フェアで健やかな社会を目指してー20年の歩みを重ねる「日本医療政策機構」の軌跡

日本医療政策機構(HGPI: Health and Global Policy Institute)は、2004年に設立された市民を中心とした医療政策の実現を目指す非営利、独立、超党派のシンクタンクです。特定の政党や団体にとらわれず、フェアで健やかな社会構築に向けて、先見性のある新しいアイデアや価値観を提案し続けています。日本国内はもとより、世界に目を向けた効果的な医療政策の選択肢を提示し、地球規模での健康・医療の課題解決に貢献してきました。

21世紀が始まり、世界と日本を取り巻く状況が大きく変化する中で、政府のみならず独立した複数のシンクタンクが公共政策の提供に関わることが、日本における新たな課題となりました。この動きを受け、代表理事の黒川清は2004年4月に「特定非営利活動法人 東京先端医療政策センター」として設立、2005年3月に「日本医療政策機構」へ改称し、以後は各領域のプロジェクトを立ち上げ、これらの課題に取組み続けています。

「私たちの政策提言を広く国民の皆様に公開し、その是非を問い、国の政策に反映させようという活動をできるだけ多く行い、皆さんからのご要望、ご期待に沿えるよう私たちの組織と外部ネットワークを使って調査研究し、政策を提案したり、ご支援やご寄附もいただけるよう評価の高い政策とその実現へむけて戦略的展開をしていくことを考えて活動を進めています。」(代表理事 黒川 清)

―Annual Report 2004 to 2005より―


この理念は、設立から20年が経過した今も変わらず、私たちの活動の中心をなしています。これまでに170もの政策提言や報告書を発表してきた私たちの歩みを、振り返ってみましょう。

 


■2005年:「女性の健康」を主軸とする提言

設立後初の政策提言として、2005年3月に「少子化と女性の健康」、5月に「女性の雇用と健康政策」を発表しました。これらは「女性の健康」を政策の核心に据えたものです。以降も、医療政策の指針を提示するため、多彩なイベントや調査を通じて積極的に提言を行いました。


■2006年:「国民が真に求める医療政策」への取り組みとシンポジウム開催

2006年2月、最新の世論調査を基に「国民が真に求める医療政策」を探求し、「日本の決断-国民が真に求める医療政策とは」と題し、シンポジウムを開催しました。ここで、多様なステークホルダーと共に医療政策のキーポイントについて議論し、当時は珍しかったマルチステークホルダーによる議論が大きな注目を集めました。

同年3月には「がん患者と家族が求める医療政策」を公表し、がん対策基本法の成立に貢献。12月には「再生医療 臨床応用への道筋」を提言し、再生医療の重要性を強調しました。

■2007年:心疾患領域における患者団体の政策提言活動参加

2007年4月、心疾患をテーマにした「国際患者会シンポジウム 心疾患医療政策への患者参画」を実施しました。この会合では、心疾患患者と世界的なリーダーが集まり、患者の政策提言活動への参画の重要性を話し合いました。これが心疾患領域での患者団体の政策提言活動への参画を促すきっかけとなりました。

■2008年:「グローバルヘルスサミット」にて日本のリーダーシップを討論

2008年2月、当機構は世界銀行と共に、初の「グローバルヘルスサミット」を主催しました。小泉純一郎元首相をはじめ、世界的なリーダーたちが集まり、グローバルヘルスにおける日本のリーダーシップのあり方について深い議論を交わしました。このサミットは、同年日本で開催される第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)やG8洞爺湖サミットに向けた、日本のリーダーシップを深める重要な機会となりました。


■2009年:「がん政策サミット2009」開催と「医療政策国民フォーラム」の設立

2009年5月、24都府県から37人のがん対策推進協議会の関係者を含む様々なステークホルダーが一堂に会する「がん政策サミット2009」を開催しました。このイベントでは、優れた地域の事例を共有し、日本のがん対策の優先課題について議論を行い、医療政策への患者参画の重要性を示しました。また、同年の衆議院総選挙に向けて、35人のメンバーによる「医療政策国民フォーラム」を設立し、「医療政策-マニフェストで問うべき3つの重要課題」をまとめ上げ、各政党に提出。安定した財源の確保、急性期医療への集中投資、専門医制度の自律的確立、政策決定プロセスの透明化を提言しました。

■2010年:多様なステークホルダーが集う「医療政策サミット」

2010年2月、多種多様なステークホルダーが参加する「医療政策サミット」を開催し、政権交代後初の本格的な医療政策会議として、大きなメディアの注目を集めました。英国とアメリカの元保健行政高官も参加し、国際的な視点での議論が行われ、医療政策に関する幅広い話題を提供しました。

