東京の自然公園ビジョンの改訂について(中間のまとめ)(2026年10月14日)
日付:2026年11月2日
タグ: プラネタリーヘルス
日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)プラネタリーヘルスプロジェクトは、東京都環境局によるパブリックコメント「東京の自然公園ビジョンの改訂について(中間のまとめ)」について、4件のコメントを提出いたしました。なお、既に提案の募集は終了しております。
「東京の自然公園ビジョン」は、都内の自然公園の保全と利用の方向性を示す東京都の計画です。今回の改訂では、次の10年における施策展開が示されており、2026(令和8)年9月1日に開催された第160回東京都自然環境保全審議会において「中間のまとめ」が取りまとめられました。これを受け、同年9月15日から10月14日まで都民・事業者を対象とした意見募集が行われました。
寄せられた意見は都から自然環境保全審議会に報告され、審議会はそれらを踏まえてさらに議論を進めることとされています。自然公園は、生物多様性の保全や水源涵養、炭素の吸収といった環境面の役割に加え、都民が自然に触れ、心身の健康を育む場としても重要な役割を担っています。気候変動の進行や少子高齢化など社会の変化が進むなか、今後10年の自然公園のあり方を定める本ビジョンは、環境と健康の両面から都民の暮らしに大きな影響を与えるものです。
自然公園を「都民の健康を支える基盤」として捉えるプラネタリーヘルスの視点
当機構では、地球環境の健全性と人間の健康を不可分のものとして捉えるプラネタリーヘルスの観点から、都政における環境と健康分野の政策強化を提言しております。自然公園法がその目的に「国民の保健」を掲げているように、自然公園は本来、人々の健康と深く関わる存在です。
一方で今回の中間のまとめでは、ウェルビーイングの向上や健康づくりへの貢献が期待として掲げられているものの、保健医療分野の計画との連携や、健康を目的とした具体的な施策は十分に示されていません。また、気候変動の影響についても生態系や登山道・施設への影響が中心であり、自然公園を訪れる人々の健康への影響には触れられていません。
こうした問題意識から、このたび提出した4件の意見は、自然公園を都民の健康と気候レジリエンスを支える基盤として位置づけ、暑熱対策や医療・福祉との連携を通じて、自然がもたらす健康便益を誰もが享受できる環境を整えることに焦点を当てた内容となっています。提出した意見の概要は以下の通りです。
自然公園から都民の健康と気候レジリエンスを支えるためのHGPIの意見
意見1:自然公園の「都民の健康を支える基盤」かつ「グリーンインフラ」としての位置づけ
本ビジョンの「計画の位置づけ」に保健医療分野の計画が含まれていないことを踏まえ、東京都健康推進プラン21(第三次)及び東京都気候変動適応計画を関連計画として明記するよう求めました。あわせて、2050東京戦略についても、緑施策に加えて暑さ対策を含む気候変動適応策との関係を示し、健康施策との整合を図ることの重要性を明記するよう提案しました。世界保健機関(WHO: World Health Organization)と生物多様性条約(CBD: Convention on Biological Diversity)事務局が2015年に公表した報告書は、自然環境や生物多様性との接触が減ることで人の微生物叢の多様性が低下し、免疫機能の不全や非感染性疾患につながりうること、また緑地へのアクセスが身体活動やメンタルヘルスの向上に資することを示しており、生物多様性の保全は疾病の予防や健康の保持増進に資する「予防医学的な価値」を持ちます。また、自然公園の森林や丘陵地の緑は、水源涵養や土砂災害の防止、炭素の吸収・固定、暑熱の緩和などを通じて都市全体の気候レジリエンスを支えるグリーンインフラでもあります。こうした観点から、「東京の自然公園の目指す姿」において、自然公園が都民の心身の健康を支える基盤であること(自然公園法にいう「保健」の現代的な意義)、及び気候レジリエンスを高めるグリーンインフラであることを明記するよう提案しました。
意見2:利用者の熱中症リスクへの対応とビジターセンターの暑熱避難拠点化
課題(1)「気候変動の進行と自然公園への影響」に、利用者の熱中症等の健康影響を位置づけるよう求めました。自然公園の玄関口である青梅・八王子では40℃を超える気温が観測されています。山岳遭難者の半数は60歳以上であり、中高年・高齢者は熱中症の重症化リスクも高いです。一方、現行の熱中症対策は都市部・屋内が中心であり、自然公園は対策の空白になりやすいという課題があります。そこで、登山の行程上に位置し、屋内の休憩空間と職員を備えるビジターセンターを、クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)及びTOKYOクールシェアスポットとして位置づけ、都と地元町村の連携により指定・登録を進めることを提案しました。あわせて、市街地に近接する丘陵地の都立自然公園は周辺住民にとって身近な避暑空間となりうることから、こうした暑熱緩和機能を評価し、保全・活用の観点に加えることも求めました。
意見3:「AI等を活用した利便性の向上」への暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)情報の追加
新規リーディングプロジェクト「AI等を活用した利便性の向上」は、混雑の可視化やマップ・ガイドのデジタル化を中心としており、気候変動により高まる暑熱リスクに関する情報提供が含まれていません。そこで、都がすでに運用している「東京暑さマップ」の情報基盤を活用し、主要な登山口や山頂付近の暑さ指数と熱中症警戒アラートの発表状況を、混雑状況とあわせて閲覧できるようにすることを提案しました。また、「AI等を活用した利用者の安全確保」で想定されるスマートフォンアプリやスマートウォッチ等の活用においても、暑さ指数に応じた注意喚起やビジターセンター等の休憩場所への誘導を組み込むよう求めました。新たな仕組みを一から構築するのではなく、既存の熱中症対策の情報基盤を自然公園に組み込むことで、利用者が混雑と暑さの両方を踏まえて行動を選択できる環境の整備を目指します。
意見4:医療・福祉と連携した「社会的処方(グリーン処方)」のリーディングプロジェクト化
自然の中で過ごすことが心身の健康に資するというエビデンスが蓄積するなか、カナダの「PaRx」や米国の「Park Rx America」、英国国民保健サービス(NHS: National Health Service)によるグリーン社会的処方など、医療従事者が「自然の中で過ごす時間」を処方する取組が各国で制度化されつつあります。本ビジョンには、ショートトレイルへのリニューアルやインクルーシブに対応したプログラムの充実など、社会的処方の「処方先」となりうる施策がすでに盛り込まれていますが、観光・レクリエーションの文脈に留まり、医療・福祉の現場とはつながっていません。そこで、新たなリーディングプロジェクトとして「自然とつながる健康づくり(グリーン処方)の推進」を設け、保健医療局や区市町村、医療機関、地域包括支援センター、社会福祉協議会等と連携したモデル事業を、都心からアクセスしやすい丘陵地の都立自然公園等で実施することを提案しました。あわせて、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)の理念を踏まえ、高齢者や障害のある人、子育て世帯、経済的に困難を抱える人などが取り残されないよう、送迎・同行の支援や費用面の配慮などアクセス面の支援を検討すること、「利用実態調査の実施」において利用者のウェルビーイング指標や熱中症等の事故の発生状況を把握し、施策評価に反映することも求めました。
パブリックコメント「東京の自然公園ビジョンの改訂について(中間のまとめ)」に関して、詳しくはこちらをご覧ください。
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