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【開催報告】第62回特別朝食会「2026年度診療報酬改定と医療保険制度の持続可能性」(2026年6月23日)

【開催報告】第62回特別朝食会「2026年度診療報酬改定と医療保険制度の持続可能性」(2026年6月23日)

この度、間隆一郎氏(厚生労働省 保険局長)をお招きし、第62回特別朝食会を開催いたしました。

本会合では、2026年度診療報酬改定および健康保険法等の一部を改正する法律の立案過程に深く関わってこられた間氏に、人口減少社会において国民皆保険をいかに次世代へ引き継ぐか、診療報酬改定・薬価制度改革・医療保険制度改革を通じて「給付と負担」という連立方程式にどう向き合ったのかについてご講演いただきました。

<講演のポイント>

  • 人口減少と医療需要の変化が避けられない中、医療提供体制の再編と国民皆保険の持続可能性の確保が急務となっている。相互扶助の仕組みである社会保険に対する共感と納得をどう高めるかが、一連の改革を貫くテーマである。
  • 公的医療保険は保険料・公費・自己負担で構成されており、その持続可能性における課題の一つは、「現役世代の保険料負担の軽減」「物価・賃金の上昇に対応した公定価格の引上げ」「患者負担の抑制」といった相反する要請が交錯する「連立方程式」をどう解くかにある。
  • 近年、医療保険制度は医療の高度化をいかに賄うかという新たな課題に直面している。高額療養費に年単位の上限を新設し、個人で負い切れない経済的負担に社会全体で備える仕組みが強化された。同時に、OTC類似薬の薬剤給付の見直し等を通じて、給付と負担の公平性を高める取り組みが進められている。
  • こうした見直しを盛り込んだ健康保険法等の一部を改正する法律は、超党派の賛同を得て成立した。社会保障制度は誰かに負担を押し付けて成り立つものではない。できるだけ多くの納得を得られる制度へと丁寧に練り上げ、改革後の制度への移行にも配慮することが重要である。

 

■人口減少社会における国民皆保険の持続可能性

日本は人口減少社会に入っており、当面この構造変化を止めることはできない。医療現場では人材不足が進み、地域によっては医療需要が減少する中で、既存の医療提供体制をそのままの形で維持することが難しくなりつつある。こうした状況では、それぞれの医療機関が得意分野を伸ばしながら、地域として必要な医療機能を見極めていくことが求められる。「医療保険はあるが医療サービスがない」という事態は避けなければならない。何を残し、何を集約化するのかをそれぞれの地域で考えながら、医療と介護を次世代につないでいくことが根本的なテーマである。

他方で、社会保障に対する国民の視線は厳しさを増している。近年、一定の経済的リテラシーを持つ20代・30代の層が、共助(支え合い)という考え方そのものに懐疑的な見方を強めていることがうかがえる。こうした状況の下では、社会保険という支え合いの仕組みに対する共感と納得をどう高めていくかが、公的医療保険制度の改革における重要な課題となる。

 

■改革の背景となる医療需要と費用の動向

改革の背景はデータにも表れている。入院患者数は全体として増加傾向にあるものの、既に2020年までに98の二次医療圏で入院需要がピークを迎え、外来患者数は多くの医療圏で減少局面に入っている。健保組合における高額レセプト上位100位の平均額は、2015年度の約1,987万円から2024年度には約4,250万円(最高額は約1億6,871万円)へと上昇した。その背景には、粒子線治療などの先進医療や、デランジストロゲン モキセパルボベク(約3億497万円)に代表される高額薬剤の保険収載がある。後期高齢者一人当たりの保険料と現役世代一人当たりの支援金はいずれも上昇を続けており、世代間の分かち合いの在り方が問われている。

 

■応能負担の徹底と金融所得の反映

高齢者の収入と資産の状況には大きな幅がある。75歳以上の収入は中央値で137万円にとどまる。貯蓄については、世帯の4割超が1,000万円以上を有する一方、貯蓄のない世帯も13.7%存在する。このような経済格差に鑑みれば、年齢によって一律に判断するのではなく、負担能力に応じた負担をどう実現するかが引き続きの課題となる。従来、金融所得(特定口座における配当・利子等)は、確定申告をした場合にのみ保険料や窓口負担(自己負担割合)の算定に反映されていた。今回の見直しでは、税務当局が法定調書等により把握する情報を市町村の算定に電子的に連携させることで、確定申告の有無にかかわらず金融所得を反映できるようにした。これにより、後期高齢者医療制度において、金融所得を含めた負担能力に応じて保険料や1割・2割・3割の自己負担割合をより公平に判定する仕組みが整えられ、応能負担の徹底が図られた。

