感染症の専門家集団である獣医臨床感染症研究会(VICA)では会長と務め、2019年AMR対策の優良事例として内閣官房の「AMR対策普及啓発活動表彰」を受賞する。ペットから分離される薬剤耐性菌の実態調査や、獣医師向けのガイドライン作成などに取り組み、抗菌薬の適正使用・慎重使用の重要性について学会や連携シンポジウム、症例検討会、各種専門誌への投稿などを通じて普及啓発・発信を行ってきた。ペットの臨床現場においてヒト・動物・環境のワンヘルスを考慮しながらAMR対策を進めている。


<【申込受付中】(オンライン開催)第110回HGPIセミナー「iNPH対策の深化に向けた産学連携の推進と社会実装」(2022年12月16日)

【申込受付中】(オンライン開催)第108回HGPIセミナー「COP27での議論の最前線:気候危機と健康」(2022年12月5日)>

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