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スポーツを入り口とした医療との出合い

公開日:2022年11月4日

スポーツを入り口とした医療との出合い

坂内 駿紘 Takahiro Sakauchi
日本医療政策機構 シニアアソシエイト

スポーツを入り口とした医療との出合い

スポーツ医療と呼ばれる医療領域があるのをご存じでしょうか。

そもそも私が医療に興味を持つようになったのは、小学校から高校までの部活動生活の中で慢性的なケガに悩まされ、医療やアスレティックトレーナーのサポートを受ける機会が多かったからです。

私が通っていた高校には、アスレティックトレーナーの資格を有する方々がおり、サッカー部に所属していてケガをしがちだった私は、たびたびお世話になっていました。中でも日本では珍しい米国のNATA(全米アスレティック・トレーナーズ協会)公認アスレティックトレーナー(ATC)の資格を持つ先生のサポートはずば抜けてすばらしく、それまで病院や整骨院などで受けてきたサポートとは大きく異なりました。そして、どうにも気になってATCについて調べてみたところ、スポーツ医療における日本と米国の大きな違いを知ることになります。

米国では、スポーツをする人たちに対して専門的な医療支援を提供するATCは、米国医師会(AMA)によって准医療従事者として認定される国家資格で、スポーツ医療の専門領域が確立されていると言えました。ATCは、スポーツの現場で事故が起きたときの応急処置・救急対応から負傷してしまった選手の競技復帰、さらには競技復帰後のケガの管理を含む包括的なリハビリテーション、ケガの予防をはじめとした健康管理まで、スポーツをする人が必要とする支援をまんべんなく提供していたのです。

一方、日本では、民間団体が認定するアスレティックトレーナーの資格があるものの、医療の専門職ではなく、プロスポーツ以外で見かける場面もほとんどありません。
このような両国の差を知るにつれ、私は日本でもスポーツをする人たちが安心して競技に取り組めるような環境をつくりたいと思うにいたりました。

 

米国以外の現状を知るためアイルランドへ

そこで、高校卒業後は、早稲田大学スポーツ科学部スポーツ科学科に進学し、医学にもとづいたケガの予防やリハビリテーション、トレーニング、コンディショニングなどについて、その理論から具体的な実践技法を学ぶトレーナーコースを専攻します。当初の計画では、大学を卒業したあとは米国に留学し、ATCの資格を取得して日本でスポーツ医療に従事しようと考えていました。

しかし、実際には大学卒業と同時に、私はアイルランドへ渡りました。この背景には、大学3年生のときに3ヵ月間、スタンフォード大学のインターンシップに参加した際の出来事があります。現地のスタッフやスタンフォード大学を訪れた他国のスポーツ医療の専門家とスポーツ医療について話しているときに、「医療制度や文化が同じではない米国のスポーツ医療を学んで、果たして日本でうまくいくのか?」との疑問が湧いてきたのです。

この疑問をきっかけに米国以外の国のスポーツ医療も知る必要性を感じ、まずはアイルランドの大学内のスポーツクリニックでインターンをしながら英語を学ぶ選択をしたわけです。

 

複数の国でスポーツ医療の臨床にたずさわる

8ヵ月という短い間でしたが、留学中に見たアイルランドのスポーツ医療のありようは、米国のそれとはかなり異なっていました。たとえば、アイルランドのアスレティックトレーナーは米国とは違って国家資格にはなっておらず、主にスポーツの現場で選手を支えていたのは理学療法士でした。

日本、米国、アイルランドの3つの国の相違点を目の当たりにした私は、自然ともっとほかの国のスポーツ医療や医療制度を知りたくなりました。そこで米国留学は取りやめ、2017~2018年はオーストラリアのラグビーチーム、2019年はニュージーランドのサッカーチームで勤務しました。

こうして複数の国のスポーツ医療にたずさわる中で、スポーツ中の事故に対する対応体制や、ケガや痛みに悩まされる人たちが受けられる医療・支援などの差異は、医療制度の違いから生じているのではないかと考えるようになり、次第に医療政策への関心が高まっていきました。

 

ブログやSNSで存在を知ってHGPIに就職

そして、医療政策関連の書籍やブログなどを読み、自身の大きなキャリアチェンジを模索し始めました。特に参考になったのはHGPIの理事である津川友介氏のブログやSNSで、津川氏の投稿を通してHGPIの存在を知り、2020年春に応募して運良く就職できました。応募したいちばんの動機は、医療政策にまつわる仕事をしたいと思ったことです。

ただ、実はこのとき、同じ年の9月から英国の大学院で公衆衛生学修士を取るための留学が決まっていたので契約社員の身分で就職しました。それが、コロナ禍もありオンライン入学が認められるようになったため、渡英するか日本にいながらオンラインで学ぶかの2つの選択肢ができました。できればHGPIを離れたくない――上司に相談したところ、なんと働きながら学べる条件の提示があったのです。もちろん、迷わず日本でのオンライン入学を選び、今は週4日の勤務で仕事と学業を両立できています。

 

キャリア形成についても相談できる環境がある

HGPIでの仕事はとても刺激的です。これまでかかわったことのなかった多くのステークホルダーの専門家とお話をする機会にあふれ、もともと臨床で活動していた私にとっては視野が広がる体験の連続です。また、スタッフのバックグラウンドもいろいろなせいか、自分に足りていない部分が浮き彫りになるシーンも多々あり、新しい学びもある日々です。こうした環境に背中を押され、より専門的な医療政策に関連する分野を研究したいと望むようになり、今は博士課程への進学なども含め、これからのキャリアに悩んでいます。

ひとつには、もともと持っていたケガをした人へのサポートへの関心もあって、病院に行くほどではないけれども痛みがつづいていて困っている人や、病院に通っていても症状が取り切れずに残っている人などに対する支援に興味を持っています。もうひとつ、予防医療や産業保健、介護など、医療の周辺の分野の課題に対して適切な政策的アプローチができる人材になりたいとも考えるようになりました。

このようにキャリア形成に迷ってはいますが、私にはHGPIという良き相談相手がいます。HGPIでは、転職や就学などのキャリア形成に関しても上司や同僚に気軽に相談ができます。まだ、これからの具体的なキャリアパスは定かではありませんが、HGPIで働く中で、今までの臨床や医療政策分野での経験を生かせる道を見つけられると確信しています。

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