■2011年:東日本大震災後の迅速な支援活動と非感染性疾患(NCD)対策の推進

1月、認定NPO法人としての認定を新たに受け、「脳卒中対策立法化推進協議会」と共に、国会議員や脳卒中対策関係者を集めた「脳卒中政策フォーラム2011」を開催しました。このフォーラムでは、政党の垣根を超えて、脳卒中対策基本法の重要性を訴えました。

3月11日に発生した東日本大震災直後には、復興支援のため緊急チームを結成し、米国を拠点とする国際医療支援団体との連携で多岐にわたる支援活動を展開しました。4月には米国在住の日本人医療専門家を被災地へ派遣し、5月には岩手県と米国NGO間の支援に関する覚書調印式を執り行いました。岩手県山田町では、中長期にわたる医療システム再構築の支援も行いました。

さらに、9月の国連総会ハイレベル会合で議題となった非感染性疾患(NCD)対策にいち早く注目し、「NCD Japan Forum 2011」を開催。NCD対策の重要性を、国内外のステークホルダーと共に早期から議論し、日本の医療政策への新たな視点を提供しました。

■2013年:アフリカの保健医療分野での新視点の提供

第5回アフリカ開発会議(TICAD V)に合わせて、公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)と共に、「国際シンポジウム2013アフリカ経済成長の鍵~健康への投資~」を5月に開催しました。このシンポジウムでは、アフリカ及び日本のビジネスリーダーや国際機関のスピーカーを招き、アフリカの持続可能な成長を支える保健医療の課題に焦点を当て、官民パートナーシップの事例などを通じて、新たな視点を提供しました。

■2014年:高齢社会の課題解決への革新的アプローチ

2014年11月、「社会的投資により認知症課題を解決する─G7認知症サミット後継イベント民間サイドミーティング」を、経済協力開発機構(OECD)と共催しました。この会合では、街づくり、ロボット技術の活用、宅配便を用いた見守りサービスなど、民間セクター主導の革新的な取り組みを紹介しました。認知症やその他の高齢社会に関わる課題に対する新しい解決策を提示し、世界中のメディアや参加者から大きな注目を集めました。

■創立10周年を迎えー地球規模の健康・医療課題に果敢に臨むー

医療政策に国民の声を反映させるには、小さくとも独立したシンクタンクが必要である――そんな強い思いに突き動かされ、当機構を立ち上げました。10年前より、マルチステークホルダーを活動の軸にし、各ステークホルダーが広く議論する場を提供しつづけ、社会に少なからずインパクトを与えられたのではないかと思っています。

マルチステークホルダーとともに、我々が設立当初から重視してきたのがグローバルな視座(グローバル・パースペクティブ)です。常に日本語と英語での情報発信を行い、海外のシンクタンクとの交流も活発に行ってきました。近年、主要国では、高齢社会、慢性疾患の増加、格差の拡大、財政状況の悪化などを背景とし、人々が健康に暮らす持続可能な社会の実現に向け、新たな社会システムの設計が喫緊の課題になっています。我々は、国境を越えた共通の課題解決に対し、よりグローバルな活動が必須と考え、2011年2月より英文名称を”Health and Global Policy Institute”としました。ドメスティックな団体が多い中、10年間積み上げてきた成果を携え、さまざまな国々・団体と情報交換をしながら、国際社会でもリーダーシップを発揮するまでにいたれると確信し奮闘中です。

11年目を迎えた日本医療政策機構では、日本国内ではもとより、世界に向けても有効な医療政策の選択肢を提示し、地球規模の健康・医療課題の解決をすべく、これからも皆様とともに活動して参ります。(代表理事 黒川 清)

―Annual Report 2014より―

 

■2015年:「医療政策アカデミー」の開始

医療政策の基礎を学びたいと考える方々に向けて、「医療政策アカデミー」がスタートしました。このアカデミーでは、医療政策の核となる要素をわかりやすく提供し、医師や看護師、行政官、ジャーナリスト、ビジネスパーソンなど、様々な分野からの参加者を迎えました。2023年度までに12期が終了し、数百名を超える受講者がこのプログラムを修了しています。

■2016年:薬剤耐性(AMR)問題の対策を模索

2016年4月には、「AMRの世界的脅威と日本が果たすべき役割」をテーマに、第1回AMR日米専門家会合を開催しました。この会合は、産官学民が一堂に会し、薬剤耐性(AMR)問題への対応策について議論を深めました。その結果、対策の強化や連携、研究開発の推進を含む、「AMRアクションプラン推進に向けた6分野・14項目の提言」をまとめ、政策提言として発表しました。


■2017年:最新医療技術の発展と医療システムの持続可能性の両立

2017年4月、「医療システムにおけるイノベーションと持続可能性(I&S: Innovation & Sustainability)の両立に向けて」と題した第1回医療システムと持続可能性グローバル専門家会合を開催しました。この会合では、最新の医療技術や医薬品の発展を促進しつつ、公平かつ高品質な医療システムの持続可能性をいかに実現するかについて、国内外の専門家や多様なステークホルダーが意見を交換しました。提言では、医療技術の価値評価において財政的負担と公衆衛生上の利点をバランス良く考慮し、意思決定プロセスでの国民参画の重要性を強調しました。