 

■診療報酬改定と保険料負担という「連立方程式」

近年、物価・賃金が上昇する中で医療機関や薬局の経営の持続可能性が懸念される一方、現役世代の手取りの確保や保険料負担の軽減が大きな政治的テーマとなってきた。現役世代の保険料の軽減、公定価格である診療報酬の引上げ、患者負担の軽減、消費税の軽減といった相反する要請が交錯する連立方程式に、医療保険制度は直面している。

これに対し、2026年度診療報酬改定では本体改定率を+3.09%(2026~2027年度の2年度平均。うち賃上げ分+1.70%、物価対応分+0.76%)とし、約30年ぶりに3%台の水準を確保した。薬価は▲0.86%、材料価格は▲0.01%(合計▲0.87%)である。同時に、被保険者の保険料率が上がらない範囲に収めることを前提としたうえで、協会けんぽの平均保険料率は制度創設以来初めて0.1%引き下げられた。雇用保険料率も0.1%引き下げられ、2026年4月から始まった子ども・子育て支援金の料率(0.23%)を結果として事実上相殺する形で全体の均衡がとられた。

 

■病院機能に着目した医療提供体制の評価

診療報酬は本来、個別の診療行為を評価する仕組みだが、今回の2026年度改定では医療提供体制の確保にも踏み込んでいる。従来、入院基本料は、平均在院日数、重症度、医療・看護必要度(患者の重症度や看護の必要量を示す指標)、在宅復帰率といった病棟単位の機能を中心に設定されていた。今回はこれに加え、救急搬送件数、全身麻酔手術件数、介護保険施設等からの緊急入院の受入れ実績など、病院単位の機能にも着目した評価体系が導入された。急性期病院一般入院基本料や急性期総合体制加算の新設により、総合性と手術等の集積性を備え、地域で拠点的な役割を担う病院を評価する仕組みとなっている。一方で、人口20万人未満の地域については、急性期病院B一般入院料や急性期総合体制加算の施設基準(救急搬送の受入状況など病院機能に関する要件)が地域特性に応じて緩和された。あわせて、こうした地域で医療体制の確保に貢献する拠点的な病院を評価する加算(医療提供機能連携確保加算)が新設された。保険はあっても提供される医療がないという事態を生じさせないための配慮である。今後は、診療報酬に加え、補助金との組み合わせや医療機関の建て替え支援の在り方も論点になると見込まれる。

 

■医療の高度化と費用の負担

高齢化による押し上げ効果が次第に落ち着く一方で、費用増加の主因は「医療の高度化」へと移りつつある。医療費の伸びの要因分解では、高度化等による影響分が2011~2017年の+1.2%から2018~2024年には+1.9%へと拡大している。受療行動の変化による影響を除いて算出すると、高度化による寄与はおよそ3%に上る。これをどのように賄い、負担について国民の納得をどう得るかが問われている。今回、高額療養費制度に年単位の上限が新設された。これにより、長期にわたり医療費を負担する人に加え、極めて高額な薬剤による一度きりの治療を受けた人にも、負担の上限が及ぶことになった。個人で負い切れない経済的負担を社会全体で引き受けるという医療保険の機能を、制度全体の水準だけでなく個々の患者の水準でも整えたものである。

 

■産業政策としての創薬と薬価制度改革

産業政策としての医療・創薬の在り方も重要なテーマである。米国の最恵国待遇(MFN: Most Favored Nation)価格政策において日本も参照国の一つとなっていることから、厚生労働省は薬価の設定に緊張感を持って臨んでいる。海外において、公表価格と乖離している「本当の価格」をどう見るかが問われている。また、内資製薬企業の開発支援と、外資製薬企業が日本に製品を導入しやすい環境の整備を、いかに両立させるかも課題である。あわせて、費用対効果評価制度の更なる活用についても検討が行われている。

