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【開催報告】マルチステークホルダーワークショップ「気候変動適応としての暑熱健康対策:エビデンスから政策実装へ――分野横断的協働の構築」(2026年8月24日)

【開催報告】マルチステークホルダーワークショップ「気候変動適応としての暑熱健康対策:エビデンスから政策実装へ――分野横断的協働の構築」(2026年8月24日)

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2026年8月24日(月)、国際文化会館(東京都港区)にて、マルチステークホルダーワークショップ「気候変動適応としての暑熱健康対策:エビデンスから政策実装へ――分野横断的協働の構築」を開催しました。本ワークショップは、2022年より取り組むプラネタリーヘルスプロジェクトの一環として企画されたものです。当日は、国内外の学術・行政・企業・地域医療などの分野から専門家・実務家約35名が一堂に会し、完全招待制・チャタムハウスルールのもと、率直な意見交換が行われました。

近年、気候変動の進行に伴い熱波の頻度と強度が世界的に高まっており、暑熱による健康影響は、気候関連の健康リスクの中でも最も顕在化しているものの一つとなっています。2025年8月には群馬県伊勢崎市で国内歴代最高となる41.8℃を記録したほか、同年5-9月の熱中症による救急搬送者数は100,510人と、統計開始以来はじめて10万人を超えました。

こうした高温は、地球温暖化の長期トレンドに、エルニーニョ・南方振動(ENSO: El Niño-Southern Oscillation)や太平洋十年規模振動(PDO: Pacific Decadal Oscillation)といった自然変動が重なって生じているとされています。各種報道では、2026年は「スーパーエルニーニョ級」の現象が発生する可能性が高いとされ、猛暑や高温多湿のリスクが一層高まることが見込まれています。気象庁が2026年4月より最高気温40℃以上を「酷暑日」として新たに定義したことも、極端な高温が社会全体で継続的に備えるべき状況へと移りつつあることを象徴しています。

暑熱がもたらす健康影響は、救急搬送として把握される急性の熱中症にとどまりません。国際的には「暑熱健康(Heat-Health)」という包括的な概念のもと、循環器・呼吸器・腎疾患の増悪や精神疾患の悪化、暑熱に起因する超過死亡に加え、労働災害・生産性の損失・睡眠障害、「エネルギー貧困」や「室内暑熱曝露」といった構造的な要因までが重要な課題として認識されています。また、暑熱は欠勤(アブセンティーズム)だけでなく、集中力や作業効率の低下による在職中の生産性低下(プレゼンティーズム)にも影響することが報告されており、国際労働機関(ILO: International Labour Organization)も暑熱を労働者の健康・安全と生産性に関わる労働衛生上の課題と位置づけています。

2025年に全国47都道府県で実施された調査では、2024年夏に20歳以上の成人の約64.6%が疲労・睡眠障害・食欲不振・めまいなど何らかの暑熱起因の体調不良を経験したと推計されており、救急搬送として現れる熱中症は氷山の一角にすぎない可能性も指摘されています。

こうした状況を踏まえ、従来の夏季を中心とした熱中症対策にとどまらず、気候変動の影響を踏まえて年間を通じた視点で捉える、より包括的な「暑熱健康(Heat-Health)」対策へとアップデートしていくことが国内外で求められています。本ワークショップは、これまで積み重ねられてきた熱中症対策の成果を土台としつつ、より包括的な「暑熱健康」への視点拡張を出発点として、(1)設計原則と概念拡張、(2)アラートから行動へ、(3)省庁横断ガバナンスと熱波の位置づけ、(4)地方実装と曝露低減、(5)評価・改善サイクルとエビデンス基盤、の5つの政策テーマに沿って議論を行いました。日本国内でも、2026年7月31日に「熱中症対策に関する関係閣僚会議」が初めて開催されたほか、気候変動適応計画・熱中症対策実行計画の改定に向けた議論が政府内で進められており、本ワークショップはこうした政策的な動きとも軌を一にするものです。本ワークショップは、こうした問題意識のもと、産官学民のステークホルダーが分野を越えて議論する場として企画されました。

 

【開催概要】

  • 日時:2026年8月24日(月)13:00-16:00
  • 会場:国際文化会館 樺山・松本ルーム(東京都港区六本木)
  • 形式:対面開催・完全招待制・チャタムハウスルール
  • 主催:日本医療政策機構(HGPI)
  • 参加者:産官学民の専門家・実務家 約35名

 

【プログラム(敬称略・順不同)

13:00-13:05 開会・趣旨説明/トーンセッティング

13:05-13:40 インプットセッション(1):国際の最新動向

  • シンガポール政府の実装知とGHHIN|Jason Kai Wei Lee(シンガポール国立大学 教授)
  • 韓国の解決事例と東アジアにおける連携構想|Ho Kim(ソウル大学校公衆衛生大学院 教授)
  • 欧州・多国間の暑熱死亡研究とKPI・評価の国際標準|Aurelio Tobias(スペイン国立研究評議会)

13:40-14:15 インプットセッション(2):日本の現在地とエビデンス

  • HHAPとは何か/なぜ日本に有用か|橋爪 真弘(東京大学/長崎大学 教授)
  • 適応計画骨子・熱中症対策実行計画の現在地とギャップ|岡 和孝(国立環境研究所 気候変動適応センター 室長)
  • 制度と地域公衆衛生の現場|前田 光哉(港区みなと保健所長)
  • 熱中症白書から見えてきた課題|藤澤 陽介(住友生命保険相互会社 データサイエンスオフィサー)