■2018年:女性の健康増進と認知症に向けた新しい取り組み

2018年には、社会経済的な観点から女性の健康増進がもたらす影響を探るため、2016年に引き続き「働く女性の健康増進調査」を実施しました。この調査はメディアや学会、国会の予算委員会で取り上げられ、女性の健康政策推進に貢献し、広く活用され続けています。

また、5月には「市民社会のためのNCDグローバルフォーラム」を開催し、国内外の患者やステークホルダーが糖尿病、がん、認知症、脳卒中・心臓病などの非感染性疾患(NCD)に対するアプローチを幅広く議論しました。

10月には、認知症の理解と支援を深める「認知症未来共創ハブ」を立ち上げ、認知症と共により良く生きる未来を目指す取り組みが展開されました。同じく11月には、薬剤耐性(AMR)問題に対応する「AMRアライアンス・ジャパン」が設立され、AMR対策の推進に貢献しています。


■2019年:医療政策に関する超党派の勉強会の開始

2019年10月、NCDアライアンス・ジャパンがNCD Allianceのフルメンバーとしてリニューアルされ、包括的な非感染性疾患(NCD)対策の促進に向けて活動を再開しました。

11月には、超党派の国会議員向けに「30分で伝える医療政策最前線」と題した医療政策勉強会を新たにスタート。この勉強会では、各分野の専門家が講演し、その後の意見交換を通じて、医療政策に関する知識と理解の深化を目指しています。

■2020年:世界的な評価と新たなプロジェクトの開始

2020年、米国ペンシルバニア大学のローダー・インスティテュートが発表した世界のシンクタンクランキング報告書で、国内医療政策部門で2位、国際保健政策部門で3位にランクインしました。これはアジアでは最高位であり、12年連続のランクインです。

7月には、メンタルヘルス政策プロジェクトから「メンタルヘルス2020 明日への提言」を公表。これは、マルチステークホルダーへのヒアリングに基づき、現状の課題と提案をまとめたものです。

また、予防接種・ワクチン政策推進プロジェクトを通じて、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの国際的な供給体制に関する提言」を発表。国際大規模イベント再開に必要な政策的進展についての議論を深めました。

■2021年:「医療政策サミット2021」とワクチン政策の推進

「医療政策サミット2021」では、新型コロナウイルス感染症で明らかになった課題に対する解決策を議論しました。また、全世代に適切なワクチン接種を促進するための「ライフコースアプローチに基づいた予防接種・ワクチン政策」を公表。

さらに、「社会保障・医療政策 若手人材 官民交流ラウンドテーブル」を開始し、官民の若手人材が立場を超えた議論を展開しました。

10月には、多岐にわたるテーマで開催されているHGPIセミナーが第100回を迎え、この節目を祝いました。


■2022年:多角的な健康政策提言の実施

妊娠を望む人が妊娠できる社会の実現に向けて、必要かつ効果的な対策を具体的に示し、提言することを目的として実施した「現代日本における子どもをもつことに関する世論調査」の調査結果を公表。妊孕性や不妊症などに関する社会の理解を深めました。

また、AMR感染症への危機管理対策を骨太方針2022に含めることを提言し、子どものメンタルヘルス支援とプラネタリーヘルス対策にも取り組みました。

「循環器病対策推進に向けた九州・四国サミット」の開催や「認知症の早期発見早期対応の促進に向けた好事例集」の発行など、健康に関する幅広いテーマでの提言を公表し、国内外での健康政策に大きな影響を与え続けています。

■2023年:社会経済的要因と健康に関する調査提言

2023年には、社会経済的要因と女性の健康に関連する包括的な調査を実施し、その結果をもとに具体的な提言を公表しました。また、がんゲノム医療へのアクセス改善や、各都道府県における循環器病対策の推進に向けた政策提言を展開しました。これらの活動は、医療政策のさらなる進化と、全ての人々が高品質な医療サービスを受けられる社会の実現に貢献することを目指しています。

■独立したシンクタンクとしての継続的な政策提供への取り組み

HGPIはこれまで、医療と健康政策に関する幅広い提言と国際的な協力の促進に貢献してきました。私たちは設立時からの強い意志を持ち続け、中立的なシンクタンクとして、社会に必要な政策選択肢を提供し続けることを約束します。

私たちの使命は、「市民主体の医療政策実現のため、独立した立場から幅広いステークホルダーと連携し、社会に政策の選択肢を提供すること」です。
これまでご支援・ご賛同いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。

 


 

当機構の提言や報告書については、こちらをご覧ください。

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