こうした認識のもと、今回の薬価制度改革では、長期収載品の選定療養の拡大(差額の4分の1から2分の1へ)、オーソライズド・ジェネリック(AG: Authorized Generic)の収載時薬価を先発品と同額とする見直し、市場拡大再算定のいわゆる「共連れ」の廃止が実施された。今回の改定のテーマの一つは予見可能性を高めることにあり、企業にとって予見が困難であった「共連れ」の廃止もその一環と位置付けられる。

 

■給付範囲の見直しと負担の公平性

給付と負担の見直しも焦点の一つである。今回の改正では、少子化への対応として、出産育児一時金に代わる給付方式を導入して出産に係る給付を現物給付化するとともに、国民健康保険における子どもの均等割保険料の軽減対象を未就学児から高校生年代まで拡大した。これにより、軽減対象は約140万人増えて約180万人となった。

負担の公平性の観点からは、OTC医薬品との代替性が特に高い77成分(約1,100品目)について、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として患者に求める一部保険外療養が創設された(2027年3月施行予定)。これは、花粉症のように、医療機関を受診する人とOTC医薬品で対応する人がほぼ同数である場合に、薬剤費の一部を患者の負担とすることで、給付と負担の公平性を高めることを狙いとするものである。あわせて、食品類似薬についても、経管栄養等に用いるものを除き、保険給付の範囲が見直された。

もっとも、高額療養費については、多数回該当の仕組みと今回新設された年間上限により過大な負担が生じないよう手当てされており、セーフティネットとしての機能は維持されている。負担増が特定の層に偏れば、医療保険制度に対する国民の信頼は損なわれる。支え合いの仕組みに対する国民の納得を重視する姿勢は、今回の改正にも貫かれている。現に制度に支えられている人がいる以上、改正後の制度への丁寧な移行も欠かせない。

 

■政治的合意の積み重ねと健康保険法等改正法の成立

一連の政策は、政治的合意の積み重ねに支えられている。2025年6月の自由民主党・公明党・日本維新の会による三党合意でOTC類似薬の保険給付の見直しや応能負担の徹底が打ち出され、2025年10月の連立政権合意書、2025年12月の政調会長間合意を経て、これらを法案化する作業が進められた。その結果、健康保険法等の一部を改正する法律案は、2026年4月28日の衆議院本会議において日本共産党を除く各会派の賛同を得て可決され、2026年5月29日の参議院本会議で可決・成立した。同法(令和8年法律第31号)は、2026年6月5日に公布された。

社会保障は、病気や障害、失業といった局面に直面しても人生を諦めずに済むようにするための仕組みである。だからこそ、与党のみならず多くの会派の賛同を得られるものへと練り上げていくことが重要である。今回の改正では附帯決議という形で多くの課題も示されており、一つ一つ誠実に取り組んで次の改革につなげていくことが期待されている。

講演後の質疑応答では、社会保険料におけるフロー(所得)とストック(資産)の捉え方と応能負担の徹底、金融所得の把握とデジタル化、医薬品と医療機器とで異なる保険償還の考え方、保険適用範囲の見直しに対する国民の受け止めをエビデンスとして把握することの重要性、創薬イノベーションを適切に評価する薬価制度の在り方など、活発な議論が行われました。

(写真:井澤 一憲)


■プロフィール

隆一郎(厚生労働省 保険局長(当時))

東京大学法学部卒。1990年に厚生省入省後、秋田市福祉保健部参事・副理事、和歌山県福祉保健部長寿社会推進課長、社会保険診療報酬支払基金総合企画部長、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA: Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)企画調整部長などを歴任。本省では、年金局年金課長(2015-17年)、健康局総務課長(2017-18年)、大臣官房総務課長(2018-20年)を務めた。2020年8月に大臣官房審議官(医政、医薬品等産業振興、精神保健医療、災害対策担当)、2021年9月に大臣官房審議官(口腔ケア、医療介護連携、データヘルス改革担当)、2022年6月に大臣官房総括審議官、2023年7月に老健局長、2024年7月に年金局長、2025年7月より保険局長、2026年8月より厚生労働審議官に就任。

 

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