14:15-14:20 休憩

14:20-14:55 グループワーク第1ラウンド:発展の余地の特定(現行の熱中症対策実行計画をHHAPの8コア要素・適応計画骨子と照らし合わせ)

14:55-15:15 実装の最前線リレー

  • 住宅・建築|下ノ薗 慧(国立保健医療科学院 主任研究官)、上原裕之氏(健康省エネ住宅を推進する国民会議 理事長)
  • 空調・室内環境|山本 明典(ダイキン工業株式会社 淀川製作所 テクノロジーイノベーションセンター 戦略室 技術リサーチ担当課長)
  • 労働衛生|堀江 正知(産業医科大学 学長)

15:15-15:50 グループワーク第2ラウンド:打ち手と2030年ロードマップへの落とし込み

15:50-16:00 全体共有・総括・閉会

参加者は3つのグループに分かれ、日本版暑熱健康行動計画(HHAP)の実装に向けた論点についてグループワークを行いました。閉会にあたっては、橋爪真弘氏より総括のコメントをいただき、分野横断的な協働の第一歩として、今後の議論の継続に期待を示していただきました。

本ワークショップでの議論の内容は、今後、HGPIの政策提言活動等の中で活用していく予定です。

参加者一覧(敬称略・順不同)

I.国際的視座と「気候変動と健康」の科学(学術)

Jason Kai Wei Lee(シンガポール国立大学 教授)
橋爪 真弘(東京大学大学院医学系研究科 教授)
Yoonhee Kim(東京大学大学院医学系研究科 准教授)
岡 和孝(国立環境研究所 気候変動適応センター 気候変動影響観測研究室 室長)
Aurelio Tobias(スペイン国立研究評議会)
Ho Kim(ソウル大学校公衆衛生大学院 教授)
松浦 広明(松蔭大学副学長・常任理事/世界保健機関(WHO)環境・気候変動・健康経済学に関する技術諮問委員会 委員長)

II.体温生理・スポーツ・労働衛生の科学と現場

藤井 直人(筑波大学 体育系 准教授)
細川 由梨(早稲田大学 スポーツ科学学術院 准教授)
堀江 正知(産業医科大学 学長)

III.制度・行政・ガバナンス・法

原田 大二郎(参議院議員)
前田 光哉(港区みなと保健所長/元環境省 大臣官房 環境保健部長)
牧野 友彦(厚生労働省 大臣官房 参与)
島袋 彰(ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院 教員/日本医療政策機構 アドジャンクトフェロー)
南谷 健太(森・濱田松本法律事務所 弁護士/日本医療政策機構 アドジャンクトフェロー)

IV.住宅・建築・室内環境

上原 裕之(健康省エネ住宅を推進する国民会議 理事長)
下ノ薗 慧(国立保健医療科学院 建築・施設管理研究部 主任研究官)

V.データ・サーベイランス・保険(エビデンス基盤)

尾谷 和則(株式会社JMDC インシュアランス本部 データインテリジェンス部)
横関 智一(株式会社JMDC エグゼクティブイノベーター)
藤澤 陽介(住友生命保険相互会社 データサイエンスオフィサー)
岩本 昌弘(日本生命保険相互会社 サステナビリティ経営推進部 環境経営推進担当部長)
大筋 由里桂(Google合同会社 クリニカルスペシャリスト)

VI.空調・環境技術

山本 明典(ダイキン工業株式会社 淀川製作所 テクノロジーイノベーションセンター 戦略室 技術リサーチ担当課長)

VII.栄養・水分補給・食

横山 智(大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業グループ ソーシャルヘルス・リレーション部)
神田 淳(株式会社明治 研究本部 ニュートリション開発研究ユニット ニュートリション開発1グループ長)
安藤 智教(株式会社ロッテ 中央研究所 未来価値研究部 フロンティア研究課 課長)
Ana San Gabriel(味の素株式会社 品質保証部 シニアアドバイザー)

VIII.地域・在宅医療・脆弱層

松岡 かおり(日本医師会 常任理事(産業保健・環境保健))
武藤 真祐(医療法人社団 鉄祐会 理事長/日本医療政策機構 副代表理事)
坪倉 正治(福島県立医科大学 放射線健康管理学講座 教授)

IX.気象・情報・行動変容

工藤 泰子(総合地球環境学研究所 客員教授/明治大学 兼任講師)

X.次世代・生活者の視点

北郷 美由紀(朝日新聞 編集委員(SDGs担当))
西 初花(広尾学園高等学校 1年)

オブザーバー

栗原 啓輔(厚生労働省 健康・生活衛生局 健康課 課長補佐)
齊藤 順子(国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所)
北野澤 昴(港区みなと保健所 健康推進課長(地域医療連携担当課長兼務))

事務局

菅原 丈二(日本医療政策機構 副事務局長)
ケイヒル エリ(日本医療政策機構 アソシエイト)
佐藤 ひかる(日本医療政策機構 アソシエイト)
コ ゲール(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
岩倉 日南子(日本医療政策機構 プログラムスペシャリスト)
美平 真声(日本医療政策機構 インターン)
嶋津 智香(日本医療政策機構 インターン)
羽柴 悠貴(日本医療政策機構 インターン)

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