2024年07月23日

真菌とはカビや酵母、キノコなどが該当し、人類が最も古くから認識し、活用・共存してきた微生物の一つです。真菌は、動植物の死骸などの有機物を分解して地球環境を整えるだけではなく、酒、味噌、チーズなどの醸造や発酵食品の生産、ペニリシンなど医薬品の製造にも貢献し、今でも我々の生活を陰から支えています。

一方で、真菌の中には、免疫の低下に伴い人間の身体に害を及ぼす真菌症と呼ばれる疾患群を引き起こす種類も存在しており、こうした真菌は病原真菌と呼ばれています。病原真菌による真菌症はその感染症の発症部位から、水虫のような皮膚疾患として発症する表在性真菌症と、ムーコル症やカンジダ症など臓器にまで及ぶ症状を引き起こす深在性真菌症に大別され、特に深在性真菌症は命に係わる重篤な病状に発展する恐れが高いと言われています。なかでも、臓器移植や、がん化学療法、自己免疫疾患に対する免疫抑制等、免疫機能の低下や全身状態が悪化している状態では深在性真菌症が大きな脅威となります。

本来、深在性真菌症は抗真菌薬で治療が可能ですが、近年では抗真菌薬が効きにくい薬剤耐性(AMR: Antimicrobial Resistance)を獲得した真菌が出現し、世界的な問題になっています。とりわけ、カンジダ・アウリス(C. auris)という真菌への警戒感は強く、2009年以降、病原性の高いC. aurisの薬剤耐性真菌(以下、海外株)が世界各国で報告されはじめました。米国では2022年に2300人以上がC. aurisの海外株に感染しており、感染者の粗死亡率は最大72%と推定されています。C. aurisの海外株は既に多くの抗真菌薬に耐性を示しており、危機感を抱いた世界保健機関(WHO: World Health Organization)は、同じく2022年に初めて「公衆衛生に脅威をもたらす真菌リスト」を公表するに至りました。

2023年5月には日本国内でもC. aurisの海外株による死亡例が初めて報告され、厚生労働省も注意喚起を発出しています。C. aurisはもともと2009年に日本で槇村浩一氏が慢性中耳炎患者の耳漏から発見した菌種であり、国内では病原性の低い菌株(以下、日本株)のみが確認されていました。国内に病原性の高い海外株が流入した背景には、現代の国境を超える盛んな人口移動の影響があると考えられており、人やモノの往来がますます盛んになる近い将来、国内での海外株の感染拡大が懸念されるところです。

世界で薬剤耐性真菌対策の必要性が高まる中で、日本でも同様に議論を発展させる必要があります。例えば、真菌は真核生物であり、細菌やウイルスと比較するとヒトと細胞の構造が近いため、真菌「だけ」に効果のある医薬品や真菌「だけ」を特定する検査機器の開発には独自の困難が伴いますまた、真菌は環境中で長期間生存するため感染対策にも工夫が必要です。このような真菌特有の課題について、広義のAMR対策のなかでどう位置付け対策を進めるかについても再考する時期が来ています。

HGPIでは、2016年よりAMR対策に向けた議論を開始し、AMR対策に向けた政策推進に寄与すべく活動を継続しています。本セミナーが、今後のAMR対策に向けた包括的な議論の一助となることを期待しています。

 

【開催概要】

  • 登壇者(順不同):
    槇村 浩一
    氏(帝京大学 医真菌研究センター 副センター長・教授)
    宮崎 義継
    氏(国立感染症研究所 真菌部 部長/ハンセン病研究センター長)
    山岸 由佳
    (高知大学 医学部 臨床感染症学講座 教授)
  • 日時:2024年8月23日(金)18:00-19:30
  • 形式:オンライン(Zoom ウェビナー)(アーカイブ配信なし)

    ※当日の投影資料および公開可能なアーカイブ映像については、後日個人賛助会員の皆様限定で配信いたします。

  • 言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 定員:500名

 


■登壇者プロフィール

槇村 浩一 氏(帝京大学 医真菌研究センター 副センター長・教授)
東京医科大学卒業 帝京大学大学院細菌学、同大医学部第一内科(1990年)、米国Tampa Bay Research Institute、ウイルス学講座 客員研究員(1991年)を経て、1996年より帝京大学医真菌研究センター 講師、2011年より同大医学部教授。2021年から同大医真菌研究センター 副センター長・教授。この間、国際宇宙ステーション日本実験棟 微生物研究主任を務めた。研究テーマは、ヒトの健康を障害する真菌全般。フィールドは院内環境に留まらず動物園から古代遺跡に及ぶ。

宮崎 義継 氏(国立感染症研究所 真菌部 部長/ハンセン病研究センター長)
内科学、特に感染症内科学・医真菌学・呼吸器内科学の専門家。2013年より国立感染症研究所の真菌部設置に伴い部長に就任。2019年からはハンセン病研究センター長との併任。厚生労働省の薬事審議会 医療機器・再生医療等製品安全対策部会の委員も務める。
国立感染症研究所には、2007年に生物活性物質部部長として入職。国立感染症研究所入職前は、長崎大学の医学部および医学部付属病院において、検査部および第二内科の講師を務めた。1995年米国国立衛生研究所フェロー。1994年伊万里市市民病院勤務。
1988年長崎大学医学部卒業。医学博士(長崎大学)。

山岸 由佳(高知大学 医学部 臨床感染症学講座 教授)
順天堂大学医学部卒。小児科医として岐阜大学医学部附属病院および関連病院で研修・研鑽を積み、2008年4月より愛知医科大学病院の感染制御部、2013年より感染症科(新設)の医師として研鑽を積んだ。2016年より愛知医科大学大学院医学研究科 臨床感染症学 准教授、2017年4月教授(特任)を経て2021年7月より現職の高知大学医学部附属病院 感染症科(新設) 教授および高知大学医学部附属病院 感染管理部 部長に着任。また2022年~高知大学医学部 臨床感染症学講座(新設) 教授を併任している。医師、医学博士。
日本臨床検査医学会 臨床検査専門医 日本小児科学会 専門医・指導医 日本感染症学会 感染症専門医・指導医などの資格を有している。
学会活動は幅広く、現在、日本化学療法学会 理事、日本医真菌学会 理事、日本性感染症学会 理事、日本外科感染症学会 理事などの役職も担っている。

2024年07月18日

日本医療政策機構(HGPI)では、2024年8月28日(水)に、公開シンポジウム「患者・市民・地域が参画し、協働する腎疾患対策に向けて」を開催いたします。

初期の慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)は自覚症状がほとんどないことが特徴で、成人の7人に1人は罹患していることから新たな国民病と言われています。CKD対策は、わが国において、関係者の努力により着実な進展を遂げ、普及啓発、地域における医療提供体制の整備、診療水準の向上、人材育成、研究開発の推進といった個別施策において、相応の進展がみられています。一方で、透析患者数の増加(新規患者の増加と有病率の上昇)には依然歯止めがかかっておらず、今後とも高齢化の進展がこれを押上げていくことが見込まれています。

こうした中、当機構では2022年から「腎疾患対策推進プロジェクト」を始動させ、産官学民アドバイザリーボードを組成の上、会合を開催しました。その議論をもとに、CKDの予防や早期介入の必要性、多職種や多機関連携の重要性、自治体の好事例の横展開の必要性、患者・当事者視点に基づいた腎疾患対策の推進の必要性などを提言しました。2023年度は、2022年度の提言内容をさらに深化させるとともに、自治体のCKD対策の好事例・課題ヒアリングを実施し、それに基づいた地域でのCKD対策推進に向けた解決策を産官学民アドバイザリーボード会合にて検討し、ペーシェントジャーニーに沿って政策提言書に取りまとめて発信しました。さらには、CKD対策の相互参照、全国均てん化を目指して、地方自治体の行政官を一同に会した生活習慣病会合を福岡市、仙台市にて開催しました。本会では生活習慣病疾患横断での政策推進の視点や多職種・他機関連携強化の必要性等について、意見交換の場を設け、論点を取りまとめました。

3年目となる2024年度は、これまでの活動を通じて得られた好事例や、課題および解決策等、議論の内容を広く社会へ発信することを目的に、日本医療政策機構主催、日本腎臓病協会共催で公開シンポジウムを開催します。本シンポジウムでは、日本全国で腎疾患対策を担っている行政(中央・地方)、議員、アカデミア、医療者や患者・当事者など幅広いステークホルダーにご登壇いただき、患者・市民主体のCKD対策の次なる一手とその実現に向けて産官学民の協働を促すことを目指しています。

 

 

【開催概要】

  • 日時:2024年8月28日(水)13:00-18:00(開場12:45)
  • 形式:ハイブリッド(対面・オンライン(Zoomウェビナー))
  • 会場:国際文化会館(東京都港区六本木5-11-16)
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料
  • 定員:会場100名程度(応募多数の場合、抽選)、ウェビナー500名
  • 主催:日本医療政策機構
  • 共催:特定非営利活動法人 日本腎臓病協会

*会場参加の申込期日は、8月14日(水)12:00までとなります。会場参加のお申込みが定員を超えた際は、抽選とさせていただきます。会場参加の可否は、8月16日(金)中にお申し込みいただいたメールアドレスでご案内いたします。

**登録完了後、ご登録いただいたメールアドレスに確認メールが自動送信されます。届かない場合は、大変恐れ入りますが、info@hgpi.org までメールをお送りください。
尚、8月23日(金)12:00時点で定員に達していない場合、引き続き本ページでのご登録を受け付けます。

 

【プログラム】(敬称略、順不同、登壇調整中)

13:00-13:10 開会挨拶 「世界に先駆けた日本の包括的なCKD対策推進に向けて(仮)」
石田 昌宏(参議院議員)※ビデオメッセージ
13:10-13:30 基調講演 「日本におけるCKDにおける課題と今後求められる対策(仮)」
柏原 直樹(日本腎臓病協会 理事長/川崎医科大学高齢者医療センター病院長・特任教授)
13:35-14:35 パネルディスカッション1「労働安全衛生法に基づく一般健康診断におけるCKDの早期発見・介入ならびに産業保健における企業・保険者の役割」
パネリスト 調整中
14:45-15:45 パネルディスカッション2「CKD対策推進におけるかかりつけ医の役割と課題」
パネリスト 調整中
15:50-16:50 パネルディスカッション3「自治体でのCKD政策とさらなる推進に向けた中央政府の役割」
パネリスト 調整中
16:50-17:00 閉会の辞
黒川 清(日本医療政策機構 終身名誉チェアマン)
17:00-18:00 レセプション

 

2024年07月01日

日本医療政策機構では、ミッションである「市民主体の医療政策の実現」に向けて、患者・当事者・市民が主体となる政策形成過程の実現を重要なテーマと捉え、その推進に向けて様々な活動を行っています。

2021年度からは、医療政策の形成過程や患者・市民参画を専門とする有識者、豊富な政策形成過程への参画経験を有する患者・当事者・市民リーダー等をアドバイザリーボードに迎え、政策形成過程における患者・当事者・市民参画の推進に向けて、議論を重ねてきました。2023年度には、これまでの議論から「医療政策の形成過程における患者・市民参画の手引き」や政策提言「政策形成の場における患者・市民参画の推進に向けて」を取りまとめ、患者・当事者・市民と行政それぞれに求められる取り組みや、参画する患者・当事者・市民に求められる要件等を整理しました。

本会合では、政策形成過程への患者・当事者・市民の効果的な参画が日本全国で実施されることを目指し、患者・当事者・市民参画の効果的な実践に向けて必要な取り組み等について、アドバイザリーボードメンバーを中心とした有識者による議論を発信します。

 

【開催概要】

  • 日時:2024年7月26日(金)18:00-19:45
  • 形式:オンライン(ZOOMウェビナー)
  • 言語:日本語
  • 参加費:無料

 

【プログラム】(敬称略、順不同)

開会の辞・開催趣旨説明

乗竹 亮治(日本医療政策機構 代表理事・事務局長)
坂内 駿紘(日本医療政策機構 マネージャー)

基調講演1「患者・当事者・市民参画の変遷と今後の展望」

武藤 香織(東京大学医科学研究所 公共政策研究分野 教授)

基調講演2「政策過程への患者・当事者・市民参画と民主主義」

森田 朗(一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI) 代表理事)

ラウンドテーブル・ディスカッション 「一緒に作る、これからの医療政策-患者・当事者・市民参画の推進に向け求められる打ち手」

パネリスト:
阿真 京子(「子どもと医療」 主宰/特定非営利活動法人日本医療政策機構 フェロー)
天野 慎介(一般社団法人全国がん患者団体連合会 理事長/一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン 理事長)
江川 斉宏(厚生労働省老健局 認知症施策・地域介護推進課 課長補佐)
桜井 なおみ(キャンサー・ソリューションズ株式会社 代表取締役社長)
宿野部 武志(一般社団法人ピーペック 代表理事)
鈴木 和幸(ノバルティスファーマ株式会社 広報統括部 ペイシェントエンゲージメントグループ シニアリード)
千正 康裕(株式会社千正組 代表取締役/元厚生労働省企画官)
前田 哲兵(前田・鵜之沢法律事務所 弁護士/Medical Basic Act Community 代表)
山口 育子(認定NPO法人 ささえあい医療人権センター COML 理事長)
山崎 梨渚(中外製薬株式会社 渉外調査部 パブリックアフェアーズグループ)

モデレーター:
滋野 界(日本医療政策機構 シニアアソシエイト)

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